3日目―ケンジ
窓の外が完全に明るくなった。
食事を取ったり、軽く仮眠をとるなどしていると、2日目も終わりに近くなってきていた。
47:55:32
もうすぐ、48時間になる。
相変わらず、マナミとケンジは起きるそぶりを見せず、地図上にもGPS反応は見受けられなかった。
そして48時間目・・・リストバンドから音楽が鳴り響いた。
『ちゃ~ちゃちゃ~ちゃっちゃっちゃ~♪』
2度目ともなると慣れてくる。
画面が光ったと思うと、ディフォルメされた死神が歩いてくる。
『やぁやぁやぁ、生き残っている諸君。ごきげんよう~。
いやぁ~、昨日は残念だったねぇ。
死亡者数は・・・たったの1人。
戦闘も激しい打ち合いは無し。
時々起こっても精々小競り合い程度。
名場面と呼べる場所が無かったなぁ~。
これはあれかな?
あまりにも纏まっているグループが居るのが問題かな?
この状況だと退屈しちゃうんだよねぇ~。
なので!!新しいルールを決めちゃいま~す♪』
後ろの方から歓声が沸きあがる。
歓声と言っても、聞き覚えのあるものではなく、電子合成音による拍手や声援だ・・・
『4人以上のグループは、ペナルティとして・・・う~ん・・・
そうだ!!みんなの地図にグループの居る方向を指す様にしておけば良いよね?
いやぁ、今思いついたにしては良いアイデアだねぇ。
それと、3日目が始まったので、地理にも詳しくなって来たよね?
細かい地図なんて辞めて、もっと大きく見渡せるように範囲を・・・そうだなぁ、うん、2倍に拡大するよっ♪
色々と試してる人はこれで有利になっちゃうかもしれないね~。
最後に、セーフティエリアっ!!
安全地帯とかってぇ~、あっても萎えちゃうよね?
やっぱり常に危険と隣り合わせの方が燃えるしね♪
なので~、うん、景気良く爆破しちゃうねっ♪
この3つの変更は今すぐに行うと困る人も居るから、1時間の猶予を上げちゃう♪
わ~、僕ってやっさし~い。
でも、ギリギリまでセーフティエリアで自由を満喫する人も居るかもしれないし、セーフティエリア指定は先に外しちゃうねっ♪
ん~~~~~、えいっ!!
よしっ、外れた。
これでもう安全な場所は無いよ。
やったねっ♪
じゃぁ、残り48時間
生き残ってお金がっぽり稼いでいってね~♪』
言いたいことだけを、身振り手振りで言うと死神は消えてしまった。
「なん・・・だよ・・・これ!!」
まるで俺達を狙ったようなルール変更・・・
「なんだよこれはっ!!」
「修二さん、落ちついてっ!!」
とにかくどうするか決めなくてはならない。
後1時間もすれば俺達は標的として、残っている4人から狙われる。
誠も興奮している・・・いや動揺か。
俺もそうだったが、2人が寝ているのを忘れて声を荒げていた・・・
「僕を・・・おいていきなよ・・・」
「ぐっ・・・げほっ・・・げほっ・・・げほっ・・・
ヒューッ・・・ヒューッ・・・
いや・・・置いてくなら・・・俺だ・・・」
マナミとケンジ・・・2人とも俺達の声で起こしてしまったか?
いや・・・すでに"知っている"もっと前からおきていたのだろう。
「2人とも、大丈夫か?
・・・何所から聞いていた?」
「死神の音楽で・・・かな。
僕はもう生き残る理由が見つからなくなっちゃった・・・
だから・・・もういいよ。」
弱弱しい声でマナミが話す。
「ヒューッ・・・ヒューッ・・・
マナミ・・・良いか?・・・
お前は生きろ・・・ゲホッゲホッ・・・
俺は・・・もう・・・駄目だ・・・
自分でっゲホッゲホッ・・・・判る。
ぼんやりとだが・・・聞こえた・・・
頼む・・・俺の分・・・まで・・・いきて・・・くれ。
ゲホッ・・・ゲホッ」
息も絶え絶えにケンジはマナミに語りかける。
「でもっ!!・・・ケンジ君は僕の所為で・・・
きっとこれからも、僕の所為で・・・皆傷付く・・・
もう・・・そんなの耐えられないよ・・・
修二君やしおりちゃんまで巻き込んじゃう・・・」
「オレの・・・ことは・・・きに・・・するな。
ゲホッ・・・ゲホッ・・・
ぜんぶ・・・オレの・・・ミス・・・だ。
それよ・・り・・・あすか・・・だ。
あれは・・・もう・・・もどらねぇ・・・
せめて・・・お前が・・・楽に・・・して・・・やるんだ・・・。」
「でもっ!!」
「でも・・・じゃ・・・ねぇ。
マナミ・・・それが・・・最後の・・・やく・・・そくだ・・・。」
「ケンジくんっ!!」
「へへ・・・なく・・・んじゃ・・・ねぇよ。
オレは・・・けっこう・・・まんぞく・・・だ。
すべて・・・を・・・うしな・・・った・・・おれ・・・が、さいご・・・に・・・だれかに・・・みとって・・・もらえる・・・んだから・・・な。」
「ケンジッ!!」
マナミとケンジ、2人だけの会話にするつもりだったが、堪え切れなくて名前を呼んでしまう。
「しゅうじ・・か?
どこ・・・に・・・いる?」
もう目が見えないか霞んでいるんだろう。
目の前に居るはずの俺が見えないようだ。
俺はケンジの手を取り、声をかける。
「ケンジ、ここだ。目の前に居る。」
「ああ・・・そこだったか・・・悪い・・・な。」
言葉も濁ってきている。
もう、咳で喉の奥に溜まった血も吐けないんだろう。
「いいか・・・しおりを・・・守れ。」
「ああ、必ず守るよ。
もちろん、マナミもだ。
2人とも絶対に守る。」
「へへ・・・良かった・・・。
あとさ・・・ひとつだけ・・・良いか?」
「なんだ?」
「悪い・・・楽に・・・してくれ。」
おそらく、このままでも血が詰まり長くは無いだろう。
だが・・・それは苦しみを長続きさせるだけだ。
あとは・・・きっと覚悟を持たせたいんだろう・・・守る為に。
「・・・判った。」
「わりぃ・・・」
その一言には色々と詰まっているんだろう。
胸に突き刺さる。
時間を置いて、苦しませる訳にはいかない・・・
「皆・・・離れてくれるか。」
「最後まで・・・手を握らせて。」
マナミは涙を流しながらケンジの右手を握っている。
彼女にも彼女の想いがあるのだろう。
「判った・・・いくよ。」
俺は涙を流しながら銃を構える。
「オヤジ・・・オフクロ・・・カリン・・・いま・・・そっち・・・いくわ・・・」
ガウンッガウンッガウンッ
俺は初めて・・・引き金を・・・引いた。




