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1-3-7.討伐完了

 時々思うんだよね。

 もし、僕の妄想が現実になったら…どれだけ辛い人生になるのかなって。

 ファンタジーな妄想ばかりしてるからなんだけど。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 鈍い音が鼓膜を刺激したあと…僕はゆっくり目を開けた。


「ひっ…。」


 目の前には剣の切っ先があった。ギラリと鈍い輝きを放つ剣先からはどす黒い液体が滴り落ちている。

 僕が磁力で鉄の柱に引き寄せた自分の剣だ。


「グギ…。」


 背中の中心を剣に突き刺されたフレイムリザードは口から赤黒い液体を吐き出す。

 ベチャベチャっと地面にそれが落ちると同時に、生臭い匂いが充満し始めた。


「うえ…。」


 胃の奥底から吐き気がこみあげてくる。ウンチのおむつ替えをしたばかりの狭い個室に入った時以上の吐き気。って言えば理解してもらえるだろうか。


「グ…ギャギャギャ…!」


 突き刺されても尚、フレイムリザードが僕を睨みつける眼光に衰えはない。寧ろ鋭さを増したと言っても過言では無かった。憎っくき相手に向ける憎悪の視線のような気がして、思わず身震いをしてしまう。

 人間だったらこの時点で出血やら激痛の影響で何も出来ない筈…。モンスターの持つ生命力は恐ろしい。


「………ん?」


 ふと、嫌な予感がした僕は、吐き気やら腰が抜けそうになるのを必死に抑えてフレイムリザードから逃げるようにして離れた。

 その直後、口から液体を吐き出しながらもフレイムリザードは口を開けて炎を吐き出した。


 ゴオオオォォォォオオ!


 …危なかった。ちょっと遅れてたらあの炎に焼き尽くされてたかも。ていうか柱が焦げたし!現実世界に戻ってからの修繕が…。

 あとは、ここからどうするかだよね。フレイムリザードに近づくのは危険な気がするし…。

 でも…まだ生きている以上はとどめを刺さなきゃならない。そうしないと、いきなり動き出したフレイムリザードに僕が殺される可能性だってあるんだ。


「グギャ。」


 ………え?

 僕は耳を疑った。

 …ん?今のはフレイムリザードの鳴き声だろって?剣に貫かれてもまだ生きてるんだから、聞こえて当然だって?

 いやいや、そういう問題じゃない。

 だってさ、その声が聞こえたのは僕の後ろからだったんだ。

 恐る恐る振り向くと…そこには、案の定…フレイムリザードが立っていた。

 …あ。そういえばさっきフレイムリザードが空に向かって咆哮していたけど、あれは僕を威嚇する為じゃなくて仲間を呼ぶ為だったのかも知れない。

 となると、ここに来るのは目の前にいる1体だけじゃなくて、他の個体も来る可能性があるよね…。そんな僕の推測は悲しいかな…的中してしまう。


「グギャ。」

「グギャ。」

「グギャ。」

「グギャ。」

「グギャ。」

「グギャ。」


 マジか…。建物のあちこちからフレイムリザードが次々と顔を出してくる。

 そんな事ってある?あぁ…ちゃんとレーダーを使ってフレイムリザードの位置を把握しておくんだった。目の前の個体に集中しすぎた結果がこれだ…。

 ゾロゾロとチャペル前の広場にフレイムリザード達が集まって来る。このままじゃ…僕は餌みたいにズタズタに斬り裂かれて殺されてしまう。いや、もしかしたら人間のこんがり丸焼きになるかもしれない。…消し炭なんて末路も有り得るよね。

 と、とにかく剣を手元に戻して…。

 僕は磁力を操って剣を手元に引き寄せる。いきなり剣を背中から引き抜かれたフレイムリザードが体液を零しながら暴れているけど、そんなのに構っている余裕はない。もうこの状況でいちいち反応している余裕すら無かった。

