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サイカイのやりかた :i  作者: ぎんぴえろ
第一章 『サイカイ兵士』
6/15

6.友達の作りかたを教えてくださいませ

前回のあらすじ

「弱い気持ち知りたいなら負けてよ魔人さん」


「弱すぎて負けられないんだけど」


「……。」

 

「パンは二つ、あと牛乳は少し温めて、スープはネギ抜きのいつも通りでお願いします。すみません」


 混み合う時間が過ぎた食堂は静かだからいいよねと、青年は毎日この時間帯にここを訪れていた。賑わい時は全席が埋まってしまい騒がしいものだが、今は部屋の端から端まで横に長く伸びたテーブが3つの各端に数人の兵士が集まり談笑しているのみ、全くというほどでもないが青年はこの時間が好きだった。


 青年は慣れた手つきで積まれたトレーから二つ、自分の前に置くとエプロンをつけた女性に声をかける。兵士限定の食堂で普段着のまま現れた青年に、女性は特に驚くこともなく二人分の食事をトレーに乗せた。


注文が多いにも関わらず、まるで最初から用意されていたかのようにすぐに置かれたそれを今一度確認した青年はぺこりと頭を下げ、自分の席へと移動する。


――無言ながらも感じる面倒な客が来たという雰囲気……文句なら食べるだけのあのバカに言ってくださいませだよ。


 彼は三つの長いテーブルではなく部屋の端、唯一置かれた二人用の小さいテーブルに腰を下ろす。食堂に入るための二つの扉から入ると見えない死角の位置にある、使い過ぎて足の高さが合っていないボロボロのテーブルだった。


 青年は椅子ですら揺れるそのテーブルに置いたトレーのうち一つを自分の元へ寄せ、もう一つを手前に置く。どうやら誰にも見られない場所にあるという理由で好きな様子だが、一度皆の座る席を通らなければならないこともあり遠くから青年をみてくすくすと笑う声が耳に入っていた。


 いつものことだ、青年はふんと鼻を一度鳴らすと両手を合わせた。


「しゅうちゃん見っけ」


「う、げ……じょ、情報漁りのド派手女」


「なにその長いあだ名。前座っていーい?」


 強がっていた青年の前に一人の女性が有無を言わさずに座って来る。死角にあるはずのこの場所にわざわざやって来る彼女に青年、修二(シュウジ)は「な、なんなんだよお前」とおどおどしはじめた。


「俺がは、はぶれてるのを見てからかいに来たのか? ざ、残念だったな、そんなことじゃ俺のガラスのハートは割れないぞ」


「くすっ、馬鹿だねしゅーちゃん。あんな奴ら(他所の兵士)と一緒にしないでよ。もしユナがしゅーちゃんを虐めるとしたら遠目から笑う程度じゃ済まないって」


「今割れたわ」


 非歓迎ムード全開の修二にニヤニヤと笑うだけの女性。それは修二が魔人少女と出会う前、まだ世話係の任務を得る前に突然現れた金髪の女性であった。


 年齢はおそらく修二と同い年くらいか、くらいと曖昧な言い方をするのは、160cmほどの小柄な背丈にも関わらず凹凸のしっかりとした引き締まった体つきによるものであった。彼女の年齢を分かり辛くしている要因のすらっとした体形というには主張し過ぎている胸と整った顔立ちが幾度か修二の目線を彷徨わせている。派手な金髪ということも相まって周囲の目線が死角であるはずのテーブルに集中してしまっている始末である。


 これで性格がよければ、出会ってまだ1ヶ月弱にも関わらず思ってしまう修二である。そんな彼やこちらを見ている兵士のことなど気にもしていない金髪の女性は「いや〜」と自分の頬を擦りながら続ける。


「良い情報仕入れるのってやっぱり大変だよね。徹夜しちゃってもうお肌カサカサ、お風呂入りたい〜!」


「へ、へぇ、そ、そうなのか?」


「まぁでも『上級兵士の浮気現場』抑えられたからいいかな~。でも乙女としてはやっぱ考えるじゃん?」


「お、おい、それを、まさか」


「だーじょぶ、大丈夫だって。口外なんてしないよ勿体ない。それをネタにまた新しい情報仕入れたほうが百倍良いと思うの。くまくま〜」


「ひ、酷いな。あとクマが言ってる風はやめてくれよ、シュールだ」


 ベラベラと勝手に話し始める彼女に、彼女が来てから落ち着きのない修二はおどおどとしたままボソボソと呟く。どこから取り出したのか、手のひらサイズより少し大きなクマのぬいぐるみの手を動かして修二にちょっかいをかけている。


 彼女の仕事は情報屋、パパラッチと言った方が正確なのかもしれない。大物人物の裏情報や国そのものの情報を売り物として商売する、あまり評判の良くない仕事である。


 情報屋の1人である自身をユナと呼ぶ彼女、その彼女が何故サイカイ兵士とのコンタクトを熱心に取ろうとするのか、それはサイカイ兵士本人が最も疑問符を浮かべているのだが、


