3日目―茶髪
俺たちは今、滝の裏の洞窟に向かっていた。
ゲームは後二日。
今後生き残る為にはどう動けば良いだろうか?
GPSで他のプレイヤーの動きを知ることが出来る。
アドバンテージがある以上、攻勢に出ても何とかできるかもしれないが・・・
「どこかを拠点として動きたいと思うんだが、どうだろうか?」
なるべく非交戦的に動きたいとは思う。
襲われた時は・・・もう迷わない。
ケンジに撃つ勇気は貰った・・・
だが、撃つ勇気を持ったのと、積極的に撃つのは違う。
なるべく多くの人が生き残るには・・・戦わないのが一番だ。
「うん・・・いいと・・・思う。」
しおりも同じ考えだろうか?直ぐに肯定してくれた。
「僕は・・・そうだね。
戦わないですむなら、戦わないに越した事は無い。」
おそらく明日香のことを言っているのだろう。
「でも、宛はあるの?」
「そうだな・・・できれば3方向を壁で囲んで、残り1方だけ警戒できれば良いんだけど・・・」
「そうだね・・・そうだ!!
このリストバンドに表示されている点。"CAVE"を探してみるのはどうかな?」
洞窟・・・何かが引っかかるな・・・
「修二・・・ボックスを隠した場所。」
しおりの言葉で気付く。
1日目にボックスを貯めていた洞穴・・・
あそこなら滝の音や動きで"音感知"も目くらまし出来るし、"GPS"で見つかっても、入り口に向けて機関銃を設置しておけば・・・
「そうだな・・・良いかもしれない。」
「ちょっと・・・僕にも詳しく聞かせてもらえない?」
「ああ、直ぐに話すよ。」
そして俺としおりはマナミを挟んだ形で座り、ゲーム開始時にしおり達がみつけた洞穴があること。
入り口が凄く判り辛く、さらに滝で見つかりにくい事を話した。
「へぇ・・・そんな洞窟・・・あったんだ?
うん、いいんじゃない?」
「ありがとう。
じゃ、そこに進むと言う事で良いかな?」
このようなやり取りを経て、俺たちは洞窟のあった方向・・・ここから北へ向かっていた。
「"GPS"に・・・反応は無い。」
「よし、行こう。」
「・・・うん。」
一時期、元気に振舞っていたマナミだが、歩いているうちに足取りが重くなってきていた。
やはり、肋骨を痛めている影響だろう・・・
なるべく早く休ませてやりたいが・・・
結構歩いたからか、滝の裏の洞窟にはもう少しで着きそうだ。
幸い"GPS"に他のリストバンドの反応が未だに見られないようだ。
地図が広がった分、遭遇しやすくなると思ったが・・・
そう簡単に遭遇する訳でもなかったか。
とにかく今は急ぐんだ・・・
「修二!!」
しおりが呼ぶ。
声に緊張が混じっている・・・GPSに誰かが引っかかったのだろうか。
「これ。」
俺とマナミに見えるようリストバンドをかざす。
向っている方向に光点が一つ。
1人・・・と言う事は茶髪か明日香だろう・・・
その場に立ち止まり、光点の動きを見る。
光点は真っ直ぐ俺たちのほうに向ってきている。
これは相手にも、俺たちの位置が判っているということだ。
もしかすると、茶髪かも知れない。
その場合、相手は【音感知】で位置を把握していると思うが、【GPS】も手に入れた可能性はある。
ならばしおりには動かないで貰った方が良いな。
「しおり、俺たちは少しはなれる。
ここで待機してくれ。」
「・・・判った。」
「マナミ、2手に別れよう。
マナミは右に、俺は左に。
しおり、茶髪なら【音感知】だと思うが、【GPS】の可能性もある。
リストバンドをマナミに渡してくれ。
2人組と1人相手なら1人のほうを狙ってくるだろう。
その分マナミが安全になるはずだ。
マナミはしおりが見えるギリギリの所で待機。
なるべく音を立てずに身を隠していてくれ。」
「はい。」
念のため、足元から石をいくつも拾い上げ、周りに巻きながら移動を開始する。
しおりがギリギリ見える位置で立ち止まり、立木の裏に隠れる。
そのまま息を潜めつつ、茶髪を混乱させる為、石を投げ続ける。
・・・・・・来た・・・予想通り茶髪だ。
奴のNO.確認は後だ。
間違いなく奴は襲ってくる。
迷っていれば撃たれる。
俺が倒れれば、その分2人は危険になる・・・
2人を守るんだ・・・
ダンッ
まずは一発、動きを止める為に足を狙う。
・・・なっ!?
