1-2-4.おじさんとロリ巨乳とロリ。異世界について…知りたくなかった。
初めてモンスターを倒しました。
でも、現実は僕に牙を剥くみたいです。
平穏な日常が遠のいていく…。
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周囲を見渡すかっこいいおじさんの来栖さん。
「うっし。周りにモンスターはいねぇか。」
そう言って僕を見ると、腕を組んだ。
「でだ、お前…達?かな。は所謂、異世界の初心者だろ?」
「はい。まだ2回目の転移ですし。まぁスライムは何とか倒せましたけど。」
「ん?スライムは最弱級のモンスターだから倒せて当然だわな。」
なんとなく予想はしてたけど…改めて言われるとショックが大きいよね。
「んー…どうすっかなぁ。こういうパターンは俺も初めてだし。……あ、そうだ。お前達、どこから転移した?」
「え?えっとラフーレの前辺りだったと思います。」
「あぁなるほど。服装は…見た感じそのままか。」
ん?って事は、やっばりあの鎧は異世界仕様って事なのかな?だとしたら…僕もかっこいい装備が……。って違う違う。これじゃあ異世界で戦う気満々みたいじゃないか。
「あの…ひとつ伺っても良いですか?」
「なんだ?」
「この異世界で戦うの…僕は向いてないと思うんです。だから、来ないで良いように出来ませんか?」
「そういう話な。まぁ出来なくもないけど、そもそもの異世界転移について知らないと防ぐ事も出来ねぇぞ?」
「なるほど…じゃあ来栖さんの話は聞かないとって事ですね。」
「だな。ってか来栖さんとかキモいから無しな!涼って呼べ。」
「あ、はい。」
…年上の人をさん付けで呼ぶのは普通だと思うんだよね。それをキモいって言うって…この人の感性結構ズレてるかも。
「とにかくだ、そろそろ時間が来ちまうから、現実世界に戻ったらその場で待ってろ。俺は狭球では…」
ピシィッ!
来栖さん…あぁえっと涼が何か言ってたけど、例の亀裂が入る音が響き渡って中断された。
今気付いたけど…この音が異世界転移の合図なんじゃないかな?
そして、気付けば僕は現実世界のラフーレ前に立っていた。周りには沢山の人達が楽しそうに話しながら歩いている。
…戻ってきたんだ。安堵感が胸の奥底から湧き上がるのと同時に、目の前にいるノルンという存在が不安を掻き立てる。
もし…もしだよ?ノルンが異世界の内容について触れてこなければ、僕の妄想って線も残って…。
「あの来栖涼っておじさんかっこよかったねっ!」
ドォーン。僕の淡い期待は一瞬で吹き飛んでいった。そうだよね…ここまできて夢や妄想っていう方がどうかしてるのか。うん。前向きに考えよう。
「ねぇノルン。あのおじさん…本当にここに来るかな?」
「んー来るんじゃないかと思うんだよっ。」
「本当に来るかな?もしかしたら悪の組織の…」
「だーれが悪の組織だってぇ?」
ピシリと僕は姿勢を正してしまう。だってねぇ、ついさっき異世界で聞いていたのと同じ声なんだもの。
恐る恐る振り向くと、そこには来栖さ…涼が立っていた。ヨレヨレのワイシャツに黒ズボン。ゆるく閉めたネクタイ…といういかにも遊び人みたいな服装のおじさんが。
「さぁてと…詳しい話は本部でするぞ。ついて来い。」
僕の不審な目付きに気付いているのか無視しているのか分からないけど、涼は欠伸をしながら歩き出した。
え、ついて行くの嫌なんだけど。
「ほらほらっ!行くんだよ龍紅?歩かないと泣き喚いて人攫いだーって言っちゃうんだよ?」
ノルンが僕の手を握って引っ張る。
これで歩かなかったら…犯罪者ルートじゃん!しかも、なんで幼女に僕が脅されなきゃならないんだろう。
ついて行くことを躊躇する僕を見たノルンの目がキランと光る。
「きゃ……むぐ!?」
…危なかった。この子本当に叫ぼうとしたぞ。咄嗟に口を押さえることが出来たから良かったものの…。
このまま口を押さえた状態でいても誘拐犯みたいに見られそうだよね。
「はぁ…。しょうがないか。」
「にしし…なんだよ。」
僕が手を離すと、勝ち誇った顔のノルンが見上げて来る。…む、ムカつくぞ。
「おーい、早く歩けって。」
ちょっと離れた場所から涼が呼びかけてくる。はいはい。行きますよ。行けば良いんでしょう?
