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13話.祝勝会

※序章を目指して書いています。

 コトコトと煮える音が心地よく聞こえ、部屋全体に広がる幾つもの料理の匂いが程よくお腹を空かせていく。

 包丁やフライパンなどの器具を扱う音さえも、一種の楽器のように聞こえる。


 惑星インゼルケッテの代表都市アークで起きた、鋼海旅団との戦いから一週間以上が経った今、退院許可が出た私とレイさんのお祝いとして、惑星ロストグレイの借家でちょっとしたパーティを開くこととなった。


 参加者は師匠と私、レイさんにミアさん。

 それに……水無神さんも。


 朝方に、師匠と水無神さんは近くの食事処の店長――ダリルさんと一緒に、パーティー用の買い物へ出かけていた。

 帰ってきた際に、師匠の硝子魔法で作ったカートに一杯に入った大量の食材には、びっくりした。


 ダリルさんが押していたけど、重くなかったのかな?


 昼は、インゼルケッテにいるレイさんとミアさんのお出迎え。

 ダリルさんと水無神さんは借家で下準備をする為、プラネット・ポートへ向かったのは、私と師匠。

 代金は師匠と水無神さんが必要経費として払ってくれた。

 レイさんはスタスタとゲートをくぐっていたけど、ミアさんは抵抗があったのか、十分位くぐることが出来なかった。


 そして、今。

 ダリルさんは下準備の手伝いを終えて、自分の店に戻っている。

 戻るときにやけに嬉しそうにしていたけど、私たちがいない間に良いことでもあったのかな?


「あの二人……本当に仲がいいよね。一緒にいるところをよく見かけるわけじゃないけど、以心伝心というか」


 ミアさんの言葉を聞き、私はソファの背もたれから少し顔を出し、台所へ目を向ける。

 そこには、肩を並べて料理に向かっている師匠と水無神さん。

 師匠は嬉しそうに手を動かしているし、水無神さんも師匠の欲しい物が分かるのか、ちょっとした声掛けだけですぐに師匠が欲しい物を渡している。


 お互い口数は少ないけど、傍から見ると全てを分かり合っているようだった。


「なんか、面白くないです」

「幼馴染なんでしょう? あれで付き合ってないっていうのもビックリだったけど」

「それを言うなら、ミアさんたちもです。長い付き合いじゃないんですか?」


 反対側に座るミアさんへ視線を戻すと、少し顔を赤めていたが、すぐさま否定する。


「前にも言ったでしょう、腐れ縁って。ねぇレイ」

「そうだな。俺も突然脱ぎだす奴はお断りだ」

「ちょっと! それ、私が変態みたいじゃない!」

「今日の朝も、突然外縁部に連れてこられたと思ったら、『泳ぐから服見てて』って言って泳ぎ出した奴が何言ってんだ。おもむろに脱いだお前の服の扱い、本当に困ったんだぞ」

「下はいつも水着なんだから別にいいでしょう!」

「そういう問題じゃねぇ!」

「ええ……、ミアさんまた泳いでたんですか」


 今のミアさんは白系の清潔感のあるワンピースを着ているが、その下は下着ではなく今も水着なのだろう。

 見た目だけなら、良い所のお嬢様みたいな見た目なのだが、開拓惑星の出身らしくその所作からは、そのようなものは微塵も感じない。


「そういえば、ルナ。魔翼の事は鷹橋さんに聞いたの?」

「そのことなんですけど、他にも言いたいことがありまして」

「統括騎士団に入団、とかか?」

「ちょっと違います。――実は、来週正式に魔法師のライセンスを貰えるかもしれないんです!」


 意気揚々と報告する私。

 だが、二人の反応は予想とは違うものだった。


 いつも着ていた警備隊の服とは違い、薄い生地で出来たパーカーを着てフードを目深に被るレイさんは、ティーカップの中の珈琲を一口含み、ミアさんと一緒に私から目を逸らす。


「……ごめん、ずっとライセンス自体は持ってるのかとばかり思ってた」

「俺も、警備隊の方には統括騎士団の魔法師としか紹介されてなかったから、てっきり……」

「と、とにかく! ライセンスの発行に伴い、前もって師匠に魔翼の適性を調べて貰いました。結果は無事適性有り! その場で刻印もして貰いました」


 私は胸を張り自慢をするが、ふと疑問が一つ思い浮かぶ。


「ミアさんが魔翼を使えるのは知っていますけど、レイさんは持ってないんですか?」

「生憎、俺は適正は無かったよ。ミアが魔翼を手に入れてからは、すっかりそのサポートだ」

「私が派手に暴れて、レイがその間に出来た隙をカバー。ずっとそうやってるんだよね」

「俺の魔法的にも、その方が向いてるしな」


 レイさんの魔法を透明になる奴しか見たことが無い私は、その辺りは何とも言えないが、二人を見ているときっとそうなんだろうなと思う。


「ルナの魔翼は、どんな形だったの? たぶん氷系のものだとは思うけど」

「えっとですね、氷の鳥みたいな翼でした」

初期形態(ファースト・フォーム)が鳥の翼か。でも、鷹橋に師事しているなら、適合形態(セカンド・フォーム)はどうなるか分からないな」


 ファースト・フォーム?

 セカンド・フォーム?

