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20話.脱出と救出

※Prologueを目指して書いています。

 薄暗い独房のような部屋の中で、私たちはそれぞれの落ち着きやすい体勢で話し合いに望んでいた。


 私はベッドに腰かけて、二人の顔が見える位置に。

 目の前にいるホムラは、ベッドに上がり込んで膝を抱えている。

 アヤトは、見張りも兼ねて出入り口でもある扉に立ったまま寄りかかっていた。


「この施設の構造が分からないから、脱出経路が組めない。職員の数も不明。外への連絡手段も無し。――あるのは、アグノスの桁違いの魔法と、ディルクルスの氷系の魔法。それに俺の武器生成の魔法。それぐらいか」

「何でアヤトはここに雇われてるのに、何も知らないの?」

「無理矢理ここに連れて来られて、訳も分からず仕事を任されてるだけなんだ。向こうの都合の良い情報しか渡されてない」


 ここに連れて来られた理由は分かるけどな……

 と呟きを残すアヤト。


 こうしてホムラが言い出した脱出の話し合いは進展を見せず、私とアヤトは深い溜め息を吐く。

 ホムラに関しては前向きなのは良いのだが、出される案が全て力業だったり、出来たとしても生きて出られるか分からないものばかり。


 当の本人は、今も笑顔を浮かべたまま次の案を考えていた。


「んー、停電も横穴も駄目なら……。そうだ! 職員さんを一人捕まえて道案内して貰おう!」

「ホムラが言うと、エグいイメージしか出来ないんだけど……。――前から気になってたんだけど、ずっと笑ってるのは何で? この状況、楽しくないよね?」

「俺もそれは気になってた。担当になってから、ずっとこの状態を楽しんでいるようにニコニコしてるのを見て、俺は最初、頭がオカシイ奴だと思ったぞ」


 迷子になったから、道を聞くようなノリ人質を取る提案をするホムラに疑問を投げ掛ける。

 アヤトも以前から思っていたようで、それに乗っかってくる。


「深い理由なんて無いよ。――ただ(にい)さんと約束をしたから」

「えっ、ホムラってお兄さんがいるの?」

「ああ、ゴメンね。兄妹じゃなくて、ある人に魔法を教わった時の兄弟子なの。……実際の兄みたいに接してくれたから、そう呼んでるの」

「約束、か……」


 約束。

 その言葉に引っ掛かりを覚えたアヤトも、私は気になったが、今はホムラの話を聞いていく。


「その(にい)さんは、『ホムラが辛くて、苦しくて、誰も助けてくれる人がいなかったら、僕の名前を呼んで。そうしたらすぐ助けに行くから』って言ってくれて。――物語のヒーローみたいな事を言って、でも……私が泣いたら本当にすぐ来てくれて。だから私は簡単には泣けないの。救いの手は、すぐそこに有るかもしれない。でもそれを取ったら、兄さん(わたしのヒーロー)に迷惑がかかるから」


 同異体(シンギュラリティ)という稀有な特異性を持ち、困難に対して英雄(ヒーロー)の手は借りてはイケないと、一人立ち向かう。

 日だまりのような少女。


 辛くても前を向き。

 苦しくても笑顔を浮かべ。

 助けがなくても一人で立ち向かい。

 心が折れるその瞬間まで、恒星の如く燃え続ける。


 必ず助けに来る。

 その自信が彼女に笑みを与えるのなら、それが出来る存在は、どれだけのものなのか、


 何、ソレ――

 バカじゃないの?

 そんなの有る訳無いじゃん。


「……ッ!」


 頭が痛み出す。

 満たされた熱湯が、急激に凍るように。

 ホムラの話に対して、冷たく無感情な言葉が心の中に溢れ出す。


 あの時(・・・)は誰も助けてくれなかった。

 あの時も、あの時も。

 そして、今も。

 ――何も変わらないし、変わる時は何時も嫌な事ばかり。

 だったらいっそのこと……。


「おい! ディルクルス、大丈夫か!?」

「ルナちゃんしっかりして!」


 二人の声が遠退いていく。

 視界がぼやけ、頭の中は冷たい氷水に浸かったかのように痛い。

 体は動かないし、思考も何かへと染まっていく。


 今のままで良い。

 どうせこの先悪いことしか起こらない。


 思い出そう?

 昔の不幸を。

 それより嫌なことが起きるのだとしたら、そんな未来は――


 クルクルと、金髪碧眼の少女が踊る狂舞曲。

 反転と後退を繰り返し、永久不変の理の存在を歌い続ける。

 そんな光景がノイズ混じりに見え始め、それは待ち望んだかのようにこう告げた。


『貴女の想いと望みを教えて?』


*


『お久しぶりッスー。早速で悪いんでスけどー、早期発見による報酬上乗せを所望するッスー!』

『考えとく』

『あーっ! それ絶対無しになる奴ッスよねー!』


 語尾の気になる明るい声が、眠たげな声に抗議する。

 それを諌めるかのように、落ち着いた声が割り込む。


『まぁまぁ。この依頼は私が晶に頼んだものだし、追加報酬は私が出すよ』

『おっ、マジっッスか! カナっちなら何が良いスかなー』

『本当にこんな人が、捜査員で大丈夫なの? 水無神くん、鷹橋さん』

『こんなってなんスかー。いくら配達役の人だからって、実力も知らないのに、それは酷いッスよー』


 明るい声の言葉に、不安の声が上がる。

 上がった不満の声は、すぐに別の話題で霧散する。


『……ええっと。ごめんなさい、クラウンさん。これってどうすれば良いですか?』

『うん? ああーこれね。そこのボタンを押せば、元に戻るよ』

『カナっち、また端末壊したんスかー?』

『壊してない! 壊してないから! ちょっと変な所押しちゃっただけだから!』

『この通信だけでもう五回目だぞ、それ。――水無神?』

『すみません、端末の操作が効かなくなりました』

『お前もか』

『あーもういいッス。さっさとまとめに行きましょうッス』


 一度咳払いをして、明るい声はまとめに入る。


『今回の目標は、惑星インゼルケッテ海中にある、メガフロート・アーク配下の研究施設。そこに囚われているルナ・ディルクルスの救出ッス。――ちなみに、本当に盗聴とか大丈夫なんスよね?』

『その当たりは大丈夫。私と晶の魔法で、この通信中は電波が滅茶苦茶になってるから』

『それが理由でバレそうスけどねー。でまぁ、救出事態はもう潜入しているアタシがやるんで、ミアっちは魔翼の適合形態(セカンドフォーム)でお迎えよろしくッス』

『了解。入り口は作っちゃって良いのよね?』

『そうッスね。んで、その間に残るアキっちたちは、アーク本土で工作とかッスね』

『任せて。あの代表とかの好きにはさせないから』


 大まかな役割を確認した全員。

 明るい声は今までそれを言いたかったのか、大声でそれを宣言する。


『それじゃあ、オペレーション・アイスセーブ。行動開始!』

『名前とかいらないだろ』


 これで通信が終了かと思いきや、眠たげに否定する声に、抗議の声がさらに続く。

 この秘密の通信は、それからしばらく続くのであった。

≪世界観まとめ≫

・なし

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