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巫女姫に捧げる銀の花  作者: 桐島ヒスイ
6章 六国同盟

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 アーロンの報告を聞き終えて、エリアスは顎に手を置いて考え込むように視線を伏せた。

「ロヴィニアが本格的に動き出したということか…。結界の崩壊が近いと踏んでだろう」

 エリアスは、幻影のウルリーケを乗せた馬車も襲撃を受けたことを伝えた。

「ウルリーケさまの命が危ないと思わせたことでしょう。行き先はミラルカ王国でしたしね」

 ミラルカは医療国家だ。

「ただ、こちらが囮だということが露見したため、そちらへの襲撃に繋がってしまった可能性は高い。俺の落ち度です」

 エリアスは落ち着いた声音で静かに話していたが、その手は白くなるほど強く握りしめられ、微かに震えていた。自分を許せないというように。

 ウルリーケは手を、握りこまれたエリアスの拳の上にそっと重ねた。震えが治まる。

「それは違う、エリアス。私が外に出れば襲撃の可能性は当然あった。むしろ一回で済んでよかった」

 多少の怪我人は出たが、その後ラウラが治療を施して快復している。

「それに黒魔術師を捕まえた」

「!」

 ウルリーケとしては単純に、ロヴィニアで酷い扱いを受けて来た彼らを保護したという認識だが、エリアスにしてみれば相手の戦力を奪ったという事実に他ならない。エリアスは破顔した。

「それは…素晴らしい戦果ですね」

 ウルリーケは、ようやくエリアスが笑ってくれたことに安心して、微笑んだ。


一行はそのまま神殿へと直行した。マデリエネは馬車でロニーが付き添ってロヴネル家へと送り返された。

神殿の前にはクリストフェルと金髪金眼の少年が待っていた。クリストフェルを見た途端、ラウラから殺気が溢れ出た。

「クリストフェルさま~?どういうおつもりでマデリエネさまを送り込んで来たんですか~?」

 笑顔なのに怖い。クリストフェルは悪びれずにしれっと言った。

「ああ、恐らく襲撃を受けるだろうと予測して、囮役として紛れ込ませておいた」

「は!?」

 ウルリーケとラーシュも目を見開いた。

「襲撃があると…予測していた?」

「というか、囮役ならもっと手練れの者にやらせるべきだろう!彼女は一般の令嬢だぞ」

 ラーシュの尤もな言い分にも、クリストフェルは動じない。

「まあ、ちょっとした悪戯心だ」

「ちょっとした、じゃない!!」

「悪質です!!」

 珍しく憤慨を露わにするラーシュと、怒り狂うラウラを華麗に無視して、クリストフェルは隣に立つ少年を前に押し出した。

「それよりこれのことが気になるのではないか?」

 うぐ、とラーシュとラウラは唇を噛みしめた。気にならないといえば嘘になる。しかし、クリストフェルの所業は赦しがたい。

 少年は居心地悪そうに目を泳がせた。この場面で前面に押し出さないでほしい。

「…ノア?」

 ウルリーケが確認するように首を傾げてノアを見つめた。ノアは息を飲んでウルリーケに視線を向けた。今のウルリーケの姿はロビンだ。…ノアは非常に複雑な気持ちになった。つかつかとウルリーケの前まで行くと、さっと手を翳す。リボンが解けるように、帯状に連なった金の粒子がするすると立ち昇り、ロビンの姿がウルリーケへと変わる。

 それを見たラーシュとラウラの怒りが一瞬にして霧散した。意識は完全にウルリーケへと移った。

「お姉さま~~~」

 やはりウルリーケの姿は美しい、とラウラは思った。まだ変装の名残で髪が茶色のままなのが少々残念だけれど。

「ありがと、ノア」

 ウルリーケが微笑むと、ノアは横を向いた。照れくさそうに後頭部に手をやり、言い訳のように呟く。

「その姿でいられると、妙な気分になるから…。もう名前も知られちゃったし、僕がロビンに戻ることもないけど」

「…ノアはルジェクさんの所へ戻るの?」

「…まぁ。ここでの役目も終わったみたいだし」

 ノアの表情は少し寂しそうだったけれど、嬉しそうのほうが大きかった。ウルリーケもルジェクの人となりを知ったから、ノアを神殿に勧誘する必要はないとわかっていた。ノアには帰る場所があるのだ。

「ルジェクさん、いい人だよね」

 そう言うと、ノアは瞳を輝かせた。

「うん!ウルリーケさまもルジェクさま、好き!?一緒に行かない!?」

 ウルリーケが答える前に、ラーシュががばりと後ろからウルリーケを抱きしめた。

「ダメだ!ウルリーケはどこにも行かない!」

 ラーシュの表情には全く余裕がない。ウルリーケを抱く腕も、誰にも渡さないというように強くしっかりとウルリーケを拘束している。

 ノアは苦笑した。

「冗談ですよ。…でもあんまり嫉妬深いと、ウルリーケさまに愛想つかされますよ?」

 からかうように笑うノアに、ラーシュはう、と言葉を詰まらせる。ラーシュの腕の拘束が少し緩んだのを感じた。ウルリーケは振り返り、ラーシュの碧の瞳を見つめてにっこりと微笑んだ。

「行かない。どこにも」

 直後、ラーシュの腕が解かれ、次の瞬間ウルリーケの身体は抱き上げられた。睫毛が触れそうな至近距離で碧の瞳が甘くウルリーケを見つめていた。というか、唇がくっつきそう。――ウルリーケが思わずぎゅっと目を瞑った直後、勢いよく身体が後ろに引っ張られた。

「!?」

 目を開いたら、何故か愕然とした表情のラーシュが遠くに見える。ウルリーケは恐る恐る後ろを振り向いた。

(え)

 ウルリーケは絶句した。自分の身体を抱きしめていたのはクリストフェルだった。ちょっと怖い顔でラーシュを睨んでいる。

「陛下、ウルリーケはまだ子供ですよ?何をしようとしました?」

「え、いや…」

 子供なのは身体だけ、などとは言い出せない雰囲気が漂っている。

 クリストフェルはウルリーケを抱えたまま踵を返した。ウルリーケはぶるりと震えた。氷のような冷気を感じるのは気のせいだと思いたい。

「呑気に戯れている場合ではありませんよ、陛下。赤髪の魔術師から話は聞いて来られたのでしょう。ロヴィニアが動き出しました」

 急に態度が厳しくなったクリストフェルに、全員が呆気にとられたが、話の内容に背筋を伸ばした。クリストフェルはそのまますたすたと建物の中へと歩いて行ってしまう。ラーシュは慌てて後を追った。

「そういえば、襲撃を予想したと言っていたな…というか、なんでクリストフェルがウルリーケを連れて行くんだ」

 ウルリーケを奪還しようと伸ばされた手は無情にも叩き落とされた。

「な!?」

 クリストフェルはにっこりと微笑んだ。それを見たラーシュは顔色を失った。触れてはいけない何かに触ってしまったらしい。

 ラーシュはウルリーケを取り返せないまま、神殿の応接室へと付いていくしかなかった。




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