2日目―決断
「う・・・うぅ・・・・はっ!?
・・・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
「起きましたか。
うなされていたようですが、大丈夫ですか?」
夢・・・だったのか。
誠と愛が心配そうに見ている。
「済まない・・・少しうなされただけだ。
大丈夫。」
俺と一緒に仮眠をとっているしおりを見ると、ぐっすりと眠っている。
この調子ならしおりは大丈夫だろう。
「あと40分ありますが、どうしますか?」
ケンジとマナミが起きるまでの間、4時間づつの仮眠。
その時間がまだ残っていると言う事か。
今の精神状態でもう一度寝ると言うのは無理・・・だな。
「いや、このまま見張りに付く。
どちらか先に休んだ方が良いだろう。」
「そうですね。
愛を休ませたい所ですが・・・
何かあったときに反撃できる者がいなくなってしまいますね。
ごめん、先に休ませて貰うよ。」
確かにリストバンドが外れている人間がいないと、何かあった時に動けないな・・・
「そうだったな・・・愛、申し訳ない。」
「ううん、大丈夫。
誠はゆっくり休んで。」
俺達が頷くと、誠は床の空いている場所に横になりすぐに寝息を立て始める。
「疲れていたみたいだな。」
「うん・・・私の分も誠は頑張ってくれているから。」
それだけ言葉を交わすと、俺はリストバンドの画面に視線を固定する。
今は画面内にGPS反応が現れたら、すぐに行動を起こさなくてはならない。
この前のように、動きを確認しつつなんてしている余裕は無い。
現在、地図上には俺達のこう手印以外見当たらない。
そのまま、じっと時が過ぎるのを待つ。
「ねぇ。」
皆を起こさないよう、小さな声で愛が話しかけてくる。
ふと視線をあげると、窓際から直ぐ隣に移動してきたようだ。
「なんだ?悪いけどモニターを見ながら話させて貰う。」
「うん、それでお願い。」
そのまままた黙り込んでしまう。
一体どうしたんだろうか?
「その・・・あの時の事だけど、ごめんなさい。
それだけが言いたかったの。」
あの時・・・最初に食料を提供すると言った時の事か。
今思うとあれはなかった・・・
信頼できる仲間を探す為、投じた布石だったはずが、ケンジ以外信用できる人間はいなかったしな・・・
しかも誠、愛は大丈夫だが、志村がどう思っているか謎だ。
あの行動で敵意をもたれていないと良いが・・・
「いや、今思うとあの申し出は失敗だったと俺も思っているから・・・」
「そう・・・なんだ?」
そのまま沈黙になってしまう。
「でも、さっきの女性・・・明日香って言ったわよね?」
その名前を聞いて体に力が入る。
愛もそれを感じ取ったのだろう。
「大丈夫」と前置きをし、言葉を続ける。
「もし、私達があのまま組んでいたら、私がああなっていた可能性もある。
そう思うと、あの時分断してくれた貴方に感謝もしているわ。」
先ほどの夢が頭の中を流れる。
・・・引きずられては駄目だ・・・
あれは俺の心が生んだ幻影・・・心の弱さが鎌首をもたげただけなんだ・・・
「だが・・・そのせいで明日香が・・・」
「・・・そうね。
でも私たち4人は無事だった・・・と考える事も出来るわ。
その方が多少は気が楽になると思う。」
「・・・ありがとう。」
「正直・・・気がおかしくなりそうだけど・・・私には誠がいるわ。
お互い・・・正気で生き残りましょう。」
「ああ・・・」
それだけ話すと、愛は窓際へ戻ってゆく。
その後姿には、危うさの中に狂気が見え隠れしている・・・
不意をつかれたな・・・
心の中の重圧が少し軽くなった。
だが、モニターがぼやけてしまい見にくくなってしまった・・・
「お兄ちゃん・・・泣いてるの?」
頬が暖かい。
しおりが上半身だけ起き上がり、俺を覗き込んでいる。
「いや・・・
あぁ・・・そうだな。少し過敏になっているようだ。
聞いていたのか?」
問いかけると、しおりは小首をかしげ、
「ううん・・・今・・・起きた所。」
時計を見ると、交代時間の5分前だ。
いつの間にか時間が過ぎていたらしい。
しおりは起き上がると、愛の隣に移動していた。
「愛・・・代わる。」
「そう、ありがとう。
私も少しや済ませて貰うわ。」
そう言って愛は誠の隣に横になると、すぐに寝息を立て始めた。
気丈に見えるが、彼女も疲れているのだろう。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「あぁ、しおりこそ疲れていないか?」
「ううん・・・良く寝れたから・・・大丈夫。」
「そうか、じゃぁ2人を起こさないよう、静かに見張ろうか。」
「うん・・・」
そう言うと、俺達は窓際に並んで座り、見張りを続けた。
途中、ここに来る前の生活や学校の事など。
この重い空気に潰されないよう明るい話題を選んで話した。
今まで踏み込んだ話しをする事がなかったが、先ほどの愛との会話で心が軽くなったのだろうか?
