冬香って呼んでほしい
お昼ご飯を食べに、他の教室に来た俺と綾織は向かい合わせで座ることにした。周りにも席はあるから、他の生徒からの視線を感じる。だけど人がいない外に行くには、まだ暑いから我慢することにした。
席についた綾織は自分の弁当を広げて食べ始めた。俺はコンビニで買っておいたメロンパンを食べようと、袋から取り出したら綾織が何かを言いたそうにしている。
「どうしたの?」
「私のお弁当いらないのかと思って」
「えっだってそれは綾織さんのじゃ……」
そう言いかけたところで、綾織はもう一つの弁当を取り出した。俺の分まで作ってきてるとは思わなかった。ていうことは朝からお昼ご飯を一緒に食べるのは、決まっていたことだったのか。
すると綾織はもう一つの弁当を開いて、おかずを箸でつかみ俺の口まで持っていこうとする。
「はい、あーん」
「えっ、いや、ちょっと待って!」
「やっぱり私のお弁当食べたくないの?」
「いやそういうわけじゃなくて、ここだと他の人に変な目で見られちゃうからさ」
「むー、わかった……」
ムッとした表情で俺の事を見てきた。そこまでして、あーんをしたかったのか。でも周りに生徒がいるから、ここでやるには目立ちすぎる。
そんな事を考えていたら、綾織が口を開いた。
「あっそういえばさ。春奈ちゃんの事はもう大丈夫なの?」
「う、うん大丈夫だよ。もうあの時みたいに倒れることはないから」
「そっか良かった!」
綾織は浮気の事を心配してくれてるみたいだ。
親友の篝にも夏休み中に、電話で浮気された事を言ったら励ましてくれた。俺の周りには優しい人がいっぱいいて嬉しいな。友達想いな人が周りにいることを、嬉しく思っていると綾織がこんなことを言ってきた。
「ねえ、奏人くんは春奈ちゃんの事をなんて呼んでたの?」
「春奈……だけど、それがどうかしたの」
「じゃあ私の事も冬香って呼んでよ!」
「えっ、それはまだ早いんじゃないかな」
俺がそう言うと、落ち込んだ顔になってしまう。
慌てて俺は口を開いた。
「そ、そんなに呼んでほしいなら冬香でもいいよ!」
「えっ本当!?」
「うん!」
「やったー! ありがとね奏人くん」
子供のように目を輝かせて喜んでいる。呼び捨てでここまで喜んでくれるなら、意地悪しないでちゃんと呼んであげた方がいいよな。
試しに俺は冬香の目を見て、呼んでみることにした。
「ふ、冬香!」
「ふふっどうしたの?」
冬香は頬を赤くして微笑んだ。
「いや、なんでもないよ。試しに呼んでみただけ」
「えっじゃあもう一回呼んでみて!」
「もういいよ」
「お願い!」
可愛すぎる上目遣いでお願いされて、俺は断れずもう一回呼ぶことになる。
「冬香!」
「ふふっ、あともう一回だけ」
「もう嫌だよ」
「お願いです!」
「もうしょうがないなぁ」
このやり取りが、昼休みの間ずっと続くのであった。
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