「ねぇ、しゅーちゃん。まだユナに慣れてないの?もう1ヶ月は話してるし、そろそろ目くらい合わせても良くない?」


「……な、何言ってんだ合わせてるだろ」


「だから合わせてないってば。ほら、こっち向け〜?」


「ちょ、やめ!?――ッッ!」


 彼は異性に関わった経験どころか同性との友達関係すら上手く行っていないのだ、普段通りに話すなど無理な話である。


 否定しながら目線を再び逸らす修二に、情報屋は前のめりに彼へと近づくと鼻をツンとつまみ自身の方へと向けた。彼の目の前に彼女の顔があった。


 大きな瞳と長い睫毛、何故か甘い香りのする彼女が修二に顔を近づけニコッと笑う。修二は目をくらくらさせ顔を紅くしながらも慌てて彼女の手を弾いた。


 強引に弾かれた彼女は特に気にした様子もなく元の位置に座り「ま、冗談はこれくらいにしてさ」と話を変える。


「この頃しゅーちゃん、毎日二人分の用意してるけどなんで?」


「べ、べ、別になんだっていいだろ。早く帰れよもぅ」


「『あいつ友達いないから幻の友達作ってんだぜ、そいつ用だよ』って他の兵士が言ってたけど、それほんとくま?」


「嘘だろ、そんな噂立ってんの!?」


 自身の烙印が知らないうちに増えていたことに思わず咳き込んでしまう修二に、金髪女性がけらけらと笑う。ここで『友達用だ』などと言えば尚更興味を持たれかねないと判断した修二は慌てて、


「違うって、これは断じて幻じゃないの。そ、そんなことより俺に何か聞きに来たんじゃないのか?今ならどんなことでも話してあげるよ、有料で」


「有料なんだね、結局」


 話を逸らそうとするも下手くそ過ぎてバレバレな修二であったが、金髪の女性は特に追求する気もないらしい。「いやいや」とくまの手を横に振りながら、


「しゅーちゃんのところに来たのは情報を仕入ようとかじゃないよ。そんなのしゅーちゃんから望んでないし、今日はむしろ伝えに来たんだよね」


「つ、伝える?何を?」


()()()()()()()()()()()()()()があったってことをだよ。危険だからくれぐれも近づかないようにってね」


 無法地帯、その言葉にピクリと反応する。それは水の国の最西端にある小さな地区、荒くれ者や元犯罪者などが好んで住む、あまり治安の良くない地区の通称である。しかし、


「う、嘘だ、そんな話聞いてない。朝の訓練の時も言ってなかったし」


「信憑性が薄いからそうだろうね。今の無法地帯だったら何が起こっても不思議じゃないっていうか、『闇討ち』の残骸かもしれないし」


「闇討ち?」


 疑問符を浮かべる修二に「それも知らないの?」と彼女は続けた。


「無法地帯全体を仕切ってた総長が突然消えたとかでね、その後継者争いが激しくなってるの。その一つが『闇討ち』、相手勢力の人間を夜な夜な襲ったりしてるんだって。化け物を見たなんてトラウマになってる人までいるみたいだよ、おぉ怖い怖い」


「化け物……」


 最近その言葉をよく聞くな、と苦笑いを浮かべる彼の様子を気にすることなく彼女は「ん〜」と少し不満そうな顔を浮かべる。


「しゅーちゃんに話がされてないってなると兵士隊は『闇討ち』の影響って判断したんだろうねぇ。不法侵入の跡っぽかったけどなぁ〜ま、一応気をつけてね」


「……な、なぁ、なんで俺にそんな事をわざわざ伝えに来たんだ?あ、後払いってのは無しだぞ、そもそもお金持ってないからね」


「疑り深いな~。なんでもお金くっつけるのやめない?」


「何言ってんだ、お金は大事だろアホか」


「おぉう、そこは普通なんだ。しゅーちゃんってそういう場所にわざわざ行って死にそうじゃない。せっかく作ったパイプが見返りなしに死なれても困るしっていう母親目線かな」


「……バカにしてるの?」


「うん」


 流れかけた涙をなんとか堪える修二に、いつの間にか自分のトレーを空にしていた彼女は立ち上がるとひらひらと手を振る。もう用はないらしい。


「しゅーちゃん、死ぬなら良い情報を紙に書いてから死んでよね。『ユナ様に全財産を』って最後に付け足してくれたら墓くらいは作ってあげるよ。ってことであでゅ〜くま!」


 身もふたもないことを言いながらトレーを片付けに行こうとする彼女。本当にその情報を伝えに来ただけだったのかと安心する修二だったが、


「ま、待って!別の話になるけど、聞きたいことがあるんだ」


「んむ、なぁに?しゅーちゃんから呼び止められるのって初めてだね」


 はっとした表情で顔を上げると金髪の情報屋を呼び止める。くるりと振り返り素直に元の席へと戻ってくる彼女は「どうしたどうした」と期待した目で彼を見ている情報屋に修二はしばらく唸った後、


「あ、あのさ、お、女の子と友達になりたいんだけど、どど、どうしたらいいかな?」


「は?」


 素の表情でぽかんとする情報屋の顔を修二は直視できなかった。

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