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23話.再びの海上

※Prologueを目指して書いています。

 非常用海底脱出口の狭い空間の中で、私たちはミアさんに密着する形でしがみ付いていた。

 魔翼の基本的な仕様上、他人へ機能の恩恵を与える為には専用の魔翼を得ていないと難しいらしい。

 なので補助機能の効果範囲内に入っていないと、その恩恵を得られないのだが、その範囲は狭く、密着しなければならない程だった。


 問題はここからだった。

 必ず密着しなければ恩恵を得られない以上、全員がミアさんに抱き着く必要がある。

 背中は魔翼がある都合上、掴まることは出来ず、足などに捕まるのは問題があるとして候補は正面と二の腕となった。

 ちなみに足に捕まるのが却下になったのは、ミアさんが潜水中に泳いでいる感覚で、掴まっている人を蹴ってしまいそうだから。というものだった。


「ミアっちは中々良い体してるッスね。程よく出る所は出てて、締まっている所は締まってるッス」

「有引さん? あんただけ放り出すよ?」

「それはご勘弁をッス! 何も無しに海底に投げ出されるとか、水圧とかで余裕で死ぬッス!」

「コトネ暴れないで! その口凍らせるよ」

「えっ、嫌ッス。はい、すみませんッス。静かにするッス」


 短い時間だが、試行錯誤と話し合いの結果。

 私とコトネがミアさんに正面から抱えて貰う形で掴まり、アヤトとホムラがある問題の為、二の腕に掴まる形になった。


 まず分かりやすく、アヤトはミアさんと抱き合うのは不味いと言い出したので、妥協としてこうなった。

 赤面で抗議する彼に、非常時に何を言っているんだと思ったけど、ホムラ以外は納得がいき了承した。


 そしてホムラなのだが、その……

 胸のせいで密着が困難で、うまく恩恵が得られないかもしれないから、その胸で二の腕を挟んで距離を稼ぎ、恩恵を得る方向になった。


「こんな感じで大丈夫ですか?」

「うん。顔はもっとこっちに寄せていいよ」

「はい、分かりました」

「汐崎はもっと力入れて。水中航行している間に、私の体から離れても知らないわよ」

「あ、ああ。分かった」


 顔を赤くしながら距離を詰めるアヤトを確認して、ミアさんは深呼吸をして準備を整える。

 上を見上げると、ミアさんが壊したであろう場所がポッカリと穴が開いており、そこから夜と間違うような暗さの水が広がっていた。

 ミアさんが魔法で制御していると言っていたが、端々では水が流れ込んでおり、その量は軽く足首が埋まる程だった。


「それじゃあ、行くよ。皆、しっかり掴まっててね」


 ミアさんの声掛けと共に、上で留まっていた水が一気に流れ込んでくる。

 次第に水が溜まっていき、その高さは足、腰、胸と次々と水位を上げていく。


「呼吸に関しては心配しないで。そこら辺はしっかりしているから」


 酸素を少しでも多く取り入れる為に、タイミングを合わせて深呼吸をしていた所を、ミアさんに止められる。

 他の皆も同様で、驚きの表情を隠しきれていなかった。


 そうしている間にも水位は上がり、ついに顔までも浸かる高さまで上がった。


(……本当だ。息が出来る)


 全身に軽い圧はかかっているものの、薄い膜を纏っている感覚があり、口や鼻で息をするとその膜を通して空気が外に漏れ、気泡が水に浮かんでいく。


 もう一つ。

 本来なら水は広間の方にも流れ込んで行く筈だったが、まだミアさんの魔法の影響下にあるのか、この狭い部屋に合わせて水は形を成していた。

 おそらく外から見ると、一種の水槽のように見えるだろう。


「行くよ」


 魔翼の機能なのか、既に水中にいるのにミアさんの声だけはハッキリと聞こえた。

 戸惑いつつも私を含めて皆、その問いに頷く。


 ミアさんの魔翼が動き始めたのか、以前に見た透明感のある水色へと変色していく。

 スクリュー・プロペラも回転を始め、上へと浮上していく。

 ゆっくりとした加速はその速度を段々と上げていき、最終的にはGを感じるまでに達していた。


 暗い水底から見上げる空は揺れ、白と青を混ぜた光は一際眩しく感じた。


(やっと……。師匠たちの下に戻れるんだ!)

「うわっ、なんスかこれ。魚ってこんな感じで泳いでんスかね?」

「当たり前のように喋んないで欲しいんだけど」

「あははは。アタシ、風系の魔法師ッスからね。振動を操るのはお手の物ッスよ」


 海中を泳ぐ生物たちを通り過ぎていく。

 群れを成して泳ぐ大量の魚や、単独でそれらを抜き去る大型の魚。

 中にはそれら全てを丸呑みする生き物などもいた。


 それら全てを無視して、一気に海上を目指していく。


「そろそろ海上だけど、足場なんて無いから、ルナ! 飛び出したと同時に足場の形成お願い!」

(ちょっと待って! 私は喋れないんですけど!)


