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私たちのフィールド・オブ・ドリームス - 6

「えっ?」

 ずずずずずずずずずずずずず……アッパーニューヨーク湾から迫り上がってくる赤衣の戦士!

 百三十年余りも同じポーズで立ち続けながら、突然動き出した場違いな女神!

 凱旋のヘリコプターを掴み獲り、敵意剥き出しで睨んできた奴!

「卑怯者が勝ち逃げできる世の中なんて許しません!」

 敵意のもとが私なら、話し合いなど無意味だ。

「――――ゆにばぁさりぃが許さない!」

 こうなったら潰し合い、殴り合いの末に勝った方が生き残る、至極単純な生存戦略。自分を否定してくる奴を潰して、その屍の上に未来を切り拓いていく! 今までもこれからも! それが福永心愛の生き方だもの!

「死ねぇぇぇぇぇぇ!」

 ニューヨーク湾に派手な波濤を立てて、猛然と突進する! 赤の巨人を打ち倒すために!

 貴様と私、生存権利が排他なら、やることは一つしかない!

 生き様を賭けた力比べを! 望むところよ!

 さぁ! 存分に潰し合いま…………

「じょわっっ!」



 ⇒⇒⇒⇒ SARIKO taking over ⇒⇒⇒⇒


「もんげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 断末魔の叫びを上げながらウルトラマン2Pは海へ没していった。

 ――おそらく。たぶん。

 私は想像するしかありません。先生が見ている悪夢の世界を。謎の希少キノコ【アタゴシャクインダケ】の乾燥粉末から作られた【いけない魔香ちゃん】。対亡国結社用殲滅兵器の導く人口悪夢の世界ですから。夢と現の境目が消失する必殺アイテムで、先生は彩波悠弐子の夢曼荼羅に取り込まれてしまっているのです。

 傍から見ると「VR映像に騙されて悶絶してる人」に見えなくもないですが。

 とりあえず先生は夢の中。

 耳元で戯言を囁けば、限りなく現実味を帯びた事象として脳内に「事実」が再構成されます。脳の補正機能に手助けされながら。

 いや、質が悪い。ほんと質が悪いです、この悪魔洗脳学習システム。

 彩波悠弐子とバースデイブラックチャイルド、一種の夢魔です。

「見たか! ――桜里子マンの公平世界信念光線!」

「よくやったわレオ……いえ桜里子」

 良かった……練習しといて良かった。咄嗟にビーム出せとか言われても無理ですからね。

 悠弐子さんに「全部観とけ」って言われた昭和ウルトラマンのファイト映像、何度も何度もイメージトレーニングしておいた成果が出ましたよ。

 …………いや?

 イメージトレーニングで成果は出るのか?

「んな細かいことより、聞き出すのよ肝心のことを!」

 意識朦朧の先生、その首根っこを掴んで「精神の海底」から引き揚げる。

「さぁ吐いてもらうわよ、福永心愛! 亡国結社【アヌスミラビリス】の工作員!」

 先生の目を覆うVRゴーグル、通称『Virtual Insanityくん』。今頃先生の視界には、拘束された秘密工作員を尋問する拷問部屋のイメージが投影されているんでしょう。多分。

「まずは所属を吐きなさい」

「よ、米沢興嬢館大学文学部メディア研究学科……」

「ちっがーう! そんな表向きの肩書は要らないのよ!」

「帝都放送アナウンス部預り……」

「嘘をつけぇぇぇい!」

 ああ! ダメですよ悠弐子さん! ここでゆにばあさりぃウイップを持ち出したりしたら!

 物理的な攻撃痕は法的にアウトです! 禁じ手ですよ! 言い訳できなくなります!

「ここはウソのない世界。本当のことを言わないと一生このままぞな」

 ていうかそれが嘘ですB子ちゃん、【いけない魔香ちゃん】の効力が切れたら目が覚めます。永遠に覚めなかったら大問題ですよ。

「そんな! もう何日も家に帰ってないのに、これ以上は嫌! 勘弁して!」

 にしても凄い、【いけない魔香ちゃん】のイマージナリーパワー。意識を失ってから数分しか経ってないのに、被験者の体感は数日に渡ってるらしい。まさに夢の世界の面目躍如。

「勘弁して貰いたかったら、洗いざらい喋れぞな」

 毎度思うけれど、「眠りながら会話が成り立ってる」のが凄い、【いけない魔香ちゃん】。寝言と会話する半覚醒状態、どんだけ絶妙な効能なんですかアタゴヒャクインダケ?

