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1561少女隊Forever - 2

挿絵(By みてみん)


「The Rising Sun!」「The Patoriots!」

「The Rising Sunにオファーぞな?」

「違うわよ、The Patoriotsによ」

「お、同じじゃないですか?」

 とか噛み合わない話が交わされる、ここは霞城中央高校、贅理部部室。

 最も静かで最も入りにくいと評判の、部室棟二階奥に位置する部屋です。

 私たち新設校の一期生なので、ユルユル審査基準で設立が認められた部活ゆとり世代なのですが、それにしたって贅理部。贅理部って言われて、どんな部活なのか連想できる人います?

 普通いないですよね……

 というか私自身、未だに何の部活かよく分からない。

 それなのに部室棟の最奥を堂々と「占拠」しているこの実態。

 終末の週末事件に於ける論功行賞なんでしょう。直接的に明示された覚えなどありませんが。

 暗黙の了解をバイブスとして感じる、それが日本人ですし。村社会の住人のあるべき姿ですし。

「せーっかくThe Patoriotsを直々に指名してくれたのよ? 応えるべきでしょ!」

 そんな現状を棚に上げ、熱っぽく主張を展開する彩波悠弐子さん。

 容貌のみで決めるならミス霞城中央は彼女しかいないと即座に全校一致でコンセンサスが成る美人にも関わらず、そのエキセントリック少女ガールな言動&行動によって腫れ物扱いされてる可哀想な(自業自得?)御仁です。

 同じ部活メンバーになってしばらく経ちますが……まだ慣れない。朝一のエンカウントでは心臓が止まりそうになる。毎日毎日が新鮮な驚きで感覚を刺激してくる『 美 』。

 「美人は三日で飽きる」なんて嘘です。だって、会う度に新鮮な感動で美意識がグイグイ揺さぶられちゃうんですから。飽きる美人は本当の美人ではないか、あるいは視る人の感性が粗末なだけです。

(ほんとに綺麗……)

 完璧美を求めすぎると不気味の谷に落ちる。寸分の狂いもない対称は非人間性の忌避を呼ぶ。

 絶妙にズレたアシンメトリーが、人間らしい雑味として美を際立たす。

 その塩梅が絶妙なのです、彩波悠弐子という子は。

「The Patoriotsの世界制覇、ここから始まる!」

 天は二物を与え給う。美しき器が奏でる妙なる調べ。

 彩波ワールドへと人を引き摺り込む副砲セカンドウェポンは声です。いわば彼女はシングライクトーキング、三流ラッパーなど及ぶべくもないドラマティックボイスの持ち主です。

 だもんだから、本気とも冗談とも判別できない大言壮語でも、大いに聞き手を惑わす。不特定多数から現実と虚構の線引きを盗り去ってく、いわば女ルパンです。るぱんるぱぁ~ん。

 入学直後、その最初の被害者となったのが新入生=同級生の男の子たち。

 誘蛾灯に群がる蛾の勢いで彼女の下へ寄ってきた彼らは、入部試験という名の狂宴に招かれ……


 ……ええと、まぁ、そういうことですよ。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883333445

 百名単位の(男子)入部希望者は、異常に目の粗い篩に掛けられて、敢えなく全滅。

 現在、贅理部の構成員は三名、全員女子となってます。

「いーや」

 というか一人だけいました。

「始まらんぞな、The Patoriotsじゃ始まらんぞな」

 悠弐子さんのローレライボイスにも屈しない子が。

「The Rising Sunなら――始まるけど」

 日本語を喋ってるのが不思議なくらい外人然とした美少女が。

 バースデイ・ブラックチャイルドという名を持つハーフ女子高生は、碧眼金髪に白い肌。日本人が思う「ガイジンさん」のパブリックイメージから一ミクロンもズレてない子で……いや、よくよく考えてみれば、それはあくまでスクリーンやモニタ越しの外人さんのイメージで、外人さんが全員、眼を見張るよなブロンドで、宝石みたいなエキゾチックな瞳のアリスだなんてことはない。衆目美麗のハリウッドスターから小錦や曙を性転換したみたいな女性まで千差万別です。

 あ、てことはあれですか? B子ちゃんはアクトレス並の美貌ってこと?

(かもしれない……?)

