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第11話「サイバー忍術部」

 関谷が帰った後のミーティングで、大野はホワイトボードを使って説明を始めた。


「キミたちが戦ったディアボリカと同じく、さっきの男も『盟理五英侠めいりごえいきょう』と呼ばれる盟理学園最強の五人のうちの一人だ」


 彼は綺麗な字で五名の異能者の名前を書いた。


 『異能力プロレス部』 ディアボリカ

 『黄金拳闘部』 関谷亮平

 『アルティメットEスポーツ部』 柚木雪花

 『大演劇部黒百合組』 マインドブレイカー安本

 『盟理学園生徒会』 南条藍子


「関谷の異能力『ゴールデンカウンター』は、あらゆる攻撃をかわしてカウンターを撃ち込むことができる。つまり、防御が完璧だから負けることもありえない。さっきの彼の自信はこれがあるからさ」


「確かに関谷先輩には、俺の師匠にも似た計り知れない強さを感じました。はっきり言って、確実に勝てると言い切れる自信はありません。それなのに優希はあんな条件を出して……一体どういうつもりなんだよ」


 陽介は優希に詰め寄ったが、彼はあっけらかんとしていた。


「まぁまぁ、それより他の部の方が気にならない? Eスポーツや演劇なのに学園最強って、一体どうやって戦うんだろうね」


「……確かに気になると言えばなるけど今はいい。それより、何であんな無茶な条件を出したんだよ」


「陽介はこれから世界を救う戦いをするんだから、これくらい軽く乗り越えてもらわなきゃ。僕だって陽介が勝てると思わなければ、あんな条件を出したりしないよ」


「う~ん、でもなぁ……」


「それに、盟理五英侠の人たちは、戦おうと思ってもすぐに戦えるような人じゃないみたい。学園でそれなりの地位についてるから、校則で二大祭以外での私闘が禁じられてるらしいんだ。でも、向こうから私闘を持ちかけてくれば、特例扱いになるんだって」


 優希の言葉に続いて、石川が補足をした。


「二大祭はその名の通り年二回しかないから、まともに五人全員と戦うには二年半もかかってしまう。今回の件は渡りに船。それに、想像して。五英侠ほどの人が強引にアプローチしても無駄だってことが分かれば、普通の人は簡単に優希くんに手をだそうとは思わなくなると思う」


 その最後の言葉に、マリオンの目が光った。


「確かにリスクはあるけど優希に変な虫が付かなくなるなら、やってみる価値はありそうね。要は陽介が勝てばいいんだし……」


 全員の視線が突き刺さった陽介は、仕方なく覚悟を決めた。


「分かった。みんなにそこまで言われたんならやるよ。でも、試合は明日だからな……できれば、もう少し相手の情報が欲しい」


「私、いい人知ってる。情報通だし、きっと力になってくれると思う」



 石川はスマホで誰かとしばらく話した後、これからみんなでその人に会いに行くことにした。


 陽介たちは今いる校舎の屋上へ向かった。そこから屋根のない渡り廊下を歩いて、隣の第十四校舎へと移動する。見晴らしの良いその場所からは、周囲の校舎が四つセットで地上にある中庭を囲むようにそびえ立っているのが確認できる。


 第十四校舎の屋上から階段を一つ降りて最上階に移動すると、石川は廊下の中ほどの壁の前で立ち止まった。


「ついた」


「えっ、どこに入り口があるの?」


 とまどう優希たちを背に、石川は壁に向かって助走をつけると、ハァ!と覇気のあるかけ声と共にジャンプした。


 壁に激突する寸前に、機械仕掛けの隠し扉が渦巻くように開く。彼女がその丸い穴に飛び込んで中にあるシュートを滑り降りていくと、素早く扉は閉まって再びただの壁に戻った。


「何この、緊急出動用っぽい隠し通路!」


 陽介と優希は目を輝かせながら、隠し扉が開いた場所をペタペタと触り出した。


「やっぱりこのドアはロマンがあっていいね。そうそう、ここは加速度センサーと音量センサーの2つで開く仕掛けだから、恥じらいを捨てて思い切ってジャンプした方がいいよ」


