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第6話「悪魔との対決」

 レフェリーが腕を大きく交差させると、試合開始のゴングが鳴った。


 陽介とカスティゴがリング中央に進み出ると、観客の声がひと際大きくなった。どちらも観客に憎まれ役のヒールではあるが、今は生意気な新入生にどんなおしおきをしてくれるのかという期待で、カスティゴへの応援が大半を占めていた。



「さてと……スタッフの人は全力でぶつかれって言ってたし、とりあえずやってみるか」


 陽介は右手を前に伸ばしてカスティゴの胸に狙いをつけた。掌底に帯びる光が輝きを増し、光線の威力を高めていく。カスティゴは最初余裕の表情を浮かべていたが、殺人級の破壊力まで出力が上がったことを感じ取ると、感心したように言った。


「これは驚いた。ただの色狂いのガキかと思ってたら、とんでもない掘り出し物じゃねぇか。これなら少しは楽しめそうだな」


「一応警告はしておきます。いくらタフそうな先輩でも、これが当たれば致命傷になりかねませんよ」


「当たればだろ? いいから撃ってみろよ」


「それじゃ遠慮なく」


 陽介が高めた力を解放しようとすると、カスティゴは両肩にかかえていた新入生の身体でガードした。


「こいつらごと俺を貫いてもいいんだぜ。ただし、その場合は間違いなくお前がこいつらのトドメを刺すことになるだろうな。いくら試合中の事故と言い張っても、強制退学はまぬがれないだろうぜ」


「……なるほど、彼らをずっとかかえてたのは防御に使うためですか」


「防御だけだと思うか? これはタッグの試合ってことをよく考えな」


 陽介は右手で狙いをつけたまま、もう一人の対戦相手を目で追った。


 ディアボリカはまだ巨大スクリーンの下に立っている。試合の権利があるのはカスティゴだが、あそこまで遠いとタッチして交代もできないだろう。ひとまず今は、彼女のことは考えなくてもいい。


 すると、タッグの意味って何だ……?


 思案をめぐらせる陽介の前で、カスティゴは左肩に乗せた新入生の首を掴んで異能力で火を付けた。熱さでもだえ苦しむ新入生の悲鳴を満足そうに聞きながら、陽介の斜め後ろの方を見て不気味に笑っている。



 その視線に気付いた陽介は全てを悟った。


 やつの狙いは俺じゃなくて優希だ。まだ何の異能力もコピーしてない優希に60㎏近い火弾がまともにぶつかればタダじゃすまない。


「優希! よけろ!!」


 陽介がそう叫ぶと同時に、火に包まれた新入生が優希めがけて投げつけられた。いきなり言っても対応できる時間はないに等しい。陽介は優希の前に飛び出すと、両腕を盾にして迫る衝撃に備えた。


「ぐっ……!」


 熱く重い肉塊が、陽介をロープ際までふっ飛ばす。


 その衝撃から回復する間もなく、二つめの火弾が今度は陽介に狙いを定めて飛んでくる。


 陽介はリングの上を滑るようにして、低く身を伏せて転がった。


 だが、間一髪で避けたのと同時に、カスティゴはダッシュで距離を詰めていた。


「これで終わりだ」


 カスティゴは陽介の足首を掴むと身を反転させ、頭上から振り抜くように力任せにリング中央に叩きつけようとした。


 凄まじい衝撃音と共に、陽介の体はマットにめり込むはずだった。しかし、あったのはすっぽ抜けたような手応えだけだった。


 カスティゴは、視界の端に見えたトップロープの振動で何が起こったかを理解した。


 やつは掴まれてない方の足でトップロープを蹴って、勢いよく前に飛び出た。そうすることで、叩き付けの勢いを完全に殺した。


 まるっきり不可能な芸当じゃないが、それには考えずとも咄嗟に動けるようになるまで実戦経験を積んだ者ならばという前提がつく。間違っても、ただの新入生が初見でできる動きじゃない。