 だって、この二人が並ぶ絵って……現実感の喪失が甚だしい。

 女子高生のアベレージから掛け離れた、美の権化が二輪。殺風景な空き教室で咲き誇ってます。

「どうして分かんないのB子? シンプルさ! シンプルこそ万物の真理へと辿り着く道、たった一つの冴えたやり方よ! 神は煩雑な公式を書き給わず!」

 取り留めのない雑談であっても豪勢に花が舞い散る――錯覚が見える、悠弐子さん。

「動的な喚起こそ名前の存在価値ぞな! その点RinsingするSunなら万人想起! 燃え盛る力をぶわぶわぶわぁぁぁぁぁって!」

 身体いっぱい使って天空の核融合反応を表現するバースディ嬢。

「いまどきRising Sunとか珍走団だってつけないって。センスが昭和!」

「PatoriotsはNFLと被ってんじゃん? タイホだータイホ、ゆに公タイーホ!」

「あ? んなの関係ねーし!」

「あーりーまーすー」

「根拠は~? どの法律の第何条第何項の何文字目ですか?」

「エンブレム佐野並みの大炎上待ったなし! ゆに公、ネットの力で社会的に抹殺されるぞな!」

 私は私でよかった。

 だって、私は私が見えない。もし他者の視線で贅理部ここを覗いたなら――思わず二度見してしまうメチャクチャな美人がお二人様と、引き立て役にもなってない地味子が映る。残酷な比較は、自己嫌悪よりも申し訳なさで居た堪れなくなりそう。美しさは罪、飛び抜けすぎた美しさはギルティ。

「B子」

 サムアップを横倒しして、鎖骨の前で滑らす悠弐子さん。優雅です。

 同じ素材で成り立つ炭素構成体と思えないほど、別次元のキラキラン。恋のキラキラン伝説。

「ゆに公」

 B子ちゃんはサムアップした両拳を下向きに振る。

 何を演らせても絵になります美少女という生き物は。何気ない一挙手一投足でも目を奪われる。特別なオーラっぽいものでも出てるんですかね? フェロモン的な。蛾の鱗粉的な。花粉的な。美少女好き好き粉みたいなのが? それに惑わされて私たちは美の虜になる?

(もしそんなものが実在するのなら……最も毒されているのは山田ですね)

 この二人と最も近しく、最も濃密な時間を過ぎしてきたのはこの山田桜里子と胸を張れる。既に毒素は脳幹や中枢神経まで染み渡り、取り返しのつかないことになっているはずです。

 もしも仮にあるのならばの話ですが。ないですよね常識的に考えれば。

「今日こそ」

 悠弐子さんの髪。プリーツスカートまで届きそうな長い髪。普通ここまで長けりゃ必ず枝毛とかほつれが生じるもんでしょ? なのに、その類の秩序を乱す毛が見当たらないの。部室で惰眠を貪っている悠弐子さんを念入りに観察したことあるけど……なかった。一本も。あらゆる髪の毛が根本から毛先までツヤッツヤ。どきどきツヤッチオ。

「決着――つけよか」

 首をコキコキ鳴らしながら器用に肩を回す悠弐子さん。すると髪も連動して揺れて……数センチ幅の単位でサラサラ流れ落ちる紙束。綺麗に整えられた、房飾りみたいな趣で。細い短冊の面が一定の光加減で輝いて順繰り雪崩落ちる。同じ人間の髪とは思えない……凡人からしたら一種の怪異です。

 加えて言うと、特筆すべきは色。日本人の髪は単一の黒に見えて実は違う。強い光を当てると光沢に色味が現れる。緑だったり赤っぽかったり茶色がかってたり。なのに悠弐子さんはあくまで「黒」。艶めく黒と光らない黒が混在積層して、黒曜石みたいなグラデーションを放っている。

 こんな美人ですからね、当然のように隠し撮り写真も出回りますよ。

 で、その写真を「どうせPhotoShopだろう?」と侮った人も、本物を前にすれば絶句。

 圧倒されるんです――――迸る生命力、その瑞瑞しさ。

「望むところぞな」

 勿論こっちの金髪さんも負けず劣らずで。繊細な金の繊維は日常性を粉々に壊す刺激物です。

「往生せいやー聖闘士星矢」

 日本語を喋ってるのが不思議なくらいですからね。カツラ疑惑は持ち上がらなくとも、実は口パクしてるだけで別人がアフレコしている疑惑なら、うっかり信じそうになるくらいの違和感です。

「ゆに公、今度という今度は貴様を(※This word has been deleted by SARIKO.)!!!!」

 あーダメダメダメ! ダメですB子ちゃん! 汚い言葉はNGですNG!

 美少女は美しくたおやかに。鈴の音みたいな声ならばこそ、清く美しい言葉遣いで……

「やんのかコラァ!」「今日こそ、地獄の底へ送ってやんよ!」

 熊の手をした二人の美少女が恋人つなぎならぬロックアップで息む。がるるがるるがるがる、相手を捻じ伏せるべく最大出力! 本気です! ――この二人は本気です!

「やーめーてー! やーめーてーくーだーさーい!」

 目を離すとすぐにこれ。頭が痛いというか胃が痛いというか。

 悠弐子さんとB子ちゃんは反物質。電荷は異なっていても、質量やスピンは同じです。

 だからこそ打ち消し合う存在とでもいうか、対消滅の際には爆発的エネルギーを放出するのです。

 自分たちは本質的に同じ。世界に私は二人も要らない。

 私には実感できないですが。あくまで推測ですが……こんだけの美少女になると世界=自分という概念的統合が為されていても不思議じゃないような気もする。

 私、山田桜里子は、これを美少女天動説と名づけて学会に発表……って、どの学会にでしょう?

