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15話.理想卿

※Prologueを目指して書いています。

 そこは紫天に囲まれたおよそ惑星とは言えぬ程、崩壊した星。

 地殻は浮き上がり宇宙を漂い、内側にあるはずのマントルは見当たらず、核がむき出しとなっている。

 宇宙の塵へと成り果てるはずのこの星は、構成していたであろう地殻と核を巨大な鎖で繋ぎ合わせていた。

 繋ぐ核も鎖で縛られ補強されている。


 歪で星と言えるかわからないこの惑星で、地殻表面には建造物が多く立ち並び、考えらえる生物にとっての最悪の環境とは思えない程、煌びやかな繁栄を見せていた。

 その中でも一際目立つ、絢爛豪華な幻想の城。

 宇宙を漂う色彩豊かな鳥や魚が集い、一帯を守護するかのように半透明な魔法陣が宇宙に描かれている。

 ――惑星クリスタリア。統括騎士団を従え、プラネットポートが繋ぐ100以上の星を纏め上げる、クロスユートピアの本拠地。


 魔法によって生かされ続ける浮遊惑星。

 限られた者しか踏み入れぬこの惑星で、彼らは卓を囲み語り合う。


「――以上が、現時点で判明している惑星インゼルケッテで起こった事件の全容です」


 幻想城エイドス。

 クロスユートピアの最重要拠点であるこの城の一室で、複数の男女が集まっていた。

 室内の作りは無駄が少なく、並べられた家具などから会議室という印象が第一に出る。

 だが、材質や細かな施しがその印象を薄くする。


 飾られた長テーブルに座る彼らに対し、淡々と話を進める女性は、"漆黒"と表現するのが相応しかった。


 ドレスを連想させる軽装の鎧に、質素な鞘に納められた左腰の剣。

 整えられたショートカットの髪と左耳に付けられた黒瑪瑙のイヤリング。

 その全てが艶のある黒で、冷たく光る唯一の深緑の瞳が夜天に怪しく浮かぶ凶兆の星を思わせる。


「それで、俺たちに何をさせようって言うんだ? リズ・ツリーハイド。我らが主の意向を聞かせてくれよ」


 長机の上で両足を組み、粗雑な態度で一人の男が黒の女性――リズ・ツリーハイドに疑問を投げかける。


 着ていたのであろう上着や、この部屋に似つかわしくない彼の私物を宙に浮かせる男は、無駄なく必要な筋肉の身を鍛えられた上半身を晒し、この部屋を己が物であるかのように過ごしていた。

 橙の髪も、瞳も、彼の在り方を表すかの如く鋭く、己が凶器であることを隠さない。


「主命はいつも通り、生死問わず私たちの誰かがこれに対処せよ。……何? アルム。貴方が行くの?」

「冗談。そんなクソつまんねぇ任務、願い下げだ。俺は行かねぇ」


 関心が無いのか、リズに向けて手を払いアルムと呼ばれた男は自分の意思を伝える。

 それを確認したリズは、そのアルムの反対側――窓を開けてそこから入ってくる、色彩豊かな鳥や浮遊する魚と戯れる女性へと目を向ける。


「エフェイラさん。貴女はどうですか?」

「そうですね……。インゼルケッテは子供たちの工場見学で一度行ったきりですし、土地勘がありません。探知魔法も効果があるか分かりませんし……。リズ様、今回は申し訳ありませんが、私が出来るのは現地のお手伝いだけです」


 礼儀正しく座り、摩訶不思議な生物たちを愛でる彼女――エフェイラ・レディエスは、体のラインがあまり出ない、落ち着いた色彩で構成された刺繍が多く入っている民族衣装を身に纏い、長く編まれた灰色の髪と黒の瞳は、彼女の質素さと包容力を体現している。


「現地の教会へ協力をお願いしてみますが、今は難しいでしょうね」

「この前のアーク襲撃の対応で忙しいってか? ハプティズ教は数だけで質がなってねぇな、相変わらず。聖銀教会を見習えってんだ」

「致し方ありません、アルム様。私たち洗礼者の数は少なく、教会へ協力してくださる方々に、漠然と高い能力を求めるのは、酷だというものです。――ですが、聖銀の方々を見習うというのは、私も一理ありますね」

