1日目―殺害
「亜希?」
「やったぁ~、修二さん、リストバンドが外れました~」
俺は問いかけると、今度は横の方から大きな音がした。
パァンッ
はじけ飛ぶ如月の身体。
「小娘っ、やっぱり襲うつもりだったんだなっ。
おっ・・・俺は死なないぞっ・・・はっ・・・はっ・・・はっ・・・」
なんっ!?
斉藤は俺達がルール確認をしている間に、ボックスから銃を抜き出していたらしい。
如月を見る。
即頭部から撃たれたのだろう。
頭から血が流れている・・・
瞳孔が開いて俺を見たまま固まっている・・・
胃の奥から何かがこみ上げてくる。
「キャァァァァァァァァァァァ」
少女の叫び声を聞いて、何とか吐き気を我慢する。
パァンッ
もう一発銃声が鳴る。
・・・・・・衝撃は・・・無い。
周りを見ると亜希が腹から血を流していた。
「あれ?」
「あきぃぃぃぃぃ」
斉藤の銃は亜希と少女を挟むように向けられている。
俺は無我夢中で少女の手を掴み、引き倒すと同時に亜希を押し倒す。
2人が倒れたと同時に次の銃声がなる。
パァンッ
2人を引き倒すのがぎりぎり間に合ったのだろう。
今度は誰も撃たれなかった。
だが、次の銃撃が来る。
身を硬くして衝撃に備えようとした時、その音は鳴り響いた。
「ちゃららっらっららら~らっららら~」
斉藤のリストバンドからだ。
一体なんだ?
斉藤も雰囲気を壊すようなリズムに、銃を持ったままおろおろとする。
『やぁやぁ、困ったちゃんだね~。
ルールを良く見てなかったのかなぁ?』
・・・一体なんだ?
『ルールを守らない悪い子にはお仕置きをしなくちゃならないんだよね。』
そういえば、ルールにあった。
24時間以内は攻撃行動が出来ないと・・・
『今回のペナルティーはっ』
斉藤のリストバンドがくるくる光る。
光が止まった後、あの音声が鳴る。
『毒殺~
やったねっ、大当たりっ。
テトロドトキシンをリストバンドから直接注入するよっ。
30分後に頭痛、吐き気、唇の周りの痺れ等が起こって、
チアノーゼ、脈拍不整等の症状が起こり、意識が混濁して、呼吸が停止して死に至るんだっ。
死ぬまでにじっくり時間があるから、その様子を楽しんで貰えるよっ。』
「なっ・・・」
「ひいっ・・・」
リストバンドの辺りから【プシュッ】という音がする。
「ひっ・・・ひいっ・・・嫌だっ・・・死にたくないっ・・・助けてくれっ・・・助けてくれっ」
斉藤は銃を放り投げるとどこかに走り去っていった。
安堵の息を漏らすが、安心している事ができなかった。
「亜希っ、大丈夫か?」
俺の下で亜希は腹部から大量に出血し、目が虚ろになっている。
「あれ~?わたし~、一体どうしたんですか~?」
「それはこっちのセリフだっ、亜希っ何故あんな事をしたんだ?」
亜希の腹部を押さえる・・・だが駄目だ血がどんどん出てくる。
「だってぇ~、私の~リストバンド~、24時間以内に3人以上の人の前で~、誰かを殴る事だったんですもの~。」
「だったらっ・・・言ってくれれば良かったのにっ、何であんな所でいきなりするんだよっ。」
「修二さん、私のリストバンド外れたら~、よろこんでくれるかな~とおもって~。」
「馬鹿野郎ぅ・・・亜希のリストバンドが外れたら確かに喜ぶさ・・・だけどな・・・」
涙で亜希の顔が見えなくなってくる。
「あはは~、修二さん泣いちゃだめですよ~。
でも~、修二さんのお友達減っちゃいますね~。」
「馬鹿っ、そんな事気にしなくても良い。死なない事を考えるんだっ。」
「う~ん、それは無理かもです~。なんか~、修二さんの顔が~、ぼやけてきちゃいました~。」
「大丈夫、亜希は出会ってからずっとぼやっとしてるから、そう見えるだけなんだ。」
「そうですか~、安心しちゃいました~。」
「だから、死ぬなっ。亜希っ・・・」
「えへへ~、ねぇ、修二さん~。」
「なんだい。」
「女の子は無事~?」
「ああ、無事だぞ。」
「お姉ちゃん・・・私は無事・・・」
「そっかぁ~、じゃぁ今度はその子と友達になってあげて~。」
「判った・・・この子は絶対に守ってやるからなっ。」
「えへへ~、約束だよ~。」
亜希はそれだけ言うと静かに目を閉じていった。
「亜希っ?亜希・・・あきぃぃぃぃぃ~」
5分ぐらい経っただろうか、リストバンドからメロディーが鳴り響く。
『ちゃ~ちゃちゃ~ちゃっちゃっちゃ~♪』
何だ?まさか俺にもペナルティが?