こうして僕はノルンに脅されて涼の後について行くことになったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
涼が本部と言った場所は…事もあろうか僕の勤める式場から歩いて10分位のご近所だった。
普通のオフィスビルだけど…。
涼はふんふんと鼻歌を歌いながらエレベーターに乗り込んで8階のボタンを押す。
「8階なんですね。」
会話という会話が無いままきたから、気を使って話しかけてみた。
「おうよ。8ってのは漢字で書くと八だろ?だから末広がりで縁起が良いからなっ。」
「あ、素敵ですね。」
…こう返すのが精一杯だった。
一応僕もウェディングプランナーだからさ、末広がりの八なんて当たり前なんだよね。それを自慢気に話されると…反応に困っちゃう。
そんなモヤモヤとの葛藤をしている内にエレベーターがチーンという音を立ててドアを開いた。
うん。普通のオフィスビルだ。
「こっちだ。」
僕の小さな警戒心には気付いていないんだろう。相変わらず眠そうに欠伸をしながら涼は先を歩いて行く。
まぁもう夜の9時だしね。眠いのは分かる。…でも幼女のノルンは眠気という言葉を知らないのか元気なんだけどねぇ。歳をとると早寝早起きになるっていうし。そんなもんか。
ドアの前で立ち止まった涼は僕とノルンに視線を送ってくる。
「一応言うけど、普通の事務所だぞ?近未来的なもんは無いからな。」
「ん?はい。大丈夫です。」
「うしっ。」
そう言われてドアの中に入ると…本当に普通の事務所だった。デスクが…4つと、部長席みたいなのが1つ。…って事は全員で5人なのかな?
「あら、いつもより遅いお帰りだと思ったらお客様ですか?」
「んあ?凛花か。」
入口のドア陰からコーヒーカップを片手に顔を出したのは、スーツ姿の女性だった。背が小さくて…140cm位しか無いんじゃないかな。そして胸元が見えそうで見えなくてエロい!
…と、目線が胸元に向いているのがバレたのか、凛花という女性に見つめられてしまった。最初に見た時から気になってはいたけど…常に半目で眠そう。
「おいおい。女の胸ばっか見つめてるとセクハラで訴えられるぞ?」
「え…見てないですよ?」
シレッと嘘をついてみる。ドキッとしたのは秘密だ。
「ははん。男ってのはな、自分の欲を隠してばっかだと碌な人間にならないぜ?」
「ねーねー。なんで男の人は胸を見ちゃいけないの?」
ピシィッ!と空気が凍り付いた。
あ、転移じゃないので悪しからず。
「え?なんでなんで?何で何も言わないのー?胸を見ても良いと思うんだよ?」
「あー…っとだなぁ。」
ポリポリと頭を掻きながら涼は視線を彷徨わせた。幼女相手にどう説明すれば良いのか困っているんだろうね。僕は…知らんぷりを続けようと思う。
場の雰囲気がカオスって来た時に、スッと動いたのは事の発端である巨乳の所有者、凛花さんだった。
「しょうがないですね。えーっと…お名前は?」
「んー?ノルンなんだよ?」
「ノルンね。ちょっとこっちに来れますか?」
「うん!」
テコテコと凛花さんに連れられて事務所の奥に行くノルン。そのままこしょこしよと何かを話し始めた。頻りにノルンが頷いているのが気になるけど…。
5分後。
凛花さんに手を引かれて戻ってきたノルンは顔が真っ赤だった。
……うん。何を話したのかは聞かないようにしよう。女の秘密ってあるもんね。そう言うのに足を突っ込むと碌なことがない。
「お待たせしました。では、話の続きをしましょう。」
凛花さんは赤い顔のノルンを椅子に座らせると、僕に視線を向けてきた。
