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3日目―明日香

「明日香っ!!」


マナミは悲鳴にも似た声で名前を呼ぶと駆け出していく。


「マナミっ!!

 罠かもしれないっ!!」


その言葉に足が一瞬だけ止まるが、すぐに明日香の元に駆け出す。


「くっ・・・」


仕方が無い。

マナミの後を追って、周囲の変化を見逃さないよう注意しながら進む。


「明日香っ!!明日香っ!!」


マナミは明日香の体を揺する。


「ぐっ・・・ううっ・・・」


まだ息はあるようだ。

うっすらと目が開くと、1度目を閉じ、もう1度開く。


「ま・・・まな・・・み?」


その瞳には困惑と悲しみと安堵が入り混じっているようだ。


「生きて・・・いたのね。」


「・・・・・・うん。

 明日香こそどうしたの?」


マナミも明日香が生きていると知って、少しは冷静さを取り戻したのだろう。

全く警戒の色が見えないが、明日香を見る事ができるようになっている。


「マナミを殺しちゃったと思って・・・

 自棄になっていたら・・・失敗・・・しちゃった。」


「一体、どんな失敗したのよ。」


「そうだね・・・マナミにも大事な事だから覚えておいて。」


「うん?」


「志村を・・・信用しちゃ駄目。」


「志村・・・ね。判った。」


「村上は私が殺したって覚えている・・・

 あの時の私は、私であって私でなかった気がする・・・

 でも、やった事は全部覚えてる・・・」


「・・・うん。」


「私をあんなにしたのは・・・村上と・・・志村。」


「なっ・・・」


2人だけにしようと思っていたが、あまりの衝撃に声を出してしまう・・・


「その声は・・・修二さん・・・ね?

 お願い・・・マナミと一緒に・・・聞いて。」


「判った。」


今の明日香ならば大丈夫だろう・・・

俺はマナミの隣に腰を下ろす。


「私はあの日、村上に騙されて山小屋の外に出たの・・・

 そして、そこには志村が居た・・・


 志村は私に銃を向けて、脅してきたわ。

 「私に従いなさい。」って・・・

 力の無い私はその脅しに降るしかなかった・・・


 その直ぐ後ね・・・村上が合流したのは・・・

 その後は地獄としか呼べなかったわ・・・

 私の体は村上と志村にいいように弄ばれたわ・・・


 私の人格が壊されちゃうぐらいに・・・ね。


 私は志村の「食料を取って来い」と言う命令に従って、BOXを探した。

 でもその時はもう、正常な判断が出来なくなっていたのね。


 BOXから食料を持っていかなくてはならないのに、BOXの食料を漁る様に食べつくしていた。


 その辺からは貴方達の知っての通りよ。


 命令を聞かなかった私は、ゴム弾で狙撃され、脳震盪を起こし地面に転がった。

 そこに「調教」をしに村上がやってきた。


 貴方達のおかげで開放された・・・けど、その時はもう私は壊れていた・・・


 村上は・・・死んで当然・・・

 でも、ケンジ君やマナミ・・・貴方には最低の事を繰り返したと思ってる。


 ケンジ君にも謝りたいんだけど、ここにはいないのかしら?」


「明日香・・・ケンジ君は・・・」


「今は別行動なんだ。

 しおりもいないだろ?

 手分けして安全な場所を探してるんだ。」


本当の事を言おうとしたマナミを制し、明日香を安心させるだけの嘘をつく。


「そう・・・

 謝りたかったのに・・・残念ね。」


「大丈夫だ。

 後で必ず伝える。」


「ありがとう。

 お願いね。


 話を戻すわ・・・

 そこからは・・・ごめんねマナミ・・・

 貴方を汚す事だけを考えたわ・・・」


明日香は涙を流しながら贖罪の言葉を紡ぐ。


「貴方の事を本当に好きだった・・・

 だからこそ、一緒の存在になってほしかったんだと思う。


 こんなこと・・・言われても困るよね・・・


 あれからずっと、貴方の事ばかり考えていたわ・・・

 方向性が違っていれば、もっと違う未来があったのかもしれないわね・・・


 何時しか・・・「汚す」から、「殺す」に変わっていたわ・・・

 何度か襲ったのも覚えている。

 ケンジ君・・・私の所為で右腕まで失ってしまったよね?

 謝っても許してもらえないかな。」


「大丈夫だよ、明日香!!

 ケンジ君、すごく優しい人だもん。

 絶対笑って許してくれるって・・・」


「そう・・・なら良いのだけどね。

 

 そして、最後に貴方に銃弾を放った・・・」


「うん、防弾チョッキを着ていなかったら・・・

 私はもう、ここにはいなかったと思う。」


「私は殺してしまったと思ったわ・・・

 そして、壊れた私は・・・その後、泣いて泣いて泣いて・・・とうとう溶けてしまった。

 それからずっと何をして生きていたのか全く覚えていないわ・・・

 気がついたら、ここでこうしてマナミに会う事ができていた・・・


 もしかしたら、神様が最後に私に謝るチャンスをくれたのかもしれないわね。

 良かった・・・マナミが生きていてくれて・・・

 ごめんね・・・最後の最後まで貴女を泣かせてしまったわ・・・」


「そんな事無い・・・そんな事無いよっ・・・

 僕の方こそごめんっ・・・僕なんかと関ったからこんな事になってしまったんだ・・・

 明日香っ・・・ごめんっ・・・ごめんっ・・・」


それまでずっと弛緩した様に動かなかった明日香の体が動く。

血に染まった右手をゆっくりと持ち上げると、マナミの頭を撫でる。


「本当・・・困った子ね。

 私はマナミと会えて本当に良かったと思っているわ。

 

 マナミ・・・私は貴女と友達で良かった・・・」


「明日香っ・・・明日香っ・・・」


「本当・・・泣き虫なんだから・・・


 修二さん・・・」


「なんだ?」


「マナミのこと・・・お願いできる?」


「・・・任せておけ。」


「これから・・・ずっとよ?」


「・・・ああ。」


「・・・ふふ、安心した・・・

 良い、マナミ。

 こんな良い男、手放してはいけないわよ?」


「明日香っ!!

 あまり変な事言わないでよ・・・

 

 修二さんも安請け合いしないで・・・」


マナミは少しだが元気になったようだ。

明日香は最後に、マナミに元気になってほしかったんだろう。


「マナミ・・・絶対に・・・生き残ってね・・・」


「・・・うん。」


「良かった・・・」


明日香はそれだけ言うと、その体から力が失われた。

微笑みながら・・・穏やかに逝く事が出来ただけ、幸せだったのかもしれない・・・


ただ・・・惜しむべらくは、明日香をこのようにしたのが誰か・・・・だ。


おそらく志村はハルカと一緒に誠に倒されただろう。

となると・・・誠達か茶髪・・・


誠達と再びあったときは・・・出来うる限り、見えないように警戒をしないといけないかもしれない・・・


「修二・・・さん。」


マナミは俺に懇願するように視線を向けてくる。


「ああ、簡単で悪いが、墓ぐらい立ててやりたいな・・・」


「・・・ありがとう。」


マナミは俺の胸に顔をうずめると、そのまま声を立てずに泣き始めた・・・


今にも壊れそうだったマナミは・・・明日香と合った事で強くなれたんだろうか・・・


明日香の最後の願いを叶えられるよう・・・この娘は守ってみせる・・・

しおりとマナミ・・・この2人は命を掛けて・・・守る。

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