「嫌なら嫌でいいけど。またどこかで酷い目に遭ってもらうだけだし」

「改心するまで存分に責め苦を受けろぞな」

「それは待って! それはイヤ!」

 頭にガッチリと固定されたVirtual Insanityくんが外れそうなくらい、首を振って拒否する先生。

「あの……話してくれたら本当に帰して差し上げますから。保証します」

 不遜極まりない二人のゲームマスターに代わって、私が手を差し伸べる。

「できるだけ人倫に悖ることはしたくないんですよ私は……でもこの二人は躊躇しませんから。本当にヤるったらヤりますし」

 出来得る限り穏便に先生の耳元で囁いてみる。

「だから終わりにしましょう。話して下さい。それで楽になれます」

 うーんうーん脂汗を流しながら逡巡する福永先生。夢の中で。

「次はどこにしよ? 私怨による作為で選ばれた一般人が殺し合いする無人島とか?」

「プレーヤー同士が爆弾を投げつけあうデスゲーム開催ぞな」

「島には猛毒を持ったコモドドラゴンがウヨウヨ棲んでて……」

「わーっ! わぁぁぁーーーっ!」

 【いけない魔香ちゃん】は想像に現実味を付与する。僅かでも想像したら負け。

 なんて質が悪いんだ味方ながら。

「言う? 言う?」

 世界最強の毒液獣による恐怖の南国ハーレムが具現化されていきます。先生の脳内で。

「やっぱ送ろっか?」

「謎の軍用輸送機スタンバイ! 哀れなる参加者どもを積み込んで!」

「ひいっ! や、やめて!」

「言う?」

 邪悪な笑みを浮かべながら先生をLRから責める美少女AとB。

「血で血を洗う南国リゾートアイランドへようこそ!」

「テイクオフ!」

「わーっ! …………言います! 言いますから止めてぇぇぇぇぇぇ!」

「本当かな?」

 それでも綺麗だって、どういうことですか神様? 健全な精神は健全な肉体には宿りませんか?

「どうも嘘っぽいな。やっぱ飛ばそっか」

「嘘じゃない嘘じゃない嘘じゃないから!」

「で?」

「貴様の所属は?」

「さ…………サスライフラミンゴ置賜支部……」


「だめ。検索には引っ掛からんぞな」

「情報統制は完璧のようね」

 早押しボタンを押すと札が立つ、奇妙な帽子を被った悠弐子さん。ジャケットは米国旗柄というクラシカルなマジシャンみたいな格好。完全にイロモノなのに、それでも可愛いってどういうこと?

「サスライフラミンゴ置賜支部……表向きはマスコミ就職の情報交換会っぽいけど……」

「どんな黒い組織から汚い援助を受けているのか、分かったもんじゃないぞな」

 福永先生が漏らした組織名は確かに存在しました。しましたが……本命の、悪の亡国結社への痕跡は遡れませんでした。

「福永証言が嘘という可能性はないんですか?」

「ないわ」

「ないぞな」

 何を根拠に? ……と、尋ねるのが無粋なのでしょう。ゆにばぁさりぃ的には。

 悪の存在は刻まれている、私の中のアカシックレコードに書き込まれている。

 そのドグマを信じ切ればこそゆにばぁさりぃは、絶対正義の使徒を自認できるのです。

 本末転倒、因果倒錯。

 それくらいの無謬性を自ら担保しないと、正義の味方などやっとれんのでしょうね、多分。

 だから私は向いてないんですが。

「にしても桜里子……」

 かまぼこ目の悠弐子さんとB子ちゃん、抑えきれない含み笑い。

「悠弐子さんが着ろっていうから着たんのに!」

 そりゃ確かに、笑われても仕方ない格好かもしれませんが!

 真っ赤な全身タイツにシルバーのアクセを適当に架けた即席ウルトラマン。こんな格好したら誰だってコメディエンヌですよ! 悠弐子さんやB子ちゃんが着たって…………いや?

 全身タイツは素材の良さを雄弁に語る衣装かも。バランスの取れた女体のラインを余すところなく伝える服では? 美人が着用したらレトロモダンの旗手みたい見えちゃう?

 くそう。ズルいズルいです神様! こんなの不公平です!

「サスライフラミンゴ置賜支部……取り敢えず継続調査!」

「おー!」

 それでも悠弐子さんとB子ちゃんは意気揚々。

 果たして核心へ迫り損ねたとしても、悪魔の尻尾をちょん切った成果にはご満悦の模様です。

「その実態は【アヌスミラビリス】の下部組織なのか、あるいは裏で手を組んだ過激派か……」

「いずれにせよ――ゆにばぁさりぃ(あたしたち)の戦いはこれからよ!」

「ぞな!」

「少子化克服エンジェル!」

「We're!」

「「「ゆにばぁさりぃ!」」」


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