1561少女隊Forever - 5
途中で止まったら滑落しそうな角度を一気に踏破!
旗本八万騎ならぬ精鋭三騎が、仮設ステージへと推して参る!
ああ……誇張しすぎました。正確には精鋭二騎とお荷物一頭です。はい。
「ハイヤァァァッァッ!」
見慣れない衆人環視に竿立ちとなる悠弐子さんの白い馬、しかし彼女は慌てる素振りもなく、手綱をグイと手繰り、昂る愛馬を見事に御す。
その様、アルプス越えのナポレオン像と見紛わんばかりで。
突如乱入した想定外に、舞台の演者も観客も関係者も、息を呑み凝固する。
優美さと気高さと、勇ましさと。
「 とてつもない何か 」というインプレッションが不特定多数を鷲掴みする。
「――松平蔵人左元康推参!」
だから言ったじゃないですか――――舞台はダメ。彩波悠弐子に治外法権を渡すようなものです。
現実との線引きを遂げてしまえば彼女は劇中の人となる。そしたら迂闊な手出しできません。彼女を捕まえたかったら舞台へ上げてはダメ。伊豆山権現へと逃げ込んだ北条政子になってしまいます!
「――そもさん!」
悠弐子さんが喋れば、色が変わる。舞台という共有幻想を以て劇空間を仕立てる力がある。
源泉は美。武者姿でも放たれる美の印象が異界を作り上げる。彼女は衣通姫。無骨な甲冑を着込んでなお、内から滲む美のオーラ。
「偽謙信!」
舞台上の演者たちは悠弐子さんが発する一語一語に耳を欹てる。義務だとでも言わんばかりに。
突如割り込んできた新キャラクターは何者か? 誰を自称して何を企図する者か? その辻褄が合わないと会話も成り立たない。
彼らが恐れるのは【塩っぱい役者】と蔑まされること。舞台の魔力とはShow must Go onの強迫観念です。舞台へ登った人は無意識に縛られる。こうあるべきだ、という概念の虜になる。
それを強引に付与するのは悠弐子さんの美しさ。
そもさんと挑まれたなら説破と受けて立たねばならない、美の一休さんです彼女は。
「――――嗚呼偽謙信! 貴様はどうして偽謙信なの?」
美しき一休さん、本家にも負けない禅問答を女謙信ちゃんへぶつけていく。
だけど悠弐子さん、その問は意味を為してなくないですか?
ミス上杉祭りは台本通り、新資料の再解釈説をまんま演ってるだけでは?
「どーせ謙信女性説とかいうチープなトンデモ説を根拠にしてんでしょ?」
悪態をつく悠弐子さん。背後で腕組みのB子ちゃんも渋い顔でウンウン頷いてる。
「悠弐子知ってる?」
何がでしょう?
「室町の怪物――――細川政元」
「えーと、確か半将軍さんでしたっけ?」
足利将軍を傀儡にして幕府の実権を握った人ですよね?
「その通り。北条得宗家や藤原摂関家に匹敵する、傀儡専制者よ!」
でも政元は室町時代の人ですよ? 謙信公と何の関係が?
「それほどに絶大な権力を保持した政元なのに子はいなかった。どうしてだと思う、桜里子?」
「ホモね! ホモソーセージ!」
何言ってんですか、このジャンヌ・ダルクは?