「お前、一体何者だ?」


 思わず問いを口にしたカスティゴは、自分が気圧されていたことに気づいた。陽介はその隙を見逃さず、リング上で受け身を取りながら掌底の狙いを定めていた。


 陽介の手から放たれた目のくらむような光の筋が、カスティゴの分厚い胸板に突き刺さる。


「ぐぅううおおおああああ!」


 真っ赤になるまで熱せられた鉄の槍で体を貫かれたような痛みに、カスティゴは奥歯を噛み締めて必死に耐えた。だが、それもわずか数秒。あっけなく意識が蒸散すると、カスティゴは白目を剥いてリングに倒れた。



「これが、陽介くんの異能力『重怪力光線』……」


 かろうじてマイクで拾った実況者のつぶやきが鮮明に聞こえるほど、場内は静まり返っていた。観客は誰一人として、あの無敗の大巨人が新入生にただの一発でやられる現実を受け止めきれないでいた。


「やれやれ。これだから、新入りはせっかちでいけないねぇ」


 静観していたディアボリカが、マイクを手に取っていた。一斉に振り返った観客が口々に彼女の名前を叫び出す。


「せっかくこれだけの舞台を用意してやったんだ。勝負は一瞬とは言え、もっと観客と一緒になって楽しみなよ……よく見てな。これが『異能力プロレス部』部長の実力だ!」


 彼女はマイクを投げ捨てて花道に歩を進めると、リングに向かって稲妻のような速さで駆け出した。


 キレのある側転とバク転を連続で繰り出しながら後ろ向きの体勢で大きく飛び上がると、コーナーポストの上にふわりと飛び乗った。


 最後にディアボリカが右手の人差し指を頭上にかざすと、観客は一斉に立ち上がって彼女の名前を叫び始めた。



「ディアボリカ!! ディアボリカ!!!」


 天井を吹き飛ばさんばかりの大歓声のすさまじさに、陽介の全身の皮膚が粟立つ。


 ディアボリカに向かって掌底を突き出そうとしても、体が震えてうまく動かない。何なんだ、この身をえぐるような痺れは……これは彼女の異能力なのか、それともレスラーとしての圧倒的なカリスマ性が生み出すただのプレッシャーに過ぎないのか。


 陽介の動揺を満足気に見つめていたディアボリカは、コーナーポストの上からリング上空へと華麗に身を投じた。場内の熱気で巻き起こった上昇気流に乗るようにぐんぐんと高度を増していく彼女を、観客全員が期待に満ちた目で追う。


 そして天井の照明の光が背にまたたいた直後、硬直する陽介めがけて、彼女は尾を引く流星と化した。


「決まったー! ディアボリカ様の必殺技トリプルシューティングスタープレスだ!!」


 実況者の絶叫と興奮した観客の足踏みが、会場内に地震のように轟く。


「一流のプロレスラーでも後方一回転が限界のシューティングスタープレスを、ディアボリカ様の『デビルリフレックス』は三回転も可能にしてしまう……超人的な身体能力を与える異能力がなければ決して成しえない、まさしく新時代の必殺技です! あの高さからの衝撃で押し潰されては、もう勝負は……いや、陽介くんはまだ意識があるようです!」


 解説の松田は信じられないといった表情をして、実況席の椅子から立ち上がった。


「悪いけど、まだあのPVを訂正してもらってないんでね」


 陽介はディアボリカの体の下で、小さく笑った。


「へええ、なかなか粘るじゃないか。じゃあこれはどうだい?」


 彼女は自らの豊かな胸を陽介の顔に押し付けて、体重をかけた。


「むぐっ! うごごご……」


 コスチューム越しでも伝わる吸いつくような柔らかさが、彼の動きを止める。


「どうだい? 悪魔的な気持ちよさだろ……ふふふ」


 陽介はあまりの気持ちよさに四肢を弛緩させていたが、やがてじわじわと襲い来る息苦しさに手足をバタつかせ始めた。


「ぐむっ! ぶおっ!! むぐぐぐぐ!!」


「あたしの必殺技は、相手を確実に仕留める二段構えの技なんだよ。いくら逃げようとしても無駄さ。これで勝負あったようだね」


 意識を失う寸前の最後のあがきに変わったのを胸で感じ取って、ディアボリカは勝利を確信した。片腕をすっと上げてガッツポーズをとると、観客も腕を突き上げて大きく吠えた。


