4日目―嘘
少し気になった所を確認する。
「もし、気を悪くしたらすまない。」
「なんでしょうか?」
「何故?志村をつけることが出来た?
先ほどの話の内容では、おそらく志村も探索の拡張がなされているよな?」
俺の問いに誠はバックからケーブルを出す。
「理由はこれです。」
「拡張機能・・・か?」
「ええ、拡張機能の中に『stealth』という機能があり、僕のリストバンドにはインストールされています。」
その言葉で全てが判った。
そして、逆に戦慄も覚える。
「そう・・・か。
志村にその機能が入っているかは?」
「判りません。
残念ながら、僕のリストバンドには索敵機能が付けられませんでしたから。
同じように、お預かりしたリストバンドも同様でした。
あちらは『stealth』が無意味にならないよう、その時点で破棄しましたが・・・」
「それは気にしないでくれて良い。
それと、ハルカのリストバンドを壊したのは誠だよな?」
誠は寂しい笑みをたたえ、肯定する。
「ええ、気分的に良い物ではないですが、生き残る為に必要ですからね・・・残り2つです。」
なら、誠はここで外す事ができる。
「そうか・・・理由は後で話すとして、ここにリストバンドが2つ有り、誠が拾ったであろう茶髪の分と併せ、合計3つある訳だ?」
バックからリストバンドを取り出し、誠の前に置く。
「そうですね。」
「ケーブルによる拡張の状況にもよるが、誠のリストバンドはここで外しておこう。」
「そう・・・ですね。」
歯切れが悪い。
話の内容が内容だった。
手放しでは喜べないのだろう。
「それと、今度は俺たちの経緯を説明する。
マナミ、良いよな?」
「うん。
修二君、お願いしていいかな。」
「判った。」
それから、俺達が分断された経緯から明日香の最期。
茶髪との対決までを誠に説明した。
「そんな事が・・・
マナミさん、こう言っては失礼かもしれないのですが・・・
良かったですね。」
明日香については誠も戦闘しただけにほとんどのことを話してある。
だからこそ、最期とは言え正気に戻った事を喜んでくれた。
「誠君・・・ありがとう。」
「はい。」
誠とマナミ、共に大事な者を失っている。
俺も誠が居なければ、しおりを失っていた・・・
本当に・・・このゲームは一体なんなんだろう・・・
「とにかく、今はリストバンドとケーブルを照合させて見ましょう。」
「そう・・・だな。」
3人で手分けしてインストールした結果、マナミのリストバンドに誠と同じ|『stealth』(隠密)が追加された他は収穫が無かった。
あっても、もう無用の長物となった拡張ばかりだ。
「これだけを残しましょう。」
「そうだな。」
結果、|『Sonar』(音感知)の入っている茶髪のリストバンドを残し、2つは壊す事になった。
「取れました。」
2つのリストバンドを壊すと、誠の手にはまって居たリストバンドが手から外れた。
「おめでとう。」
「良かったね、誠君。」
俺とマナミからの祝福に、誠は複雑な笑みを浮かべ、それでも礼を言ってくる。
「ありがとう2人とも。
はずせたのは2人のお陰です。」
あとはここ"空白地帯"に時間まで居れば、おそらくクリアできるだろう。
しおりの容態も心配だが、後11時間・・・いや、10時間経てば生存者として病院に運んでくれる・・・はずだ。
だが、容態が容態なので、常に1人は付いていないといけないだろう。
だが・・・
誠を見ると、決意の眼差して頷いてくる。
俺も残った時間、素直に隠れられるとは思っていない。
なぜなら、これはゲームなのだから。
「誠、あとはここに居ればクリアできるだろう。
時間はまだあるが、ここは地図が届かない。
ならば、志村がここに気づく事はできないと思う。」
「そうですね。
しおりさんの容態も心配です。
患部が熱を持つでしょうから、冷やしてあげたいですし、破傷風を予防する為にも、体を1度清潔にしておきたいです。」
やはりそうだ・・・
俺の言葉に合わせてくれている。
「そうなのか?」
「ええ、走り回って汗などをかいているでしょう。
雑菌の温床となっている場合、破傷風の確立はかなり上がります。
熱湯消毒したタオルなどで拭いたほうがいいのですが・・・
相手は女の子です・・・
流石に僕も傷を縫う為に患部を確認はしましたが、体を拭くわけにはいかず・・・」
うまくマナミに仕事を頼み、かつ席を空ける事が可能な状況にしてくれる。
「マナミさん、同じ女性と言う事で、しおりさんの清浄と着替えをお願いしてもよいですか?
着替えはそこのBOXに幾つかの換えがあるので、使える物があると思います。」
「そうだね。
判った。任せて。」
マナミは笑顔で請け負ってくれる。
心が痛むが、笑顔で言う。
「なら俺たちは見えない位置まで行って、念のため志村の襲撃に備えておくよ。」
「そうですね。
では、僕もそうしますか。
・・・っと、その前にマナミさんも使えるよう、マシンガンを設置しておきますね。」
誠は奥の方から、以前俺達が発見したマシンガンを取り出してくる。
洞窟の入り口側に向けて、マシンガンを設置すると、マナミに使い方を説明する。
「大丈夫ですか?」
「うん判った。ありがとう。」
2人の会話が終るのを待って、誠に声をかける。
「行こうか。」
そっと茶髪のリストバンドを拾い上げると、誠も俺に習って立ち上がる。
「1時間あれば終るかな?
その後になったら戻ってくるから、しおりの事を頼んだぞ?マナミ。」
「任せておいて♪」
笑顔で答えるマナミ。
俺たちは後ろを振り返らず、そのまま洞窟を後にした。