意外な事にしおりも俺と同じく、天涯孤独の身だった。
マナミも似たような境遇だった・・・
ここに集められた人間はもしかすると、そういった人間だけなのだろうか?
確かに死んでも面倒が発生しづらい・・・
例えば俺が行方不明になったとしても、誰も捜索願は出さないだろう。
このゲームが終った時、俺は本当に無事に帰ることが出来るのだろうか?
例え生き残ったとしても口封じに・・・
いや、駄目だ。
そんな事を考えていては前に進めなくなる。
今はただ・・・生き残る事だけを考えてよう・・・
それから4時間、まだ外は暗いが時間になったので愛と誠を起こす。
2人とも、特に愛が時々うなされていたが疲れは取れたのだろうか?
ケンジとマナミは今だ眠ったままだ。
「さて・・・これからどうしましょうか?」
誠が切り出してくる。
「どうって・・・2人が起きるまでは動けないんじゃない?」
「愛、違うんだ。
2人のことじゃなく、これからどのように行動しようか?って事なんだよ。」
誠の言いたい事は判る。
この先一緒に行動するか、分かれて行動するか。だろう。
「俺は・・・協力しつつ2手に別れたほうが良いと思う。」
「修二?」
おそらくしおりと愛はこのまま組んでいくと思っていたのだろう。
「修二さんから言って頂いて助かります。
実は・・・僕もそうしたいと思っていました。」
やはり・・・か。
「ああ、俺はマナミもケンジも見捨てるつもりは無い。
だが、2人は別に動いた方が生存率は上がるだろう?」
誠は困った顔をしながらも「ええ。」と頷く。
「だが、頼みがある。」
「何でしょう?出来る範囲でならやりましょう。」
俺は誠としおりの顔を見る。
言いづらい・・・けど、何よりも彼女のために言葉を紡ぐ・・・
「しおりを・・・連れて行って欲しい。」
俺は・・・しおりから目を逸らしながら誠にしおりの事を頼んだ。
なにもしおりと一緒にいるのが辛くなったとかではない。
俺は、間違いなく茶髪に狙われている。
ナンバーによっては志村にも狙われるのだろう・・・
マナミは、明日香に狙われている。
先ほどの事で明日香はマナミが死んだものと考えていれば良いが、油断する訳にはいかない。
ケンジは・・・動けるかすら怪しい。
足の傷に加えて、手が吹き飛んでしまった。
しかも、出血も酷く誠がいなければおそらく死んでいただろう・・・
俺は・・・夢とは違う。
絶対に誰も見捨てないんだ・・・
だが、それにしおりを巻き込む事はできない。
誰にも狙われておらず、リストバンドも外れている。
このまま安全に過ごせば、ゲームをクリアする事が出来るはずだ。
「嫌・・・」
しおりは俺の服をぎゅっと握り、ぴったりと身体を密着させる。
「私は・・・お兄ちゃん・・・修二と一緒に居たい。」
俺の目をしっかりと見据えていってくる。
だが・・・
「しおり、俺は君に生き残って欲しい。
少しでも生存確率を上げたいんだ・・・。」
何よりもしおりの為に、折れるわけにはいかない。
「・・・・・・イヤ!!」
「頼む・・・しおり。」
「私は・・・修二と一緒に・・・生き残りたい。
だから・・・修二から絶対に・・・離れない。」
しおりも折れることなく、まっすぐに俺を見据えてくる。
なんと言って説得しようか迷っていると、肩に手が置かれる。
「修二さん、私はしおりちゃんお気持ちがわかるわ。
私も誠とどんなことがあっても離れたくないと思ってるもの。」
愛はしおりの意見を尊重したいようだ。
「僕も、ここまで想っているしおりちゃんを無理やり連れて行くことは出来ない・・・かな。
影で君達が生き残れるようにフォローする。
だから・・・しおりちゃんと一緒に居て欲しい。」
誠も同じ・・・か。
さすがに3対1では勝つことは出来ない。
「・・・しおり。
済まなかった・・・
ずっと一緒にいような。
でも、約束だ。
絶対に生き残るんだぞ?」
「うん・・・生き残る。
約束する・・・修二・・・。」
しおりが力強く頷く。
「じゃぁ、2人が起きるまでもう少し休憩でもしようか。
寝てる間に居なくなったりしたら不安だろうし。」
誠はそう言うと、壁を背中にして腰を下ろす。
その隣には愛も同じように腰を下ろした。
そのまま地図を確認しながら、休憩しつつ2人が起きるのを待つ。