「医者が足りねぇってんなら、ミストゥル行かせりゃいいじゃねぇか。あのクソ眼鏡が一人いりゃ、すぐ終わるだろ」

「ミストゥル様は別件で今はいない。それに今回は、医者が行って解決するものじゃない」

「あー、そういやそうだったな。――だったらメーアリッターはどうよ。生死問わず何だろう? どうせ見つける時間はそう変わんねぇよ。見つけ次第アイツの魔法で一発だ」

「レヴィアはインゼルケッテ全域で、魔法の使用が禁止されている。仮に向かわせたとしても、使用許可を出す都市があるとは考えられない。誰も、たった一人の為に自分の都市を沈めたいとは思わないだろ」

「――つーか、他の奴らはどこほっつき歩いてんだよ!」

「いつもこのような感じですよ、アルム様。貴方様もあまりご参加なさらない方ですから、大変見慣れない事でしょうが、これがいつも通りというものです」


 提示する内容を悉く却下されたアルムは、今まで抱いていた疑問をついに口にする。


 三人の他にこの部屋には一人しかおらず、残りの一人である黒髪の少年は、彼らとは離れた位置の席で眠っていた。

 多く用意された席は寂しく整えられ、今やエフェイラが愛でる生き物たちの遊び場となっている。


「後、レディエスはさっさと窓閉めろ! こいつらウゼェ!」

「怖がる必要はありません。皆、優しい子たちです。近寄ってきた子はぜひ撫でて上げてください」

「そういう事じゃねぇよ。目障りだって言ってんだよ」

「――あ、エフェイラ見つけたー!」


 閉められていた扉が開かれ、あどけない少女の声が部屋に響き渡る。


 現れたのは動きやすく仕立てられたドレスのような服を着る亜麻色の髪の少女。

 長い髪を揺らしてエフェイラの近くに駆け寄り、腕に抱えていた箱を目の前に置く。

 エフェイラの愛でていた生き物が散り散りに逃げていくのを気にせず、少女は長机の上に飛び乗り、黄金の目を輝かせながら話し始める。


「これパンデモニウムのクリムゾンに行って来たから、そのお土産。現地の薔薇で作ったゼリーなんだって、一緒に食べよー!」

「まぁ、それは美味しそうですね。今から冷蔵庫に入れて食後に一緒に頂きましょうか」

「うん!」


 満面の笑みを浮かべる少女を、エフェイラは母親のように頭を撫でる。

 少女もそれを望んでいたのか、猫のように頭をエフェイラへと向けている。


「それでね――」

「セラフィー様。やっとお戻りになられたのですね」

「あっ……」


 セラフィーと呼ばれた少女は、隣から聞こえた冷えた声に顔を引きつらせる。

 錆びた歯車のようにそちらへ顔を向けると、冷笑を浮かべるリズが立っていた。


「フィオナ様が黙認なされているのは知っています。ですが、貴女様が各地で起こす問題を解消する事がどれだけ大変な事か、そろそろ御理解頂きたい」

「リズ姉いたんだー……。エフェイラ、後よろしく!」

「分かりました、セラフィー様。このゼリーは厨房の方々にお願い致しときます」


 刺繍のような黄金の羽根を残して、セラフィーはその場から忽然とその姿を消す。

 それを見届けたエフェイラは、愛でていた生き物たちを窓の外へ誘導し、窓を閉める。

 その後セラフィーの持ってきた箱を持ち、マイペースにのんびりと部屋を退出していく。


「ったく。相変わらずあの姫さんがいると騒がしくなるな」

「……はい。フィフス様、今し方セラフィー様がお帰りなりました。ただ――……あっ、確保なされたのですね」


 呆れて椅子によりかかるアルム。

 左耳を押さえて誰かと会話をするリズは、消えたセラフィーの所在を確認する。


「で、インゼルケッテの件はどうするんだ?」

「他に誰も志望者がいなかったのだから、あの子に任せるわ」

「ああ、そうかい。適任つったら適任だもんなー、あいつ」


 先程まで話していた話の続きが気になったのか、アルムがリズへと確認を取る。

 共通の相手を思い浮かべて、アルムは楽しそうに笑い、リズは静かに残った黒髪の少年へと視線を向ける。


理想卿(エクエス)としての初仕事、行ける? 晶」

「――いつでも。既にフォーリヒアルト経由で捜索はしているので、見つけ次第行きます」


 眠たげな表情で顔を上げる少年――晶は、リズからの問いに特に感情を込めず答えていく。


