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14話.凍てつく徒花

途中の会話文にある意味不明なものは、意図的です。

※Prologueを目指して書いています。

 夜風に運ばれてくる潮の香り。

 静かな夜の町に、波の音は子守歌のようにその音を広げていく。


 パーティーが終わり、レイさんとミアさんをアークへ見送った私は、食後の散歩がてらアークの街並みを眺めていた。

 プラネット・ポートの利用可能時間があるわけではないが、後片付けを二人に任せている為、早めに帰って手伝うべきなのだろうが、試したいこともあってちょっと寄り道をしている。


 道に迷わない程度に人気の少ない路地に入り、立ち止まる。

 息を整えて、背中に意識を集中。

 仮想粒子に結合を促しイメージを背中に刻まれた紋様に伝達していく。


 薄暗い中、淡い青の光が広がり独特な魔法陣が展開していくのを、視界の端で捉える。

 背中からピキピキと凍る音が聞こえ始め、その音は段々と加速していく。


結合(ユニオン)――魔翼、展開」


 呟きと同時に、それは完成する。

 衛星の光に照らされる、無骨な氷の翼。

 薄っすらと青く光を反射する翼は重厚さを見せるが、私には一切重さは感じず、もう一つの腕が生えたかのように動かせる。


「これが、私の翼――」


 これで……これでやっと人を助けることが出来る。

 ゆっくりだけど、確実に一歩踏み出すことが出来た感覚を持て、頬が緩む。


 今までは力不足で助けられてばかり。

 いや、まだその状態だろう。

 けど、それでも私にとっては大きな一歩なんだ。


 いつか、師匠と肩を並べられるようになって、各地の困った人を助けるんだ。


「ふっ、ふふっ……」


 刻印した時も、レイさんやミアさんに報告した時には抑えていた感情が、1人になって漏れ出してくる。

 今の私は着実にお母さんやあの少年に近づいているのだ。


「――目標を確認。結った青髪に白服の少女……、ええ、そうです。魔翼を習得しているようですが、どうしますか? ……了解」

「……誰?」


 私の思考は無機質な声によって遮られる。

 声の先にいたのは暗闇に紛れる二人の人物。

 揃いの長い黒服を着て、誰かと通信を行っている。


「――っ!」


 瞬間。

 軽い音と共に、弾丸が飛んでくる。

 弾丸は体を横に逸らすことで、簡単に避けられた。


 黒服は右手にいつの間にか銃を持っており、銃口には長い棒――消音機(サイレンサー)が取り付けられていた。


 すぐさま私は、自分の武器を作り出していく。

 魔翼の右側にイメージを伝達、無骨な翼にグリップが生み出され、それを右手で引き抜く。

 それに合わせて重要な本体部分が生成されていく。

 作り出したのは銃身の下部分に、引き金部分まで伸びた片刃の刀身を持つアサルトライフル。


 刃は銃口よりも長く作られており、刺突も出来るが銃本体はただの氷の塊で形だけ。

 撃ち出すのは魔法の弾丸だから、中身何てどうでもいい。


 これは師匠と最初に会った時に見た銃と、私を殺しかけたアイツの武器。

 それを混ぜ合わせた、私だけの武器。


「どこの誰か分からないけど、殺される覚えはないからね!」


 慣れない武器だけど、見様見真似で銃撃を行う。

 人には向けず、地面や壁に撃ち込みそこから氷塊を発生させる。


 見慣れた様子でそれを見届ける黒服にはムカつくけど、それなら遠慮なくやらせてもらう。

 左手に魔法陣を展開し、別の魔法を相手の目の前に構築する。

 地面や壁にライン状の魔法陣が広がり、分厚い壁が生み出される。数秒で建物の三階分ぐらいの大きさになった氷の壁を確認し、私は次の行動に移る。


 翼を羽ばたかせ、逃走を図る。

 相手の意図や何が出来るのかが分からないから、距離を稼いで様子を見るのだ。


「そろそろ……ここっ!」


 複雑な路地を器用に飛びぬける。

