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1-1-3.現実?…え?異世界?どっち?

 ほーら。大きな口が開かれて…あ、ずらりと並んだ牙の奥に何か肉片が…しかも、その口が僕の顔に迫ってくる。この口が閉じられた瞬間に僕の身体は牙に串刺しみたいにされて、骨もゴキゴキとおられて噛み千切られて絶叫して死ぬんだろうな。

 あ、昔の思い出が蘇ってくるよ。楽しかった時の思い出が順番に…これって走馬燈っていうんだよね。人は死を迎える直前とか極限状態になったときに時間の感じ方が変わるっていうけど、本当だったんだね。


 ファンフローグに噛み殺される直前の僕は、そんな風に達観したような思考を物凄い勢いで回転させていた。

 まぁ…一種の現実逃避だよね。そうとは分かっていても止められないのもまた現実ってもんだ。…短い人生だったなぁ。ここで死んでも、現実世界ではひょっこり生きてるとかだったら嬉しいんだけど。


 …そんな事を考えている間にも、現実では当然の如く凶暴な顎門が僕に迫ってきているわけで。

 駄目だ。怖い。

 僕は恐怖に勝つことが出来なくて目を閉じた。

 涙も鼻水も…恐怖に負けて穴という穴から様々な物が垂れ流し放題だ。汚いとか綺麗だとか普段なら考えるんだろうけど、今だけはそんな事はどうでも良かった。せめて安らかに死ぬことが出来れば…それで…もう満足だ。

 静かに待つ。自分が噛み殺される音が響くのを。


 ガギン!!


 ほら。聞こえた。これは一気に噛み千切られたかな…?だから痛みも感じないのかな…。


 …ん?


 …あれ?


 うん。ちょっと変だ。なんていうか…全身の感覚は残ってるし、どこも痛くない。いや、元々吹き飛ばされた時の傷はもちろん痛いよ?でもそれだけだ。

 僕は恐る恐る目を開く。すると、すぐ目の前に閉じられた牙があった。


「う…え…?」


 予想外の結末?に僕は上手く反応する事が出来ない。なんで食べられてないんだ?

 突然、ファンフローグの頭がブオンって動いた。そして、華麗なるバック転で僕と距離を取る。ん?僕に恐れをなしたのかな?…んな訳ないよね。

 ガガガッ!という音を響かせてファンフローグがいた場所に何かが突き刺さった。

 なんだ?状況が呑み込めない僕は周りを慌てて見回すけど…誰もいない。でも、今のは…。


「グルアァア!」


 ファンフローグが大きく叫ぶ。見れば右足の側面が抉れていた。そして、右上をキッと睨み付ける。

 その視線を追うようにして僕も同じ方向を見ると…居た。一軒家の屋根上に1人の男が立っていた。

 黒に近いコートみたいなのを着て、白いパンツに赤いひもが目立つ黒い靴。そして首元には薄紫のストールみたいなのが揺れている。…なんてゆーかかっこいい。僕の貧相な表現力だと伝わるか分からないけど、お洒落なシティガンナー的な感じ。

 その男は僕には一切目もくれずにファンフローグを見下ろしている。猛獣とガンナーの睨み合い。そして弱者の僕。

 睨み合いから先を取ったのはファンフローグだった。右足を負傷している事を感じさせない動きで跳躍すると、男に向けて襲い掛かる。僕の動体視力では正直追掛けるのがギリギリ可能なレベルの速度だ。追えても反応は不可能。マズイ…と思った。あんな動きで迫られたら簡単に身体を引き裂かれてしまう。

 けど、僕の心配は杞憂に過ぎなかった。

 男はファンフローグの前爪による切り裂きをひらりと躱すと、両手に持つ…銃を発砲した。それらが次々と突き刺さり、痛みに身体を捩ったファンフローグは地面に落下する。


「凄い…。」


 圧倒的だった。今の一合で、僕は男がファンフローグを凌ぐ実力を持っている事が分かってしまった。食べられてしまった魔法使いのお兄さんとは格段に差がある強さ。


「ぐ…ルアァァアァアア!」


 このまま止めを刺すかと思ったんだけど、突如ファンフローグが雄たけびを上げると白い霧が立ち込める。

 うわっ寒…!

 一瞬で視界が遮られ、地面にガガガっ!と何かが突き刺さる音が連続して聞こえた後に、静寂が訪れた。


 ………………………。


 静か過ぎやしないか?