 大野はそうアドバイスすると、トゥ!というかけ声と共に、カッコいいポーズのまま壁の中に消えていった。


「次は僕! 僕の番だよ!! うおおおおおお! チェストー!!!」


 優希は新歓試合の時にも出さなかった雄たけびを上げ、嬉々として壁の中に吸い込まれていった。


「俺を呼ぶ声が聞こえるぜ! 緊急出動だ!! レディィイイゴーー!!!」


 待ちかねたように、陽介が声を張り上げて後に続く。



 残されたマリオンは、無駄な仕掛けと男たちのハイテンションさが理解できないといった感じで、大きくため息をついた。


「これってここに来るときに毎回やる必要があるの? バカバカしくてわけ分かんないんだけど……」


 彼女は壁のわずかな突起を探すように、両手を這わせていった。


 優希へのストーキングで鍛えた直感が告げてくる。センサーが故障した時のために、もっと簡単に開けられるスイッチとかがあるはずだ……ビンゴ! きっとこれに違いない。


 マリオンは反対側の壁の下側、床との接地面近くにある小さなスイッチを押した。しかし、振り返って入り口がある場所を確認しても、何の変化も見当たらない。


 あれ、これじゃないのかと向き直るマリオンの耳に、どこからか『強制システム作動』という機械の合成音声が聞こえてくる。


 さっき押したスイッチが壁の奥に引っ込んだ。その穴から何か黒い虫のようなものがカサカサと這い出てくると、彼女の顔面めがけて一直線に飛翔した。


「ぎゃあああああああああああ!!!」


 マリオンはその虫から逃げるように猛然と反対側にダッシュし、壁に開いた入口に飛び込んだ。



 穴の中はまるでウォータースライダーのように、長いチューブ状の空間がまっすぐ斜め下へと続いていた。底にはスポンジのように柔らかい素材のローラーが敷き詰められていて、彼女の体を程よいスピードで運んでいく。


 マリオンはどこまで続いているかを見ようとして、なびくスカートを押さえながら上半身を起こした。彼女の前に飛び込んだ陽介たちの姿はもう見当たらない。どうやら通路は最上階から地下の奥深くまで続いているようだった。


 とりあえず、このままおとなしく滑ってれば目的の場所に行けるだろう。慣れてしまえば、これも巨大な滑り台のようで案外楽しい。


 マリオンは余裕を取り戻すと、手を頭の下で組んで横になった。


 通路の先には排水溝のようなゴム弁と無数のロボットアームが出現していたが、 ほっと一息ついて気が緩んだマリオンは気づかなかった。何かに引っ張られるような衝撃に驚いて体を起こすと、着ていた服は下着まで全て剥ぎ取られていて全裸になっていた。


「何なのよ、ここはぁあああああ!!?」


 胸を隠して絶叫するマリオンは、さらに何回かのロボットアーム群を潜り抜けた。


 両足を持ち上げられた状態で身体の関節部分にパーツが装着されると、その間を埋めるようにして素肌が薄い素材で覆われていく。ようやく穴の底にたどり着いた時には、黒と赤のツートーンのボディスーツを着せられていた。


 マリオンはこの妙なボディスーツを脱ごうとした。しかし、元着ていた服はロボットアームに奪われたままだったことを思い出すと、仕方なく辺りを見渡した。穴の底は青白く発光する幾何学的なパネル以外には何もなかったので、彼女は隣の部屋に移動した。


 その部屋の中も薄暗く、正面にある巨大なパネルの前には飛行機のコックピットのような複雑な計器が並んでいた。壁際には前衛的なデザインのガラクタが無数に陳列されている。


 巨大パネルの横には先に飛び降りた四人が、ポニーテールで金髪の女の子を囲むように立っていた。マリオンの到着に気づいた石川が、その女の子の肩に手を置いて振り向かせた。



「マリオン、紹介するわ。この子が『サイバー忍術部』部長で二年のキャスリン・ウェブスター」


「イギリスから来まシタ。気軽にキャシーと呼んでくだサーイ。そのスーツとても良く似合ってマース」


「ど、どうも……というか、このスーツは何なんですか。みんな同じ格好してるし……いやよく見たら、デザインが少し違うみたいだけど」


 マリオンは全員の格好を確認しながら言った。大野と陽介のスーツは青を基調としたデザインで、キャシーと石川と優希とマリオンのものは赤を基調としている。


「部員専用の入口を通ったから、ユニフォームが自動的に装着されたんデース」


「へぇ~、色が分かれている意味は何かあるんですか? 入ってきた順番や滑りの上手さとか」


「男が青、女が赤で色分けされてるだけデース」


 笑顔のキャシーに、隣にいた石川が端的に事実を告げた。


「キャシー、優希は男の子」


「ホワッツ!?」


「本当」


 キャシーは信じられないといった表情で優希の前に立った。彼の胸と股間に顔を近づけて、ぴっちりしたボディスーツ越しの膨らみを確認する。それが本物かどうか確認するために、彼女はおもむろに両手で揉みしだき始めた。


