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1-2-1.再びの異世界は唐突に

 あれ?異世界って夢じゃなかった…んだね。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 現実って素晴らしい。

 そんな事を最近感じてしまう檜山龍紅です。

 仕事に不満は無い。会社に不満は有る。それでも共に働く仲間が好きだから、今の仕事が続けられる。

 仕事では沢山のカップルが夫婦になる瞬間に立ち会える。こんな幸せな仕事は他には無いと思う。

 ま、僕の場合マネージャーになってから担当は持ってなくて、新規営業に出る事が多いから当日に立ち会えない事は多いんだけどね。

 因みに新規営業っていうのは、結婚式場を探してるカップル(=新郎新婦)の会場案内を行う事。大体3時間位の接客で成約してもらうのが理想だから、要点を掴む力と、新郎新婦と仲良くなる力と、提案力が必要になる。正直…難しい仕事だ。基本的に何度も粘り強く日にちを空けながらのアプローチが出来ないからね。

 当然ながらこの新規営業が式場自体の成績に大きく関わってくる。どの式場も年間に何件の結婚式をするかっていう予算があって、それを達成するためにお客を奪い合っている状況だ。

 SNSが広がる前は当日成約特典とか、その場成約特典を使って成約をもらえる事が多かったんだけどね。今では人気の結婚式雑誌で会場見学は3〜5件がおススメとか書いてあるから…その場成約が昔より難しい印象がある。

 下手に当日成約を狙いすぎると、口コミとかSNSで情報が拡散して…最悪来館激減なんていうのもあり得る。実際にそういう式場があったって話も小耳に挟んでいるし。


 こんな仕事をしながら最近考えることは2つ。


 1つはあの異世界体験が何だったのかという事。これは主に出勤時間に考える事が多いかな。

 最近中野の周辺ではマンション建設が盛ん?な気がする。その影響か中野駅前の植木スペースも工事用の天幕が張られていて、あの天幕が取れた後にどんな植木が現れるのかが楽しみだったりする。もしかしたら変な銅像が置かれていたりして。

 と、こんな事を考えながら駅までの道を歩き、電車に乗っておじさんの後頭部を見ていると、異世界での体験が記憶に蘇ってくるんだ。

 …なんかおじさんの後頭部が記憶喚起のきっかけみたいで嫌だけど。

 あの異世界体験が本当に現実だったのか、僕の妄想だったのかはイマイチ自信が無くなってはいるんだけどね。

 妄想であってほしいと願うばかりだ。ま、妄想だったとしても危ないんじゃないか?って話は聞こえないふりだ。


 そして、今僕が1番頭を悩ませているのが…従姉妹の結婚式だ。

 普通に列席をするだけならまだ良い。でも、今回の結婚式は僕が働く式場でするんだよね。自分の身内が結婚式を挙げるわけだから勿論参列しなきゃいけないし。その結婚式を手伝うのは僕の部下達な訳で…当然失敗は出来ない。

 更に問題なのが、僕の従姉妹は結婚式に対する思い入れが凄く強いんだ。それはもう半端なく。

 いや、いい事なんだよ?でもね、やりたい事とか理想が強い人の結婚式ってその通りに実現すれば最高の結婚式になるけど、少しでも違うと問題になるんだよね。

 だからこそ…変にプレッシャーが強いってわけだ。しかも僕は当日に参列してるから指示出しも出来ないし。どれだけ事前にリスクヘッジの策を用意出来るかが勝負なんだ。

 その結婚式が1ヶ月後に迫っている事もあり、な内容とかについての最終的な決定日が近いという事もあり、僕達は頭を抱えていた。横には担当プランナーの菊地さんも座っている。


「マネージャー…新婦さんが言っていたこれ…どうしましょう?」

「これねぇ…。」


 問題となっているのは、チャペルで挙式を執り行った後にチャペル前の中庭スペースでフラワーシャワーをやるんだけど、そこで普通じゃない事をしたいと新婦が言い出したんだ。あ、この新婦が僕の従姉妹ね。

