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1-2-5.異世界の次は幼女と…?

 平穏な日常が帰ってくる気がしない。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 正直、このまま涼の説明を聞かないで帰りたかったけど…涼が「しっかりと説明しますぜ。」的な雰囲気を出していて、それを断るなんて言うのは僕には出来なかった。という事情もありながら、僕は渋々言われた通りに結晶がペンダントになったネックレスを取り出した。


「よし。この結晶だが、正式名称は夢幻結晶っていう。一応覚えとけ。でだ、首に掛けてみろ。」

「…はぁ。」


 何が夢と幻の結晶なんだろう。もっと残酷な名前の方が合っている気がする。

 首にかけたからといって何かが変わるのか?なんて疑問を抱きつつも首に掛けると…。


「おぉ。」


 年甲斐も無く感嘆の声を上げてしまった。

 いや、だってさ…今流行りのVRみたいに視界の端に文字が現れたんだもん。これでもラノベを読んだりして、非現実的な話が好きだからね。こういうのには正直弱い。

 ちょっとテンションが上がったまま、涼の指示通りに操作して共鳴機能をOFFにした。すると、夢幻結晶の中心部分に金の輪っかが出現した。どうやらこれが共鳴をOFFにしている証拠らしい。

 その後も、異世界…狭球転移の方法やレベルとスキル確認の方法も教わる。1レベル上がるごとにスキルポイントを1取得出来るらしく、スキル取得が自分自身の強化に繋がるみたい。

 因みに、僕のレベルは1だった。スライムを倒すくらいじゃレベルは上がらないみたい。従って持っているスキルポイントは1pt。…なんか侘しい。


「ここまでは良いな。後は…今は見せらんねぇんだけど、モンスターが出現した時にモンスター名と出現場所も出るからよ。それを確認した後は本人が狭球転移をするかしないかってとこだな。」


 なるほど…どんどんゲームみたいになってきてるけど、まぁそういうものなのだと割り切るしか無いよね。

 それよりも気になることがあったので、僕は涼に質問をする。


「あのさ、1つ聞いても良い?」

「ん?いいぜ。」

「もし、狭球で死んだら…どうなるの?」

「あ〜それな。狭球で死んだら現実世界では不審死として発見される。」

「…そっか。」


 想像通りの答えだった。

 つまりだよ?僕を助けてくれた魔法使いのお兄さん

ニュースで報道されていたのは…狭球で死んだからって事だ。僕も死んだらあんな風になるって訳だ。

 ちょっとこの事実に耐えられる自信が無い。

 僕の顔を見て、何を考えているのか察したんだと思う。気まずそうな顔をしながら涼は天井を見上げている。

 よし…。切り替えよう。死にたく無いのなら、回避するしかない。

 僕がここに来た目的は、共鳴で狭球に強制転移される事を防ぐ為。だから、共鳴機能をOFFにした今…目的は達したって事になる。後は…この組織?に入るのを断るだけだ。

 …と、覚悟を決めたんだけど、涼が口にした言葉は僕の予想を裏切るものだった。


「まぁ、あれだ。後はお前が自由に決めたらいい。俺たち…あぁ、まだ名前を言ってなかったか。俺たちは政府公認の魔獣討伐機関って名前で活動してる。でだ…モンスターと戦うなんて、そう簡単に覚悟出来るもんじゃぁない。むしろ、覚悟のないやつがいる必要もない。だから…後はお前が決めろ。去るも良し。加わるも良しだ。」

「え…本当にそれで良いんですか?」


 正直なところ「一緒に戦おうぜ!」みたいに誘われるもんだと思ってたから、意外感を拭えない。

 僕の驚きの表情をみた涼は、ノルン、凛花の顔をチラ見しながら、苦笑いを浮かべる。

 …ん?苦笑いを浮かべる理由あるかな?

 と、不思議に思ったけど、涼がすぐに続けたので深くは考えなかった。


「勿論だ。これは誰にでも出来る内容じゃない。そして、誰かがやらなきゃいけない内容でもある。だからこそ、本気で戦うやつだけがいれば良い。過去にモンスターと戦うってゆー現実に向き合えなくて普通の生活を選んだやつも沢山いる。ゆっくり考えな。」