「盛大に暴れたダチを探しに星中を駆け回るなんて、大変だなアキラ」

「別に、慣れてる」


 軽口を叩くアルムにも、晶は変わらずあっさりとした答えを口にしていく。

 リズは少し顔を強張らせ、アルムを睨み付けるが本人はどこ行く風だった。


「現地には環奈もいるから大丈夫でしょうけど、くれぐれも無茶なことはしないこと。――いい? 貴方たちは前科があるんですからね」

「そんなん、俺たちに何もするなってのと同義だろ。主の事になると、周りが見えなくなるお前も含めてな」


 挑発的な笑みと僅かな敵意を乗せた二人が、視線を交わす。

 だが、リズがすぐに目線を逸らしため息を吐く。


「そうね、ごめんなさい」

「じゃあ、これで話は終わりだな。――おい、アキラ。この後暇なら、久しぶりに飯作ってくれよ。美味い酒が手に入ったんだ」

「気分じゃない、他を当たってくれ」

「……ッチ。仕方ねぇな、おいツリーハイド。なんか良い肴がないか知らねぇか?」

「知らないわよ、厨房に行って聞いてきなさい。――セラフィー様と何かやろうとしているのなら、ここで縛り上げるわよ」


 話を切り上げたアルムは、陽気に二人へ絡んでいくが素っ気無い対応をされた上に、あらぬ疑いをかけられて不満を顔に出す。


「姫さんはフィフスの坊主に今説教中なんだろ? 何もしねぇよ。お前と下手にやり合っても、負けるのは目に見えてるしな」

「ならいいのだけど」


 冷ややかな視線を向けるリズに、アルムは堪らなくなったのか席を立つ。

 周囲の私物は消え、彼は浮かせていた上着を羽織ると、ふらふらと部屋を退室する。


「んじゃ、ちょっくら行ってくる」

「まったく……。晶はこれからどうするの?」

「インゼルケッテに戻る。こっちで出来ることは一通りやったから、この件が終わるまでは戻らない」

「そう。フィオナ様に何か伝えておきたいことはある?」


 今後の動向を聞いてくるリズに、晶は変わらない対応をしていくが、最後の言葉に少し表情が揺れる。

 何かを誓ったようにリズへ視線を向ける晶は、言葉を紡いでいく。


理想卿(エクエス)として、あいつを生きて連れて帰ります。それが貴女に捧げる誓いの言葉です。……と」

「……分かったわ。頑張りなさい、クロスユートピアの理想を支える者(さいじょう)の一人として」


 笑いかけるリズに対し、目を伏せて沈黙で答える晶。

 クロスユートピアの象徴である個人、フィオナ・エヴァーグリーンを守護する最高の魔法師にして、最大の単独戦力である彼ら――理想卿(エクエス)は、インゼルケッテで起こった事件に向けて動き出す。


 一か月前。

 突如その三分の一を氷で包まれた惑星インゼルケッテの主要都市、メガフロート・アーク。

 その実行犯として捜索中であり、行方不明でもある暫定Aランク魔法師と認定された少女ルナ・ディルクルス。

 世界は、彼女を中心として動き出す。

今回は、敵対組織の幹部紹介会みたいなものです。国際警察のトップエージェントみたいな感じ。

≪世界観まとめ≫

・惑星クリスタリア:エヴァーグリーン家によって維持される崩壊した惑星。

・フィオナ・エヴァーグリーン:現在クリスタリアを固定する魔法に人柱とされた、クロスユートピアの象徴とされる個人。

理想卿(エクエス):フィオナを守るクロスユートピア最高の魔法師集団。そのほとんどがフィオナ個人によって選ばれ、関係性は良好。

・ハプティズ教:一体の龍を信仰する宗教団体。世界中に信者がいる大規模宗教で、各地で医療機関としても名を馳せていてる。

・洗礼者:所謂、神官。

・リズ・ツリーハイド:理想卿筆頭。幼い頃からフィオナに仕えてきた魔法師。

・エフェイラ・レディエス:理想卿の一人。ハプティズ教の洗礼者。

・アルム:理想卿の一人。


・パンデモニウム:惑星の一つ。人口の多くが吸血鬼などの亜人種。

・クリムゾン:パンデモニウムの主要国家の一つ。吸血鬼が集まる貴族国家。

・聖銀教会:吸血鬼とかグールを絶対討ち滅ぼす団体。ハプティズ教とは仲が悪い。

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