シュワルツェネッガーの来なかった世界で君は - 6
「誠に唐突ですが……福永先生が一身上の都合で教育実習を切り上げることになりました」
「は!?!?」
全校生徒および職員仰天のニュースは、朝の全校集会でサラッと発表されてしまった。それこそ福永先生(私のターゲット)は徳川慶喜の大政奉還並みの鮮やかさで自らの幕を引いたのです。
「ほんの短い間でしたが、お世話になりました」
当然、何も知らないままの生徒たち(私たち)は、お口ポカーンで壇上を見上げるしかなくて。
「桜里子釈然としない顔してる」
そりゃこんな顔にもなりますよ。
「いいのよ桜里子、存分に悔しがりなさい。その悔しい気持ちが正義の心なんだから」
ところが意外にも、隣りに座る悠弐子さんは達観の笑みを浮かべていて。
「悪には、罪に応じた報いを受けさせねば収まりつかないものよ。正しき義の戦士たる者」
「悪・即・斬! 生きて屍拾う者なし!」
「二度と叛意を起こす気もなくすほどの制裁! 死ぬほど痛めつけた上で屠る!」
「魔女の火炙りじゃないんですから見せしめの制裁なんて要りませんよ……」
「自分に嘘はいけないわ桜里子」
「正義の納得は、悪の断末魔を聴くまで得られんぞな」
「公平世界信念の徒は、悪の惨たらしい最期でのみ、納得を得るの。水戸黄門だって遠山の金さんだって暴れん坊将軍だって同じ。悪への制裁が果たされて視聴者は溜飲を下げるのよ」
今にも生殺与奪権を握り潰さんばかりの笑顔とでも言いましょうか? どう見ても邪な陣営に属する人の顔です悠弐子さん。それでもとびきりの美少女ですが。
「でもま、それは創作の世界の話だから」
「悪の最期を確信してフィニッシュの爆破を振り返らないヒーロー……あんな綺麗な収束ばかりじゃないわ、実際は」
説得力があるのかないのか分からない台詞です、悠弐子さん……
「確かに今回は不完全燃焼だったかもしれない。完膚なきまでに討ち果たし損ねたかもしれない」
『現役』の女子高生バトルヒロインとして悠弐子さんとB子ちゃんは断言する。
「だけど勝ちは勝ちよ!」
「背中を見せて逃げた方が負けぞな! サバンナであっても古戦場であっても!」
「ゆにばぁさりぃ大勝利! 勝った勝ったまた勝った!」
「敗北を知りたい!」
ところが翌日。
『本日より、このコーナーを担当させて頂くことになりました福永心愛です♪』
「は!?!?」
「どうして福永先生がテレビに!?!?」
局アナへの登竜門として有名な、素人さん起用のお天気コーナー枠。そこに出演しちゃってますけど昨日まで霞城中央で教育実習していた女子大生が!
「どういうことコレは?」
「ゆに公! 桜里子! これ!」
B子ちゃんが差し出してきたPCには二枚の写真が。
「ん?」
片方は武者コスプレではしゃぐ初老の男性、もう片方はプロカメラマンが撮ったスチール写真。
武者コスは画素の荒い……動画から切り出して拡大したような。でも見たことがある。これは上杉祭りのワンカット。背景で見切れている武者姿も、コスプレというかエキストラというか全然様になっていない。間違いなく現代人の「扮装」です。
スチール写真は校長先生ですね? プロのカメラマンが撮ったショットに補正まで盛って、かなり美化されてますけど校長先生ですよ。居酒屋のトイレから逃亡した破廉恥失楽園の人です。
「これを……」
戦国武将のつけ髭とモミアゲ、それをコピーして校長先生へ福笑い的に配置すれば……
「あっ!」
似てます! 雑コラされた校長先生、武者コスプレの人とソックリです!
「うちの校長――MHK会長と兄弟ぞな」
「嘘……」
こんな単純なことを何故今まで気がつかなかったのか?
自らの愚かさを呪いながら顔を見合わせる悠弐子さんとB子ちゃん、そして私。
『職業選択の自由、職業選択の自由アハハァァァ~ン♪』
「偽謙信は敗走を強いられたんじゃない!」
「逃走を 許 し て し ま っ た ――のは、あたしたちの方よ!」
「失態だ! ゆにばあさりぃ!」
「まんまと逃げ切られた!」