「金髪【※自主規制】野郎がセンスの欠片もない名前に固執するのが悪いんでしょ!」

「ぺ、から始まる名前とかありえないぞな! 日本人の言語センスなら」

「どの口が言うか、毛唐女!」

「日本人ぞな!」

 私も一度はそんな罵倒を受けてみたかった。

 どっから見てもガイジン然とした彼女を前にしてなんですが……実は私もハーフでして。

 本名 山田・ルイーズ・桜里子と申しまして。こう見えて日仏ハーフなのです。私の場合は日本人にしか見られませんけど。エクストラバージンピュアオイルジャパニーズガールですよ、外見は。

 せめて何らかの西洋人ギミックを欠片でも醸せていたら、ワンアンドオンリーな魅力として自信が持ててたかもしれないのに……私は日本人に埋没する、日本人オブ日本人。

 だからこそ愛され女子高生になるため研鑽を積んできたんです。新設高校での華麗なる高校デビューを果たすために、磨きに磨いた女子の力。

 それで! 掴めるはずだったのに! 甘くて少しホロ苦い恋愛劇チョコレートラブの主役を!

 なのに何ですか?

 女子高生という爆アドを一瞬で霧散させるスタチューオブビューティーズ。比類なき美貌で異性の関心を丸ごと飲み込む恋愛原子核。敵わない。こんな同級生がいたら絶対に敵わない。

「ふん!」「ふん!」

 キャッチ・アズ・キャッチ・キャンスタイルのロックアップで相手を捻じ伏せにかかる二人。

 息む声すらメロディアス。奥歯噛みしめる表情すらマーベラス。

 こんな状態ですら目を惹いてしまうんですよ、美少女って生き物は。マイナスポイントでも逆に愛らしく見えるくらいの人こそ本物です。痘痕も笑窪とは一種の魔術なのです。美の概念が認識を捻じ曲げていく視覚的衝撃ヴィジュアルショックPsychedelic Violence Crime of Visual Shockです。

「こーのーぱつきんめー! にゃんきーごーほぉーむ!」

「うるひゃい! ぼうりょくおんにゃー!」

「ああ! 顔は止めて下さいね顔は!」

 頬を引っ張り合い始めた二人を慌てて制止! 顔はダメです顔面禁止! それは世界の財産です!

「「桜里子!」」

「は、はぃいっ!」

 左右から同時に睨まれた!

「「あんたはどっち?」」

 どっちって言われても……

「The Patoriots!」

「The Rising Sun!」

「「どっち?」」

 怖い! 怖いです! 美形の人から睨まれると本当に怖いです! 目力が半端じゃないし!

 心臓を抉る視線と視線が両側から突き刺さってくる!

「あ……あの……その……」

 止めに入ったはずなのに、拘束されてる。美少女の胸と胸の間で、挟まれて動けない。

「同票ならリーダーに従うべきでしょ? 桜里子だってそう思うよね?」

「まぁ常識的に考えればそうかもしれませんけど……」

 こいつが? アタマ大丈夫? と不満顔のB子ちゃん。言わんとしていることはわかります。

 部活のリーダーが部活以外でもリーダーたる必然性はない、従う必要はないです。

「でも……そんなこと言ってたら永遠に」

 決めなきゃいけないことも決まりません。多数決には奇数でないと成り立たない致命的欠陥が内包されているんです。

「決まる」

 ニヤリ笑ったB子ちゃん、そして悠弐子さん。

「決まるわね」

 何故なら贅理部は奇数ではなくなったから。私(新入部員)の存在が引き鉄となり。

「もちろん桜里子はThe Patoriotsよね」

「The Rising Sunに決まっとるぞな」

「「どっち?」」

 ……正直に言っていいですか?

 ぶっちゃけどっちでもいいと思います、バンド名なんて!

 名よりも曲が、曲が素晴らしければ万人が認める名として通用すると思うんです。どんなのでも。

 だってサザンオールスターズとかダサさの極みじゃないですか?

 ミスターチルドレンとかセンスの欠片もな…………すいません言い過ぎました。

 誰もが認める名曲を世に問えば、名前なんて後から勝手に箔が付くような気がします。

 キングカメハメハとか速そうに感じられますか?

 ダービーを獲って種牡馬として大成功したから「偉大!」って聞こえるんじゃないんですかね?

 速水もこみちとかイケメンだから格好良くに聴こえるんじゃないんですか?

「The Patoriots!」

「The Rising Sun!」

「「どっち?」」

 でも私が決めないと、収まらない。美少女が傷つけ合うとか人類の損失です。

 かといって、どっち選んでも禍根が残る。どちらに与しても角が立つ。

「はわわわわわ……」

 どうするどうするどうする私? 場を穏便に収めるには、どう答えれば?

 三人しか所属してない部活なんだから露骨な派閥形成は避けなきゃいけないのに!

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