「あ~っと、ディアボリカ様の技が完全に決まってしまいました! もっと彼女の華麗な空中殺法を見たかったのですが、これはもうしょうがないでしょう。役者が違いすぎましたね、松田さん」


「確かに役者を変えた方がいいですね。ここは僕が陽介くんの代わりにリングインして、あのおっぱいに顔をうずめたいほどです!」


「なるほど、欲望にストレートな解説ありがとうございます!」


 ディアボリカは観客の盛り上がり具合を確認するために、ゆっくりと会場を見渡した。すると、青コーナーに笑みを浮かべている優希の顔があった。


「気に入らないねぇ、その余裕は何なのさ。この体勢に入ったら、何が起ころうとも脱出は不可能なんだよ」


 優希はそれに答えず、自分の左肘の外側を人差し指でちょいちょいとつついた。 


「ひじ……?」


 ディアボリカは自分の左肘を少しひねって、優希がつついた場所を覗き込んだ。


「ひっ!……きゃあああああ!! 取って!早く誰か取ってぇええ!!」


 それまで余裕しゃくしゃくだったディアボリカが、突然悲鳴を上げてマットから跳ね起きた。


 情けない声をあげて肘を振り回しながら、必死に何かを剥がそうとしている。優希はその隙に陽介のもとに駆け寄った。


「陽介、大丈夫?」


「い、いきなり胸を押しつけてくるとか、何なんだあの人……本当に死ぬかと思ったぞ」


 陽介は優希の肩を借りて青コーナーまで戻ると、コーナーポストに上半身をあずけた。真っ赤な顔のままで呼吸を整えようとしたが、とめどもなく汗が吹き出ている。


「あはは、女性慣れしてない陽介にはきつい攻撃だったね。後は僕が何とかするよ」


「何とかって、お前……」


 優希は陽介の肩をポンと叩くと、リング中央に向き直った。


「陽介がやられた分は、きっちりとお返ししないとね」


 未だ半狂乱で暴れているディアボリカに向かって、優希は目を細めて歩み寄った。


「きゃあああだって、ふふ。そんなに可愛い悲鳴をあげなくても、ちゃんと取ってあげるよ」


 彼はディアボリカの肘についていた黒い物体を指でつまみ上げる。


 ぐねぐねと体をくねらせたそれは、ディアボリカの血を吸ってでっぷりと体を太らせていた。


 ざわめく場内に、実況者たちの声が響く。


「松田さん、ここからでは遠くて見えませんが、あれは何ですか?」


「あれはヒルですよ。優希くんは医療用のヒルをカプセルに入れて持ち歩いてるんです。ディアボリカ様がトリプルシューティングスタープレスを決めた時に、優希くんがあのヒルを指ではじいて飛ばしたのを私は見逃しませんでした」


 ディアボリカは舌打ちをして優希を睨みつけた。


「あんな気持ち悪いものをくっつけて恥をかかせるなんて……よほど死にたいらしいね」


「気持ち悪いだなんてひどいなぁ。ひーちゃんはこんなに可愛いのに」


 優希は彼女の視線を真正面から受け止めたまま、肥えたヒルを自分の口の中に入れた。そのまま舌で転がしながら甘噛みをすると、口の中はヒルが吸った血で真っ赤に染まった。



 彼の異様な行動が巨大スクリーンに映ると、会場はざわざわと騒がしくなった。


「ふふふ、その気持ち悪いヒルと共に沈みな」


 ディアボリカはロープに向かって走った。トップロープを踏みつけて大きくバク転すると、はるか上空から腕を交差しながら急降下した。


 必殺のクロスチョップが優希を押し潰すはずだった。しかし、リング上にあるはずの優希の姿がない。


「ぐっ! どこにいった!?」


 リングの周囲にも優希はいない……となると、上か?


