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6話.惑星間移動

新しい惑星に舞台を移します。

※Prologueを着地地点として書いていきます。

 任務の連絡を受けた翌朝。

 私たちは惑星ロストグレイのとある場所へと足を延ばしていた。

 通称"プラネット・ポート"と呼ばれる、惑星間移動装置が設置されている空港のような場所だ。

 元々神話時代に作られた施設を、現代の技術で修復した物で、外観などは現代の物だが、実際の装置の方は完全にオーバーテクロノジーらしい。


「この星に来た時も使ったはずでしょう? その内慣れるって」


 師匠はこう言っていたけど、私はこの施設が苦手だ。

 移動した実感がないので、腑に落ちないのだ。

 施設内にある指定の惑星へ繋がっている、魔法で構築された大型の穴"ゲート"を通ると瞬時に移動できるのだが、一歩"ゲート"を踏み越えただけで移動が出来ているので、着いたよと言われても納得がいかない。


「それにこれだけで、結構お金を取るんだよね」


 私は先程通った"ゲート"に振り返りつつ、悪態をつく。


 そう。

 この装置はたった穴をくぐるというだけで、1回の利用に一般家庭の収入1か月分かかるのだ。


「安定して動いてるんだったら、もっと安くてもいいじゃん……」


 この値段の影響で、惑星間旅行をしている人は意外と少ない。

 しかも惑星ごとの環境などもあるので、同じ惑星内の旅行以上に準備することが多い。


 今回の惑星は差が少ないから特別な用意などはしなかったが、中には汚染が酷い星や、逆に環境保護で検査が厳しい星もある。


「分からない物を安定させてるんだから、それだけの価値があるって言うこと。ほら、そんな所にいないでこっちだよ」

「はーい」


 手招きをする師匠の下へ私は駆け寄っていく。

 "ゲート"周りの設備以外はインテリアか、警備関連のもので設置されている惑星ごとに特色が出る。


 今いる惑星インゼルケッテの"プラネット・ポート"は、全体的に武骨な感じで、継ぎ接ぎの鉄板とパイプが所々に見え、港というよりは工場だ。


「? この臭いなに……」

「ああ、海の上にいるからね、今。磯の匂いだよ」


 嗅ぎ慣れない臭いに顔を歪ませる私に対し、特に気にした様子もなく師匠は答えを教えてくれる。

 周りを見ると、少ないが他の人もいて、全員師匠と似たような感じで、これが当然のようだった。


「うぇー」

「それ、ここの人たちの前ではしない方がいいよ。結構気にして対策もしているみたいだから。だから、この場で早く慣れてね」

「対策しててこれなんだ」


 でも確かに、これがここでの普通なら、そうしないと。


「ところで師匠。インゼルケッテのポートで待ち合わせなんだよね、どの人がそうなの?」

「んー今探してるんだけど――あっ、いた!」


 昨晩言っていた師匠の幼馴染。

 予定では惑星インゼルケッテの"プラネット・ポート"で待っているとのことだったのだが、私はてっきり"ゲート"を通ったらすぐ会えるのかと思っていた。

 師匠は少しの間辺りを見渡して見つけたのか、出口近くの客用のソファーへと走っていく。


 そこにいたのは、私たちより少し背が高いくらいの、統括騎士団の制服を着た少年で、出口からくるそよ風に黒髪を揺らせ、その下にある瞳は閉じていた。


 どうやら待っている間に、寝てしまっていたようだ。


(あきら)。あーきーらー。起きなさーい」


 屈んで少年の肩を揺らす師匠。

 その姿を見て私は、待ち疲れて眠ってしまった弟を起こす、姉のように見えた。


「……起きてるよ。お前の後ろの奴が煩いせいでな」

「はぁ!?」


 未だ眠そうにゆっくりと開かれる少年の瞳は、赤く冷たい視線で私を捕えていた。

 そんな少年を見て、私はつい声を上げてしまった。


「ルナ、もうちょっと声のトーンを落として。他のお客さんが少ないとはいえ、公共の場は静かにしないと――」

「な、何でここに!」

「……」


 私、この人知ってる。だって――

 3年前に私と弟を助けてくれた人だから。


*


「俺、お前のこと知らないんだけど」


 その一言で、私の自信と期待は全て瓦解した。

 他の人から今の私を見ると、全てを失ったかのような表情をしているのは、鏡を見なくても分かった。


 胸の中の喪失感と血の気が引く感覚が、それを理解させてくれる。

 少年の隣では、師匠が状況を整理しようと話を進めていく。


「えーと、ルナは晶の事を知ってる、のかな? でも晶はルナの事を知らなくて――」

「う、うん。だってこの人、3年前に私たちを助けてくれた人で……。あの、惑星スピナピリオドでの事なんだけど」


 師匠の話に乗っかり、私は本当に少年が覚えていないかを確認していく。


