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11話.鋼海旅団 -後編-

※序章を目指して書いていきます。

 右腕を無くしたハーティストは、スラスターを噴射しながら態勢を整えつつ、目の前の穴が開いた建物へ左手のアサルトライフルを撃ち込んでいく。

 ハーティストの搭乗者も過剰な事は分かっているが、相手が魔法師であることがその行動を助長させる。

 ハーティストの頭部カメラは、空で旋回する二つの鳥のようなものを捉える。


 それは、ミアが飛ばした観測機たちで、円を描くその二機は獲物を待つ猛禽類を思い出させる。


『ロイの奴、早くしてくれ。こっちは予想以上の大物で、生きて帰れるか分からなくなってきた』


 大穴を開け、崩れていく建物から異音が鳴っていく。

 立ち上る煙から全体像は見えないが危険を感じたハーティストは、躊躇なくその異音を消す為に、背部の大口径ライフルを撃ち込む。

 しかしその砲弾は煙を突き抜け、何事もなかったかのようにさらに後ろの建物へ衝突する。


『最悪だ。Aランクは二人だけじゃないのかよ』


 ぼやくハーティストの搭乗者は、距離を取る為にスラスターを噴射して後ろへ飛ぶ。

 銃口を全て目標がいるであろう場所へ向け、引き金に指をかける。


 それを追いかける形で煙の中から飛び出して来たのは、直線に飛ばされる大量の水。

 レーザーのように放射された水は、撃ち込めれる弾丸を歯牙にかけず、ハーティストを飲み込んでいく。

 大蛇の如くハーティストを飲み込んだ水は、そのまま空を駆け抜け、ハーティストを都市の外へ吹き飛ばしていく。

 空を駆けた水は、雨と思えるような水量で通り過ぎた建築物たちへと降り注ぐ。


「一機撃破……。残り一機、っは無理!」


 残ったミアは体が僅かに透き通っており、頬には鱗のようなものと周囲には魔翼と同じ質感の羽が舞っている。

 ミアの体はまるで水で出来ているかのように揺れ、魔翼は装甲を開き大量の水蒸気を放出している。

 周囲の建物は大雨でも降ったかのように濡れ、降りるミアの足元は足首が浸かるほど水浸しになっていた。


因子開放(リリース)に慣れない液状化。もーう無理。後は統括騎士団の二人がやってくれるでしょ」


 投げやりに叫ぶミアは、魔翼を解除して元の姿へと戻る。

 ふらふらとその場に倒れこもうとしたミアは、ふと重要なことを思い出す。


「――流石に、ルナたちをほっとくのは駄目だよね」


 頭を振り両手で頬を叩いて気合を入れるミアは、疲労感によって重くなった体を動かし、思い浮かべた二人の下へ向かっていく。


*


 七つの白い閃光が飛び交う中、1人の男は喜びに打ち震えていた。

 彼の攻撃は一切閃光を捉えられず、銃撃は全て避けられるか跳ね返され、銃剣の刺突も空を切る。

 だが彼も閃光を物ともせず、立ち向かっていく。


「良いぞAランク魔法師(アドバンスド)! お前の剣技はあの人を思い出す。お前、もしかしてドライラントの――瑞穂の出身か?」


 彼の問いに返答はなく、代わりに来るのは彼の意識の外から来る斬撃のみ。


「俺は生まれて此の方、このインゼルケッテでな。今でも鮮明に思い出す。あの白い閃光を!」


 閃光が止み、大量の折れた片刃の刀身が舞い散る中、黒髪の少年――晶は減速と共に足を地につける。


「知るか。他を当たれ」

「なら君の剣技に感銘を受けた者として、名を名乗らせてくれ。統括騎士団の刀使い」


 ガタイのいい大男には似合わぬ軽やかな動きで、彼は銃剣を左手に持ち後ろへ回し、右手を水平に体の前に持っていき礼をする。


「インゼルケッテの海を渡る海賊、鋼海旅団(こうかいりょだん)。その一番槍を務めさせて貰っているコール・ハバードだ。お見知り置きを、かの"光波剣(こうはけん)"に似た剣を使う少年」

