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サイカイのやりかた :i  作者: ぎんぴえろ
第一章 『サイカイ兵士』
14/15

14.『……お腹すいた』

前回のあらすじ

国に残ることを決めた魔人は、連れ出そうとした大男達と対峙する。その理由は、サイカイ兵士であった。

 

「人間が魔人に勝てるというところを見せつけてやらねばな! 豪鬼の名が廃るというものよ、楽しもうや!」


 スタートはほぼ同時、両者が激突する。大男(ケレル)は間合いを詰めると一度その動きを止め、剛腕の力で鉄球を横なぶりに振った。加速する鉄球の速度を目で追いながら少女はさらに体制を低くする。自身の真上スレスレを通りすぎる鉄球、それを横目に大男(ケレル)へ向け足を蹴り上げた。


「安直だ。安直だぞ魔人娘!」


 大男(ケレル)も並みの兵士ではなかった。彼女が蹴りを打つと先読みしていたのだろう、伸びた鎖を空中で掴み取り強引に体全体を使って手前へと引き寄せる。ジャラジャラと音を立て、彼女の上を通り過ぎ他所へ進む加速していた鉄球を一度空中で停止させると、そのまま速度を加速させ引き戻す。


 鉄球が再び彼女の元へ襲いかかる中、それをチラとだけ見た彼女は伸ばそうとした脚をそのまま鉄球に宛がった。


 ゴンッ!!


 彼女の右足と重さ何十キロもある鉄球が空中で打つかり合い、鉄球が斜め上に弾け飛ぶ。大男の持つ鎖に引っ張られ1メートルほどではあったが、それでも彼女の裸足の片足による蹴りが勢いの乗った鉄球を弾き飛ばしたのだ。


 人間業ではない、あり得るはずがないその現象に大男は驚きもしない。続けて鎖を振るい再び彼女の射程を削ら始めた。先読みを先読みし、動きを牽制しながら自身の攻撃も加えていく。しかし、


 ――ダメだ……!やっぱり鉄球の範囲がバカ広すぎる、近づくことすらできないんだ。


 それでも圧していたのは大男であった。人間業ではないにしろ、それでも大男(ケレル)の鉄球がその差を縮めてしまう。現状彼女は脚しか武器がなく、大男(ケレル)の武器は彼の背丈と近い2メートル超の長い鎖でつながれた鉄球、それをその剛腕でヨーヨーのように振り回されてしまえば、誰も近づくことができない。加え、大男へ近づくことが出来たとしてもその剛腕の射程圏内になってしまうだけ。どちらも大男にとって有利と言える。


「ガハハハ、そこだ魔人娘!化け物といえど空中ではどうにも出来まい!」


 鉄球を回避するためタンッと飛び上がった彼女へ、大男は突っ込んだ。宙に浮いたままの魔人少女の隙だらけの体に一撃を加えんと懐まで迫りその拳を握る。


 魔人少女はその言葉に行動で答える。


 彼女は空中で自身の足の指を鎖の穴に入れるとくるくると回し始め、足の動作に合わせ数回円を書き絡みつく鎖をそのままグンッと引っ張った。下げていた左腕を前に出されてしまったことにより上手く力を加えられなかった拳が空を切る。


 瞬時、魔人少女は攻撃に転じた。


 足元から鎖を外し大男の後ろへと周った少女は鎖を手元へ移動させるとそれをそのまま真横へと投げる。大男の手元から繋がる鎖は彼の真後ろへ、そして真横へと流れ、大男を中心にした円を描き彼の右腕を拘束する。


 舌打ちをし振り返った大男の目先には、大男を一周し彼女の手元へ移った鉄球が見えた。


 片腕は塞がれ、避けようも無い状況を相手の武器で作り上げた彼女は、その手に持つ鉄球を放り投げた。完璧な一手、逃げられない。その中で、


「ガハハハ、そう人の武器を上手く使わんでくれや!!」


 大男は笑う。戦いそのものを楽しむかのように、彼女の戦い方を讃えるかのように笑う彼は襲いかかる鉄球に向け左の拳を突き立てた。


 皮膚が切れる音がした、骨の砕ける音がした。ただでさえ重量のある鉄球に速度の乗ったその剛撃は、大男の腕一つなど簡単に砕き破壊する。吸収できなかった衝撃が閉じていたはずの5つの指を四方八方に捻じ曲げる。ゴンッと音を立て落ちたその鉄球には、赤い血痕が付着していた。