 頭上を見上げたディアボリカの表情が固まる。


 そこには、さっきのディアボリカより高い位置から倍以上の速度できりもみ落下してくる優希の姿があった。


「あの体のキレはあたしの『デビルリフレックス』? いや、あの動きはそれ以上の……そんなバカなことありえないだろ!」


「ところがどっこい、それができちゃうんだなー」


 ディアボリカがドリルのような蹴りをまともにくらってリングに沈む。優希はすかさずバク転でコーナーポストの上にダイレクトに飛び乗り、高く宙に舞った。


 優希の男性らしい力強さと女性らしい流麗さが、技の華々しさを高めていく。会場中の賛嘆のため息に包まれながら、優希の超絶技がディアボリカに炸裂した。


「4回転……クワドラプル・シューティングスタープレス!? こ、これは一体どういうことなんですか、松田さん」


「相手の力をコピーする異能力はそれほど珍しいものではありません。現にウチの学園にも何人かいますからね。でも、コピーした性能はオリジナルに劣るのが一般的なんですよ。それは表面的なコピーならまだしも、相手の異能力の修練度までは模倣しにくいためです」


「そうですね。確かに相手の異能力を完璧にコピーどころか上回ることもできるなら、もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな状態になりそうですよね」


「ええ。しかし、優希くんの『ミミクリー』は相手のDNAを体内に取り込むことで、それを可能にするんですよ。DNAは汗や唾液にも含まれてはいますが、今回彼が選んだのは血液でした」


「あっ! 優希くんが飼ってるあのペットのヒルって、もしかして……!」


「そう、彼のあのおぞましいペットは、趣味と実益を見事に兼ねているんです。先ほど優希くんは、ディアボリカ様の血を吸ったヒルを口に含みました。それであの猛攻が可能になった、というわけです」



 大きく肩で息をしながら松田の解説を聞くディアボリカに、優希は追い打ちのラッシュをかける。彼女も異能力プロレス部部長のプライドをかけて応戦し、リング上では一進一退の激しい攻防が繰り広げられた。


「ジャーマンスープレックスを切り返してからの……優希くんによる後方一回転式ジャーマン!? 普通のジャーマンが180度回転なら、これは空中での360度を加えた540(ファイブフォーティ・)ジャーマンスープレックスです!」


「たまらずリング外にエスケープしたディアボリカ様を追って、優希くんが矢のように飛んだ。しかし、ディアボリカ様も高く飛び上がってこれを迎撃する! あれだけ勢いのついたトペ・コン・ヒーロ(場外へ背中から飛び込む技)を、ジャンピングボレーシュートのようにリング内に蹴り返しました!」


「リングに戻るディアボリカ様が、トップロープの反動を利用してのスワンダイブ式トリプルシューティングスタープレスで勝負を決めにかかった! ああ~しかし、優希くんはディアボリカ様の顎を的確に蹴り上げて三回転半に変えることで、技を自爆させました! こんな技の返し方があったなんて……仮に思いついたとしても、常人にはとても実行は不可能でしょう!」


 ディアボリカは後頭部に手を当てながらフラフラと立ち上がると、ニヤリと笑った。


「いいねぇ、これでますます勝負が面白くなってきたじゃないか。あたしたちで観客をもっともっと楽しませてやろうよ」


「どれだけ楽しませても、最後に勝つのは僕たちだよ」


 優希の口調にはまだ余裕があったが、少し苦し気に胸を押さえているのを陽介は見逃さなかった。


「優希、そろそろ交代だ」


 陽介の声に優希が振り返る。有無を言わせない強い視線に、彼はあっさりとコーナーに戻った。陽介がリングに入ると、試合時間が十五分を経過したことを知らせるコールが場内に響いた。


 陽介とディアボリカは互いに回り込むようにステップを踏みながら、相手の出方を見た。


「最初の時みたいに俺を金縛りにしないんですか?」


「ああいうアピールは流れを作ってからやるもんだよ。この膠着状態でやったって盛り上がらないだろ。あの時は仲間がやられた後の満を持しての登場だから、あれだけ観客もヒートアップできたんだよ」


