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17話.少女と陽だまりの邂逅

※Prologueを目指して書いています。

 惑星インゼルケッテの海の奥底。

 およそ光が届き切らず暗い青に染まった水の世界。

 そこに建造された一種の都市と言える施設に、私は閉じ込められていた。


 もうどれ位経ったのかは分からないけれど、あの少女に出会って意識を失い、目を覚ました時に見た物は目が眩むほどの強い照明と、見知らぬ白装束の人間と、私の体を縛る冷たい器具。

 全てが合理性と知識を求める貪欲さを持つ無感情の部屋。


 ――そこで何があったかは、思い出したく無い。


 その後、訳も分からず牢獄のような部屋に放り込まれて、一人の女の子に出会った。

 言葉を失い、涙を流す事すら無くなった私を暖かく出迎え、私が置かれている今の状況を説明してくれたその女の子は、ホムラ・アグノス。

 同い年で、私と同じように実験の為に攫われた女の子。


 彼女がいたから、私の心は壊れる直前で踏みとどまった。

 師匠から貰ったリボンは無くしてしまい、今はずっと髪を降ろしたまま。

 心の拠り所が一つ無くなってしまったのは寂しいけど、それを補うほどホムラは癒しとなるような存在だった。


「おはよう、ルナちゃん」


 私は薄っすらと目を開く。

 そこには恒星のように明るい笑顔を浮かべるホムラが、もう少しで顔と顔がくっ付くのではないのかというくらい、至近距離にいた。

 陰湿なこの部屋とは別の、陽だまりのような匂いが鼻を掠める。


「うわあああああ!」


 私は慌てて距離を取ろうとしたが、体に纏わりついた布に足を取られて、床に落ちる。

 どうやら、私はベッドの上にいたらしい。


「ルナちゃん、大丈夫?」

「ご、ごめんねホムラ。私あの後寝ちゃったんだ……」

「うんぐっすりね。ルナちゃんのベッドに戻そうと思ったんだけど、がっしり離さなかったから、そのまま一緒に寝ちゃった」


 ベッドから顔を出して心配をしてくるホムラに、私は顔を赤くする。

 意識が落ちる前に何があったのかを思い出そうとすると頭痛を感じ、諦める。


「さっきアヤト君がルナちゃんの様子を見に来たんだけど、なんか顔を赤くして出て行っちゃったんだよね。何でだろう?」

「……それはホムラが悪いよ」


 この施設で仲良くなった一つ上の少年、汐崎アヤト。

 彼は元々、ホムラの監視役として施設に雇用された少年で、魔法も使えるらしい。


 私もホムラも上着を脱いで、ラフな格好をしているが、特にホムラは年頃の男子には、見ていてつらい物はあるだろう。

 本人の無害さと無防備さで、その豊満な胸を堂々と晒している。

 本人曰く、熱すぎるのが嫌だから好きで薄着をしているらしいのだが、天然な部分もあり警戒心がいまいち無いので、すれ違う男性はみな一度はホムラの方を横目に見ている。

 そんな無防備な私たちが、一緒に寝ている所を見てしまったアヤトは、ご愁傷さまとしか言いようが無いだろう。


 むしろ、目の保養になったのかな?


「ホムラって、いつもここにいる気がするけど、ここって実験施設何でしょう? 私みたいに呼び出しが無いような」

「頑張って抵抗してるからね。あの人たちは迂闊に私に近寄れないの」


 落ち着いて自分のベッドへ腰かける私は、常々抱いていた疑問を口にする。

 それに対し、得意げにその大きな胸を張るホムラ。


 迂闊という言葉は、ホムラには一切似合わないものだった。


「それだけホムラの魔法が強力だって言う事?」

「うん。下手に使うと、ここの施設がお魚さんの家になっちゃう位にね。……私もそれは嫌だし」


 屈託のない笑顔を浮かべるホムラから、不穏な言葉が飛び出てくる。

 どんな魔法を使うのは不明だが、それはあまりにも強力すぎる力という事だけは分かった。


同異体(シンギュラリティ)って知ってる? ルナちゃん」

「シンギュラリティ? 特異点っていう意味だっけ」


 聞き覚えの無い言葉に鸚鵡返しをして、思い当たる言葉で確認を取る。

 どうやらその答えは間違っているらしく、ホムラは首を振って言葉を続ける。


「同じだけど異なる体って書いて、同異体(シンギュラリティ)。原子に関する用語を捩ったらしいんだけど、私たち魔法師にとっては特別な言葉」


 同異体。

 シンギュラリティ。

 どちらも私がよく知らない言葉で、ただ聞くことしかできない。


「例えば、皆が小さな炎を出す魔法を使うとして、この同異体(シンギュラリティ)って言われる人たちだけはね、同じように魔法を使って違う結果を出すの。――周囲を焼き尽くす業火を生み出すっていうね。こう言った最小の仮想粒子の結合で、最大の魔法を使うのが、私たち同異体(シンギュラリティ)

「ちょっと待って、それっておかしくない? 小さい炎が大きい炎になるの? 同じ魔法なのに?」


 理解できないことに頭を抱える私だが、真っ直ぐ真剣に答えるホムラの言葉は嘘をついておらず、それが事実とするしかなかった。


「偉い学者さんたちが言うには、私たちが使う魔法は、普通の人とは違って工程が極端に少ないんだって。だから、同じ結合量でも結果が違う。独自の方程式に当て嵌めて、同じ答えを求める。皆が十の公式を使う数学を、一の公式で解くみたいにね。――だから同異体(シンギュラリティ)。同じ結果で、異なる順序を辿る特異点」


 マッチに火を灯す行為が、彼女にとっては火事を起こすことと同義。

 そう語るホムラの笑顔に、私は恐怖を抱く。


 もし、この場で目の前の女の子が魔法を使ったら、私は瞬きも出来ずにその命を落とすのではないのかと。


「で、ここの人たちは同異体(シンギュラリティ)を研究しようと、私を拉致したらしいんだけど。私が暴れて部屋を一個蒸発させたら、こんな感じになっちゃったんだよね」

「じょ、蒸発? は、ははっ……」

「――って、ルナちゃん引かないで!? 私は怖くないよ!? 何もしないよー!」


 ベッドへ上がり距離を置く私を見て、ホムラは涙目で抱き着いてくる。

 幼い子供のように高い体温は、今の話を聞いた後だと熱を帯びた鉄のようで震えてしまう。


 それからというもの、何かあるたびに弁解してくるホムラを宥める為に、私は食事がてらアヤトさんを探して、落ち着かせる算段を立てるのであった。

≪世界観まとめ≫

・海中都市:惑星インゼルケッテの海中に建設された、隔絶された都市。秘密裏に行われる実験や、囚人の収容などに使われ、存在以外は公開されていない。

同異体(シンギュラリティ):最小の消費で強力な魔法を扱うことが出来る存在。その数は少なく、発見された場合、その存在だけでも争いの火種になる。

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