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はじめましてに潜むNGワード②

 教室に入って、

 自分の席を見つけて座って、

 ひたすらぼーっとしていた私。


 比較的まだ新しい学校で、教室もとても綺麗だ。中学までのどことなく古びた景色をもう眺める必要はないという点においても喜べる貴重なポイントだろう。

 けれど私はそれどころではないのだ。

 早速見つけた自分の席で両腕共に肘をついて、手の甲には額を乗せる。自然と丸まってしまう背中からは惜しげも無く負のオーラが漂っていく。

 あからさまな落ち込みのポーズを奇しくもバッチリ決めてしまった。



 どうせ意識せずとも考え出してしまうのはついさっきの事だと相場が決まっている。

 間違いなく100人中100人が美人だと拍手喝采を贈るであろうあの黒髪の女の子。高嶺の花とも思える彼女が、あろう事か私みたいな取るにたらないごくごく普通のひよっこJKを目の前に、赤面しながら待ち合わせの約束を取り付けてくるのだ。


 自惚れかもしれない。けれど私はこの高校に願書を提出した時からずっと考え続けてきた悲劇とご対面の危機なのだから思わずにはいられない。


 数時間後に起こってしまいそうな最悪のパターンを脳内でシミュレーションしてしまうと悶絶必須だ。

 けれど一度考えてしまったからには中々取り消しが効かないのだから、その最悪のパターンの具現化を嘆いてしまう事には特に代わりはないのだけれど。



「ねェ、アンタ大丈夫?」

「んん…?」



 そんな絶賛落ち込みモードの私へ、気持ち高めの音で声色を生成する、少し掠れ気味の男の声がした。


「式もまだなのにそんなお疲れモードでダーイジョーブなの? 具合が悪いなら保健室行くの手伝おっか???」


 どこか特徴的なアクセントをつけて話す口調に違和感を覚えてゆっくり顔を上げた私の前に映ったのは確かに男子だった。

 女子の制服着てるけど。


「あ……、う、うん大丈夫。知らない人だらけで緊張しちゃってるだけで……。そ、その、緊張しやすいだけだから……」

「ホントに??? ならいいんだけドね。入学早々体調不良で早退者とか、なんか縁起でもないし心配だったのよ。」


 癖のある話し方の男子(?)生徒との話を進める私だけど、動揺しまくりなのが言動の節々からはみ出ているのが自分でもわかって結構辛い。

 けどよくよく考えて見たらそうだ。ここはこういう生徒に対して寛大な気持ちで迎え入れてくれるはずだ。

 一応予想はしていたものの、実際に対面してみると中々の衝撃っぷりだ。そう考えてみると、動揺が表に出ていながらも、きちんと対話が成立しているというだけで及第点ではないだろうか……。


 けどこの学校ってそういうところだ。これはこの学校の特徴で、同時に良いところでもある。

 そんな風に勝手に自分基準で情報を纏めていく私だったけど、折角話してくれたのだからと思い、とりあえず褒めてみる事にする。


「あ、えと……君、制服似合ってるね」


 ……コミュ障な自覚はあるので、ありきたりな選択肢しか出せないのは許してほしいものだけど。


「ホント!? ヤダ嬉しいわァ。ほら、うちの制服めちゃくちゃかわいいじゃない? 絶対に着こなしたくて、校則に引っかからないぐらいのスレスレの範囲でアレンジしちゃったのよ〜。お陰で費用はかさんじゃったわ……。ただでさえ、アタシ達みたいなのはオーダーメイドだから高いのに。」


 男子(?)生徒は鼻高々といった様子。

 折角だからとくるりと一回転し、後ろまでその姿を見せてくれた。


 この学校は、学校指定の制服であれば男女どちらの制服を着ても構わない。確かにそう聞いてはいたけど、実際に異性がオネエ口調で女生徒の制服を着ていると中々の衝撃だ。

 確か…学校生活に適した格好で、トップスには必ず校章の入ったものを着用。それからパンツとスカートの丈が規定の長さであれば他には特になかったはずだ。

 今私の目の前に立つ男子(?)生徒のように、ブラウスの襟やスカートの裾にレースを縫いつけたり、リボンの縛り方をアレンジしたりしても大丈夫だったりと、中々のフリーダムっぷりだ。