 因みに、色々と提案はした。バルーンリリース、ブーケトス、ブロッコリートス、ブーケプルズ、豆撒き、キャンディートス、中身が巨大クラッカーのバズーカ、シャボン玉…。

 うちの式場にある演出を色々と提案したんだけど…全然新婦の心に響かないらしいんだ。新婦曰く「どれも見た事がある。」…との事。

 どうやら「こんなの見た事ない!」って全員に思わせたいらしく…。うちの演出を出し切ってもビンゴしないというこの状況は非常にまずかった。

 色々演出あるよ〜って会場案内の時に言ってるから、新婦の中で妄想が膨らみすぎちゃってるみたいんなんだよね。


「ん〜…とにかく演出会社に今までチャペル前でやった事がない演出が無いか手当たり次第に聞いてみよう。」

「はい。ううぅ…見つからなかったらどうしましょう。」

「いや、見つからなかったらじゃなくて、どうやって見つけるかを考えるんだよ。」

「うぅ…ですよね。わかりました。」


 こんな感じで僕と菊地さんの相談会は終了した。いやぁ…困った。何としてでも新婦が満足できる演出の提案をしなければ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 そんなこんなで従姉妹の結婚式に頭を悩ませながらも、この日の業務を終えた僕は家に向かって歩いている。

 頭を悩ませる結婚式っていうのは本当に大変だ。それを成功させた時の喜びも大きいので、絶対に成功させるけどね!


 式場の近くにある塩ラーメン専門店でパパッと夕飯を済ませてから、僕は原宿駅に向かって歩いていた。あ、因みに僕が務める式場は結婚式の聖地と言われる表参道にある。ま、だから何?って感じだけど。

 表参道にはラーメン店が少ないから、自然と行く店が限られちゃうんだよね。

 ってな感じのラーメン店帰りにそいつは現れた。


「あ、龍紅!見つけたんだよ!」


 表参道の通りを歩いていると不意にこんな感じで、至ってフランクに声を掛けられた。

 そもそも今日誰かと待ち合わせしてたっけ?いや…今日は家に帰ってあの人気格闘アニメの録画を見る予定だったから、誰とも約束はしてなかったはず。

 訝しみながら振り向くと、その娘が満面の笑顔で立っていた。


「君は…。」

「え?もしかして私の名前忘れたの?あんなに衝撃的な出会い方したっていうのに?」


 ちょっと待ってくれ。こんな大通りで人通りが多い所でそんな風に言われると、怪しい関係で繋がってるみたいに思われるじゃないか。

 しかもこの娘…ノルンはどう見ても小学生くらいの幼女で、しかも金髪で目立つし。服装はフワフワ系で可愛らしいし。…ん?今僕を隠れロリって思った人、それは勘違いだよ?

 とにかく、変な誤解を招きたく無い僕は無視して歩き去る事にした。

 パッと華麗な180度ターンをして足早にその場から歩き去る。


「え〜!?信じられない!わざわざ私が会いに来たのに、無視するなんて酷すぎるんだよっ!」

「ねぇねぇ?大事な話があってきたんだよ?」

「お〜〜い!?龍紅ってばぁ〜!」


 どんなに早歩きをしてもノルンは僕から離れようとしない。そればかりか周りから余計に目を引く行動を取り始めていた。

 ピョンピョン飛び跳ねたり、僕の周りをクルクル回ったり。

 それでも一貫して無視を突き通そうとする僕に、ノルンはほっぺたをぷぅって膨らませる。

 いや、相手をしても良いんだよ?でもさ、彼女との関係を認めるとあの異世界体験が現実のものだったってなる可能性が非常に高いじゃない?

 …それだけは避けたいんだよね。だって僕は平穏に人生を全うしたいだけなんだもの。


「あのね、確かに私と話したくないかもしれないんだけどね、このままだとまた転移するよ?」


 聞き捨てならない言葉に僕は足を止めた。それまでノルンの声を上手くかき消してくれていた周りの喧騒がただのBGMになる。それくらい…僕の意識はノルンに集中していた。


「…どういう事?」

「あのね、夢幻結晶には共鳴が…。」


ピシィッ!


 突然だった。

 何かに亀裂が入るような音が響き渡ったかと思うと…僕は再びあの世界にいた。ノルンが異世界って呼ぶ場所に。

 前回は夢かもしれないって疑っていたけど…もうそれすら許されない状況だった。

 だってさ、僕の…いや、僕達の周りを歩いていた筈の人達が1人残らず消えちゃってるんだもの。

 空はまたどんよりと分厚い雲に覆われていて、お洒落に埋め尽くされた表参道はその全てが色褪せている。


「あぁ〜間に合わなかったんだよ!龍紅が逃げるからだからね!」

「う…。」


 何も言い返せない。

 そして、そんな僕を嘲笑うかのように一匹の…青いスライムが現れた。


 …人気ロープレゲームですかい?

 

ん〜結婚式ネタが少し長かったような?

現実と異世界のギャップ感を出せたら良いなと思っています。

ふと思ったけど、ブライダル業界の人に「そんな事書くなよ!」とか怒られないよね?笑汗

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