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第14話「逆襲」

 関谷は距離を取って、直前に起こった状況を頭の中で整理した。


 (壁の鏡は全て割った。しかし、陽介は割れて床に落ちた破片にレーザーを反射させやがった。まったく器用な真似をしやがるが、俺に攻撃を当てられないことには依然変わりはない)


 関谷がペースを取り戻す前に、陽介は立て続けにレーザーを放った。


 無数の破片を経由した複雑な軌道を描く反射光が、あらゆる方向から関谷に襲いかかる。しかし、彼はその全てに反応してカウンターを叩き込んでいく。


 (いくらでも撃てばいい……破片が残ってるなら、全て粉々にすればいいだけだ)


 無数の光の筋と拳圧が飛び交う中で、鏡の破片が粉砕されていく。関谷は左肩と脇腹にレーザーの擦傷を負ったものの、わずか1分の間に全ての鏡の破片をキラキラと輝く白い粉末に変えていた。


 関谷はどうだと言わんばかりに陽介の顔を見た。しかし、そこには関谷が予想したような絶望の表情は浮かんでいなかった。


 陽介は大きく口を開けていた。直後、陽介が口から放射したレーザーに照らされて、電球が一瞬まぶしく発光する。目くらましのような光の後の攻撃を予想して関谷は身構えたが、何もこない。


 陽介の電球の内面は真っ黒に煤けて細かくひびが入っていた。彼がゆっくりと口を閉じると、電球のガラスはあっさりと割れた。


「あつつ……せっかくの特殊ルールですけど、喋りにくいから壊させてもらいました」


 陽介は割れた電球を噴き出して壁の時計を見た。残り30秒前を指し示している。


「さっきの連続攻撃で倒れて欲しかったんですけど、やっぱり強いですね。でも、全ての攻撃にカウンターが取れず数発かすめていたことを見ても、先輩の異能力はまるっきり攻略不可能ってわけじゃない」


 陽介が右手を突き出すと、掌の中に輝く光球が生まれる。


千裂包界せんれつほうかい


 陽介の声に応じて、光球から無数の光の筋が弧を描くように飛び出す。


 関谷はその攻撃に対してカウンターを取ろうとする。もう反射するものはない、今度こそ終わりだとほくそ笑む彼の顔が驚きで固まる。


(攻撃がこない……フェイント!? バカな、速さもベクトルも一定の光に緩急をつけれるのかよ)


 関谷の周りに展開した何千本もの光の筋が、軌道もタイミングもバラバラに、まるで意思をもった蛇のように一斉に関谷に襲いかかる。


 関谷は意識を集中して、再度対処しようとした。しかし今度の攻撃はあまりにも数が多い上に、その一本一本がのたうつような不規則な動きをし過ぎていた。



 光の蛇の群れになすすべなく飲み込まれていく関谷を見て、視聴覚室の観客はざわついていた。


「あれだけの数の軌道や速度を自在に変えるなんてすごいね。ホーミングレーザーの上位互換でしょ、あれ」


 大野の問いに優希が得意そうに答える。


「陽介の異能力は『重怪力光線』だからね。光を思うままに捻じ曲げてコントロールできるんだ。床に落ちた鏡の破片への難しい反射も、陽介なら簡単だったってこと」


「なるほどねぇ。ただでさえ反応しづらいスピードなのに、あれだけ直線的な動きに目を慣らされた後じゃ対処できるわけがない……これは勝負あったね」


 大野の言葉通り、リングに沈んだ関谷がテンカウントで立ち上がることはなかった。決着を告げるゴングが鳴り響くと、レフェリーはリングに上がって陽介の腕を高く持ち上げた。


