兄が婚約破棄された原因に、僕も関わっているようです。
誤字脱字、もろもろ多いと思いますがよろしくお願いします。
兄さんが婚約破棄されたようだ。
本人から聞いたわけではないが、再従姉のティエラが言っていたから確かな情報だ。
あんなにも初恋を拗らせた人は見たことない。本当に気持ち悪いほど本人目の前だと顔の絞まりがなくなっていた。本人は普段通りの表情でいたようだけれど周囲からは破顔しているのがまるわかりで生暖かい目で見られていたのにも、気づかないほど必死だったのにね。いつも、「紳士なら淑女に優しくするべき」という母様の言いつけをきちんと守っていた兄さんだからこそ、今回の結果に繋がってしまったのかもしれない。きちんと行動に移せなかった兄さんが悪い。残念すぎて掛ける言葉が見つからない。
それでも、あの騒動から1ヶ月過ぎるとだんだんとうざくなってくる。
背中でキノコでも栽培しているんじゃないかってくらいに暗い。屋敷の中まで暗くなっている。
これもすべて、王太子殿下が愛猫のように可愛がっている女が原因だ。はやく、廃嫡されてしまえ。
兄さんがあの王太子殿下の側近という名のお守りをさせられたために起きた事故だ。
まあ、確かに学園では王太子殿下の側近だから近くにいるけれど。別に殿下より年上の兄さんは好き好んで学園に残ったわけじゃないことくらい察しろよ。何のために、2年残っていると思っているんだ?(ちゃんと卒業はしている)
あの女と愛を育ませるためとか考えていたら本当に残念な頭しているとしか思えない。お守りだからなんだよ!陛下から直々の命令なんだから仕方ないだろ。僕は殿下の側近になりたくなかったから、兄さんにすべて押し付けたけれど。こんなことになるんだったら、僕がやっていればよかったのかな?それでも、あの殿下のお目付け役は嫌だな。
それにしても、宮中で仕事をしていた兄さん以外にもあの日は側近がいたはずなのに。絶対にあの女みて逃げただろ。護衛騎士もあの女のこと苦手そうだからな。基本的に護衛騎士は勤務中に飲食しないのにグイグイ押しているのを何度も見たことある。普通考えればわかるよね?遊びで護衛しているわけじゃないのに。何が「お手製の〇〇作ってきたのでよかったら食べてください」だよ。毒味係、通せよ。
遠目から見ていたけれど兄さんとあと一人の側近である伯爵家のジョナスは顔が、だいぶ痙っていた。哀れすぎる。
それに歩いているところを後ろからタックルの如く抱き着いてくるとかどこのじゃじゃ馬だよ。あの時も顔面蒼白だったな。
そんな兄さんの名誉のために声を高らかにして言いたい。
──兄さんはヴィアンカ殿下以外の女性は目に入りません
だから、はやく復縁してくれないかな。
ついでに言えば、まだ正式な婚約解消にはなってないんだよね。
そのことを兄さんに伝えるなと父さんから言われているから言えないけど、流石に学園でも屋敷でも顔を合わせている此方としてはどうにかして欲しい。
そもそも、ティエラもティエラだよ。ヴィアンカ殿下と一緒にいて兄さんのことを擁護するどころか攻撃するとか。
何が、「王太子殿下の鬱憤をライオネルで晴らしてみました」だよ。ただのいい迷惑だ。
そして、何故いま今回の騒動を引っ掻き回した張本人が優雅に応接室で紅茶を飲んでいるのだ。解せぬ。
話し相手に僕のことまで指名して。本当にいい神経しているよ。
「あら、もうよろしかったのですか?あなたの大好きなお兄様がヴィアンカ様に婚約解消された話は?」
「もういいよ。その話、週1で話に来るくらい暇だってことだけはわかったから」
「そうなのですよ。殿下が再教育中で私とっても暇なのです」
いちいち所作が優雅でムカつくよな。女性は所作が大事だと言われている中で、王太子殿下の婚約者候補筆頭と言わしめるくらいだから納得。
そもそも、ティエラがエリック殿下との婚約自体を辞退していればこんな騒動にならなかったんだよな。やっぱり、ティエラのせいじゃん。
でも、短絡的な思考はよくないな。
「顔に出ていますわよ。私が今回の原因と」
鋭い指摘に困惑する。やっぱり才女の名は伊達じゃないな。
外見だけはヴィーナスだと褒めちぎられているが、それに見合った知識も備えている。だから、外見だけに釣られて彼女に近づくと痛い目に合う。僕からすれば悪魔にしか見えないけど。