「そういえばアンタ、さっき教室の前で佐伯チャンと話してたわよね?」


 ゆったりとした会話はそのまま何処かへ消え、話題はあっさりと切り替わる。

 先程私が教室に入る前に呼び出され、急に約束事を取り付けたのちに早々に去っていってしまったあの女生徒との一件だった。


「さっき教室の前で……って事はあの黒髪ロングの可愛い子?」

「そうよ、佐伯 玲那ってコ。なんか叩かれてたように見えたけど、入学早々揉め事に巻き込まれてたの?」

「叩かれてるように見えたんだ……。」



 男子(?)生徒は流暢にそんな事を話してくる。

 どこか含みのある物言いに疑問を覚えるのだけど、正直その内容の全てを頭に留めることは、彼の外見のインパクトがあまりに強烈だった為に不可能だ。


「まあ、佐伯ちゃんが絡んでるとなるとちょっと悪い方向に考えちゃうのよ。」

「実際はメモを渡されただけだよ? 佐伯さん? もかなり緊張してたっぽいし…。」

「あら、それならいいのかしらねェ。」

「含みのある言い方だね。何か問題でもあるの?」


 先程心の内で密かに思ってしまった事を改めて口にすると、男子(?)生徒は右手を頬に添えながら、ふっとひと息吐く。その仕草ひとつがこの先話そうとするであろう事件の寂しさを物語っているかのようだ。



「アタシ、あの子とは同中なのよ。それで知ってるんだけど、あの子、かなり辛辣でね? 特に異性に対する物言いがかなり悲惨で……。生徒間の諍いが起これば、片方はどうせ佐伯ちゃんだろうってみーんなが口を揃えて決めつける始末。……思い返してみれば、アタシ達の代は最悪だったわね。」



 私は男子(?)生徒から、要所だけを纏めた簡単な説明を聞いた。

 まさかあの最初の会話からここまで話が膨らむとは思っておらず内心驚きを隠せないのだけど、私は正直それどころではなかった。


「そっか……。そんな風には見えなかったんだけど……。」

「けどまあ、この学校に進学してきたって事は、この学校の理念に惹かれたからってコトになるでしょ? きっと佐伯ちゃんも変わりたいって思うところはきっとあるのよ。アタシはあの時自分で手一杯で何も出来なかったけど、一応助けてあげられたらって思ってたんだから……」


「はーい、みんな席に着いて。」


 詳しく話を聞こうとしたところで教室に教師が入ってくる。おそらくは担任ではないだろうと思われるけれど。

 今まで話していた男子(?)生徒は私に軽く手を振ってから自分の席に戻っていく。

 そういえばまた名前聞きそびれた……。ごめん男子(?)生徒くん……。


「今から出席確認と、式の簡単な説明をします。」



 そうして教卓の前に立つ女性から、これからの動きの説明を受ける。

 教師からの指示を片耳から取り入れながらも、やっぱり私の頭の中で巻き起こる討論会の議題は変わらないままだ。


 黒髪ロングの女の子……もとい佐伯さんは、異性を執拗に嫌っているというならば、あの呼び出しに込められた思いなんて一つしか浮かばない。


 ほぼ確定……かな、ははっ……。


 自惚れだろうと言われても仕方ない。いやむしろ自惚れであって欲しいけども。

 いや、もうそんな殆ど決まりきった事をいつまでもうだうだ考えている必要なんてない。問題はむしろその後……


◆◇◆



 などと考える内に入学式は終了。

 ……といっても私には式の記憶とかこれっぽっちも残ってはいないのだけど。


 新一年はもうここから自由行動。帰ってもよし、部活を見学していってもよし。……そして、他生徒との交流を深める事だって出来ちゃうのだ。私の場合は3つ目にあたる。


 覚悟も半端なまま、私は中庭へと向かった。

 園芸部だろうか、ジョウロを持った女生徒達が、私を抜いていく。

 楽しげな笑い声を聞いて気分が悪くなってしまうだなんて、私はいつ闇の世界の住人にでもなってしまったのか……。いや、厨二病などではないはずなのだけど、今の私は他人の幸せが心底羨ましいと感じてしまっているのだ。


