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12話.コウカイの先へ

※序章を目指して、書いています

 目を開ける。

 差し込む光は強く、全てを白に染め上げる。

 回復していく視界はその光は照明の物だと認識し、ピントを調整していく。


 左手を動かして、右肩に触れる。

 そこから下へ、腕、肘、手と存在することを確認し、動かそうとする。

 その感覚はあり、やや鈍くはあるがしっかりと意思に沿い動かせる。


「……生きてる」

「死んで動くなら、貴女はもう別の何かよ」


 声が聞こえた右側へ、首を傾ける。

 そこには透明な流動体を両手の平の内で動かし、それを呆然と見ている師匠が座っていた。

 安堵と少しの陰りを含んだ笑顔を向ける師匠は、言葉を続ける。


「腹部に銃創三つ。弾は貫通していて、傷の治りの早さから後二日三日で退院だそうよ」


 動く流動体はその動くを緩め、ある形へと変わっていく。

 それは手の平ほどの大きさの座る兎の形になり、私の枕元へと置かれる。


 退院――ここ、病院なんだ。

 病院だと分かった途端、嗅覚が機能し始める。

 消毒液の臭いが漂い、私は顔を顰める。


「重症の貴女と、クレイヴンさんはここアークの病院へ緊急搬送。比較的軽傷だったクラウンさんは、治療を受けて今はクレイヴンさんに付きっ切り。他に聞きたいことは?」

「師匠と、あの人は何ともないんですね」

「そうでもないわよ。だいぶギリギリで、もう一人Aランクが欲しいぐらいだったから」

「そう……ですか……」


 淡々と仕事をこなすあの人を思い浮かべ、湧いてくる嫌悪感を拭う為に目を閉じて、心を落ち着かせる。


 その後に聞かされた今回の戦闘は、統括騎士団のAランク魔法師二人がいなければ大敗に帰していたようなものだった。

 師匠によるセントラルタワー含むアーク全土の広範囲な防衛。

 それにより、戦闘のさなか会議は進み、同時にクロスユートピアの魔法師の優位性を、インゼルケッテ各都市の代表は思い知ることとなった。


 そして水無神晶によるハーティスト三機撃破と、強襲をかけた海賊の魔法師の撃退。それにより想定より遥かに被害を抑えることが出来たらしい。

 ハーティストを一機撃破したミアさんも評価され、統括騎士団から正式に魔法師としてのライセンスが発行されるらしい。

 私とレイさんは共同で魔法師一人を撃退。

 ということになっており、他の三人に比べると派手さは無いが相応の扱いとして、今こうして個室で治療を受けている。


「……どうしよう」


 また来るね。

 そう言い残して退室する師匠を見送り、私は自分のことを考える。


 斬り落とされたはずの右腕。

 海色の氷。

 治りの早い致命傷。

 フラッシュバックしたあの記憶。


 うまく考えが纏まらず、結局私は再び眠りにつくのだった。


*


 薄暗い独房の中、二枚のドッグタグを握りしめて思いを馳せる大男――コール・ハバードは、ベッドの上で寝そべりながら、深い、とても深いため息をつく。


「相棒……頑張れよ、あの子たちの為に」


 思い返すは病室で生命維持装置に繋がれたコールの長年の相棒、ロイ。

 全身凍傷で倒れていた彼は、襲撃したアークの病院の集中治療室へすぐ運ばれたらしい。

 コール自身も胴体を袈裟懸けで斬られ、大量の包帯にまかれたが、持ち前の生命力で数日で動けるようになった。


 大敗した鋼海旅団は、アークの裁判待ちで拘禁中。

 負傷者は治療を施され、重症者以外はこうして独房へと送られている。

 コールにとって、裁判の内容はどうでもいいものだった。

 どんな結果が出ても受け入れるつもりだし、死刑判決が出ても、相応のことはしてきたと思っている。


 ただ二つ、気がかりが残ってはいた。

 一つは、今回の戦闘で出会った剣士の少年。

 あの少年とは一度、相棒を交えて話をしたいものだ。そしてもう一つ――


 ロイと交流のあった孤児院だ。

 彼らはロイの寄付が唯一の収入と言っていいほど貧しく、悪事で稼いだ金と知りつつ受け取っていた彼らは、どうなるのだろう。

 アークやクロスユートピアは保護してくれるのだろうか、コールやロイがいなくなることで、子供たちの笑顔がなくなるのだろうか。


 それがどうしても、気になってしまう。


「これがコウカイの果て、か。――まっ、俺達らしいか」


 悔いてばかりの鋼海旅団(オレたち)が辿り着いたのは、後も先も同じ堂々巡り。


 悔いて始まり、悔いて終わる。

 ならばここが開始地点。

 だから……なぁ、相棒。

 次は何をしようか――


*


 ルナたちが入院しているアークの病院の屋上では、干されたシーツたちが物干し竿に並べられ、恒星の光をしっかりと受け止めている。

 その中に紛れ込むように屋上の陰になっている隅で、晶は壁によりかかりながら寝ていた。

 右手に力なく端末を抱え、静かな寝息を立てている。


「……今回もお疲れ様。やっと一仕事終えたみたいだね」


 物音をあまり立てず、屋上へ姿を現した環奈は、ひっそりと独り言のように声をかける。

 晶は起きる様子はなく、環奈は当然のように隣へ膝を抱えて座り込む。


「ルナが目を覚ましたよ。あの子、人間以外の血でも混ざってるのかな? 傷の治りがとても早いみたい」


 丸めた膝に顔を埋め、言葉を続ける。


「……馬鹿だよね、アークの代表に『ルナを守る』って啖呵を切っておいて、重傷を負わせちゃった。心配なら発信機でも何でも、着けておけばよかったのに」


 口にするのは、笑顔とは別の負の思い。

 後悔と、過去の自分への軽蔑。


「何がAランクよ。大局的に勝っても、小さな本当に守りたい物が、守れないんじゃ意味ないじゃない」

「……悪い。俺、また間違えたみたいだな」


 目が伏せられたまま、晶は落ち着いた声音で謝罪を口にする。


「結果論だし、気にしなくていいよ。お互い、いつも通り間違えて出た結果だもん。誰も笑えないより、ずっといい」

「なら、お前も笑えよ。一人でも笑ってる奴がいた方がいいだろう」

「……無理だよ」


 薄っすらと開けられた晶の瞳に映る、陰のある笑みを浮かべる環奈。

 笑ってるけど、笑えていない。ずっと仮面をつけたままのようで――。


「……後で退院祝いで、皆に料理でも振る舞うか」

「――うん」


 体を起こす晶は、顔を伏せる環奈の頭を優しく撫でる。

 お互いに風の音で消えるような囁きで語り合い、今後の予定を決めていく。

 悲しいことがあった後に、必死に楽しいことを考える子供のように――。

≪世界観まとめ≫

なし

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