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Prologue -蒼氷の想い-

 氷塊が浮かび、荒波が起こる暗い海の上。

 氷雪が吹き荒れる汚れた空に、飛翔する2つの軌跡。


 無邪気に笑っては目の前の黒白の雷光を凍てつかせようと、両手の銃剣を振るい、背中の氷の翅脈と共に冷気をまき散らす青の少女。


 赤の瞳に殺意を宿し、飛び交う8つの黒の雷光を従わせ、両手の剣で少女の冷気を振り払う、白雷を身に纏う黒の少年。

 

 2人の(おもい)が空を埋め尽くしていく。

 掻き乱れる大気をキャンバスとし、融け合わない冷めた青と入れ替わる黒白が着色してく。

 無数の氷塊が、折れた刀身が、飛び交う少年と踊る少女の剣戟と銃撃が。

 飛翔の軌道を中心にして暗い世界を飾っていく。


「それじゃあ届かないよ。精一杯手を伸ばしても、凍てついた世界では永遠に」

「知るかよ。この程度で止まるなら、とっくに止まってる。止まれたなら……」


 少女の冷気を浴び続け、感覚が鈍くなっていく体を黒の少年は、無理矢理に白雷を纏うことで動かしていく。

 全身の出血はもはや花のように滲み、凍っている。


 対して青の少女は、少年につけられた傷を蒼の結晶で包んでいく。

 氷ではないそれは色褪せ、砕け散ると共に体を元に戻し、自身の冷気を増幅していく。

 満身創痍の少年に狂喜に満ち、傷つくどころか更なる力を振りまく少女。


 その差は歴然で、少年の敗北は目に見えている。


「師匠の傍にいた? 幼馴染を守れた? ……今更でしょ、そんなこと。もう、あなたはソコ(・・)を通り過ぎたんだよ」

「……っ! まだ、まだ振り返れば――」

「もう遅いよ。自分の足が速いの自覚してるんでしょう? もうそこから手を伸ばしても、2人には届かない」


 視界に捉えきれない程の速度で冷気を潜り抜け、少年の纏う雷が、黒へと変色する。

 空間が歪み、直線に動く白雷が曲線を描く黒雷に変わったことにより、剣戟も変異していく。


 ――最速の剣技が。

 ――騙りの剣舞に。


 急激な変化に対応を追われる青の少女は体を切り刻まれ、赤に染まっていくが、お構い無しに血を凍結させ、即席の刺突武器とする。

 噴出する血は棘へと変わり、勢いよく黒の少年へと向かっていくが、歪んだ黒い剣戟により切り刻まれる。

 

「何もかも手遅れなんだよ! もう周り(そこ)には何もない!」

「いるだろ、少なくと目の前に!」

「私? 2人を見捨てて私に手を伸ばすの? ふっ、ふふっ……嬉しい、嬉しいよ」


 回転を加えた飛翔により、青の少女は、無数の剣戟を捌き空へと昇っていく。

 距離を取った青の少女は氷の翅脈の翼を広げ、静止する。

 ゆったりと剣を構える黒の少年を見下ろしつつ、笑顔を歪ませる。


 その瞳から零れる雫は、氷雪へと変わっていく。

 

「でも、その手は取らない。取れないよ。その手を取ったら師匠が――皆がいなくなっちゃう!」


 少女の腕を伝い、蒼の結晶が両手の銃剣を包んでいく。

 色褪せ砕け散った結晶と共に、膨大な冷気と青の閃光が銃口に集まっていく。


 両方の銃口を黒の少年に向け、照準を定める。

 空間に浮かぶ未知の文字列が楽譜の如く冷めた世界に調律を齎し、収束される光が旋律を奏でる。

 指揮者は少女で、思い思いに奏でる旋律を選択していく。

 

 ――それは、全てを止める冷たいオーケストラ(魔法)

 

「だったら取らなくてもいい! そこで待ってろ! けどな、皆もずっと待ってるのを分かれ。蹲ってもいいから、少しは前を見ろ!」


 黒の少年は構える。

 8つの黒雷を周囲にゆったりと円を描くようにそれぞれ循環させつつ、両手に持つ剣の刀身を光の粒子に変え、柄のみを残す。

 その柄同士を左腰にあてがい、相対する旋律(まほう)にタイミングを合わせていく。左手の柄は背中側に雷光を伸ばし、少年の構えの全貌が見えてくる。

 

 居合。

 鞘から刀身から抜く速度で斬る、剣術の一つ。

 

「それすら無理だっていうのなら、俺がその(かせ)を切り刻んでやる」

「止まれない人がよく言うよ。だったら私は、意地でもあなたを凍らせて(とめて)見せる」


 少年の両手に白の雷が集まっていく。

 8つの循環する黒雷と、両手に集まる白雷から詩が静かに流れ出る。

 対となる黒白が1つの歌となり、少年の想いを謳う呪いの旋律。

 

 ――それは、矛盾を抱えつつ進み続ける二重奏(まほう)

 

「「――結合(ユニオン)」」


 2人の言葉で世界が書き換わる。

 停止の蒼と加速の黒白が互いの讃美歌を奏で、見つめ合う。


 わたしの想いが伝わるようにと……

 

「世界よ、凍てつけ。私はあの時のままでいたいの!」

「停まらない。止まってたまるか。そうしたら、お前たち(たいせつなもの)に届かないだろう!」


 青の少女は引き金を引き、黒の少年は剣を抜く。

 2つの願いがぶつかり合う中、少女は届かぬ問いを少年に向けていく。

 

 お願い、師匠の為に進むことを止めて欲しい。

 師匠はもうあなたに追いつけないの。

 この気持ちは嘘じゃない。

 でも……その人を傷つける冷たい瞳(・・・・)は、それだけは私の物だと、冷めたはずの熱い心が告げている。

 師匠には向けないその瞳を、そのままにしたい。

 凍らせて、私だけに向けてほしい。


 ねぇ……この気持ちは何なの?

 教えて――

開幕ラストバトル始めてますが、次からちゃんとここに繋がる物語を書いていきます。


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