 ひゃっ!と高い声を上げた優希は身をよじって逃げようとした。しかし、キャシーの両手は彼の局部にガッチリと絡みついたまま、離れようとしない。


「確かにちゃんとツインボールはありマスけど、胸にも確かな揉みごたえとハリが……?」


 見かねたマリオンが、キャシーの腕を強く引っ張って止めさせる。


「ちょ、ちょっと、何してるんですか! 完全なセクハラですよ!!」


「OH、誤解デース。これはユーキに英国式に親愛の情を示してるだけデース。いわゆる、ブリティッシュ・スキンシップというやつデスね」


「えっ? 確かに外国の人はスキンシップが激しいような気はするし、そういうことなら仕方ないのかも……強く言ってごめんなさい」


 申し訳なさそうにしていたマリオンに、石川が端的に事実を告げた。


「マリオン、イギリスは紳士の国。そんな変態的な風習はない」


「OH、バレてしまいまシタか……ジョークデス。これはいわゆる、ブリティッシュ・ジョークというやつデース!」


「このブリティッシュ・クソ・ビッチがぁあああ!」


 マリオンはキャシーを背中から思いっきり蹴飛ばした。勝手に服を脱がされたことも、優希にセクハラしたことも許せないけど、何より優希を呼び捨てにしてたことが一番気に入らない。同性で優希を呼び捨てにしていいのは、彼の母親と自分だけなのだ。


「会ったばかりの相手に、随分と激しいツッコミだな……」


 陽介は若干引きつつ、キャシーの安否を確かめに行った。床に倒れたままの彼女に手を伸ばすと、それがボディスーツを膨らませただけの抜け殻であることに気づいた。


「こ、これは、空蝉の術!?」


「AHAHAHAHA、見事に引っかかりまシタね」


 キャシーの外国人なまりの高笑いが、部屋の中に響き渡る。


 陽介が声のした方を振り返ると、何もない空間に浮かぶジッパーの裂け目からキャシーの顔が覗いていた。眼前の異様な光景に驚く陽介を、キャシーはニヤニヤと見ている。やがて、ジッパーを完全に下ろしてフードを脱ぐと、背景に溶け込んでいたスーツの色も元に戻った。


「このボディスーツは科学の粋を結集させた忍装束で、色々なサイバー忍術が使えるようになるのデース。シャドウ・コピー、オプティカル・カモフラージュ……時代を影から動かした神秘のアーツを科学の力によって現代に甦らせる、それこそがサイバー忍術部の理念なのデース!」


 彼女が高らかに言い放ってポーズを決めると、シャキーンというSEやボーカル入りのカッコいいテーマ曲がスーツ内蔵のスピーカーから流れてきた。彼女の一連のパフォーマンスに、マリオンを除いた全員が感嘆の声をあげた。


 陽介はキャシーのボディスーツと自分の着ているものを見比べながら言った。


「キャシーさんの部がすごいってことはよく分かりました。ちなみに、俺たちの着てるスーツにも同じようなギミックが搭載されてるんですか?」


「もちろんデース。右手の籠手の裏側にある、青いイナズマ型のボタンを押してみてくだサーイ」


 陽介がそのボタンを押すと、籠手の側面から青いプラズマの光が照射される。それは空中でホログラムのように立体的な刀身の像を結んだ。


「メインウェポンのサイバーブレードデース」


「おおおっ!!」


 陽介と大野は、その武器でチャンバラごっこを始めた。プラズマの刀身が重なり合った時に発するスパークとサイバーなノイズ音が中二心をくすぐり、たまらなくカッコいい。


「あれ? 僕の籠手にはそんなボタンついてないんだけど??」


 優希もそのチャンバラに加わりたかったが、どこを調べてもイナズマ型のボタンは見当たらなかった。


「そっちのスーツのボタンは、左手の籠手にあるハートマークデース」


「あっ、これかー! でも、押しても何も出ないんだけど……マリオンは出た?」


「出ない、ん~何でだろ。石川先輩はどうですか?」


「こっちもダメ……待って、スーツのデザインが変化してるみたい」


 彼女たちのスーツは透けるように透明度をあげていった。スーツの下の裸体があらわになっていく中、局部は際どい部分でギリギリ隠されている。


「クノイチの任務はハニートラップ。自慢のボディをセクシーランジェリーで包んで悩殺。これがメインウェポンのサイバーセダクション、つまりお色気の術デース」


「なるほど。ランジェリーについた電飾がサイバー感あっていい」


「何で石川先輩は平気なんですか?! これ裸よりも恥ずかしくないですか?!」


 スーツの変化を楽しむ石川をよそに、マリオンはその場にしゃがみこんで顔を赤くした。


「私たちのはちゃんと隠れてるから平気。どっちかというと、恥ずかしいのは隠しきれてない優希くんの方」


「「「えっ」」」


 全員の視線が、優希の股間に集中する。優希は後ろを向いて、やっぱり女性用の下着だと無理があるよねと、少し恥ずかしそうに笑っていた。


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