「喋ってばかりで、戦う気はあるのか?」

「勿論。雷系魔法師によく見られる傾向は、燃費の悪さ。瞬発力はあるがその分長期戦には不利。持久戦を挑ませてもらうよ、少年」


 不敵に笑うコールは銃剣を右手に持ち替え、銃口を晶へと向ける。

 照星に合わせたその先に見える顔は、自分の抱く理想へ見れば見るほど被さっていく。


「少年も、もっと真面目にやったらどうだ。このまま続けても埒が明かないと思うが」

「……それなら、もう済んでるよ」


 両手に持つ柄のみの武器を空間へ消し、六本の黒剣を従わせ再び浮遊する晶は、コールから目線を外し別の方向へと飛んでいく。


「待て――」


 追いかけようとしたコールは、僅かな痺れと共に全身に強い抵抗感を覚える。

 視線を体へ向けると、そこには幾つもの鋼線が張り巡らされ、コールの全身を複雑に縛り上げていた。


「ワイヤー……、いつの間に」


 痺れを感じることから、雷系魔法が通電していることも分かり、晶の魔法で出来たものだということも推測が経つ。


 コールは思考を巡らせ、ある結論へと辿り着く。

 先程行っていた、晶の無意味と思える攻撃の数々。

 全て魔法により変化したコールの強靭な肉体により、虚しく散っていた刀身たち。

 それら全ては鋼線の設置とその強度を増す為の仮想粒子の散布。


 変成系魔法を得意とする魔法師が、強力な創造系魔法を使う為にやる常套手段だ。


「多くを語らず、迅速な仕事だな。相棒と良い酒が飲めそうな奴じゃないか」


 周りを自分の使いやすい物で埋め尽くし、外部への影響を与える。

 自分一人では周りを変えられないなら、変えられるように環境を整えていけばいい。

 そういった理屈で構築されていく魔法は、強力なものが多く、一度嵌ってしまえば抜け出すことは困難。

 コールは別の場所で戦っている相棒へと思いを馳せながら、魔法の強力さを実感する。


「変成系魔法師同士の戦いは、向こうが一枚上手か。真面目にやるべきだったのは、俺の方だったか」


 痺れる体で仮想粒子の結合を再度行う。

 コールの体は膨れ上がり、彼に与えられた物が露になっていく。

 側頭部にはくすんだ黄色の角を生やし、膨れ上がった筋肉からは膨大な熱を放出してく。


因子開放(リリース)。今度は遊び話だ、少年」


 高熱にさらされた鋼線は溶け、コールの拘束は解けていく。

 自由となったコールは満面の笑みと共に一歩を踏み出す。




 澄み渡った青の中、塔の頂に浮かぶ環奈はルナの捜索中に全く別の物を見つけてしまいため息をつく。


 アークから離れた沖で、鯨の如く水飛沫を上げるそれは、上体を晒しながら口のようなものを開ける。

 海中を自在に泳ぐ鉄と魔法の産物、潜水艦。

 側面に銃が沈む海が描かれたエンブレムを携え、前方に搭載されたこの船独自の構造を晒していく。

 それは収束していく光によって周囲の海水を蒸発させながら、セントラルタワーへと向けられていた。


「大型のレーザー砲……、あれって潜水艦じゃなくて、戦艦とかに付ける物でしょ。馬鹿なの? あの船の艦長」


 呆れつつも自分の魔翼を生成していく。

 生み出された八角形の硝子板は、環奈の左手側に集まっていき、弓のような形を模っていく。


 余る魔翼も周囲を蜂の巣のように集い、周囲からの攻撃を警戒する。


「本気で行くよ」


 弓を成す硝子板たちに光が伝わっていく。

 八色の光はそれぞれ絡み合い、常に生み出される色を変化させていく。


結合(ユニオン)


