摂氏0℃に響く声
公園の電光掲示板には「現在の気温は 0℃」と書いてあった。
ハァー ハァー
僕はかじかむ両手に息を吹き掛けた。
――――吐く息が白い
真冬の公園は夜にもなると人陰すらなかった。
僕たちは公園のベンチに並んで座った。
「ごめんね。急に呼び出しちゃって……」
「ううん、大丈夫」
そう呟いた君のほっぺがほんのり赤く色付いているのが見えたので、僕は今すぐにでも自分の両手を使って温めてあげたいと思ってしまった。
緊張と寒さで震える。
落ち着け、俺!
はやる気持ちを抑えて僕は勇気を振り絞った。
「ずっと君のことが好きだったんだ!」
――――吐く息が白い
「うん。私も」
「ほんとに! 嬉しいな!!」
凍えていた体がまるで芯から温まっていくようだった。
「知ってたんでしょ?」
「いや、その、なんとなくだけど……実は、君の友達に聞いてて……」
僕は観念したように――――白い息を吐いた
「ふふふっ。やっぱり」
「いや、でも別に好きだとわかったから告白したんじゃなくて……」
「大丈夫! わかってる! それに私だって知ってたし」
「なんだよ、それ! あははっ」
「うふふふっ」
二人の――――吐く息が白い
少しだけ緊張感が解けた。
「今日は、寒いね。私寒いの苦手なんだ……」
「あ、ごめん。こんな寒い日に呼び出しちゃって。でもどうしても自分の口で伝えてたくて」
――――吐く息がさらに白くなった
「今日『ごめん』って言うの2回目だよ。そんなに謝らなくてもいいのに」
「あ、ごめ……じゃなかった、ありがとう。そうだ! 俺、そこのコンビニでなんか温まるもの買って来るよ。何がいい?」
「ありがとう。じゃあ『ピザまん』」
僕は飛び上がりたいほどの嬉しさを抑えて(それでも気がつけばスキップくらいはしてたかもしれないけど)、公園の目の前にあるコンビニに向かった。
初めての彼女に舞い上がっていたのかもしれない。
僕は缶コーヒーを2つと肉まんを1つ買った。
公園へ戻るとき、ベンチに座る優しそうな彼女を見たら急に実感が湧いてきた。
「お待たせ。 缶コーヒーと、あと肉まん」 ――――吐く息が白い
寒そうにしている彼女に手渡した。
「はぁ!? ピザまんっつったろうが! ボケぇ!! もういっぺん買ってこいや! あと、おまえ、吐く息が臭い!」
摂氏0℃の寒空の中、透き通った空気と誰もいない公園に君の怒号だけが鳴り響いた。
いくら舞い上がっていたとしても『ピザまん』と『肉まん』を間違えては行けません。特にドSの女性には。