序章
高校の授業より、図書室で本を読んでいることの方が有意義だった。
今日も俺は本を読みふけっていた。サボれる授業がある時は、いつも図書室に居る。
ファンタジーな世界が好きな俺は、星新一、カルロ・ゼンなどを初め、無我夢中で読んでいた。読書は心の栄養だ・・物語の世界観は、いつも心を埋めてくれる。
そして色んなファンタジー小説を読んだ結果、ライトノベルの分野の本に結局の所落ち着いたのであった。サボれる場所として定着した図書室には、今日も俺の持ち込みでライトノベルが数冊机の上に置いてある。
今日は人気RPGゲームをノベル化したものを読み進めていて、頭の中は俺は勇者で仲間達と魔法書を探す旅に出ていた。
図書室には、たまにだが、もう一人図書委員の女子が入り口付近の貸し出しスペースに座っていることがある。クラスは違うが、同じ学年の2年生で上位の成績をよく俺と争っている。
「小松サナ」
彼女とは、1年生1学期の───
図書室に居座り始めた5月の半ばぐらいに少し会話をしたぐらいだったか・・
「あの、もう授業始まってるよ。」
自信の無い表情で、校則をしっかり守ったような真面目そうな女子が、落ち着いた声で俺に言った。
本に夢中になっていた俺は、
「わかってる。俺の事はほっといていいから出ていっていいよ。そうだ、先生に覗かれないようにドアに鍵を閉めていってくれると助かるかな。」
ぶっきらぼうに言い放して、また本の文字へと目を移す。その女子は他に言葉を発することなく鍵を閉めて図書室を出ていった。
会話をしたのはそのくらいだ。
今日の図書室は俺ただ一人。2学期のテスト週間前で授業は『自習』が多いこの時期は、授業から抜け出すのが容易い。この時期はいつもより沢山読書に時間を費やすことが出来る。
(あと、1時間40分ぐらいは居れるな・・。)
家から持ってきたライトノベルが無くなり、図書室にある本を読もうと思った俺は棚から本を探す。数冊ピックアップして、
(こんなもんかな。)と思ったところで、最後に棚から取った“ファンタジーSFの本”に何か違和感を感じた。
──何か、小冊子が挟まってる。
ルーズリーフを何枚か半分折りにして端を止めた、手作りのものだった。文字が書かれているページがある。
『転生魔法術とは、今流行りのトラック転生……何もトラックに跳ねられて死亡することが条件ではない。魂の分岐点はこの場所で行う。転生を意思を示すのであれば、呪文を叫べ。』
──創作小説???
『RPGの“ミミック”という生き物を知っているか?【真似る】【似せる】【擬態】という意味を持つ生物だ。この呪文は転生先の異世界の住民に己の魂が擬態する。こう叫べ───
ミミック、スタート───』
文章はそこで終わっていた。
は??なんだこれ・・──そう思った瞬間、俺の右腕が上がっていた。
なにかが、擬態したのか――
持っていた小冊子がひらりと床に落ちる。
俺は、大声で叫んでいた。
「ミミック!!スタート!!!」
遠くでシャッター音みたいな音が聞こえた―――
意志がどんどん遠くなっていく。身体に力が無くなっていく。心霊現象のような、恐怖体験のような、得体の知らない何かが、俺をどうにかしてしまったのか・・・・
床に膝から崩れ落ちる。身体に衝撃が走る。
───そこで意識を失った。
俺の名前は「木村銀」
転生出来るなら、それもアリかな・・・───