今回、エリック殿下はティエラが容姿だけを鼻にかけている女性だと思ったらしい。本当にバカだ。再度言うが、廃嫡されろ。
「私の発言に原因があることは認めますが、もっとライオネル様は日頃よりヴィアンカ様の信頼を得るように行動なさっていればよかったのではないでしょうか?見ていて気持ち悪いくらい行動に移せない可哀想な人でしたけれど。それに、直接ではなくてもあなたも間接的に今回の件は関わっているのですからね、ハロルド様」
「まあ、兄さんが行動に移せなかったのは兄さん自身の問題だからしょうがないけれど、僕の罪悪感を煽っていくその『様』付け止めてくれないかな。いつも通り呼び捨てにされるほうが」
「でしたら、あのエリック殿下の妾候補さんと友情でも育まれたらよろしいのではないでしょうか?ライオネル様も友情を育まれたようですので」
お茶請けにされていたクッキーを一掴みして口の中に放り込む。口の中にほどよいバターの甘みが広がり、疲れていた脳に糖分が補給されるのが感じられる。
行儀が悪いと視線で訴えてくるティエラを無視して紅茶で流し込む。
パサつきがさっぱりしたと思えば、今度は紅茶の味が広がる。これは、カモミールだな。
ああ、兄さん。これはいまあなたに必要なお茶ですよ。
「あの平民、本当にどうしようもないよね。高位貴族にばっかり媚売ってて。実家が商家だから次は貴族の地位が欲しいんじゃない?だからって、うちや王家に目をつけるって本当に頭のなかお花畑で出来るよ。その前に、ティアは僕に言うことあるよね。兄さんのことヴィアンカ殿下に話したのってティアでしょ。君に愚痴みたいに、あの平民のこと言わなければよかったな。何が目的なの?」
「…まあ、そうですけれど。少しだけ貴方から教えていただいた情報を誇張してヴィアンカ様に教えて差し上げただけですわよ。それがいけなくて?私からライオネル様の話が出る度に、目を輝かせながら聞き入る姿は可愛らしかったわ。でも、妾候補さんの話が出ると叱られた犬みたいにしゅんとしていてもっと可愛らしかった」
うっとりしたような表情を浮かべているから、ヴィアンカ殿下のことを思い出しているのだろう。
その前に、殿下を煽ったのはお前か!!笑えない冗談だろ。やっぱり、悪魔だ。悪魔だったんだな。
殿下もよく悪魔のように囁く女をよく義姉と慕っていられる。
今回の婚約破棄がこの女によって、なされたと知ったら兄さんはどうなるんだろう。
そんなことよりも本題から逸らされないようにしなくては。
「いけないでしょ。ティアは鬱憤を兄さんで晴らしたとか言ってるけど目的は違うでしょ?ヴィアンカ殿下を独占したかったとかかな」
「……独占したくて何がいけないのかしら?あのように、可愛らしいヴィアンカ様をお守りするには私くらいでなければいけないのです。あんな妾候補さんくらい軽くあしらっていただかなくては、私の大切な殿下が傷ついてしまいますわ」
すごい、横暴な発言が聞こえる。しかも、サラッと「私の大切な殿下」とか言い出してるよ。
可愛いもの好きなのは兄さんもティアも一緒だからな。ヴィアンカ殿下が容姿以外にも女性になりかけていながら、たまに見える精一杯の背伸びや愛くるしさに悶えている人と一緒に暮らしているからわかる。
本当の魔性はヴィアンカ殿下なのだと。
「でも、今回のことは反省しているのですよ。婚約解消を宣言されてからヴィアンカ様は公務以外自室に籠っていらっしゃるようでお目通りすら叶わなくなってしまったのよ」
悩ましく溜め息を吐く姿は絵になる。きっと、事情を知らない人達が見れば見惚れてしまうほどの色香もある。
それでも、僕から言えるのは「ざまぁみろ」。
自身の策に溺れるとは。
兄さんとの復縁に役だってもらわなくてはいけない。
殿下と兄さんの幸せのためにも。
「何故、エリック殿下との婚約辞退しないの?まだ、候補留なのに」
「ヴィアンカ様に"義姉"と呼ばれるためですわ。僅かな可能性を潰すなんて出来ませんもの」
満面の笑みで答えるティエラに「どうせなら、僕にすればいいのに」なんて言えない。
ベルを鳴らし紅茶のお代わりを貰おう。
そして、兄さんたちの復縁計画を立てなくては。
その前に兄さんもここに呼ばなくてはいけないな。
いまから、やることばかりだ。
待っていてくださいよ、ヴィアンカ王女殿下。
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