1561少女隊Forever - 7
「どうだ!」
どうだも何もないですよ。
「勝った!」
「大勝利!」
満足顔でハイタッチするB子&悠弐子。主観だ、主観全開でステージを肯定している。
そ……それでいいんですか?
確かに客は大盛り上がりでしたが、歌い踊り跳ね回る武者コス少女に見惚れてただけでは? 予定外の乱闘劇でヒートアップしてただけでは?
レイブパーティでキマってる客層とは異質の盛り上がり方でしたよ? むしろ闘牛とか闘鶏とか闘犬とかそういう見世物に熱狂しているお客さんみたいな……私も映像でしか知りませんけど……
(ま、いいか……)
音楽性とか小難しいことは脇に置いといて、思い切り騒いで叫んでスッキリ。舞台から見渡せば、そんな顔が並んでいた。それも一つの形かもしれない、幸せのカタチ。どんな音楽フェスだって多かれ少なかれ、騒ぎまくって浮世の垢をデトックスする。そんな「効能」もありますよね。
大団円に口を挟むのは無粋の一語ですよ。空気読みましょ空気! 日本人ですから!
「んまい!」
染みた醤油と辛子味こんにゃく頬張りながら、
「ありがと松が岬!」
感謝を精一杯表して裏へ下がる。
「ふぅ……」
女謙信(あの子)が観衆を味方につけかけた時はどうなるかと思いましたが。
「なーんとか無事に済んで良かった……」
そういえばあの子、大丈夫だったんでしょうか? 踏み潰されたりしてなければいいですけど……
「ふぃー」
それより喉が渇いたよ。河川敷でビールを呷るオジサンの羨ましいこと羨ましいこと。
「お疲れ、桜里子」
建設現場向けプレハブの「控室」へ戻ると悠弐子さん、慰労の飲み物を差し出してくれた。
「ありがとうございます悠弐子さん」
ごきゅごきゅ……ぷはー!
「んまーい!」
この乳酸菌飲料、甘み控えめなので喉が渇いた時も美味しく頂けるんですよ。
難があるとしたら容器が小さいことくらいかな?
「もっと飲みたいなら、まだまだあるから!」
ドサッ! 一ダース入りの箱がドンドンドンと積み重ねられる。
「わ、こんなに持ってきたんですか!」
戦場を駆け回った末に、全力ステージ。青春の汗はコレで補給ですね。
「ぷはー♪」
ごきゅごきゅ乳酸菌飲料を飲みながら思いを馳せる。
最初から最後までどうなることかとヒヤヒヤものの旅でしたけど、結果オーライ!
いい思い出ができましたよ。
(いや、もう絶対呼んで貰えないと思うけど……)
こんな危なっかしいバンドは懲り懲りだと思うんです、主催者の心中を慮れば。
「ふあぁ……」
なんだかもう、眠くなってきました。
散々暴れるだけ暴れてグースカとか子供みたいですけど……眠いものは仕方がない。
コクリと顎が落ちれば、そこに丁度いい枕が。
ごめんなさい悠弐子さん、少しだけ肩を借りていいですか?
「ええよー」
嘘っぽい関西弁で応えてくれた彼女の肩、暴れ馬を御する剣士様とは思えないほどか細くて……女の子らしい優美なラインで私の頬を受け止めてくれた。引き際の汗がシットリと、私の彼女の肌を馴染ませる。蕩けちゃいそなくらい、柔らかな皮膚感触。
少しだけイヤイヤと顎を振れば、髪の匂いが鼻腔を一杯に満たしてくる。
髪は人の中でも最も匂いの強い部分だって聞いたことがある。本当だ。どこよりも彼女の、悠弐子さ
んのフレーバーが私を満たして、意識を全部染めてくる。
ひどく素っ気ないプレハブ小屋だって、悠弐子さんの隣ならばスイートルーム。求めても得られないプレミアムスポットですよ。
こんな場所を独り占めできる 私 is 何?
同級生だから? 同じ部活だから? オマケでもバンドのメンバーだから?
ノンノン。
そんなの私以外の誰だって成り代われるじゃないですか?
何処が違うんですか? 教えて下さい悠弐子さん。どうして私だけ、こんなにも幸せな場所を甘受できてるんでしょうか?
がぶ。
腑抜けた多幸感に溺れてた私へ、伸し掛かってくる別の匂い。
瞼開ければ垂れてくる、この世のものとは思えない金の髪で彼女と知れるでしょう。
でも開けなくたって分かるんです。とても女子高生っぽくない匂いのせいで。エキゾチックなパヒュームは量産型女子高生と一線を画す不思議な匂い。
でも全然嫌じゃない。
がじ。
首筋に感じる、甘い痛み。甘噛みよりも少しだけ強い、熱情の痛み。
その痛みが私の浅はかさを教えてくれる。
「なぜ?」「どうして?」は浅知恵の徒労なのだと。論理より正しい、もっと野蛮で原始的な「True」が存在するのだと彼女は教えてくれる……そんな気がする。
分かりませんが。
いや、本当に分かりません。
物心ついてから数年の若輩者に、世の真理の何に迫れるというのですか?
訳知り顔でドヤってても野狐禅にすぎません。錯覚です。
だから今は……今はただ溺れてたい。気怠い疲労と柔らかな感触と痛みの中で溺れてたい。