たとえ衆道に狂う変態性欲者であっても、強制的に女性を充てがわれるのが殿様という存在です。でないと家が成り立っていかない。拒否したら押し込めされてしまいます、家臣団から。
てかホモソーセージはhomogenizedの略語ですから。風評被害案件です。
「そうよ悠弐子。理由は別にある」
「と、いいますと?」
「政元は飯綱権現の行者だったのよ」
「いづな……ごんげん?」
「管領細川右京大夫政元、四十マデ女人禁制ニテ魔法飯綱ノ法ヲコレ行ヒ、サナガラ山伏ノ如シ」
「え? 童貞さんへの魔法免許交付って都市伝説だったんじゃ?」
「桜里子はお馬鹿さんぞな。本当に魔法が使えたなら暗殺なんてされないぞな」
「あ、そっか」
言われてみればその通りです、B子ちゃん。政元の最後は派手な暗殺劇でした。
「魔法の実在性は関係ないの! 実質的な日本の最高権力者が【信じていた】事実が大事なのよ!」
「そうなんですか?」
「日本の最高権力者ともなれば女など抱き放題よ!」
なに女子高生が真顔でそんなこと言ってんですか? 数千の観衆が見守る舞台で。
「なのにしなかった! ――何故か?」
戦場に響く勇ましくも可憐な声。
「科学の花が咲くまで、宗教こそが真理だったからよ」
ふと気がつけば上杉方武田方双方とも、真っ白な元結で髪を結ぶ悠弐子さんを、古式ゆかしい和風ポニーテールの甲冑少女に見惚れてます。
「科学時代から眺めれば迷妄を信じる野蛮人に見えようと、当時の人間にはそれが最新科学なのよ!」
十二単衣だろうが島田髷の花魁スタイルだろうが何でも似合う彼女が断じる。
「天然痘が猛威を奮った時代に百万とも言われる犠牲者を出しながら、どうして聖武天皇は大仏を造営させたたの? 莫大な国家予算を注ぎ込んで。貴族ですら疫病でバタバタ倒れる最中」
「寒気がするほどクレイジー! ――なのに断行した。なぜ?」
彩波悠弐子 - 尊敬する人 常盤御前。
「できると思ったから! 最新【科学】である仏典と仏像が日本をお護りくださる。鎮護国家は成ると信じてた。前近代とは呪術の支配する時代なのよ!」
でも私には、数百の仮装武者と数千の観客へ煽動を仕掛けるあなたは――彼女に見える。
日本史上誰もが恐れた賊軍のレッテル、それすら顧みずも上皇へ刃向かった日本有数の女傑にしてアジテーター――北条政子。
「つまり桜里子! どういうこと?」
心臓に悪いタイミングで山田を指してくる悠弐子さん!
もしも彼女が先生ならば、ドM教師として生徒たちに恐れられます。
「謙信公も宗教的メンタリティの持ち主だってことですか? キープザ不淫戒?」
「毘沙門信仰に篤かったことは周知の事実。幼年で寺に入り、高野山の僧から受戒を受けてるぞな」
現代の巴御前B子ちゃんが補足してくれた。豪奢な金髪はどう見てもジャンヌ・ダルクですが。
「あんたらの短絡――――罪よ!」
「ギルティクラウン!」
「子供を設けなかったから女性だの、ホモだの、脳がお花畑すぎ!」
「こーの人間日比谷花壇野郎!」
「だいたい謙信を『義の武将』とか神格化するなら、信仰にも誠実だったと考えるべきでしょ!」
「ぞな!」
「分かる桜里子? こういう奴ら! こういう奴らが歴史をダメに……」
「わー! わぁぁぁぁぁー! わぁぁぁぁぁぁー!」
本名は止めて下さいこんなところで本名は! バンドネームか何かで呼んで下さい! ただでさえ悠弐子さんはよく通る声してるんですから!
私たちの悪行……いえいえちょっとしたイタズラっぽいことは、なるべく伏せてかないと!
へいおんな女子高生生活を送るためには常に心掛けねばならない鉄則です!
「――万死に値するぞな!」
鮮やかな金の髪と装飾を奢った武者装束、血の匂いを錯覚するほど妖しく綺羅びやか。
美しい……美しいけど破滅的な色彩を以て断罪の剣を突きつける巴ジャンヌ。
「つか上杉謙信のどこがいいのか理解不能なんだけど?」
「戦国大名でもボトムラインぞな」
「え? 不敗の名将のどこが悪いんです? 越後の龍ですよ?」
いかにも英雄って感じですよ? 崇拝したくなる人の気持ちも分かりますけど?
