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太陽は僕らの敵 - 4

「今日は少しだけ教科書から逸れた話をしちゃいますね」

 遮光のロールスクリーンが降ろされ、簡易的な暗室となった教室でプロジェクターが投影される。

「今、先生が大学で学んでいること、それは人類の抱える問題点です」

 闇に浮かれる教室も構わず、福永先生は話を進めていく。

「まず、この資料を見て下さい」

 パシャリ。

「これらは産業革命以来、人類が地球を汚し続けてきた記録です」

 スクリーンに惨たらしく伐採された森と、垂れ流された汚染物質の写真が映し出される。

「近代文明は、それまでとは比較にならない負荷を環境に与え、自然環境を破壊してきました」

 淡々と、しかしショッキングな画像群の羅列が続けば、教室も静寂に包まれる。

「人も自然の一部ですから、その摂理を蔑ろにすれば必ず竹箆返しを被ります」

 土砂崩れや暴風などの自然の猛威をスライドしながら福永先生は訴える。センセーショナルに煽る口調ではなく、あくまでフラットに押しつけがましくならない話し方で。

「私たちは真摯に行いを反省し、美しい地球のために理性的な選択をしなくてはならないのです」

 まるで母が児を諭すような慈愛の声。いつしか他の生徒たちも福永先生の話に聴き入ってました。

「まず自分が出来ることから、少しづつでも環境に配慮した社会を作っていきましょう」

「…………」

「調和、それこそが我々に求められる人類の理性なのです」

 スライドショーのための暗室が解かれ、照明が戻ると……

「ご清聴、ありがとうございました」

 パチ……パチパチパチパチパチ、パチパチパチパチパチパチパチ。

 自発的な拍手がアチコチから沸き起こる。

「いやー、さすがは地球環境学部の才媛ですな」

「非常に分かりやすくて良かったじゃないですか」

 見守る先生からも高評価。

「素敵でした先生!」

「私、共感しました……私も地球に優しくありたいなって思いました!」

「僕たちも協力します! クールビズ、クールスクールライフ!」

 生徒も口々の賛同の意を表して、拍手を送ります。

 外国の著名人が感動的なスピーチをしたとこみたいな状況になってますよ?

 生徒も教師もスタンディングオベーション。

 明るい明日へレディゴーッ! みたいな熱気がムンムン…………熱気?

「奴は怪し……い……」

「間違いなくアヌスミラビリ……スの……」

 あ、止まった。

 福永先生の真意を探るべく授業に集中していた悠弐子さんとB子ちゃん、機能停止。

 締め切った暗室環境と、忖度によって甘くなった冷房のお陰で。

 二十八度設定で美少女の活動限界を越えたみたいです。放熱不備で熱暴走です。

「……本当に?」

 止まっちゃうんですか美少女って?

「キサマの魂、俺にくれっ!」

 ぱふっ。

 悠弐子さんの胸へ撃ち込むハートブレイクショット。

「うむ……」

 今なら私でも殺れそうです。伊達英二でなくともKOできてしまいそうです。生ける屍美少女、リビングデッドビューティじゃないですか。

 やはり美少女の放熱機構は壊れているのでは?

 こんな木偶の坊状態なら私だって殺れちゃいます。悪の組織から送り込まれた正義抹殺コマンダーなら何をか言わんや。

 この状況証拠からして、福永先生は亡国結社の関係者とは思えません。

 客観的に見て。常識的に考えて。陰謀論が効きすぎています、悠弐子さんの見解には。

「福永先生! 私も環境保護のこと知りたいんですけど、何か参考になる本とかありますか?」

 リクスーの初々しさが眩しい福永先生、ちょっとだけお姉さんっぽさで親近感抜群です。

「それならね……」

 女子は子猿みたいにまとわりつき、その周囲には男子たち。全員が先生へ思慕の視線を送ってる。

 分かってはいたけど男の子、こういう身近なお姉さん的な可愛らしさに弱い! 滅茶苦茶弱い、この年頃の男の子ってば! お姉ちゃんは別腹、とばかりに懐きますから!

 危険! 危険すぎます姉属性!

(これはダメっぽいです……)

 諦めた方が良さそうです、ロマンス活動は。運命の王子様も姉属性に惑わされまくりです。

 こんな強力なライバルが傍にいたら、全く以て捗るはずがないですよ!