よけられた・・・のか?
茶髪は再度ステップで横に動くと、俺に向って走り出した。
仕方ない・・・もう一度
ダンッ・・・ダンッ
当たらない!?
茶髪は俺に向って銃口を突きつけてくる。
ヤバイッ
ダゥンッ
直ぐに横に飛んだ事で狙いを外したようだ。
だが、その間にも茶髪は迫ってくる。
右手にナタを持って・・・
ダンッ
俺は狙いを定めず、威嚇の為に撃つが茶髪はまったく意に介さない。
その間にも茶髪は迫ってくる。
タァンッ
茶髪の動きが止まった。
足元に撃たれたようだ。
方向からすると、撃ったのはしおりか。
隠れているように言ったが・・・
茶髪の銃口がしおりの方を向く。
いけないっ
「茶髪っ!!・・・交渉をしないか?」
茶髪に呼びかけ、しおりへの銃口を外させる。
こっちの方が有利な事を見せ付けて、交渉をすればもしかしたら・・・
ヤバイッ
ダゥンッ
熱っ!?
「チッ」
茶髪の舌打ちが聞こえる。
傷は・・・大丈夫だ肩を少しえぐられただけだ。
痛いが・・・まだ動かせる。
俺は死ねない!!
2人を守ると決めたんだ!!
ダンッダンッ
茶髪に向って銃を放つ。
狙いは適当だ、しおりやマナミのほうに向わせる訳には行かない。
こっちに釘付けにしなければ!!
茶髪はナタを振り上げ、肉薄してきた。
振り下ろすナタが目の前を掠める。
「くっ・・・」
何とか地面に転がる事で避ける事ができたが・・・
今度は銃を突きつけてくる。
タァン
「ぐぅっ・・・」
銃声が遠くから聞こえた。
・・・撃たれた衝撃で体が傾ぐ。
「修二!!逃げてっ!!」
茶髪は右肩を抑えて地面を転がっている。
"今なら殺せる"
俺は銃を茶髪に向け・・・
「駄目っ!!」
しおりの叫びが聞こえる。
瞬間、俺は茶髪に向けていた銃を放り出し、その場から逃げた。
ドゴォォンッ
直後、目の前で爆発が起こる。
一体何が・・・
マナミの方へ駆ける・・・茶髪が何を仕掛けてきたのか判らないが、今狙われたら危ない。
しおりとは離れてしまったが、木の陰は隠れている。
大丈夫なはずだ。
そして煙が晴れる・・・
すると・・・そこには茶髪の姿は無かった。
「茶髪っ!!どこだっ!?」
俺は回りを確認しながらマナミの居る場所を背に、銃を拾いに戻る。
「修二君、まだだめ。」
後ろからマナミの声が聞こえる。
ダンッ
銃声が聞こえ、足に焼けるような痛みが走る。
「糞がっ!!痛ぇ・・・ちっ・・・」
茶髪はいつの間にかマスクをかけていた。
そして手には鉄の箱・・・
何か操作すると、煙があふれ出す。
あれは・・・何だ?
「修二君、あれって毒ガス!?」
マナミから切羽詰った声が聞こえる。
「逃げよう!!、出合った場所で落ち合おう!!」
マナミとしおりが駆け出すのが見える。
俺はそれだけ言うと、北に向けて走り出した。
バシュッ・・・シュゴオオオオオオ
茶髪を中心に煙があふれ出す。
本当に毒ガスだった場合・・・運営は一体どれだけの武器を用意しているのだろうか・・・
そう思いつつ、茶髪が襲ってこないよう、後ろに気をつけつつ、目的地へと走った。