「何がダメって散り際がよろしくない!」
「あー……」
「突然死が原因で内乱勃発、他国の介入を招いて大幅に国力を落としたじゃないの。最悪よ最悪!」
残された者からすれば愚痴の一つも漏らしたくなる顛末ではありますね……
「同じ死ぬにしても!」
B子ちゃん、舞台上で虐待を受けていた『信長』さんの首根っこを掴んで強調する。
「こいつみたいな最期なら派手な絵になるぞな!」
「なによ厠で倒れるって? そんなん画になるはずがないでしょ!」
「松永弾正を見習うべきぞな!」
「美しく散れば山本勘助ですら主役になれるのに……」
史実なのにクレームを入れられる。戦国武将さんも大変です。
「さっさと子供作って後継者に据えておかないからああいう羽目に陥るの! しっかりと周知確定させた跡継ぎに英才教育を施しとけば、関東管領家として東国から覇を唱えることもできたのに!」
「実際に徳川家は関東の覇者として東西決戦に勝利したぞな」
「いい? あんたら!」
「よくきけー!」
「戦国大名とは!」
「――とわ!」
「絶対遵守子作り許可証を所持する性貴族なのよ?」
「池田貴族!」
「いくら戦争が上手くたって、閨の内でも暴れん坊将軍じゃなきゃ片手落ちもいいところなの!」
「英雄、色を好む!」
「ばんばん子供を作って跡継ぎとスペアを用意する、それが出来てこそ一族郎党家臣団領民に至るまでホッと一安心なんだから! 乳幼児の死亡率とか現代とは比べものにならない時代なのよ!」
「余ったら寺へ入れときゃいいぞな」
「もし跡継ぎもなく殿が死んでしまったら……残された人は、みんな不幸になるんだからね?」
「血で血を洗う権力抗争が必然となるのは明々白々ぞな。謙信公から学べぞな」
「戦国時代に限らず、人間は放置すると勝手に派閥を作って権力闘争を始める生き物よ」
「だからこその機械的長子相続。生活の知恵!」
ああもう、話し始めると止まらないのが悠弐子さんの悪い癖。本来なら四十行くらい前で次の展開へ行けば綺麗に収まるのに。言いたいことだけ言って逃げちゃえば有耶無耶のうちに女子高生のオイタってことになるのに。
「――よしんば!」
余計に事が拗れちゃうじゃないですか、こんな風に。
「よしんば貴女の主張に一分の理があるとしても」
相手に付け入る隙を与えちゃうんですよ?
「虐げられている者を見捨てるなど、義に反します!」
捲し立てられた側は溜まってますよ、必殺技ゲージが、当然。一発逆転の逆襲技が跳ね返ってきてもおかしくはないですよ?
「謙信公は義の大将です!」
謙信役のミスJD。ゆるふわ茶髪ロングの越後精華。彼女の声は森の癒し。根拠に乏しい感情論であっても無垢の願いへと昇華する。
だからダメなんです反撃の機会を与えては。こういうの大好きですから! 男の人は! フリースタイルバトルの論破力よりもこっちの方を応援しちゃうんです、男って生き物は!
あれ見て下さい!
ステージ後方に据え付けられた大型ビジョン、カメラマンの画角が知らず知らずのうちに落ちてるじゃないですか! おっぱいという重力歪に落ち込んでるじゃないですか!
女子高生の瑞々しさとは一味違うフェロモン要素。ティーンから一皮剥け、女性らしい肉を蓄え始めた体に引き寄せられている。
てか、なんですその胸? 具足の胴が特注です、胸当てがおっぱいアーマーじゃないですか!
(あざとい! なんてあざといの!)
あざといと分かっていながら反応しちゃう、だからこその王道です。
むしろ、こういう人を揃えた方がいいんじゃないんですかね悠弐子さん? 少子化克服エンジェルの即戦力としては? 若干エンジェルって歳でもない気がしないでもないですが、聖母としての成熟度は私たちより随分勝ってる気がするんですが? 同性でも甘えたくなる母性の包容力。反論の棘すら、喋る傍からマイルドに溶けていくんです。万人を癒やす、ふんわりパーソナリティ。彼女の天職を挙げろと言われたら即座にエステシャンか保母さんって答えます。
「――――大義は我にあり!」
そんな子ですから、観衆の反応は当然、
ウワァァァァァァッッッッッ!