背筋に冷や汗が沸いてくる。
「お兄ちゃん・・・」
少女が俺にしがみついてくる。
・・・・・・・
俺は少女を突き放す。
少女は酷くおびえた顔だ。
「俺に何が起こるか分からない。近づいちゃ・・・いけない。」
固い口調で少女に語りかける。
ようやく意味が判ったのだろう、少女はそれでも俺に抱きついてきた。
「やめろっ、君にまでなにかあったら・・・」
「私・・・もう・・・お兄ちゃんが死ぬのなら・・・一緒に・・・」
メロディーが鳴り止む。そして死神の声が聞こえてきた。
『やぁやぁ、感動的だな~。
いやぁ、安心してくれて良いよ。今回はペナルティじゃないから。』
少女と顔を見合わせる。
『今回は先ほどの感動劇にユニークポイントが発生したからその連絡さ。』
ユニークポイント・・・何か行動を起こした時付くポイントで、1ポイントにつき1億の報酬だったか・・・
「何故だ・・・」
『何故といわれてもね、発生したものは発生したからしょうがない。』
「亜希が死んだからかっ。」
語気が荒くなる。
『それも入ってるね~。』
「如月も死んだからかっ。」
『判ってるじゃないか~。』
「人が死ねば金になるのかよっ。」
『残念、そうじゃない。今回の君の行動全てが評価されてポイントが付いたんだよ。
1億だよ1億、嬉しいじゃないか~。
それが今回、特別に3ポイントも付いたんだよ。凄いね~』
「生き残れなければ、意味が無いんだろ・・・」
『大丈夫、生き残ればいいだけだよ~。』
「くそっ・・・・絶対生き残って訴えてやるからなっ。」
『あらあら、怖いね~。でも大丈夫、訴える事なんて出来ないから安心だよっ。』
「くっ・・・」
『僕達も君には期待してるから、頑張って生き残ってね~。』
・・・・・・・・・くそうっ・・・くそっ・・くそっ・・・くそっ
地面を叩く・・・意味が無いのは判っているが、こんなにやるせない気持ちは初めてだ・・・
後ろから誰かが抱きついてくる。
暖かい・・・
少し、気持ちが落ち着いてくる。
「お兄ちゃん・・・大丈夫・・・私が守る・・・から・・・」
それは少女だった。
少女も自分を守っていた如月があっけなく死んだというのに、俺の事を気にしてくれていた。
情けない・・・
そうだ、亜希が言っていた、この子と友達になれって。
俺は・・・この子こそは守ってみせる・・・
俺は決意すると、少女に向き直った。
「俺は佐藤修二、ナンバーはブランク。君の名前とナンバーを聞いてもいいかな?」
間違いがありましたため、訂正いたしました。
×テトロドキシン
○テトロドトキシン
ご指摘いただきましてまことにありがとうございました。