 何回も曲がり、私自身もう元の道を覚えていないけど、適当なタイミングで建物の上へと上昇する。

 広い屋上へと飛び移ると同時に目立つ魔翼を解除して、周囲を見渡す。

 荒くなった呼吸を整えながらも、一つ一つ見落とさないよう見ていき、違和感を覚える。


「あれ……町の明かりが無い。それに、夜と言っても静かすぎる」

「――こんばんは」


 気持ち悪いぐらいに、心地よい風が吹き抜ける。

 他にも静かに照らす衛星の光も、聞こえてくる波の音も、全てが安心感を持つのに違和感を拭えない。

 かけられた声は少し幼さを感じる少女のもので、透き通った落ち着く声だけど、どこか空虚さを感じる。


「私の名前は@Reχ。よろしくね」


 名前が聞き取れない。

 それどころか、聞き取れた言葉もそれで合っているのかが分からない。


 私が見た少女の姿は、ノイズがかった色のある影法師。

 顔も、来ている服も、そこに立つ全てがきちんと見えるけど、ズレを感じてそれで合っているのかが分からない。

 自分の抱く気持ちも分からなくなり、とっさに魔法を使おうとするけど、その願いは虚空へと消える。


「駄目だよ、月ーちゃん。氷ーちゃんの魔法は、危ないんだからそんな簡単に使っちゃ駄目」

「魔法が使えない!? ああ、もう何なの貴女!」


 異常なことが起こり過ぎて混乱した私は、その怒りを目の前の少女へぶつける。

 指先を顎に当て、考える素振りを取った少女はその場で楽し気にクルクルと踊り始める。


「私はα鍵くんと(νちゃんの***だよ。聞いてない? ――あっ、蘿ーちゃんを追いかけてたあの人たちは、絶賛迷子中だよ」


 あいつらの事はもうどうでもいい。

 同じように突然現れて、意味の分からないことをし始めた目の前の少女のほうが、不気味で仕方ないのに敵意が湧かないし、魔法も使えない。

 打開策は一切思いつかず、少女の話は進んでいく。


「停ーちゃんは凄いよねー。世の為人の為、その身を正しき奉仕者とするんだから。私には絶対できないことだもん、尊敬するよ。――でねー。ちょっと前から貴女ことを見ていたんだけど、気になったことがあって」


 たぶん、私の名前を言っているのだけど全く別の言語に聞こえる。

 少女は気にした様子もなく言葉を続けるが、正直話の内容はまったく頭の中に入ってこない。


「α鍵くんの事、凍ーちゃんは本当はどう思ってるのかなって。もし桂ーちゃんが**だっていうなら、(νちゃんの焚き付けになるかなーと」


 踊りを止め、後ろで手を組みこちらに笑顔を向ける少女の言葉に、私は時間が止まったかのような錯覚に陥る。


 聞き取れない、意味が分からないはずなのに――。


「今の二人は*えてない。私は**になって欲しいと、あの時からずっとずっと望んでいるのに、こんなに想っているのに、全然届かなくて」


 寂しそうに笑う少女の言葉は、だんだんと私の胸の奥の――大切な物へと触れている気がした。

 それは優しく撫でているようにも、足りない力で握りつぶそうとしているかのようにも感じる。


「だから雪ーちゃん、良かったら手伝ってよ。その代わりと言っては何だけど……」


 ――それ以上は止めて。

 思いは体に届かず、心臓の音が激しく聞こえ、喉が鳴らない。

 少女の言葉を許してしまう。


「――貴女の素直な気持ちを話せるように、手伝ってあげる。勿論、貴女の夢を叶えることも、ね」


 揺れるカナリアの髪は光を零し、孔雀色の瞳は私の想いをしっかりと映している。

 これにて月の蒔蘿子(じらし)は反転の誘いの下、花を咲かせる。

 凍えた星に咲いた一輪の花は、恵みを齎した鳥へ一言懇願する。

 ――変わりたくない、と。

1章前半戦、終了です。次回より登場するキャラ数が大幅に増え、一気に世界観を拡張します。

≪世界観まとめ≫

・なし

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