「謙信!」「謙信!」「謙信!」「謙信!」「謙信!」「謙信!」「謙信!」「謙信!」「謙信!」
好意へと転換されます。直感的にベビーフェイスと映りますよ、男性には。
そんな娘が一方的に責められている図ともなれば尚更「守ってあげたい!」という判官贔屓……というよりは下心モードが超活性します。当然です。男の人ならば。
「謙信ちゃん虐めるな!」
「可哀想だろ!」
「引っ込め!」
となれば、どちらがヒールか、一目瞭然。
「や、ヤバくないですか? 悠弐子さん????」
こんだけの人を敵に回したら敗北必至です!
合戦場の足軽ボーイズは勿論のこと、ギャラリー席の男性も女謙信ちゃんへの応援一色です!
「あーもーこれだから……」
なのに悠弐子さん余裕綽々。ヤレヤレと肩を竦めながら。
「ヒーローのパラドックス――様々な創作物で散々言及されたポンコツロジックぞな」
出来の悪い生徒に困り果てる講師の顔でリアクションを返す。
「ヒーローなら困ってる人を助けなければならない。それがヒーローの金科玉条としても……果たしてそれは為し得るもの? 現実的に?」
責める責めるそれでも責める。空気なんて読まずにドンドン責める。
「サンタクロース並みに一般の皆さんが代行を務めてくれないと無理ぞな。常識的に考えて」
こめかみに珍妙なハンドサインを掲げて…………ツノ? トナカイのツノですか?
「ヒーローの役目を無限拡大してったら、やがて物理限界を越える」
悠弐子さんの鞭はトナカイではなく僧形の女武者へ、言葉の鞭が放たれる。
「ヒーローにはヒーローの、警察や司法には警察や司法の、お母さんやお父さんにはお父さんやお母さんなりの役目がある。なんでもかんでもヒーローに助けを求めたらパンクしちゃうでしょ!」
「――つまりヒーロー機関説!」
「苟も越後守護代なら、関東管領なら、為すべきことがあるでしょ! その役職に見合った!」
「そんな自己憐憫かまってちゃんに感けてても仕方ないぞな!」
呆然とへたり込んでる「お市」を罵倒しつつ、
「だいたい越後から尾張って何日かかると思ってんの? 新幹線も高速もない時代に」
「そんな暇があるなら生命力旺盛な東女を捕まえて子作りでもしてるがいいぞな!」
有無を言わせず謙信を論破マウンティング!
「……どうしてそんなこと言うんですか?」
出た! 女の子最終兵器! 女の子という厳密定義からはハミ出し気味のアラハタガールでも、ごくごく自然な流れでティアーズフォーフィアーズです!
狙い通り、ギャラリー席の男子さんたち、オーバーヒート!
僕らの謙信ちゃんをイジメる奴は許さんぞの勢いでブーイングです!
「君たち! いい加減にしなさい!」
最悪の事態を危惧した法被姿のオジさんたち、遂にステージへリングイン!
背に腹は代えられぬ、醜態を晒しても収拾を優先させねば、と非常事態対応へシフトです!
本来ステージへ上がる資格がない関係者が雪崩込めば「舞台のフィクション性」は崩れます。
そうなれば、あとは素面の素っ気なさ。淡々と事務的に排除されちゃいますよ?
(た――助かった!)
だけどこれは、むしろチャンスです!
「逃げましょう悠弐子さん!」
今こそ千載一遇のタイミングです!
ここでドロンすれば、段取りに失敗したんだな、と観客も正常化バイアスを働かせてくれます。なかったことにしてもらえるんですよ、ちょっとしたアクシデントとして脳内処理……
「うぎゃあああああ!」
とか、ほくそ笑んだ傍から、二人はダブルドラゴン的な合体技で敵を蹴散らしています!
背中合わせで腕を組んだ上に、タイミングを合わせての旋風脚!
春麗のスピニングバードキックは再現が困難ですけど、これなら……いやいやいや!