 刻印してもらう時に説明があったような気はするけど、なんだっけ。


「ファースト・フォームは今の私の魔翼なのは分かりますけど、セカンド・フォームって?」

「刻印された初めの段階が、初期形態(ファースト・フォーム)。その後、本人の成長に合わせてアップデートされた状態が、適合形態(セカンド・フォーム)。――適合形態セカンド・フォームの多くは、人によってかなり形が変わるんだよね」

「成長……例えば私がAランクになったら、その形態になるのかな?」

「どうだろうな。正確な基準は分かってないみたいだし、適合形態(セカンド・フォーム)になったからって、一概に強くなるわけはないからな」


 ミアがいい例だ、とレイさんは言う。

 聞くには水の中でしか使えない欠陥形態らしく、ミアさん本人はかなり気に入っているみたいだった。


「そうですね、私の知っている適合形態(セカンド・フォーム)も、極端なものばっかり。――ルナ、ちょっと動かないでね」

「えっ?」


 いつの間にか私の背後に立っていた師匠は、そう言うと私の後ろ髪をいじり始める。


 冷えた手が首筋に当たり背中がゾクッっとする。

 すぐに髪を持ち上げる感覚があり、その後に縛る音がした。


「この前の戦闘でリボン、無くしていたみたいだし。その代わり」

「ありがとう、師匠。……あんまり気にしてなかったんだけどな」

「私が気になってただけだから、気にしないで」

「白に水色のライン……。あっ、先端に入ってる模様、ルナがいつも着ている服に入ってるのと、同じ奴だ」

「知り合いに頼んで、特別に作って貰いました。……だいぶボッタくられたけど」


 お礼を言う為に振り返ると、縦セーターとロングスカートを着た師匠がエプロン姿で立っていた。


 最後の一言を私は聞き取ってしまい、申し訳ない気持ちに一杯になる。

 後頭部に手を回してどんな風に髪を結ったのか確認すると、前と同じようなポニーテールにしてあるみたいで、柄付きのリボンでどういう風に見えるのかちょっと気になる。


「料理が出来ましたので、テーブルに並べていきますね。――晶、盛り皿の数足りる?」

「……ディルクルスを考えると、足りないんじゃないか?」

「はぁ!? 確かにちょっと食べる量は多いかもしれませんけど、そんなに食べないですよ! 師匠、この人に何か言いました?」

「いっぱい食べる子だとは言ったけど」


 いつも通り眠そうな表情を浮かべる水無神さんは、ゆったりと着ているジャケットの袖を捲り、お皿に料理を盛り付けていた。

 顔はこちらに向けていないけど、話自体は聞いているみたい。


 そして半目で口元が緩み、いつも意地悪な事をしている時の顔になる師匠。

 あの顔になる時は、だいたい喋っていること以外にも言っている。


「まぁ、今日はルナも食べ過ぎないことをオススメするわ。豪華なデザートが用意してあるからね」


 私達の目の前に、料理が並べられていく。

 色とりどりのそれらは財宝が散らばる宝箱のようで、レイさんたちも息を呑むのが見える。


 手を出すのにも躊躇しているようで、視線がたどたどしく彷徨っている。


「――ちょっと、これ本当にお金を払わなくていいの? いや、お店でこれを頼んだら、私たちの財布の中身が消えてなくなりそうだけど」

「メニュー自体は一般家庭に出されるものばかりだけど、仕上がり具合を見ると……。なぁ鷹橋、水無神。本当にこれ食べていいのか?」

「退院祝いを兼ねた打ち上げみたいなものですから、遠慮せずどんどん食べちゃってください。その為に作ったんですから」

「……ねぇ。私、てっきりイチャつきながら料理を作ってるのかと思ってたんだけど」

「……そうだな。俺も高級料理店みたいなものが出てくるとは思わなかったよ」


 お皿を並べていく師匠と水無神さんに聞こえない程度で、レイさんとミアさんはお互いの認識を話し合う。

 師匠と水無神さんは、テーブル一杯に料理を並べ終わると席に座る。

 そして師匠はジュースの入ったグラスを掲げ、パーティーの開始を宣言する。


「それじゃあ、ルナとクレイヴンさんの退院と、無事生き残ったことを祝して――乾杯!」


 それからは、私とレイさん、ミアさんはもう料理に夢中だった。

 時々、口の周りを汚した私の口を師匠が拭いてくれたり。

 違う料理に口をつけるたびに、レイさんとミアさんは「これ、元の食事に戻れるかな」と呟いていた。

 その後に出た、デザートは水無神さん主体で作ったらしいけど、何というか美味しいとしか言えなかったのが、ただ悔しかった。

≪世界観まとめ≫

・刻印:クロスユートピアが主に管理してる、魔翼を付与する為の術式の付与行為のこと。統括騎士団に申請を出すと、適性診断と刻印が行える。適性有りの人が、術式を埋め込まれた石を飲み込むと、背中にその人独自の紋様が浮かび、魔翼を使えるようになる。一般的な魔法とは別の技術。

初期形態(ファースト・フォーム):刻印されたばかりの魔翼の形態。名前通りの羽や翼と言った飛行する為の形状が多く、特殊機能が付くことは少ない。

適合形態(セカンド・フォーム):本人の成長に合わせてアップデートされた魔翼。多くは翼の形を失う。専用機能が付くことが多く、同じ魔翼を持つことはほぼ無い。

・ルナの紋章:服とリボンに付けられている紋章。剣とセリ科の花を持つ龍と、背後に雪の結晶。

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