「私と弟を襲ってきた動物を倒してくれたよね。あの時、何も言わずにどこかに行っちゃったけど、私お礼がいいたくて――」

「悪いけど覚えてない」


 取り付く暇もなく否定される。


「晶、本当に覚えてないの? スピナピリオドに行った回数は数回だったはずだけど」

「誰かを助けたことなんて、一々覚えてられない」

「もーそういう言い方しないの」


 本当に、覚えてないんだ。

 そうだよね。

 だからあの時すぐにいなくなったんだよね。

 あの時の私たちみたいなのには興味がないんだ。


「ごめん。人違いみたい、だね」

「ルナ……。晶、初対面だったとしても今のはないんじゃないの?」

「……」


 少年は師匠からの叱咤を流して立ち上がる。

 正直、今の私にはこの少年と向き合いたとは思わない。


水無神(みなかみ) (あきら)だ。お前が探している人じゃなくて悪かったな」

「……ルナ・ディルクルス。私、貴方のことが嫌いです」


 私は抱いていた願望との別れと、今の彼への思いを一つにまとめて晶へ向けて口にする。

 これが、今の私の本心だ。


*


 私と晶、それに少し離れた所で私たちについてきているルナ。3人で"プラネット・ポート"を後にする。


 最悪だ。

 まさか2人が出会って早々、こんなに仲が悪くなるなんて。

 いや、実際はルナが嫌っていて、晶はそこまで気にしていないのだろうけど。


「晶、もう一度確認するけど、本当にルナのことを覚えてないの?」


 隣で歩幅を合わせて歩いてくれている晶に対し、私は肘でつつきながら質問をする。

 いつもの眠そうな瞳は、揺れることなく真っ直ぐ前を向いている。


「ああ。ああいう最低限自分は守れそうな奴は、知らない。俺が覚えているのは、何も出来ずに終わる奴だ」

「――はぁ、まったく」


 いつも通りだった。

 毎度毎度好意を遠ざけようとする。

 人の好意を嫌うかのように。


「それなら、後であの子にフォロー位しなさいよ。好かれなくても嫌われない方法があるの、いい加減覚えて」

「悪いな」

「謝るのはルナにして」


 少し後ろを振り向くと、明らかにむくれたルナが一緒に歩く私たちを微妙な表情で見ている。

 これ、私と最初に会った時より酷くない?


「あのー師匠とその人、本当に幼馴染なんですか? 私はてっきり、師匠みたいに優しーい人をイメージしてたんだけど」

「師匠?」

「ああ、晶。その呼び方は気にしないで。――幼馴染なのは本当だよ。同じ町で育って、同じようにクロスユートピアに入って、同じように……」


 一瞬。

 私はその続きを言ってはいけないと思ってしまった。

 もう大丈夫、乗り越えたはず。だから笑っていられるんじゃない。


「同じように、大切な友達を救えなかったから」


 言ってしまった。

 あの子の事を。

 やっぱりまだ駄目だ。

 全然あの子への気持ちは薄れていかない。


 私と晶から、カチカチと何かが繋がる音がして、私の頭の中で何かがズレる感覚を覚える。


「師匠、この話止めよう。この話をしている時の師匠、ちょっと怖いよ」

「そう、かな? ルナが言うならそうかもね」


 うん、そうだね。

 止めよう。

 抑えないと周りの窓とか街灯を壊しちゃいそうだし。


「さっさと行くぞ。こうしてると遅くなる」

「わ、分かってる! 貴方に言われなくても、さっさと行くって!」


 隣で歩いている晶が、ため息をつきながら私たちに声をかけてくる。

 晶への反発なのか、ルナは早歩きで私たちを追い越していく。


 少し違うけど、あの子の背中を思い出してしまい、少し微笑ましくなってしまう。


「ルナ。場所は分かるの? 端末のちゃんとした使い方を知らないんだから、一人で行かないの」

「うー、でも師匠。この人と一緒に仕事をするの嫌なんだけど」

「我慢して。このバカは役に立つんだから」

「バカって、お前な……」


 晶から距離を取りつつ、私と先に行こうとするルナ。

 晶は平常運転で眠そうにしているし、二人の仲がちょっと気になるけど、これはこれでいいのかなと私は思う。


 だって、この先は長いんだから少しずつ変わっていけばいい――

 環奈の幼馴染と合流したことにより、1章のメインキャラ登場終了です。


《世界観まとめ》

・"プラネット・ポート":惑星間移動が出来る設備が置いてある港。神話時代の設備を再利用している為、場所を移動させるのには時間がかかる。

・"ゲート":魔法により生成された、指定の座標(惑星間移動装置)へ繋がる5m以上の穴。穴には移動先の光景も見えており、一歩踏み出せば移動は終わる。

・惑星スピナピリオド:ルナの出身惑星。自然豊かな星で、存在する大陸は1つのみ。魔法を扱う大型動物が多く生息する。

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