 静かに告げられた言葉は、浮かべる笑顔とは別に空虚さを感じさせる。

 ふと口にした言葉で、環奈は青髪の同い年の少女を思い浮かべる。

 今抱いている不安とは違う、少し恥ずかしくも楽しい記憶。


「――赤き炎は薄氷を溶かし、青き水を成す。緑の風はそれを巻き上げ、黄金の(いかずち)と共に大いなる土へ降り注ぐ。それを白き光と黒き闇は見届ける」


 ルナのノリを真似して、大した意味もないが言葉を紡いでいく。

 作り出された光の弦を右手で引き、射撃体勢へと移行する。

 周囲の仮想粒子に呼びかけ、結合を加速させる。

 光が拡散と収束を繰り返し、幾重もの魔法陣が環奈の周りへと掲載されていく。


「これが、私が描く硝子の絵画」


 魔法を構築していく環奈を待たず、浮上した潜水艦はレーザー砲から光を解き放つ。

 塔を飲み込む光の中、環奈は祈る様に目を閉じる。


「油断しすぎだ、環奈」


 周りを旋回する緑の魔翼から颯爽と聞こえたその声に、環奈はゆっくりと目を開き、その光景に安堵の笑みを浮かべる。


 両手に自分の魔翼である黒剣を持ち、黒い雷を纏う彼は環奈を庇う様に突然飛来し、その斬撃によりレーザーを歪めていく。

 放たれた黒雷の一撃は、あらゆる法則を無視するかのように潜水艦へと向かい、触れた光を全て上へと打ち上げていく。

 細かく切り分けられたレーザーは、空へ霧散するか、海上にぶつかり蒸気を発生させる。


 砲身へ到達した黒雷は、その中でも光を拡散させているのか、砲身自体を熱膨張させている。


「晶なら必ず来てくれるって信じてたから、油断じゃないよ」

「二回目は無理だから、その時は自分で何とかしろよ」

「はーい」


 魔翼があるのに落下していく晶を見届けながら、返事をする。

 途中、魔翼を足場にして地上へ降りていくのを確認して、潜水艦へと向き直る。

 状況判断が遅れているのか、潜水や攻撃の意思が見えない潜水艦へ環奈は組み上げていた魔法を撃ち込む。


「万物流転――玻璃変転」


 弦から右手を離し、環奈の魔法が解き放たれる。透き通る光は一条の星となり、突き進む。

 潜水艦は避ける間もなく光に当たり、変化していく。

 レーザ-砲を中心に角度によって色を変える硝子へと変わり、潜水艦の3割以上は硝子細工の模型と成り果て、完全に沈黙する。


「……あー、思ったりも恥ずかしいかも、これ」


 機能停止に追いやられた潜水艦に対し、環奈は自分の台詞に羞恥心を覚え、少し赤めた顔を右手で仰いで冷まそうとしていた。

 左手の魔翼たちも役目を終えて最低限の数を残して、光へと変わっていく。


「さてと――」


 頭を振り、ある地点へと視点を移す。

 そこには混雑した建築物たちからしたら、異様な空間が広がっている場所。

 2桁にも及ぶ倒壊が行われているそこは盛大に煙を上げ、それは場所を知らせる狼煙にも見えた。


「ルナ。無事でいて」


 環奈はそこに近い硝子の鳥に指示を送り、向かわせるのだった。


*


 レーザーを斬り、地上へ降りた晶は目を細める。

 そこには見慣れない異形の者が、拍手をしながらこちらに向かっていたからだ。

 側頭部にくすんだ黄色の角を持ち、膨れ上がった肉体からは湯気が立ち、浮き出た血管は赤く発光している。


「まるで姫がいる塔を守る騎士(ナイト)のようだったよ、少年。感動でこの戦いから身を引こうと思うぐらいだ。――だが、同時にチャンスだとも思ったね」


 拳を強く握るコールは、徐々に歩みを早め速度を上げていく。


「今の墜落。余程消耗したと見た。勝ちを取りに行かせてもらうぞ!」


 一歩一歩が舗装された道を溶かし蒸気を上げる。

 通り過ぎた際に起きた熱風で建物の硝子は揺れ、表面が焦がされていく。

 熱気を纏う狂獣となったコールは、晶へ目掛けその突進をしていく。


「……うるさい、少しは休ませろ」


 魔翼を全て消し、右手に黒い柄を出現させる。

 刀身は作らず、ゆったりとした動きでコールの突進を迎え撃つ。


「闘牛を扱うには、それは能力不足だぞ!」


 晶を轢く直前、コールが見たのは黒い光と青の瞳(・・・)だった。

 目の前にいた晶が消え、自分の肉体のみが先に進み、感覚全てが置いてかれる。

 灰色の視界が広がるのを見たかと思うと、今までが嘘だったかのように元の視界と感覚に戻り、暗転する。


「――次、行くか」


 転げていくコールを無視し、晶は別の対象を探しに向かう。

 伏したコールは蒸気と共に元の体へと戻っていく。

 その体には袈裟懸けに斬られた痕があり、そこから流れる血は、自らの熱量で赤い蒸気へと変えていた。

Aランク二人が余裕の戦いを見せました。晶が不意打ちか初見殺ししかしていないような……。


≪世界観まとめ≫

因子開放(リリース):因子持ち(エクス・ファクター)が、与えられた因子を最大限利用できる状態になること。因子を開放すると、亜人種のような特徴が体に現れる。

鋼海旅団(こうかいりょだん):後悔と航海をかけた名前を持つ海賊で、訳ありの船員を多く抱える。ハーティストを所有する数少ないインゼルケッテの海賊。旗艦の潜水艦には、垂直発射管を利用したハーティストを射出する機構を搭載。海上でしか使えない主砲の大型レーザーは艦長の趣味。

光波剣(こうはけん):本編より前、過去にいた人物の異名。コールの憧れと同時に、魔法を覚える切っ掛けである魔法師。星一個分の命を滅ぼしかけた。

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