新しい文字
「やあ、よく来てくれたね」
田中博士は、自身の研究所を訪れた学者仲間達を迎え入れ言った。
「そんな事より、僕らを呼び出した理由を教えてくれ…。まさか世間話をする為に呼んだわけでもないんだろう?」
学者仲間の一人に促された田中博士は、早速本題を切り出す。
「そうだな、前置きはなしにしよう。実は、長い研究の末、新たな文字を発明する事に成功したのだ」
「新たな文字だって!?」
「そうだ」
「一体、どんな文字を発明したというんだ」
身を乗り出し尋ねる仲間に、田中博士はホワイトボードに『あ゜』と一文字書いて見せた。
「…それは何と読むんだ?」
「いいかい? よく聞いてくれ…、『あ゜』だ」
それまで聞いた事のない全く新しい発音に、学者達は顔を見合わせ、感動に打ち震えた。
「素晴らしい…。『あ』だね」
「違う、それは『あ』だ。私が発明した文字の発音は『あ゜』だ」
「『ぱ』かい?」
「違う、『ぱ』じゃなくて『あ゜』だよ。丁度『あ』と『ぱ』の中間ほどの発音なので、慣れるまでは難しいだろうが…。コツとしては、口を開く瞬間に下唇を前に出す事だ」
「わかった。…ぅぅぅ『あ』!!」
「違う違う」
「……『ぱ』!!」
「全然ダメだ。いいか、もっと…」
度重なる田中博士のダメ出しに、自分の不甲斐なさを感じた一人の学者は、下唇を噛み締めて気持ちを吐露した。
「『く゜』やしい…」