「涼、こちらの方をここに連れてきた意図を聞いても良いですか?」
「おぅよ。こいつは檜山龍紅。資格持ちだ。俺の転移に共鳴したのを見つけた。」
「そう言う事ですね。つまり、機関の一員にするつもりですか?」
「まぁ…本人にその気があるならな。」
「…そこを確認しないで連れてきたのですか。まぁ、分かりました。先ずは自己紹介をしますね。私は楠本凛花。凛花って呼んでください。さん付けは長くなるので禁止です。私も龍紅って呼ばせてもらいますね。」
おぅ。なんか呼び方を指定された。長くなるからって言うのは…何となく納得感がある。
「分かりました。」
「あ、それもダメです。敬語じゃなくてタメ語とかの普通の話し方でお願いします。因みに、私はこれが普通なので良いのです。」
…なんか調子が狂う。でも、こう言うタイプの人を怒らせると怖いからね。素直に従おう。
「分かった。一先ず、転移について聞きたいんだけど。出来ればさっきの共鳴っていうやつの詳細も。」
初対面の人に敬語を使わないのは…やっぱり背中が痒い。
「良いですよ。とは言っても、私は諸々の処理があるので、涼が説明をしてください。」
「おし。任せとけ!」
元気な返事をした涼はホワイトボードに3つの丸を描き、それぞれの中に地球、狭球、裏球の文字を書いた。
なんか…学校の授業とか新卒時の研修を思い出す。
「イイか。地球は俺たちが今いる場所だ。まぁ当たり前だが。で、この狭球がついさっき俺たちが出会った場所…つまり異世界だな。」
ん…?いきなりファンタジーな話が始まったね。狭球ってのが異世界だとして、それがどういう事なんだろう?
「あのー。」
「なんだ?」
「今の話は、異世界に関わる世界構造みたいな話って事でしょ?」
「そうだな。」
「その…3つの丸を描いた意味が全然分からないんだけど…。」
「まぁまぁ早まるなって。」
…あ、今完全に教師がこれから説明をしようとしているのに、その質問をしちゃった恥ずかしいやつだよね。恥ずかしすぎる…よし、少し黙っておこう。
「この地球と狭球の関係は密接だ。並行世界とでも言えばいいかな。そして裏球は…狭球にモンスターを送っている犯人だと言われているな。」
「…。」
「そこで問題になってくるのが、狭球と地球の関係だ。お前も気付いてると思うが、狭球と地球は表裏一体の関係にある。ま、ここを具体的に言うと狭球で起きた現象は時差を伴って地球にも同様の現象が起きるって事だ。」
「………え?」
僕の疑問の声を理解出来ていないと思ったんだろう。涼は更に詳しい説明を始めた。
「つまりだ、狭球で物が壊れれば地球でも壊れる。地球で火事になれば狭球でも火事になるんだ。」
…おいおい。つまり…中野駅の植木スペースの工事ってそういう事?
じゃあ…僕がさっきスライムとの戦いでやった諸々も?
「それ、冗談じゃないですよね?」
「あ?勿論だ。だから俺達は狭球で戦う時には地球に影響が出ないように最大限の注意をする必要があるんだ。」
なんてこった…。
僕はあまりの衝撃に何を言ったらいいか分からない。だってさ…これってあまりにも責任が大きすぎて…。
「続けっぞ?ってか先に共鳴のOFFをしないとだな。ちょっと結晶を出してみろ。」
「…はい。」
言われた通りにペンダントになった結晶をポケットから取り出す。首にかけないのは…そうすると異世界で戦うことを許容する事になりそうな気がしたから。
…今の僕の心境をひと言で表すとしたら、
それは
逃げ出したい。
主人公の龍紅は一般人をイメージしてるんだけど…キャラが薄すぎる気がしてきました。
脇役にフォーカスしたサブストーリーみたいですね。