「いいなぁ……。」


 意図せず発した言葉はそれなりに辺りに届いてしまう。

 先程の園芸部員達が思わず私の方を振り返ってしまったので、私はしまった……とか思いつつ「何でもないです……すみません。」なんていう無色透明な謝罪を渡した。



「あの……。」



 呼び止められたのはその直後だった。


「中庭に……向かっていらっしゃるところなのでしょうか……?」


 佐伯さんだ。

 ああ、何度見ても綺麗だ……なんて、私の今1番の悩みの種だっていうのに、私は何度もそんな風に思ってしまう。


「うん、そうだよ。……待ち合わせは中庭なのに、もう再開しちゃったね。」

「は、はい……そうですね……。」



 出来るだけ不信感を与えたくなくて、出来るだけ嫌な事も考えないようにと意識してるつもりだったんだけど、上手くいっているのだろうか…。

 普通に、友達と接する時のようなテンションをイメージしながら笑いかけるけど、佐伯さんは今朝と同じ、凝り固まった笑顔と水彩絵の具のように滲んだ暖色の頬を持って私の目の前に立つ。


「同じ場所に向かってるんだもんね。そりゃ途中でばったり会うかー。」

「ええ……。そうですよね。」


 お互いにぎこちない風を吹かせながら黙り込む。

 佐伯さんに至っては、こっちの言葉が届くかすらよくわからない、結構焦っている感じだ。



 この佐伯さんが、中学で上手く人間関係を築けなかったという、あの佐伯さんなんだ。


 あの話を聞いた時の私は、自分の事ばかりでちゃんと言葉の意味を捉えられていなかった。

 自分ばかりだった。盲目でもないくせに、見えてないとか最悪だ。

 これじゃ、私が嫌いなあいつらと何も変わらない。


 あの話をちゃんと覚えていて良かったと思う。

 まずは佐伯さんを見よう。


 そう思った私はまず笑いかけようと思っていたけれど、遅かった。

 私はもう既に、彼女に笑みを届けていたんだ。


 今まで私を前に緊張していた人なんてきっといない。これが……、佐伯さんが初めてだ。だから私の中にも同じように初めての感情が生まれる。


 緊張される側にも生まれる感情がある。


「折角だし、中庭まで一緒に歩こっか。」

「えっ……?」


 こんな風に自然と誰かに笑いかける事が出来たのはいつ振りだろうかと考えたけど答えはすぐには出てこない。

 けどそんな事どうだっていい。


「あ、えと……えっとね? あっ、私実は方向音痴でさ。折角分かりやすい地図描いてくれたのに全然わかってあげられなくて。」


 どうしてか説明するのは多分無理だけど、私は今、佐伯さんに優しくしなければならないのだと思う。


 あんな話を聞いてしまったからだろうか。

 あの話から、佐伯さんを私と同じだと認識しているからなのだろうか。


「話だけならここでも出来るけど、やっぱり綺麗なとこで話した方が楽しいよね! 中庭ならぴったりだし!」


 わからないけど。


 でも私の言葉で、佐伯さん表情に優しさが混ざっていくのが見て取れる。私の言葉は間違っていなかったんだ。


「っ……!! もちろんです! 一緒に行きたいです!!」


 あの時聞いていためちゃくちゃ丁寧なお嬢様言葉が崩れてくれたのが、少しだけ嬉しく感じた。


 間違いない。

 本当の意味で確信してしまった。

 佐伯さんのこの顔は、恋する乙女そのものだ。




ーーそして私の予感は的中した。



「あ、あなたに一目惚れしてしまいました。つ、つっ付き合ってくだしゃ…下さい!」

会話が増える事により、文章力の低下が丸わかりですね。すみません…。

余談ですが、私もBL、GL共に地雷です。

なんでこれ書こうとしたんだ……

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