3日目―再会
それよりもまず、マナミを引き寄せ辺りに同じものがないか確かめる。
大丈夫な事を確認し、再度座らせる。
そして改めてリストバンドを見る。
「これは・・・」
先程の針は液晶部分に当たったようで、液晶が完全に潰れていた。
マナミは無事だったが、生命線であったGPSを失った・・・
見る間にマナミの顔が歪む。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・僕の所為で・・・・
ごめんなさいっ・・・ごめんなさい・・・私が・・・しっかり歩かなかったから・・・
どうしよう・・・ねぇ、修二さんっ・・・私っ・・・なんて事を・・・」
酷いほどに取り乱している。
もしかしたらと思っていたが・・・
マナミの心は、明日香と同じように病み始めているのかもしれない。
確かにGPSを失ったのは大きい。
命に関る大失態でも有る。
だが・・・
いまのマナミを責める事など・・・出来ない。
この子は思っていた以上にメンタルが弱い。
この極限下の状況の中、何時まで壊れずにいられるだろうか・・・
この弱い心を守りきる事ができるのだろうか・・
だが、俺は守ると誓った。
ならば、できる手を尽くすだけだ。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・っきゃっ」
俺は泣きながら謝り続けるマナミを抱き締め、背中を叩く。
「大丈夫・・・大丈夫だから。
あまり自分を責めるな。」
「でも・・・僕・・・」
「大丈夫だ。
きっとしおりだってそう言う。
それよりもマナミが潰れてしまう事の方がきっと心配だろう。」
それに・・・マナミに余裕が無い事に気付けなかった俺にも責任はある。
これを口に出して言えば、マナミは更に自己嫌悪に陥るだろうから言わないが・・・
「う・・・ひっぐ・・・うん・・・」
マナミが少しづつだが、落ち着いてくるのを感じる。
張り続けた緊張が切れてしまったんだろう。
マナミはそのまま眠りに落ちていった。
何とか大丈夫だったか・・・だが、これ以上の負担は危ないな・・・
特に明日香と会う事だけは避けなくてはならない。
今のマナミと明日香が出会ってしまったら・・・
俺に出来る事は・・・
そう、マナミと明日香を出会わせないこと。
マナミの目の前で誰も死なない事。
これ以上、心に刺激を与えないようにしなければならない・・・
とりあえず今は・・・休もう。
俺も身体を休める為、周りに草を編んだトラップを作成し、周囲の音に敏感になるよう聴覚だけに集中し、目を閉じた。
「んう・・・あれ?」
マナミの声が聞こえたので、目を開ける。
どれだけ待っていただろうか?
リストバンドを見る。
59:22:50
2~3時間ほど寝ていたのか。
まずはマナミの様子を見てみよう。
「マナミ、顔を見せてくれ。」
「あっ・・・はい。」
マナミの顔色を確認する。
うん、かなり血色が良くなってきている。
少しだが休んだ事で良くなったんだろう。
「大丈夫そうだな?」
「えっと・・・うん。
大丈夫。」
「そうか。
これからしおりを探しに行こうと思う。
マナミ、少しでもきつい時は言ってくれ。」
「うん。」
まだ元気にはなってなさそうだ。
空元気・・・というところだろう。
だが、出ないよりは出たほうが全然マシだ。
「これからは慎重に音を頼りに進んでいく。
何か聞こえたらすぐに銃を使うぞ。」
「え・・・・
う・・・うん。」
今のマナミに銃は・・・
だが、GPSが無くなった以上、身を守る術はどうしても必要だ・・・
願わくば、マナミに銃を撃たせる機会が訪れない事だけを祈って・・・
それから2時間は経っただろうか。
すでに辺りには夜の帳が降りてきている。
音を頼りにゆっくりと移動しているからか、さっきまでの1/5ぐらいのスピードしか出ない。
だが、あせってはいけない。
焦りはミスを生む。
ミスは・・・即、死に繋がる。
・・・・・・カサッ
ほんの小さな、だが何かの音がした。
俺はマナミを地に伏せさせ、銃を構えて音のした方へ向ける。
・・・・・・・・・・・・・・・
5分・・・・・・10分・・・・・・
何も起きない。
「ごめん、気のせいだった。」
俺は謝ると、マナミを助け起こす。
「ううん、守ろうとしてくれてるんだね・・・ありがとう。」
「俺はしおりだけじゃなく、マナミも守ろうと決めた。
だから、当たり前の事だ。」
少しだけ照れくさくて、ぶっきらぼうに言ってしまう。
「それでも・・・ありがとう。」
「・・・・・・ああ。」
「だが、何か音がしたんだ。
少し・・・見てくる。」
音のしたほうへ確認に行こうとすると、袖を引かれる。
「僕も・・・行く。」
「マナミはやめたほうが良い。
場合によっては、さっきより酷い事が起こる。」
マナミの体がこわばる。
ハタから見て丸判りだ、本人はもっとこわばっているんだろう。
「・・・大丈夫。
私一人じゃ駄目かもしれないけど・・・今は修二さんがいるから。」
さらにギュっと服を握り締める。
服を人質にとられたんじゃ仕方ないな・・・
「判った。
でも、危険だと思ったら、俺をおいて逃げるんだ。いいな?」
「・・・・・・・うん。」
その目には決意の光が宿っている。
ならばこれ以上は言うまい。
銃口を向けながら、音がした方へ歩いてゆく。
この時には思っていなかった・・・マナミを守る。
その誓いが、もう1人の少女から託される願いになろうとは・・・
壊れた機械が直らない・・・そんな事は無かった。
この地獄のような世界でも、神の慈悲だけはあったんだ・・・
音がした場所には・・・
右肩を真っ赤に染め、左足の無くなった明日香が・・・居た。




