表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巫女姫に捧げる銀の花  作者: 桐島ヒスイ
6章 六国同盟
24/35

 幻術使いの魔術師を捕まえたとの報告を受けて、エリアスは一つの策を考え付いた。

(大事な会議の前にロヴィニアに邪魔されたくないからな)

 ローグヴェーデンの周辺をうろつく密偵が、いい加減目障りだったのだ。


 立派な馬車に厳重な護衛を付けて、ローグヴェーデンから送り出す。中には幻影のウルリーケが乗っている。馬車と護衛は本物だ。

 これは目くらましだった。本物のウルリーケがいる場所から暗殺者を遠ざけるための。そしてローグヴェーデンに好意的な各国の大使たちが密かに入国してきていることへの。


 ラーシュたちがローグヴェーデンを留守にしている間、留守居を任されたエリアスだが、彼はこの機に秘密の会談を設けることにした。誰に秘密かというと、ロヴィニア皇国に対して、である。強国ロヴィニアに対抗するための、連合国同盟会議である。

 ラーシュが留守の間の正式な責任者はエリアスの父であるレーヴェンフェルト公爵だ。公爵は前国王シーグフリードの唯一の弟で、十貴族の筆頭レーヴェンフェルト家の当主であり、ローグヴェーデンの宰相でもある。本来であればラーシュに子がない現在、王位継承権は第一位だったが、幼いラーシュが即位した際、よけいな争いが生まれないよう継承権を放棄し、ラーシュの補佐に徹した。因みに現在の王位継承権第一位はエリアスにある。

 公爵は三年ほど前から政務をエリアスら若手に任せるようになった。次世代を育てるためである。そういうわけで、本人は宰相でありながら領地に引っこんで、実務は息子であるエリアスに丸投げ状態だ。それだけローグヴェーデンが平和だということでもある。他の重臣たちも、何人かは顧問として中央に残っているものの、大半は宰相の意向に沿う形で、若手、つまり息子たちに実務を任せるようになっていた。

そのような事情で今回の会議の主催はエリアスが執り仕切っていた。

 この会議が決行されることが決まったのはウルリーケが赤髪男に会いに行くと宣言した日である。つまり一週間前だ。それ故各国の同意を取れる保証はなかったが、親書を送った相手国全部から参加するとの返答があった。

 突然の提案にもかかわらず、全員が参加してくれることに、ローグヴェーデンの重臣一同は感激した。

 勿論各国にはそれぞれの思惑がある。

ロヴィニア皇国に隣接するメルク公国、アルトシュタット王国は、強国ロヴィニアがローグヴェーデンの魔石を独占する事態を恐れている。

ローグヴェーデンの東隣に位置するミラルカ王国は、医療国家だ。治療系魔術を込めた魔石の流通を欲している。

ローグヴェーデンの南に位置するカヴァサディア王国は南の軍事大国だ。北の覇権を握るロヴィニアに、これ以上領土を拡大されることを阻止したい。

金融国家キエスは、カヴァサディア寄りだ。

 これらの五ヶ国とは、十年の歳月をかけて交渉を繰り返し、互いの信頼関係を築いてきたのだ。

 いつかウルリーケの結界が消えてしまうときのために。


 ほとんどの国からは事務次官級の大使が派遣されてきた中で、カヴァサディア王国からは、なんと王太子本人がやって来た。

 南国の王太子は二十代前半の、褐色の肌に短い金髪、明るい海の色の瞳に、引き締まった体躯の美丈夫だった。彼は出迎えたエリアスに開口一番、のたまった。

「聖女様はおられるか」

瞳は好奇心に煌めき、頬は心なしか赤く染まっていた。

「………」

 エリアスは一瞬で判断を下した。

(こいつにウルリーケさまを近づけてはいけない)

 

六国同盟の議題は対ロヴィニアのための軍事協力と、魔術師の保護条約の制定、その見返りとして魔石の流通だった。

魔石は結界系の魔術を込めたもの、治療系の魔術を込めたものの流通に限る。原石のままの流通は認めない方針だ。

一番の懸念は南の軍事大国カヴァサディアがこの条件を飲むかだったが、王太子はあっさりと受け入れた。

彼は成長しない聖女様に御執心らしい。

(それ、本物の変態じゃないか)

 エリアスはこの王太子を危険人物に認定した。


 カヴァサディアの王太子の積極的な後押しもあって、同盟条約は滞りなく締結に至った。

(そのことには感謝している)

 問題は、王太子――ディートフリートが帰らないことである。

(いつまで滞在するつもりだ!!)

 ディートフリート王太子は、ウルリーケが不在と分かるとがっかりしたが、帰るまで待つと宣言した。

 お付きの侍従たちは諦めたように首を振っているが、エリアスは彼らに簡単に諦めるなと説教したい。あと十日程は待ちたいとの申し出に、エリアスは笑顔で承諾したが、内心ではなんとかラーシュに連絡を取ってウルリーケの帰国を延ばさせようと決意した。

(なんでウルリーケさまの帰国を先延ばしにしなければならないんだ。俺だって今すぐお会いしたいのに)

 エリアスからは、日増しにどす黒いオーラが放出され、部下や侍従らを怯えさせていた。


 そんな時、エリアスにウルリーケたちの乗った馬車が襲撃されたとの報告がもたらされたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