「……もう、いい?」


「ガハハハ、ガハハハハハハハハ!!おいおい、片腕程度で勝った気になってんのか。ようやく温まってきたんだ、続けようぜ!」


 重傷を負った、されど大男はその顔に冷や汗1つ流していない。何事もなかったかのように拉げた左手で落ちた鎖を拾い上げる。まだ戦いは終わらない、それを行動で示す大男に魔人少女はため息をついた。


 たった数分間の死闘。それを間近で見ていたサイカイは、瞬きも忘れ見続けていた。


 ――ほ、ほんとうに、人間じゃ無いんだな……。


 彼はその全てを見ていた。いや、正確には見てはいたが速すぎて全くわからないまま見ていた。それでもこの2人が並の人間が戦える相手では無いということだけは彼にも理解できた。不良をたった1人でなぎ払った大男と互角に渡り合う少女が凄いのか、『魔人』と呼ばれる異質な才能を持つ彼女と互角に渡り合う大男が凄いのかと根本から考え直してしまうほどだ。

 

 しかし、やはり銀髪の彼女。その体格や見た目からは全く判断できないその戦闘能力に改めて超人であると、彼の頭の中には以前隊長が話していた内容が思い出された。


 ――――

『「敵の拠点の一つをたった一人で壊滅させた」、「敵の大駒である魔人と一騎打ちして勝った」などと聞いたな。戦力だけでいえば、騎士と引けを取らないんじゃないか』

 ―――――


 冗談半分に聞いていたその意味を、修二は今度こそ現実として受け止める。


「ガハハハ、おい魔人娘!!そう()()()()()()()()()()ワシもへこんでしまうんだがな!」


「……探し物。そっちが使()()()()()ようにしてるのが悪い」


「ガハハハハハ!そう言うなよ魔人娘、魔人と戦う上ではこれが鉄則なんだからよ!!」


 大男の顔に、余裕はない。あるのは焦りと、集中。彼女の四肢は確実に鎖に向かって、または大男自身の体に向かって再び一撃を加えんと小刻みに動いている中で、その一撃必殺級の彼女の攻撃は一度として受けるわけにはいかないのだ。その極限状態の中、大男は別のことにも注意を向ける必要があったのだ。


 それが使()()()()()という言葉に繋がるのだが、ただ見ているだけの修二にはその意味を理解することができない。


 そして、


「知能が高い、力が強い、異能を使えると言えど体の作りは人間と同じとなれば、その差をどうとでも詰めることが出来るわけだ。このようにな!」


「……ッ」


 やはり範囲の広い大男に分があった。片腕のダメージも彼の動きを牽制できるほどにはなっておらず最初同様、少しづつ少女が圧されていく。


 耐えられなかったのは彼女ではなく、彼女の纏っていた服であった。


 ボロボロの小さな布が、激しい攻防に耐えられるはずもなかった。はらりと落ちかけたそれを抑えたその隙に大男の拳が突き刺さる。容赦のない一撃は彼女の細い体をそのまま水路へと叩き込む。一度跳ねた水面が輪を広げる中、


「水中で呼吸はできない、魚類のように素早く泳ぐこともできない。人間と根本は変わらんお前ら魔人は圧倒的ではない。もうここで証明させてくれよ、魔人に人間が勝てる可能性があるってことを!!」


 その水面から、一つ、気泡が浮き出た。


 ゴシャァァァァァァァァァァァァァアアアアアア!!


