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1-3-5.フレイムリザード

 自ら訪れた異世界は…怖かった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 遂に来てしまった。でも…自分の意思で飛び込んだんだ。今更怯んでなんていられない。

 自分で自分を鼓舞しながら、僕は周りを見回して状況の確認をする。

 今いる場所は…神宮前交差点で間違いない。

 服装は転移する前と同じ服装だね。変化してるのは…って、あれ?スライムと戦った時に使った剣が背中とか腰に装備されてるかと思ってたんだけど無いや。

 また夢幻結晶から出現させるのかな?うん、これは移動しながら試してみよう。

 で、肝心のモンスターは……居ない。………良かったぁ。正直いきなり戦闘になんてなったら逃げる以外の選択肢は無いからね。

 取り敢えず涼を見つけないと戦うことすら出来ないっていうのは、なんとも心細い。

 最初の行動指針として、僕は表参道の並木通りを進むことにした。縦に見晴らしが良いから、基本的に横の路地からの奇襲に気を付ければいいのが理由だ。

 後は神宮前交差点から表参道交差点の方向に進むと、魔獣討伐機関が近くなるっていうのも理由のひとつかな。その方が涼に早く会えそうっていう安易な考えです。はい。


 歩き始めて5分程。高級ブランドショップが軒を連ねる辺りに来た時だった。大通りの右側を歩いてた僕は、ゾワリとした感覚に襲われて足を止めた。

 なんてゆーか、蛇に睨まれた蛙みたいな感じかな。慌てて建物の陰に隠れて、ひと呼吸置いたあとに、僕は恐る恐る道の先を覗き込んだ。


「…いた。」


 フレイムリザードって名前からある程度は想像してたけど…やっぱり蜥蜴がベースのモンスターみたいだ。

 全身が赤い鱗に覆われていて、その上に赤い鎧を着込んでいる。耳まで裂けた口とか、爛々と輝く切れ長の目とか……怖すぎるでしよ。

 身長も2m位ありそうだし…。この前のスライムとは比較にならない位の脅威度な気がする。

 今は…何をしてるんだろう。辺りを見回しながらゆっくり歩いている。なんてゆーか、パッと見た感じだと迷子みたいだね。


「グギャ…。」


 …変な鳴き声。とにかくフレイムリザードをどうやって倒すかが重要だよね。

 弱点とかもよく分からないし…。やっぱり涼がいないとダメだ。フレイムリザードの居場所が分かったんから、涼を連れてきて倒してもらえば解決出来るはず。

 となると…魔獣討伐機関の方に向かうのが妥当かな。途中にある歩道橋の真ん中から見回してみるのも良いかも知れない。

 そうして僕はフレイムリザードが自分の方を見ていないタイミングを見計らって、魔獣討伐機関のある表参道交差点方面に再び移動を開始した。


 コン!コンコンッ!


 …今の音は何だ。なんかさ、足元から聞こえた気がするんだよね。

 と、現実逃避気味に言ってみたけど、現実は単純だ。

 僕が石を蹴飛ばして音を立てたっていうだけ。

 それがどういう事なのかは明白だ。蹴飛ばした石が立てた音に反応したフレイムリザードが振り向いて僕の姿を捕捉。ノッシノッシと体の向きを変え、動きを止めている僕に向かってひと声。


「グギャァー!」


 えぇ。はい。獲物認定されました。

 はは。見つかっちゃったね。

 はは………。……助けて!


「くそっ!凡ミス過ぎる…!」


 僕は走り出した。真正面から戦うなんて無理だ。逃げるしかない。

 後ろからドッドッドッド…と重たいながらも間隔が短い足音が迫ってくる。

 チラッと振り向けば、口から涎を垂れ流しながら走るフレイムリザードがどんどん迫ってきていた。

 …まずい。このままだとすぐに追いつかれちゃう。まずいまずいまずいまず……。


 キィン!


 …ん?今の音は……?

