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太陽は僕らの敵 - 5

 とかとか、誰もいない調理実習室で溜息吐いてたら、

 ――バコッ!

「「福永心愛は、あやしい!」」

 備えつけの業務用冷蔵庫から飛び出してくる解凍美少女たち。

 暑さで機能停止した悠弐子さんとB子ちゃん、巨大フリーザーの力を借りてカンバックです。

 霞城中央の氷柱花マーベリックフローズンが文字通り凍る寸前、中から飛び出てきました。

「い、いやちょっと待って下さい悠弐子さん! それはちょっとおかしくないですか?」

「何がよ?」

「福永先生の施政方針演説聞きましたよね?」

 いくら暑さで脳の動作周波数が低下してたとしても大体は。

 恋愛の自由の保障、恋愛至上主義こそラブロマンティックのイデオロギーだとしたら、福永先生はそれを制限することも吝かではない、むしろ正しいことと言い放った。

「恋愛撲滅軍ですよね、悠弐子さんも福永先生も?」

 婚姻届を胸に認めた恋愛特攻隊ですし、二人とも。

 悠弐子さんのお約束アンセムは「ロマンティックラブイデオロギーを殺せ!」ですよね?

 過度な恋愛崇拝は少子化の根源で、憎むべき悪の思想だって吠えてますよね?

「考え方としては同じ陣営じゃないんですか?」

 常識的に考えて、福永先生の主張は山田寄りではなく悠弐子B子寄りだと思うんですけど?

「甘い!」

「甘すぎるぞな、桜里子!」

「それが奴らの常套手段なの!」

「グウの音も出ない正論には罠が潜んでるのよ!」

「ええええええええ!」

 正論を吐いても疑われちゃうんですか? それはあまりに理不尽では?

「桜里子」

 氷の温度で私の手を握りながら、悠弐子さんは語る。

「福永心愛は――アンダーカバーの可能性がある」

「アンダーカバー?」

 なんですそれ? ストーンズのアルバム?

「私は良識ある人間です、と油断させておいて相手の懐へ潜り込む工作員よ!」

「良識派の仮面で名を売っておいて、その影響力を邪悪思想の吹聴に使う!」

「心理学者とかカルト宗教のルポライターとかネットやサブカルに詳しい金髪三文ライターとか憲法学者とか社会派映画監督とかお笑い崩れとかトレンディドラマ崩れとか、枚挙に暇がないでしょ!」

「悪の泣いた赤鬼ぞな! ブルー&レッドオーガ方式の自己マッチポンプぞな!」

「良識的オピニオンリーダー面した悪の扇動者のやり口ぞな!」

「赤ずきんを食べようとした狼だって、口先の論理は正しかった!」

「疑うことを知らない赤ずきんじゃいられないの!」

 悠弐子さん……なんか気分次第で責めてませんか? 気に入らない人を【悪】認定してません?

 冷房を止められた恨みから、八つ当たり的な怨恨が発生してませんか?

 福永先生が悪の秘密結社と繋がってる客観的な証拠なんて……

「ある!」


 商店街のファーストフードまで撤退した贅理部、ここで防衛戦の引き直しです。

「これより第一回 福永心愛対策会議を執り行います!」

 キンキン冷房で調子を取り戻した悠弐子さん、地球の未来を託された秘密機関の議長っぽく。

「今回の上杉軍の関東侵攻には――――奇妙な点が存在するわ」

「小田原城がアッという間に落城した所じゃないでしょうか。冷房攻めで」

 灼熱地獄の部室棟など一秒も居られるか! と根城を放棄する羽目になりました。

「違うわ桜里子」

 それでも、霞城中央の北条氏康と北条氏政は語る。左右両側から私の肩を叩きながら。

「私たちが正義の心を失わない限り」

「ここが我らの小田原城ぞな」

 む、無駄に格好いい、この美少女ども……思わず見惚れてしまったじゃないの。

 何ていうんでしょ? キメ顔の精度とでも?

 凡人が吐いたら苦笑を禁じ得ない台詞であればあるほど、彼女と彼女は艶やかに吟じてしまう。

 生来の舞台性とでも言ったらいいか、美少女は突然劇空間を具現化させる。それはもう鮮やかに。

「常識的に考えて、普通じゃない事実が存在する」

 常識的?