 有無を言わさず、水の空はその光を強くしていく。


 大きな水が弾ける音と共に、全身に開放感が与えられる。

 私は急ぎ魔翼を展開して、魔法を発動する。

 私の魔翼ではない、何かを噴射する音も聞こえる。


 おそらく、ミアさんの初期形態(ファーストフォーム)の魔翼だろう。


「ユ、結合(ユニオン)!」


 恒星の光が漏れる雲が広がった空は、私には眩しく。

 思わず下を向いてしまう。


 青い海に私たちの影が映り、私はそこを起点に水面とは僅かに違う青い魔法陣を広げる。

 展開しきれていない魔翼は落下の減速をするに留まり、私たちの高度は水面へと近付いていく。


「間に合え……」


 海水を素に氷が生成されていく。


 領域を拡張してく氷は、私たちが着地する頃には数mとその大きさを広げ切った。

 私たちが乗った小さな氷の島は衝撃で揺れ、海面に波を作っていく。


「っとと。バランスは悪いが、こんなものか」

「これ、ルナっちがいなかったら今頃海に逆戻りッスね」

「ゴメンね、ルナ。魔翼の切り替えは早いんだけど、その……。積載量が、ね」

「理由は分かりました。それ以上は言わなくていいです」


 氷の足場に足が付いた人から、ミアさんから離れてそれぞれ緊張を解いていく。

 ミアさんとホムラ以外は、すぐしゃがみ込んで休息をとっていく。


 私も魔翼を解除して、その場に腰を落とす。

 成長の途中だった氷の柱は音を立てて崩れ、光に変わっていく。

 ミアさんも戦闘機を模した魔翼を空間に染み込ませる感じで、魔翼の展開を解除していく。

 そんな中で一人、ホムラだけがある一点を凝視していた。


 水平線の果て。

 ここからでは遠く見え辛いが、薄く広がる灰色の何かが見える。

 その中央辺りには、空に向かって一本の線が伸びている。


「あれは……町、でしょうか」

「メガフロート・アーク。私が所属している警備隊が守る、インゼルケッテにおいて主要となる海上都市。あそこから私は来たの」

「……」


 メガフロート・アーク。

 私が地上で最後に大地を踏み締めていた、町の名前。

 それはもう、いつの日だったのか。


「ルナが約一か月前にいなくなった町でもあるわ」

「一か月、ですか。そんなに経ってたんですね」

「ちょっと待て。アークの警備隊が、何でアークの研究施設を襲ってるんだ? それって――」

「知り合いを……友達を助けるのに、立場なんて関係ないよ」


 アヤトの疑問に答えたミアさんの言葉に、私は泣きそうになる。

 ただ、やっぱり問題があるのか曇った表情は晴れることは無い。


「あと、水飛沫? 幾つか見えるけど、他にも救助の人がいるんですか?」

「あー、音的にこっちに向かってるッスね。乗り物みたいッスけど……。そんな予定はなかった筈ッスよね」

「水飛沫を上げる乗り物? あれは――」


 白色の飛沫を上げるそれらから、赤い発光が目に映る。

 それは捉えられただけでも五つ以上はあり、次の瞬間にはそれが何かを理解する。


 鈍い音と共に、右胸の辺りに違和感を覚える。

 後ろに押され、呼吸が一瞬止まる。

 背中側へ何かが抜けた感覚の後に、熱い痛みと喪失感を脳が認識し始める。

 忘れかけた呼吸は正常になされず、激しい動悸が現実を物語る。


「ディルクルス!」

「――ッ、ァ」


 近くにいたアヤトに支えられて、倒れ込むことだけは避けられた。

 と、思う。


 脳の理解が追い付かず、心臓の音と胸と背中から血が流れていく事だけが、ハッキリと分かる。

 遠くなる音の中で何とか数回の水に何かがぶつかった音と、水の跳ねる音を聞き取る。


「まだ、これぐ、らい」


 今まで味わらされてきた記憶が霞み、精神が擦り切れる感覚を思い起こす。


 痛いのは嫌だ。

 死にたくない。

 何でこんなことをされなきゃいけないの。


 痛みを塞ぐように、全てを無かった事にする為に。

 今度は意図的にソレを使う。


 燃え上がる怒りが凍てついていく。

 込み上げる感情は均され、強制的に脳も、心臓も、心も。

 全てを平らな氷原へと変えていく。


 それは実際に体にも現れ始める。

 傷ついた部分に、異物が体の中から生えていく。

 心から生えていく感覚に陥るそれは、生え切ったものから体に力を注ぎこみ、役目を終えてピキピキと音を立てて崩れていく。

 生えたそれが全て無くなった頃には、心に喪失感だけを残して全身の痛みを消し去っていた。


「ディルクルス、お前……」

「大丈夫。これぐらいなら私、死なないよ」


 化け物でも見たかのような顔をするアヤトに、無理やり笑って見せる。

 笑えてるかな? 笑えてるよね。


「――アーク警備隊だ。アークへの反逆者及び、施設脱走者を発見。代表からの命令だ、全員大人しく投降しろ。抵抗しても構わんぞ。……いや、むしろしてくれ。その方が、俺達には好都合だ」


 小さな氷の足場を二輪車両が水上を滑って、何台も囲んでいく。

 搭乗者は全員火器を装備し、引き金に指をかけたまま容赦なくその銃口を向けてくる。

 彼らはミアさんやレイさんがよく着ていた、警備隊の制服を着ており、その上には防弾チョッキや携行火器などを取り付けられていた。


 その中でも、唯一大型二輪車に乗る男性が、右手に持った拳銃からポインターを私の額に飛ばし、自分たちの意思をここに宣言する。


 お前らは敵なのだと。

≪世界観まとめ≫

・ミアの魔翼・適合形態(セカンドフォーム):潜水艦モチーフ。スクリュープロペラで水中航行し、主な装備は魚雷や対地ミサイル等の誘導弾系列。ソナーや水中呼吸、暗視等も完備している。完全に水中用の為、インゼルケッテ以外の惑星だと使えない事の方が多い。

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