 再び振り向くと、そこには見知った人物…涼が僕に背を向けて立っていた。


「よぉ。まさか狭球でもう1度会うとは思わなかったぜ。」


 肩越しに僕を見た涼はニヒルに笑みを披露する。…畜生、カッコいい。

 でも僕はそのニヒルな笑みを受けても口をパクパクさせる事しか出来なかった。

 だってさ、涼が来てくれたのはすごい嬉しいんだけど…その嬉しさを消し飛ばす光景が目の前に広がっていた。10mはありそうな氷の壁が出現していたんだ。


 …い、異世界チックになってきたじゃないか!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 氷の壁でフレイムリザードと僕達を隔てるという人間離れした所業をやってのけた涼は、あっけらかんとした様子だった。まぁ…彼にとっては普通なんだろうね。


「で、なんだ。お前さんは戦う覚悟をしたって事かい?」

「ん~、戦う覚悟はしてこの場所には来てるけど、正直戦って勝てる気は全くしないよね。」

「ははっ。正直でいいじゃねぇか。」


 楽しそうに笑った涼はチラリと氷の壁に目を移す。

 なんか…向こう側がオレンジっぽくなっていた。

 それを見て「チッ」と舌打ちをした涼は面倒くさそうに頭をガシガシ掻いた。なんかこういう行動って不潔っぽいイメージになるね。


「参ったな。俺の使う属性とフレイムリザードの属性相性が悪いな。あと1分くらいでこの壁が溶けるな。」


 属性…?氷を使うから氷属性とかかな。フレイムリザードは火属性辺りだろうね。まぁ…火は氷を溶かすしそうだよね。

 でも…相性が悪いって大丈夫なのかな。もし涼が勝てないなんて事になったら本当にマズイよ。

 だけど、僕のそんな心配を表情から読み取ったのか、涼は僕の頭に手を置くとグワングワンと撫で始めた。


「おいおい。心配すんなって。戦いってのは属性の相性で確かに有利不利があるけどよ、最終的には付加価値に過ぎねぇんだよ。まぁ見てな。」


 頭を揺さぶられてグラグラする…。それにしても付加価値に過ぎないなんて事があるのかな。どんなゲームでも不利属性の攻撃力は75%とか50%に威力が軽減されるし、被ダメージは25%増し位になるのが一般的だ。

 その原理はこの狭球でも適用されそうなものなんだけど…。

 僕の心配を余所に氷の壁をに身体を向けた涼は緊張の欠片も感じさせない表情をしている。氷の壁もどんどん溶けて大分薄くなってきた。向こう側の様子が見えるもんね。

 それにしても…フレイムリザードが口から炎を絶え間なく吐き続けてる様子は本当に恐ろしい。


 そして、その時はやってきた。

 氷の壁が溶かされて炎がこちら側にまで伸びてきたんだ。


「はっ!この程度!」


 炎の蹂躙に対して涼は楽しそうに笑う。そして、手元が光ったかと思うと一振りの日本刀を持ち、駆け出していた。

 フレイムリザードは涼に向けて再度炎を吐くけど、涼はその炎の隙間を潜り抜けるようにして肉薄し、日本刀を閃かせる。

 その一連の行動は一瞬だった。気付けば涼はフレイムリザードの向こう側に立っていて、炎を吐くのを止めたフレイムリザードは「グ…ギ…。」と壊れたおもちゃみたいな声を出している。そして、身体の上下がズレたかと思うと霧になって消えていったんだ。