 でも…血に塗れた柄は…ネトネトしていて気持ちが悪かった。

 ともかく、どうすれば生き残れるか。頭の中はその命題で一杯だ。


「落ちつけ…。落ち着け…。」


 大丈夫。戦うんじゃなくて、一旦逃げればいいんだ。

 今の状況は単純だ。

 多数のフレイムリザードに半円状に取り囲まれているのが僕。

 僕に使えるのは磁力を操る事だけ。その肝心の磁力は物…正確には鉄に触れる事で磁力を付与する事が出来る。この磁力はチャペル前の柱と、敷地入り口の門に付与できている。それなら…上手くフレイムリザードを誘導しつつ剣を門の方向に高速移動させれば…包囲網を突破出来る可能性がある。そうすれば…なんとかいけるはずだ。

 僕は剣を握りしめたままチャペルのドアにもたれかかる。タイミングを間違ったら一貫の終わりだ。

 フレイムリザードが近寄って来る。

 そして…門に続く1本の道が出来た瞬間を捕まえて僕は能力を発動させた。自分の剣を磁力を使って門へ引き寄せたんだ。


 グン…!


 と、加速感に全身が引っ張られ、周りの景色が溶ける。よし…上手くいった!

 あとは、門のところに到着した瞬間に全力疾走すれば…!


 ガン!


 いきなり何かにぶつかる音がしたかと思うと…僕は自分の体が駒のように高速回転している事に気付く。

 …何があったんだ?

 けど、その結論にたどり着く前に僕の体は鈍い衝撃と共に叩きつけれられた。


「ぐあ…。」


 全身が痛い。なんなんだ?確かに僕は高速で門に向かって移動したはず。それなのに、なんで…!

 痛みに耐えつつ目を開ければ…そこにはフレイムリザードの無数の目が僕を見下ろしていた。


「え…ちょ…。」


 僕の頭上に立っていたフレイムリザードがグラリと揺れて僕の隣に倒れる。その体には…僕の剣が頭から串刺しになっていた。

 そんな…!発動した時点で進路上にはどのフレイムリザードもいなかったはず。ってことは、自ら進路上に飛び出したのか、仲間に突き飛ばされたりしたのか…。

 どちらにせよ分かっているのは僕の脱出作戦が大失敗に終わったって事だ。

 しかも身体中が痛くてすぐに動く事が出来ない。

 そんな憐れな僕という人間に向けてフレイムリザード達が口を開けた。喉の奥にはチロチロと燃える炎が見える。

 燃やされる…のか?…くそっ!いやだ。どうにかして脱出しないと。


 パァン!


 そんな音が聞こえたと思ったら…僕の上にいるフレイムリザードの1体が頭を破裂させた。肉が、血が、脳漿が弾け飛んで僕にも降り注いでくる。


「は…え…?」


 頭の理解が追いつく前に、更に理解が追いつかない事態が引き起こされた。

 フレイムリザードの頭が次々と破裂していったんだ。まるで…頭に遠隔爆弾を仕込まれていて、僕が危なくなったタイミングを見計らって爆発させているかのように。

 この異常事態は30秒も続かなかったと思う。

 気付いた時には僕を囲んでいた十数頭のフレイムリザードは1頭残らず絶命していて…、奴らの血の海に僕は寝転がっているだけだった。


「おい!待たせたな!大丈夫か!?」


 トットット!とという軽快な足音が聞こえたかと思うと、涼が門から飛び込んできた。

 そして、僕と周りに転がるフレイムリザードの死体群を見て言った。


「おいおい…こりゃぁ何があったんだよ?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 フレイムリザードが霧になって消えて少し経った後。