「勝者、片桐陽介!」


 トトカルチョの結果に沸く観客を尻目に、優希たちは勝ち名乗りを受けた陽介を称えるために、視聴覚室を飛び出していった。


 彼らに続いて出ていこうとしたマリオンは、嫌な予感がしてスクリーンを振り返った。そこには意識を取り戻した関谷が、危険な目で虚空をにらんでいた。



 翌日の放課後―


 いつものように優希は、告白を断るためにラブレターで指定された場所へ向かった。そこは体育館の裏で、人がめったにこない場所だった。


 優希はスマホを取り出して時間を確認した。待ち合わせぴったりの時間だが、相手の姿はまだない。


 夕暮れの中、彼はもう少し待つことにすると、そのままスマホでお気に入りのニュースサイトを巡回し始めた。


「よう……待たせたな」


 優希が驚いて振り返ると、そこには昨日の試合のダメージが色濃く残る関谷が立っていた。彼の頭部や腕の大部分は熱傷の治療のため、包帯で覆われている。


「……ふ~ん、この手紙はウソってことかぁ。確か、負けたら諦めるって約束したよね」


 優希の冷ややかな視線にも、関谷は全く動じない。


「負けたら諦める? ああ、でも、未来永劫諦めるわけじゃねぇ。昨日は昨日、今日は今日だ。俺は欲しいものは、どんなことをしても手に入れなければ気が済まないんだ」


 そう言い捨てた関谷は、稲妻のようなフットワークで距離を詰めると、顎先をかすめる絶妙なフックを放った。


「えっ……!」


 脳を揺らされた優希は短い声を上げて意識を失った。関谷は崩れ落ちる優希の体を支えると、顎の状態を確認して顔を上げさせた。額にかかる髪の毛を指先で払いのけると、優希の均整の取れた顔を間近で見る。


「こういう女は既成事実を作っちまえば大人しくなるもんだ。こんなムードのない場所ですまねぇが……なぁに、これから星の数ほど抱いてやるよ」


 関谷は体育館の裏の死角に優希を連れ込むと、彼の胸をはだけた。あらわになった控えめな膨らみに手を伸ばそうとすると、突然背後から恐ろしいほどの殺気が突き刺さった。


「誰だ!」


 いつのまにか、関谷の後ろにマリオンが立っていた。


 彼女は消火器のノズルを関谷に向けたまま、レバーを強く握った。不意打ちの消火剤を浴びて苦しむ関谷に、マリオンが冷たく言い放つ。


「約束を守れない男って最低」


 マリオンは関谷の顔に消火器を噴射し続けた。レバーを握っても出なくなると、ホースを持って頭上で消火器を振り回し始める。ぶん投げられた消火器は関谷の側頭部に当たって、鈍い音を立てた。


 関谷は激しく咳をしながら、痛みでのたうち回った。マリオンは彼の横をすり抜けて一直線に優希のもとへ向かうと、上着を脱いで優希にそっとかけた。


「優希にこんなひどいことをして……絶対に許さない」


「てめぇこそ……ゴホッ、ゴハッ……ただで済むと思うなよ……」


「あんたには特別に見せてあげる、私の異能力」



 マリオンはスカートの中に手を入れると、身を屈めるようにしてパンティを脱いだ。指先でパンティをくるくると回して殺気を強めながら、ゆっくりと関谷に近づく。


 関谷は言いようのないプレッシャーに押されて、尻もちをついたまま後ずさった。ほどなく背中に壁が当たる感触がすると、彼の身体は逃げ場のなくなった恐怖で硬直した。


 マリオンは関谷の後ろの壁に片足をつくと、スカートの中を見せつけるような体制を取った。そして、彼女の突然の壁ドンに混乱する関谷の顔に、勢いよく尿を放った。


 何なんだ、これは。一体どういうつもりなんだ。俺のような普通じゃない男にとって、こういう放尿プレイは攻撃というよりむしろご褒美だということが分からないのか。


 関谷はまるで昨日の戦いの傷を洗い流してもらっているような気分に浸った。尿は心地良く暖かで、男の本能に火をつけるような刺激臭がした。



 マリオンは小さく腰を震わせて放尿を終えた。優希のもとに戻って丁寧に衣服の乱れを直すと、ずぶ濡れになって横たわる関谷に向かって言い放った。


「自分の尿を大気中の窒素と化合させて爆発させる、それが私の異能力『マ〇ケル・ベイ』。あんたもアクション映画のクライマックスシーンのように派手に爆散しなさい」


「お、おい、待てよ……ば、爆発?」


 マリオンは優希をおぶって爆風に巻き込まれない距離まで離れると、指をパチンと鳴らした。


 ドゴォォオオオ!


 凄まじい地響きと爆音が轟いた。体育館のガラスは火花と共に粉々に割れて吹き飛び、用具入れやドラム缶が爆発の勢いでロケットのように打ち上がる。辺りにある可燃物を巻き込みながら、連鎖的な誘爆が次々に起こった。


 マリオンは熱風に後髪をなびかせながら、その場を歩き去った。


 本校舎に戻った彼女は、優希を保健室のベッドに寝かせた。そこで、まだ下に何も履いてなかったことに気づくと、顔を赤らめながらカーテンを引いてパンティを履き直した。


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