 これは一ヶ月弱は活動休止ですね、私のロマ活。


 かと思いきや。

 溜息の海へズブズブ沈降してるしかないかと思いきや。

「先生、こんなもの頂きました」

 福永先生、一日終わりのホームルームでとんでもない【ブツ】を掲げてきた。

「!!!!」

 先生の手にしたものを見るなりクラスメイト全員が察しました。瀟洒な封筒に認められたプライベートなレターと言えばアレに決まってます。抜け駆け男子が速攻アタックをカマしたんでしょう。

 ただ! それは秘されるべきものですよ!

 いくら先生だって、それを詳らかにしちゃうのは――吊し上げです!

 んなことしたら高校のホームルームというより、小学校の帰りの会ですってば!

「先生ね……おつきあいするのなら運命の人と、って決めてるの」

 まるで学童へ噛んで含めるような調子で福永先生は告げる。

「なので先生へ交際を申し込みたい人は必ずこれを持参してきてね」

 見覚えがある。つい最近見ましたよ、その公的提出書類!

 まさか学校内で二度も見ることになるとは! この短い間に!

 シンクロニシティっていうんですかね? 縁は異なもの味なものですか?

「あ――――いい機会だから、一つ決め事をしましょう」

 クラスがドン退きに包まれる中、名案が浮かんだ福永先生は軽く手を叩き、

「我がクラスは恋愛を禁止とします」

「は?」

 な、何を言い出すんだこの先生は???? ……って顔してます。クラスのみんなも。

 冗談なのかマジなのか言葉の真意を掴めずにザワザワ……と戸惑いの漣が寄せては返す中、

「先生、あなたたちに訊きたい――恋って練習するものかな?」

 質問を投げつけてきた。打者の心構えもできていないところにビーンボールです。

「考えてみて。もし人生の伴侶となる人が摘み食いの恋を重ねてきた人だったら……どう思う?」

 まさかこんな砂糖菓子みたいなフワフワした先生が、即答に窮する問いをブン投げてくるなんて誰も予測せず……沈黙で凍りつく。

「もう一つ。自分が今、人生で最も完成された自分だって言い切れる人は?」

 そりゃいません。私たちは何も知らない若輩者、もっともっと良くなる可能性がある気がします。

「最も美しい自分を素敵な異性に選んでもらいたいと思わない?」

「…………」

「熟してもいない果実を誰が好んで食べたがるのかな?」


「恋愛禁止……」

 普通なら「文武両道」とか「質実剛健」とか扁額が掲げられてそうな所に「恋愛禁止」。

 その左には「摘み食いの恋は、嘘の恋」、右には「赤い糸は必ず誰しも繋がってる」

 冗談じゃなかった。本気で掲げちゃいましたよ、福永先生……丸っこい毛筆で。

「な、何の因果で……」

 私たちは無駄に数の多いアイドルでもなんでもないのに。普通の学生ですよ?

 それも偏差値で知性が均された、男女比も50:50の恋愛理想郷なのに。

 何が悲しくて恋愛を禁止されねばならんのですか、神様……

「自分を安売りするな、ってことでしょ?」

「それはそれで一理あるか?」

「う~ん、でもどうなんだろう……」

 クラスの反応も賛否両論の模様です。

 『地球に優しい霞城中央生』の時は諸手を挙げて絶賛していた女子たちも二の足を踏んでます。

「恋愛禁止! 断固実行!」

「別れろ、ジュンジ貴様今すぐ望都子と別れろ!」

 男子の一部は自発的な恋愛ゲシュタポとなって、まだ数少ない校内カップルを別れさせています。

 福永先生の意思を忖度して、褒めてもらおうと必死じゃないですか?

 なぜそこまで忠誠心を露わにするんだろう?

 自分たちの恋愛権も放棄するってことなんですよ?

 騒がしい教室を離れると……階段で駄弁る男子と男子の会話が聴こえた。

「なぁ、つまり福永先生って……」

「処女ってことだよな……」


「これだから男子という生き物は!」

 呆れ果ててものも言えないですよ。時折本当に。はぁ…………男の子ってホント馬鹿。

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