「…凄い。」


 思わず感嘆の言葉が出てしまった。

 だってさ…僕1人では絶対に勝てないであろう相手が瞬殺だよ?別次元の生命体を見てる気分だよね。


「なっ?楽勝だろ?」


 日本刀をブンブン振りながら笑う涼が近づいてくる。


「本当だね。…これで終わりって事?」

「だな。今回の討伐目標がフレイムリザードだから、それが終わったら15分後に地球に転移だ。」


 …なるほど。だからファンフローグの時もスライムの時も倒した後に帰るまでに時間があったのね。


「でもこれで表参道の建物への被害が無しで済んだって事だよね。」

「あぁ。思ったよりも味気なかったけどな。」

「良かったぁ…。」


 これで15分のインターバルを待てば地球に帰れるのか。狭球に来て何かをしたわけじゃないけど…来て良かった気がする。

 そうだ。この時間を使って色々聞けなかったことを聞いてみようかな。


「涼…あのさ、スキルについて聞きたいんだけど。」

「おうよ。狭球で戦うってんなら何でも教えてやんぜ。」

「ありがと。そしたらこのスキルの構造について…。」

「ちっ!危ねぇ!」


 突然涼が叫んだかと思うと、僕と涼を覆うようにして氷のドームが形成された。


「な、なに?」

「…こりゃぁ思ったより骨のある展開になりそうじゃねぇか。上を見てみろ。」


 涼に言われた通りに上を見ると…氷のドームに複数の炎が噛り付いていた。

 …マジ?え~っと…6つ位あるよね。つまりそういう事…?


「ったく、まさか群れで行動してるとはな。おい、お前は逃げろ。フレイムリザード相手に守りながら戦うのは面倒だ。」

「え…逃げるって…1人で6体相手に戦うつもり?」

「ん?6体じゃぁねぇぞ。他にも表参道周辺にちょいちょい出現してんだろ。」

「え…なんで分かるの?」

「ん?もしかしてレーダー機能を知らないのか?」


 涼が何かを操作すると胸元が光る。…夢幻結晶かな。すると涼の前にホログラフィック的なレーダーマップが表示された。


「この青点が仲間…俺たちだろ。で、赤点がモンスターだ。」

「へぇぇ。こんなのも表示出来るんだ。」


 実際問題…凄い。こんな映画とかアニメでしか見たことがないものを自分の目で見れるとは思ってなかった。

 なるほどね。僕たちの周りに確かに赤点が6つあるね。表参道にもちょくちょく赤点があるから…これは全部のフレイムリザードを倒すのに手間取りそうかも。

 …ん?


「おい、どうした?」


 レーダーを見ながら動きを止めた僕に気付いた涼が声をかけてくる。


「あのさ…赤点がフレイムリザードがいる場所でいいんだよね?」

「だな。」

「まじか。」


 僕は1つの赤点が表示される場所を見ていた。

 この数分の間に僕が地図を読めなくなったのじゃなければ…この場所は結婚式場ブライトネスウインド…つまり、僕が働く式場がある場所だ。

 いや、そうだよね。異世界に来た興奮みたいなのですっかり忘れてたけど、今回のフレイムリザードの出現場所は僕の式場の近くが表示されてたんだ。

 それを前提に考えれば、フレイムリザードが式場に入り込んでいても何の不思議もない。

 その事に涼も気づいたんだろう。


「…ったく、ここの6体を倒したらまずはこいつを倒すか。」


 と、言ってくれた。…けど、そのタイミングで幾つかの赤点が表参道ビルズの方に向かって集まるように動き始めたんだ。


「涼…。これって僕の式場は後回しになるよね?」

「…だな。悪いがこの状況じゃぁ優先順位が下がっちまう。」

「だよね。分かった。」


 返事をした僕が氷のドームの外側に向けて走り始めたのを見て涼が叫ぶ。

 そして、1話前の冒頭に繋がる。


「おい!待て!お前1人で何が出来んだ!」

「何も出来ないかも知れない。でも…僕は守る為にここに来たんだ!」


 制止の声を振り切って走り出す。

 色褪せた表参道の街並みを駆ける。

 畜生…なんでこんな事になっちゃったんだよ…!


 でも…なんとしてでもフレイムリザードが式場を破壊するのを止めないと。


 やるしか…無い!

精神的に成長した龍紅はどうでしたか?

次回、ヘタレながらも頑張ります。

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