「…分かりました。そしたら、今日は遅いので帰らせてもらいます。」


 自然と敬語になってしまったけど、僕の心情を察してくれたのか涼から突っ込まれることは無かった。


「あれ?龍紅帰るの〜?」


 ノルンが無邪気な目で見上げてくる。純粋な穢れを知らない瞳に見られると…なんか今は救われる気がする。


「うん。帰るよ。」

「そっか〜!分かったんだよ!」


 ノルンは僕の手を取って入り口に向けて歩き出した。引っ張らられる形で歩く僕は、重い足を懸命に動かす。


「あ、そうだ。」


 後ろから呼び止められた。


「何ですか?」

「分かってると思うけど、異世界とか機関の事は他の人には話すなよ?」

「勿論です。それでは、失礼します。」


 僕は入り口で丁寧にお辞儀をするとドアを閉めた。

 口にするなって言ってたけど、言うわけ無いよね。こういうのって迂闊に口にすると抹殺される系だと思うし。


「龍紅〜。また来るんだよね?」

「そうだね。少し考えて、モンスターと戦う事にするなら…ね。」


 嘘だ。僕は今…嘘をついた。

 正直に言ってモンスターと戦うつもりなんて更々無い。従って…この場所を再び訪れる事も無いだろう。

 だってさ、今まで僕は生きてきて…死ぬかもしれないって考えながら生活をした事はない。

 それをいきなり出来るかって言われて、出来るって答えるやつは神経がどうかしてると思う。

 それこそ現実と妄想の区別が付かなくなったやつとかなら分かるけど。

 これで異世界に行くことも無くなったと思うし、明日からは今まで通りの平穏な日々を過ごすんだ。


 エレベーターに乗りながら夢幻結晶を首から外した僕は、無造作にポケットに突っ込んだ。

 捨てちゃえば良いかなって考えてたんだけど、さっきの説明で涼が「捨てても何故か自然と手元に戻ってくる」って言ってたから…テレビ台の引き出しにでも放り投げておこう。


「龍紅〜今日の夜ご飯はどうするの?」

「ん…もう遅いからねぇ。外で定食系でも食べて帰るかな。」


 …ん?………。今更になって気づく。なんかさ、普通の流れみたいになってるけど、明らかに今の状況って不自然だよね。

 僕は恐る恐るその不自然さを確かめるべく、手を繋ぐノルンに視線を移す。


「あのさ…ノルンってどこにいくつもり?」


 ウィィィィン…とエレベーターのドアが開く。

 まるで親子みたいに手を繋ぐ僕たち。他人からみたらまぁ親子でしょう。


「もちろん龍紅の家なんだよ?ノルンはもう野宿はしたくないんだよ?」


 …思わず空いてる片手を額に当ててしまう。

 異世界転移を回避したと思ったら…幼女と同棲イベントが発生でした。

 過ち…は犯さないぞ…!!!!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍紅がドアを閉めて立ち去ったのを見送った涼は、溜息をついて椅子に座り込んだ。

 その様子を見た凛花が珍しそうに眉を上げる。


「あら、珍しいですね。そんなに疲れた素振りを見せるなんて。」

「あったり前だろぉ。こんなに気を使ったのは久々だぜ。」

「そんなに龍紅さんの相手が疲れましたか?」

「まぁなぁ。あいつが持ってた武器は明らかに普通の武器じゃ無かったしな。どんな能力を持ってるか分からないけど…、戦力として欲しいのが本音だ。」

「では、ちゃんと誘えば良かったのではないですか?」

「本気で言ってるか?」

「えぇ。」

「だったら、凛花はあの場で龍人を誘えたか?」


 涼の問いかけに少し悩む素振りを見せた凛花は、特に表情を変える事なく言い切る。


「無理ですね。」

「何故だ?」

「質問責めですね…まぁ良いですけど。理由はノルンさんです。」

「…やっぱそうなるよなぁ。」


 脱力した涼は天井を見上げる。

 スッと立ち上がった凛花は部屋の隅に行きながら、苦笑を浮かべた。


「涼さんが龍紅さんに説明している時のノルンさんの表情は…見逃さないって雰囲気でしたもんね。女性のアレコレについて話した時反応は普通の女の子でしたけど。」

「あぁ。ノルンは狭球について何か知ってんな。それでいて知らないフリをしてやがる。そもそも夢幻結晶を持ってないのに龍紅と一緒に狭球に居た事からして意味が分からねぇ。」

「そうですね。だからこそ…手元に置いておきたいのではないですか?」

「けどよ、それは龍紅が決める事だ。」


 あくまでも龍紅が決断するというスタンスを取るしか無い涼の様子に、淹れたてのコーヒーを置いてあげる凛花は微笑む。屈んだ時にワイシャツから豊満な谷間が見えるのは…癒しのひと時だ。

 男にとってのロマンを披露しながら凛花は涼の目を見つめる。


「でも…涼さんも案外酷薄ですよね。」

「そうか?」

「えぇ。だって…戦うことを選んでも、戦わないことを選んでも…龍紅さんに平穏な日常は戻ってこない事を言わなかったじゃないですか。」


 凛花の言葉を受けた涼はコーヒーカップを口元で傾けながら満天の星空を窓から眺める。自嘲気味の笑みと共に、小さく呟く。


「まぁ…それは俺の優しさだ。」


 地平線には分厚い雲が現れ始めていた。

余り話が進みませんでしたね。

次話からは龍紅が悩みまくります。

不甲斐ない主人公をお楽しみに。


ふっきれるきっかけは勿論…。

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