 今すぐに状況の確認をしたいんだけど、下手に動き回ってファンフローグに襲われるのも怖い。

 僕は静寂を壊さないように静かに静かに待ち続けた。


 10分以上経った頃だろうか。薄っすらと白い霧が晴れてきた。

 誰もいない。ファンフローグの死体もないし、あのカッコイイガンマンの姿も無い。

 戦いの結末が気になる所だけど…一先ずは…。


「…助かった……。」


 安堵の息をゆっくり吐く。

 当然ではあるけど今まで生きていてここまで死を覚悟した事はない。だからこそ…って言うのかな、生きている事を本当に嬉しく思う。

 コンクリートに足を投げ出し、壁にもたれ掛かる。

 空を見上げれば分厚い雲が変わらず漂っている。ずーっと広がる曇り空は、晴れることがあるのか?なんて気持ちにもさせる。


「後は…現実世界に戻れるかどうかだよな。」


 空を見上げながら考える。ここは非常に重要なポイントだ。現実世界に戻れるなら全力で戻るし、戻れないなら戻れないなりにこの過酷な世界を生き抜く術を見つけなければならない。

 …んー、とは言ってもあれだよね。戻れる見込みが全く無い訳だから…生き抜く術を探すしか無いか…。

 ヤバイ。ファンフローグの事を思い出したらまた怖くなってきた。あんな化け物とどうやって戦えって言うのかが分からない。

 とにかくだ、先ずは人がいそうな場所に向かうか。


 ピシィッ!


 ………………………………え?

 あれ?夜空…だ。あ、正確に言えば星空だ。確か今まで曇り空を見上げてたような。

 意味が分からなくて視線を下に落とした僕は驚愕する。

 …………異世界に転移した最初の場所に戻っていた。

 これってさ、つまりループ系の異世界転移って事か?もしかして、ファンフローグを倒すまで戦い続けなきゃいけない?

 おいおいおい。だってさ、僕は何も戦闘で活躍もしてないし、何の能力も授かってない。これで異世界転移で特殊能力を貰ってるならまだ分かる。魔法使いのお兄さんとか、銃使いの男とか。

 …まぁ、前向きに考えれば魔法使いのお兄さんが死ぬのを防げるかもしれないのか。あ、魔法使いのお兄さんが生き延びて、銃使いの男と合流できればファンフローグを倒せるかも。

 そう考えてみたら、少しは光明が見えてきたかもしれない。


「よし。」


 僕は意を決して裏道の先を睨みつける。そうすればファンフローグと目が合って…って…あれ?


「…いない?」


 おかしい。ループ系の転生だとしたら、ここで同じ事が起きないと説明が付かない。

 ……。一先ず自分の家の方に向かってみようかな。


 少し歩くと異変はすぐに起きた。

 後ろからシャァーという音が近付いてきて…僕は新手のモンスターかと警戒してバッと振り向いた。


「おかぁさん。あの人へんだよー?」

「こらっ!変とか言わないの!」


 ホワッツ?唖然とする僕の横をママチャリが通り抜けて行った。

 えぇ。どう考えても穏やかな風景ですとも。モンスターとかそういうのとは無縁の世界だよね。

 それで気が抜けた僕は周囲の警戒を続けながら自分の家に向かった。

 途中、杖をついたおじいちゃんとか、グラサンをかけたヤンキー集団とすれ違ったけど、特に何も起きなかった。


 家に着いた僕が真っ先に向かったのはテレビだ。さっきは砂嵐しか映らな…。


「ここで臨時ニュースです。つい中野にて身元不明の遺体が発見され…。」


 あぁいつも通りだ。つまり、僕は現実世界に戻ってきたんだ。そういう事で良いんだよね?

 よくよく考えてみれば、空は曇ってないし、世界が色あせてもいないし。僕の服とかも綺麗だし。僕の涙やら鼻水だって…そう言えば出ていない。

 …そうなると、あの地獄みたいな時間は、空を見上げている間に妄想でもしちゃったのかな。

 小さい頃に魔法使いになりたいって思ってたのを思い出した辺りから、妄想が暴走しちゃったのかも知れない。


「夕飯でも食べるかな。」


 僕は現実世界にいる事の喜びを満喫する事にした。異世界にいたあの経験…妄想?が本当かどうかは分からないけど、それがあったからこそ日常の大切さを噛み締めることが出来ている。

 夕飯は焼きそばにした。一昨日に買った野菜とか焼きそば麺がうまい具合に残っていたからね。豚こま肉をいれながらも粗挽き胡椒ソーセージも追加して味にアクセントを入れた豪華版焼きそばだ。

 テーブルに座って焼きそばを啜る。うん。このソースの香りにモチモチっとした麺の食感。そこに飛び込んでくるシャキシャキとしたキャベツや甘みを追加する人参。

 …我ながら完璧な焼きそばだ。


「…ん?さっきのニュースの続きかな?」


 テレビではついさっき流れていた中野で発見された身元不明の遺体についての続報が流れている。


「えぇ〜先ほどの身元不明の遺体の身元が判明致しました。板橋区在住のAさんで、昨晩から行方不明となっており…。」


 まぁた板橋で行方不明になって、なんで中野で発見されるんだろうね?よく分からん。

 他人事感全開で何となく眺めていた僕の手が止まる。


「…え?」


 画面には板橋区のAさんの写真が映し出されていた。右上のテロップでは目撃情報募集中が表示されている。

 それはどうでも良い。

 1番の問題は…映し出されている写真だ。


「魔法使いの…お兄さんじゃん。」


 異世界が妄想じゃなかった疑惑が出てきました。


次回からは日常編を少し進めていきます。

何と言ったって幸せのお手伝いをするウェディングプランナーですから。

龍紅を通してウェディングプランナーの裏事情?も執筆する予定です。


念のため…あくまでも予定です。

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