「福永心愛の身分は関東管領職……ではなくて教育実習生である」

「ええそうです」

「教育実習生って普通は母校に迎えてもらうものでしょ?」

「あ……」

 言われてみればその通り。教育実習は自分が卒業した学校で行うことになっているはず……

「なのに福永心愛は霞城中央へやってきた。縁もゆかりもない新設校に!」

 か……考えてみれば!

福永心愛あいつは上杉祭の謙信よ! 新幹線で二時間半も掛かる田舎の祭、その姫として地元から選出された女子大生よ!」

「…………」

「狙いは何? 偽謙信は何を狙って霞城中央へ押し寄せた?」

「上杉謙信が三国峠を越えてきたのは、失われた室町幕府の覇権を取り戻すためぞな」

「覇権って何? 天下に覇を唱える権威とは?」

「な、なんでしょう?」

「これよ!」

 ここぞとばかりに悠弐子さんが掲げる。

「……『女真族』?」

 それと「現代の覇権」に何の関係があるんですか?

「あるんだぞな」

 B子ちゃんのPCに上杉祭りのニュース映像が再生される。

『河川敷の特設ステージでは、次期胚芽ドラマ候補との呼び声も高い「女城主謙信~姫たちの真実、七重八重の桜燃ゆる家族~」の再現劇も披露され、観客から盛んな拍手を浴びていました』

 見覚えのないアナウンサーは地方局の地元密着ニュースでしょうか?

 良かった……舞台へ乱入する暴走武者のシーンは映ってなかった。女子高生の恥を世界へ発信せずに済んだみたい。ありがとう地方局! 編集は正義!

「そこじゃないぞな桜里子」

 舞台で舞い踊る見目麗しい女謙信のシーンではなく、B子ちゃんは別の短いカットを指し、

「こいつ」

 VIP席ですか? 来賓に混じって福永心愛先生も談笑していますね、隣の男性と。

 恰幅のいい初老の男性です。年甲斐もなく鎧武者コスプレもノリノリの。戦国武者っぽい豪壮な鼻髭とプレスリー級のモミアゲまでアタッチメントして。

「名は黄澤虎三――天下のMHK会長にして、胚芽ドラマ制作部の最高責任者ぞな」

「え、そうなんですか?」

 最有力作品であっても最後まで抜かりなく接待攻勢ですか?

「福永の!」

 悠弐子さんB子ちゃん、やおらソファーから立ち上がり、

「正体見たり!」

「枯れ尾花!」

 いや、まぁそう続けるしかないじゃないですか。そういう枕詞なんですし。朗々と吟じられたら、そりゃあ私も言葉を継がぬわけには。

「コレが動かぬ証拠よ!」

「結託してるぞな、福永心愛とMHKの悪徳幹部は!」

「邪悪と邪悪がタッグを組んで、邪悪な偽歴史観を押しつけようとしているのよ! 女真族という【黒い聖書バイブルブラック】を聖典として【黒いファンミーティング】を企てているのよ!」

「つまりこれは!」

「間違いなく!」

「日本侵攻計画の一端ね!」

「許すまじ亡国結社!」

「「【アヌスミラビリス】!」」

「ま……またそれですか……?」


「ならばWe're ゆにばぁさりぃ!」

「――しゅつどうよ!」

「いや、しゅつどう言われてもですね、悠弐子さん……」

 思い立ったが吉日と怒涛の勢いで道玄坂をヒルクライムしてきましたが……

「アポなしじゃ入れませんよ?」

 放送局ですし。

「入れる」

 無理です絶対に。腐っても天下の報道機関です。ライブハウスみたいに顔パスってわけには。

「まさかまたウイドーメイカー号のプリンタで入館証を出力とか、そういうんじゃ?」

「そんなザルセキュリティなわけないでしょ」

「非常識、桜里子は非常識」

「ど! どの口が言うかぁー!」

 この私が非常識ですと? 誰が! 誰と比べて誰がですか!

 散々私を引っ張り回してきたくせに! どんだけ私が被らなくてもいい迷惑まで被ってきたと!

「この口か! この口が言うか!」

 ああもう憎たらしい、この美少女ども!

 ビローンって! ビローンってほっぺたをムササビの羽根みたいに広げてしまおうか!

「あの……君たち」

 振り返ればカジュアルな格好の中年男性が、怪訝な顔で私たちを咎めていた。

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