 大男の鉄球が、その一瞬の異変を起こした地点から飛び出てきた魔人少女の顔面に突き刺さった。狙い的中。水柱により大きく飛び上がった彼女は避けることも出来ずその体を水路の壁へと叩きつけられてしまう。策略は完璧であった。壁に突き刺さった彼女はもう身動きも取ることはない。


「やり過ぎだおっさん、死んじゃうじゃないか!!」


 雨のように降り注ぐ水を受けながら、修二は自分の痛みも忘れ彼女の見える位置へと走りだす。彼女は水路の壁にめり込んでいた。押し込まれるように壁の中に埋もれた少女、その穴へ水が浸入していく姿が見える。彼の左腕を破壊したあの鉄球が、顔面に衝突したのだ。鼻が折れ曲がり、顔がつぶされていてもおかしくない。


「ガハハハ貧乏小僧、それは何の冗談だ。お前は魔人の世話係をしていたのだろう」


「え?」



「魔人が、この程度で死ぬかよ」



 むくり、と。大男の言葉に反応するように少女は寝起きのように顔を上げる。鼻から血を垂らしてはいるものの、仏頂面のまま何事もなかったかのように見下ろす大男を見ている。


「うそ、だろ……?」


 唖然。修二は歯を震わせそう呟いた。全身がずぶ濡れ、ボロボロの服は肩を抑えなければならなくなってはいるもののその体自体には酷い外傷が見受けられない。彼女が正面から受けた鉄球が、修二が今も痛みを堪えている左腕を壊したそれと同じかそれ以上などとどうしても認められなかった。


 そんな彼の横で、大男は再び鉄球を振り投げる。彼女に再びその剛撃を与えるべく投げられたそれは、鎖の交わる音を響かせ彼女は迫る。


「……単調」


 もう何度目か、速度が上がろうが変化球であろうが彼女は表情一つ変えない。もう避けることも面倒とでも言わんばかりに迫り来る鉄球をただ見つめ、


 とんっ


 少女は鉄球の上で逆立ちをした。


「は?」


 片手で鉄球を軸にまっすぐ伸びた彼女は、そのまま壁へと進む鉄球の動作に合わせ体を回転させる。真横に回った彼女はその足を鎖の上へ足を乗せ立ち上がった。まるで鎖を綱として、その上を渡るサーカス団員のように揺れる鎖の上であくびを一つ。その直後鎖を走り水路を渡ると鎖を持つ大男の顔を蹴り飛ばした。


 大男が四角い広場の端から端へ跳ね飛ぶ中、彼と入れ替わるように少女は修二の真横へ降り立つ。滴った髪から水滴をぽたぽたと垂らす彼女は前髪を鬱陶しそうにかきわけながら修二へと振り向いた。


「……シュウジ」


「え、な、なんだよ?」


「……お腹すいた」


「は?」


「おなか、すいた。……シュウジ、ごはん」


「お前ね、こんなとこでおにぎりとか出せると思うか、ん??」


「……使えない」


「おい」


「服も、ちぎれた」


「そもそも服じゃないだろ、それ」


 つなぎ目を結びつつながら、修二はその腕の細さに驚いた。こんな小さくて細い体であの2メートルを超える大男と対峙するということがどれほど恐ろしいことだろうか、それとも魔人という、ただ才能(それ)だけで恐怖そのものがなくなってしまうのかと。


 ーー才能が、より嫌いになりそうだ。


「で、でもお前、これからどうすんだ。あのおっさんまだまだ余力ありそうだし、おっさんの鉄球はお前にとってかなり邪魔なんじゃないか?」


「……面倒だけど、大丈夫」


 今まで見ていた修二が自身の見解を述べる。未だ彼女の勝てる未来が見えない。彼女の強さは人間のそれとは桁外れであることは理解したが、それは少女であるという事実からくる常識であり人間というくくりからすれば逸脱しているとは言い難い。現に、大男の方が鉄球の範囲の分勝っていると修二が見ても明らかだった。


 そう考えてしまうのは、魔人が化け物と呼ばれる所以を知らないからである。


 ただ力が強いだけでは異名で呼ばれることはない。そもそもの話、ただ力が強いだけであれば特別視されることはあったとしても『人間』という大きな括りから外さた『魔人』という別種扱いされることもないのだ。


「大丈夫ってお前、これ以上は何か特別なやりかたじゃないと」


「……うん、だから使()()()()()()()


「つ、使う?」


 つまりそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを意味している。


「――もう見つけたし、鉄パイプ」



 魔人(彼女)は、人間を逸脱する。




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