3日目―冥福
「行こう。」
俺はケンジに手を合わせ、冥福を祈った後、4人に振り返る。
「・・・マナミ?」
「うん・・・」
マナミはしおりに手をつながれ、荷物をまとめている。
俺も荷物をまとめると、玄関へと向かう。
「修二さん・・・お疲れ様でした。」
誠が俺だけに聞こえる声量で話しかけてくる。
「誠と愛には、辛いものを見せたな。」
「いえ・・・おかげで僕も覚悟が出来ました。」
「そうか・・・」
「はい・・・」
玄関から出る直前に、しおりからGPSに反応が無いことを確認する。
誠が隣でいつでも銃を撃てる体勢にしつつ、ゆっくりとドアを開ける。
外は雲ひとつ無い晴天だった・・・
周りにも人影は無く。
訳も無く悲しい気分にさせてくれる・・・
「修二・・・」
しおりが俺の頭を撫でる。
・・・いつもは逆の立場・・・なんだがな・・・
「まずは安全な場所まで移動する。」
俺はそう言うと先頭に立って歩き始めた。
その後にしおり、のろのろとマナミが歩いてくる。
後方は誠と愛が連携して見ていてくれる。
暫くの間、無言で歩いた。
「修二・・・」
後ろからしおりの声がする。
「どうした?」
しおりはリストバンドを俺に突きつける。
表示は
48:47:21
そろそろ・・・と言う事だ。
「修二さん。」
誠と愛は2人揃って俺を見ている。
「ああ、絶対・・・生き残ってくれよ。」
「はい・・・しおりちゃんとマナミさんも・・・」
「うん・・・大丈夫。」
「僕は・・・いや・・・うん、頑張ってみる。」
まだマナミは引きずっているようだ。
だが、前向きな答えが出ただけでも良かった。
「しおり。」
「うん・・・」
俺の言いたいことを察してくれたのか、NO.4しおりの外れたリストバンドを誠へ渡してくれる。
「これは・・・」
「私のリストバンド・・・あげる。」
「・・・はい、ありがとうございます。」
言いたいことを察してくれたんだろう。
万が一と言う事もある。
自分で外せるようなら、外す努力をしておく必要がある。
GPSの付いたリストバンドは渡せないが、TRAPの方は何とかなる。
誠は大事そうにしおりのリストバンドをリュックへしまった。
「愛の時はすぐに壊してしまいましたが、拡張機能の事もあります。
それまでは大事にとっておかせてもらいますね。」
「うん・・・そうして。」
「そっちにはTRAPという罠の表示が付いている。
使えるようだったら、使ってくれ。」
「はい、修二さん、本当にありがとうございます。」
「いや・・・こっちこそ色々とありがとう。」
「はい。
・・・・・・では・・・また後で。」
「あぁ、・・・90時間目ぐらいに会おう。」
「はい。」
俺と誠は頷き会うと、げん骨を合わせる。
「マナミさん・・・元気出してね。」
「うん、愛さんもご無事で。」
「愛・・・ありがとう。」
「しおりちゃんも、ありがとうね。」
向こうでは女性同士が挨拶を交わしていた。
「それじゃ・・・」
「ああ・・・」
そして、誠と愛は俺たちと別れ、山の方へ目指していった。
「行ったな・・・」
「うん・・・」
俺たちも行こうかと見渡すと、
「修二さん、もう少しだけ・・・ここにいても良いかな?」
マナミが呟く。
そうか・・・
「あぁ、もう少し・・・ここにいようか。
しおり、GPSだけ頼む。」
「うん。」
そのまま時計が49時間を指すのを待つ。
ドゴォォォォンッッ!!
ずっと後ろの方、おそらく1kmも離れていないだろう。
激しい音と煙が巻き起こった。
少し派手だが、ケンジの墓標だ。
俺としおりとマナミは両手を合わせ、暫くの間ケンジの冥福を祈った。
だが、ゆっくりはしていられなかった。
「修二・・・」
しおりがGPSを見せてくる。
地図には俺たち3つの光点と離れていく2つの光点。
そしてずっと遠く、山小屋のあった辺りに1つの光点があった。
1人で行動をしているのは、明日香かハルカ、もしくは茶髪・・・
誰だったとしても衝突はされられないだろう。
3人でGPSを見ていると、1つの光点はこっちに向かってくるでもなく、うろうろと彷徨っている。
「どうやら・・・相手はレーダーを持っていないようだな?」
「うん・・・だとしたら、茶髪は除外。」
「そうだね、彼は多分ソナーを持っていたはずだしね。」
となると、明日香かハルカと言う事か。
「どうする?」
「僕は・・・逃げたい。
もし・・・明日香だったとしても、まだ覚悟が出来ていないから・・・」
「私も・・・」
結局、覚悟が出来たといっても、人を殺す覚悟は出来ていない。
なら、避けられるうちは避けるべきだな・・・
「よし、それじゃこっちに行こう。」
俺が指すのは今向かっている方向。
山とは別に砂浜へ向かう方向だ。
こっちには、最初にしおりが使っていた洞窟があったはず。
動き回るよりは拠点を持った方が良いだろう。
そちらへ向かう事にする。
それから2kmほど歩いただろうか?
山小屋の方に会った光点も、誠達の光点も見えなくなった頃、見たことも無いボックスが置いてあった。
今までのボックスは1m四方程度の大きさだったが、このボックスは縦3m、横2mは有るだろうか?
かなりの大きさを誇る・・・
何故ここまで大きなボックスを見つけることが出来なかったのだろうか?
「しおり?」
しおりは何も戸惑いが無いようにボックスへと近づくと、その扉を開ける。
その中には、まさにTVの中でしか見たことの無い兵器が入っていた・・・
長い銃身とボックス型の弾倉を持つ殺傷兵器、機関銃だ。
その他にも手榴弾がいくつかと、防弾ジャケットが2つ入っていた。
ケーブルも今まで1箱に1個程度だったのが6つも入っていた。
俺とマナミ、しおりの持っているリストバンドに合うケーブルもあったので持って行く事にする。
こっちは安全な場所に行ってから試してみるつもりだ。
「戦争でも・・・しろってのかよ・・・」
手榴弾は8つあり、そのうち4つには『閃光手榴弾』と書かれていた。
おそらく昨日、明日香が使った光と音の手榴弾だろう。
怖くもあったが、俺達が手に入れたと言う事は、他の人も手に入れていると言う事だ・・・
ならば、装備で劣る訳にはいかない。
俺は機関銃を肩から提げ、手榴弾をしおりとマナミで分けてもらった。
防弾ジャケットはすでにマナミが一着来ているので、俺としおりで着る事にした。
一体この島はどうなっているんだ?
ともかく・・・今は一刻も早く安全な場所に着かなくてはならない。
俺たち3人はGPSを確認しつつ、慎重に進んでいく事にした。