普通の人は無理ですよ! 並のタイミングではジャンプすら果たせないまま不格好に墜落します。
だけどこの二人、フワリ上昇していくドローンみたいな揚力で「離陸」しながら捻りを加え、人体の急所を蹴っていきます。
な、なんだこのリアル無双系少女AとB?
組織的な指揮もなく五月雨式の制圧を目論んでも無駄です、これには。
「レリーズ!」
主人公を悩ます合体メカみたいに離れる二人。雑魚には破れまいとドヤ顔を浮かべながら。
ああ、悠弐子さん、それ完全に仇側のムーブです。悪の方です!
「このステージはー!」
「我々贅理部が占拠した!」
とか堂々と宣言するんですよ。もう頭が痛くなってきました。
「桜里子!」「桜里子!」「わー! わー! わー! わー! わー! わー! わー! わー!」
悠弐子さん!
「本名は止めて下さい!」
バレちゃうじゃないじゃないですか! バレたらだめなんです!
そんな不穏当宣言をブッ放しておきながら、身バレとか即通報&社会的に抹殺ですよ!
松の廊下刃傷事件級の即断でお家取り潰しですよ、女子高生という特権階級、剥奪です!
「じゃ、適当に名乗りましょ」
「ぞな」
は?
「我こそは三河の土豪上がり! 天下に轟く健康ヲタク、徳川家康!」
「産めよ増やせよ一橋チルドレン! 大江戸陰謀血脈王、一橋治済!」
「え? そんな名乗りあるんですか!?」
山田、ゆにばぁさりぃのしか用意してませんよ?
なのにビシッとポーズを決めた二人から「早くしろ」って目で急かされる。
徳川家斉、何やった人? 何か業績ありましたっけ?
ええと。
ええと。
ええと。
ええと。
……全っ然思い浮かばないし!
「し、白河の清き流れに住みかねて、元の濁れる田沼恋しき! 徳川家斉!」
これでいい? いい? よく分かんないけど?
ぎこちなく二人へお伺いを立てたのに、
「我ら徳川子沢山三銃士! 溺れる犬は石もて打て!」
私に構わず口上を進めちゃってるし!
「ゆ、悠弐子さん、そのフレーズはマズいんじゃないんですか? 徳川の血脈的に?」
「いいの! 吉宗の時に紀州家へ王朝交代してんだから、綱吉とは結構な遠縁よ!」
私とB子ちゃんはさておき、不敬千万な台詞を吐いている本人にとっては直系の曾孫ですよ?
「いい」
「いいんですか?」
「幕府の推しイデオロギーである朱子学では、祖先の方が圧倒的に偉いぞな」
「そうよ! 万事が権現様の言う通り! やっぱり世界はあたしレジェンドよ!」
ま、徳川家康担当でなくともアイムセンターオブザワールドですけど悠弐子さんは。
I am the world,I am the children.
It's true we'll make a better day Just me and me.ですけど。
(この歌詞、次の曲のラップパートに使おうかしら……)
はっ!
そうだ!
YOUは何しに僻地へ?
(バンドでしょバンド!)
模擬合戦イベントの邪魔にしに来たんじゃありませんよね?
「だから――やっちゃうわ!」
ハイヤー! ヒヒィィィィィィィィン!
再び馬を駆り、舞台裏へと突進する悠弐子さんとB子ちゃん!
「桜里子!」
「後は任せた!」
ま、任せるって何? 何をですか?
うぎゃー! とかヒギィィィィ! とか阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくるんですけど、舞台裏から。ステージへ上がってきた運営スタッフも血相を変えて裏へ戻っていきました。
「なんてことをするんですか!」
謙信ちゃんもお市や信長を連れて事態の収拾へ向かってしまい、
「……あ?」
残るは私一人、舞台にポツン。見渡す限りのお客さんたちの視線を一身に受けながら。
(マズい!!!!)
どうにかして劇性空間へと舞台を戻さねば!
そうしないと単なる無法者のイベント妨害になってしまう!
んなのが確定したら、取り返しのつかないペナルティを背負わざるを得なくなる!
(超マズい!!!!)