「……随分親切に教えてくれるんですね」


「ああ、あんたたちが気に入ったからね。どうだい、二人ともウチの部に入りなよ。一緒に世界の頂点を取ろうじゃないか」


「せっかくですが、先約があるのでお断りします」


 陽介の即答に、ディアボリカは苦笑した。


「あたしの勧誘を断るなんてもったいないねぇ。まぁ、力づくっていうのも嫌いじゃないけど」


「俺はそう簡単にはやられませんよ」


 陽介は右腕を前に伸ばして狙いを付けようとした。しかし、必殺必中のレーザーが放たれる前に、彼女は稲妻のようなダッシュから跳ね上げるようなトラースキックを陽介の右肘に叩き込んだ。


 右腕は大きくはじかれ、掌底から放たれた光の筋が天井に穴を開けた。ディアボリカは腕が戻るまでの猶予を与えず、本命となる急所、頭部への回し蹴りを繰り出した。


 しかし、悶絶してマットに沈んだのはディアボリカの方だった。


 最初から腰の高さに構えられていた陽介の左手から、ノーモーションでレーザーが放たれていた。それは彼女の腹部に見事にヒットし、ディアボリカは一撃でマットに崩れ落ちた。


 場内がどよめく中、陽介は彼女をフォールして勝ち名乗りを受けた。



「まさか新入生がタッグチャンピオンチームを倒してしまいました! ディアボリカ様も彼が右手だけでなく左手からもレーザーを放てることを全く予想してなかったわけではないでしょうが、あまりにも攻撃が速すぎました……!」


「やったね、陽介!」


「ああ……でも、まだ気を緩めるな」


 優希は能天気に喜んでいたが、陽介はリングの周りを異能力プロレス部のジャージを着た男たちが取り囲むのを注意深く見ていた。


「新入生の歓迎試合とは言え、このまま帰したら我が部の名折れだぜ」


 声のした方を振り返ると、意識を取り戻したカスティゴが怒りを宿した目でにらんでいた。しかし、今にも乱闘が始まりそうな一触即発の状況の中で、優希だけがあっけらかんとしていた。


「いやだなぁ、この試合は僕たち新入生に花を持たせてくれたんでしょ。そんなことはみんな分かってるんだから、心配しなくても大丈夫だって」


 あまりにも毒気がなく可愛い優希の笑顔に、カスティゴの怒りは急速に萎んでしまった。これ以上詰め寄ることは男を下げそうだし、観客も優希に同調し出している。ここは器の大きさを見せつける方が得策だろう。


「まぁ、分かってるならいいんだけどよ。ぬわっはっはっは!」



 カスティゴが笑い飛ばしたことで、場内に弛緩した空気が流れた。


 陽介は優希の天然の計算高さとカスティゴのチョロさに苦笑しつつ、リングを降りようとした。すると、いつのまにかマイクを持ってディアボリカが立ち上がっているのが見えた。


「今日はみんなに良いニュースがあるから、この場で報告しようと思う」


 観客のどよめきが収まるのを待って、言葉を続ける。


「次のシリーズは、異能力プロレス部にしかできない人類史上初の大興行を開催することが決まったんだ。もちろんこの二人にも参戦してもらうから、みんな楽しみにしておいで」


 大歓声の中、陽介は彼女に抗議した。


「俺たちはこれ以上試合をする必要はありません。勝手に決めないでください」


「もう忘れたのかい? 力づくでやるってさっき言ったじゃないか。あんたたちがあっさり負けてればそれ止まりだったろうけど、まさかタッグチャンピオンチームに勝ってしまったんじゃあね」


「……あっけなさすぎるとは思いましたけど、やっぱりわざと負けたんですか?」


「カスティゴは別としても、あたしは途中までは本気だったよ。だからもう一度、今度はしかるべき舞台での完全決着をつけたいと思ったのさ」


 陽介はトドメになった左手からの一撃を思い出していた。初動なしでの光の速さの攻撃はまず避けられない。しかし、本気になったディアボリカならどうだったのだろうか。


「そうそう、せっかく負けてやったんだ。再戦するまでに誰かに負けて商品価値を落とすんじゃないよ、ふふふ」


 そういうとディアボリカはテーマ曲の鳴り響く中、悠々とリングを後にした。


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