 怒涛の展開に混乱のあまり言葉を話す事が出来なかった僕は、落ち着いた段階で事の顛末を涼へ話した。


「はぁ〜…そんな事がねぇ…。いきなり頭が破裂するとか意味不明だな。」

「でしょ?僕は涼が助けてくれたのかと思ったんだけど…違うみたいだね。でも、そのお陰で命拾いしたんだけどね。」

「俺は器用に頭だけを破裂させる芸当は出来ないぜ?ってかよ、お前はまともに戦えないくせに、1人で挑もうってよく思ったな。ただの自殺行為と一緒だぞ?」

「う…それはそうなんだけど…。」


 気まずそうに視線を彷徨わせるぼくを見て涼は肩を竦める。


「まぁ…無事だったんだからいいか。ここの場所以外のフレイムリザードは全滅させてあっから、あと5分位で現実世界に戻るはずだ。」

「そっか…。じゃぁなんとかここを守り切れたのかな。」

「結果的にはな。…で、改めて聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「…うん。」


 組んでいた腕を解いた涼は僕の目を真っ直ぐに射抜く。


「龍紅は狭球で戦う覚悟を決めたって事で良いんだな?」

「…うん。僕は狭球で起きた破壊が現実に反映されて被害が出ているっていうのに、それを知らないふりをして見過ごす事は出来ない。だから…戦うよ。」

「良い顔をするじゃねぇか。よしっ!じゃぁ地球に戻ったら少し話すか。どこから転移した?」

「ラフーレの前あたりかな。」

「またそこか。じゃぁそこで待ってな。迎えに行ってやる。」

「分かった。」


 満足そうに頷いた涼は、ここで何かに気付いたのか辺りを見回した。


「そういや…ノルンの嬢ちゃんはどこにいるんだ?」

「あ…。」


 …完全に忘れてた。いや、っていうか供給に転移してから1回もノルンの姿を見てない気がする。前回も前々回も気付いたら僕と一緒にいたから、てっきりそんなもんなのかと思ってたけど。

 今回は一緒に転移してこなかったって事なのかな?


「ん?ノルンはここだよ〜!」


 ヒョコっとノルンが顔を出したのは…スモークマシンフォームドの後ろからだった。全く存在感無かったけどいたんだね。僕もノルンの事は最初っから忘れてた訳だから…特に文句とかはないけど。

 因みに、これは後で知った話なんだけど、スモークマシンフォームドのコンセントが抜かれてたらしくて、そのコンセントを差し込んでくれたのがノルンだったらしい。

 つまり、ノルンがいなかったらスモークマシンのスイッチを入れても煙が出なかった訳で…僕は殺されていたかもしれないっていう事。

 …え、そうなるとノルンが命の恩人ってこと…?

 我が家の出費が食費で圧迫されるイメージしか湧かないから…言及せずに心の中に留めておく事にしようかな。


 その後、ピシィッ!というお決まりの亀裂音が響くと…僕とノルンは地球のラフーレ前へ戻っていた。


「ふぅ…。」


 耳、目、鼻…と全身で感じる現実感に思わず溜息をついてしまう。


「龍紅龍紅!お疲れ様なんだよ!」

「うん。ありがと。」


 本当に自分で自分にお疲れ様って言いたい。

 不格好ながらも自力でフレイムリザードを倒す事が出来たし。

 これからもっと色々なモンスターと戦う事になるんだと思うけど…頑張らなきゃだね。


「お!いたいた!龍紅!ノルン!」


 その声に振り向くと、涼が片手を上げながら僕に駆け寄ってきていた。

 そして、僕の前に到着すると、ニカッと笑う。


「じゃぁ、改めて。魔獣討伐機関へようこそ。モンスターから地球を守るぞ。」

「うん。よろしく。」

「よろしくなんだよ!まずはお肉を食べに行くんだよ!」

「って肉かよ!」


 涼のツッコミが炸裂する。けど…こういう時は普通…肉な気もする。


 こうして…僕は地球を守るために狭球で戦う道を選択した。

 それは険しく厳しい人生の選択。


 そして…僕は気付いていなかった。

 地球、狭球。この異世界を巡る戦いが…長く辛いものになる事に。

少し長めのプロローグ完結です。

次回からは狭球について少し深掘りしていく…予定です。

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