1日目―裏切り
山小屋へと戻った俺たちを出迎えたのは、マナミ1人だった。
「あれ、戻ってきたんだ?」
俺たちがそのままどこかへ向かうと思っていたのだろう。
驚いたように確認してきた。
「ああ、この後の事について相談しに行っただけだったからな。」
「そっか、それでこの後どうするの?」
その問いに答える前に部屋の中に居ない2人のことを問い返す。
「そういえば、他の二人は?」
「村上さんと明日香さんは、今の内にブランクプレーヤーを探すといって出て行ったよ。
私は暫くここにいるつもりだから、残ったんだけどね。」
マナミは山小屋にとどまるようだ。
残っているナンバーで急ぐ必要が無く、安全な場所に居たほうが良いのはNO.3か7あたりだろうか。
マナミはそれを判ってて言っているのか、もしくはNO.1で殺害の機会を狙っているのか・・・警戒はしておくに越した事はないだろう。
村上と明日香は2人でブランクプレーヤーを探しに出たか。
明日香はよく判らないが、村上はどうにも信用する事ができない。
出て行ってくれたのは僥倖といえる。
もしマナミがNO.1だったとしても、山小屋の中に居る以上は手を出す事はできないだろう。
休める時に休んでおく事も大事だ。
2時間前にはここを出て、マナミから十分に離れておけば問題ないだろう。
・・・ただし、ここに置いた食料は危ないかもしれないな。
銃が置いてあったんだ、毒薬が入っていても不思議は無い。
この部屋にあった食料と一緒に入っていた可能性もある。
この部屋の中で危害は加えられないが、外で毒薬を入れることは可能だ。
ならば食料は諦めたほうがいいだろう。
「教えてくれてありがとう。
俺たちはこれから睡眠を取るつもりだ。
22時間目には出て行くつもりなので、危険は無いはずだ。
構わないだろうか?」
先に居たし、相談に出た後も残っていたので俺たちの方が確認する立場だろう。
「うん、そのぐらいは大丈夫だよ。
明日以降はきちんと寝られるか分からないしね。」
「ありがとう。
俺たちはその後ボックスを探しに出るので、残った食料は置いていくつもりだ。
残った食料はマナミが使ってくれれば良い。」
「ちょっと!?」
ハルカが声を荒げる。
「それは私達の食料じゃない、何で他人にあげるの?」
マナミの前で先ほどの考えは言うのは危ないだろう。
「ボックスはまだまだ開けなければいけない。
この先食料で困る事はまず無いと思う。
それに、話からするとマナミのナンバーは3か7だろう。
なら、ここに引きこもっているほうが安全だ。
外に出る危険性よりは、残った食料で残り4日をすごいした方がいいだろう。
特に問題はないと思うが?」
「それはそうかもしれないけど、私達に相談もなしに決めないで欲しいわ。」
言われて見ればそうだった・・・
友人にも勝手に決めるのは悪い癖だと言われていたな・・・
間に挟まれたマナミはどうしたものかと困った表情で固まっている。
「すまん、その通りだ。相談もなしに悪かった。」
全員に頭を下げる。
生き残る為にも、仲間から信頼されないといけない。ならば頭を下げるくらいたやすい事だ。
「・・・分かったなら良いわ。」
まだ納得は出来ない、という表情だが謝られたからだろうか、幾分かはキゲンが回復していると思う。
「しおりやケンジもそれでいいだろうか?」
改めてしおりやケンジにも確認する。
「うん・・・その方が・・・良い。」
「まぁ、俺も修二の意見には賛成だな。
女1人で生き残るなら、ここに閉じこもったほうが安全だろう。」
2人の意見を聞いて、ハルカは諦めたようにため息を漏らし、
「3人が賛成するなら、私がNOと言っても無駄ね。
その意見に従うわ。」
不満そうだが、従ってくれるらしい。
「なら、今は少しでも休息をとったほうがいい、すぐに寝て体力を回復しようと思うがどうだろう?」
「うん・・・そうする。」
「そうさせて貰うか。」
「私も今の内に寝ておくかな。」
「・・・私は台所で寝させてもらうわ。」
マナミ一緒に睡眠をとるようだ。
ハルカだけは台所で寝ることにするらしい。
少し、俺たちとハルカとの間に溝が出来てきている。
今後も一緒に行動するなら、この辺は解消しておかなければ後々に響くだろう。
気を回しておくか・・・
2人の女性に語りかけられる。
1人は俺の腕の中で息を引き取った少女―亜希
もう1人は、しっかりと話をする暇も無く無くなった女性―如月
「修二さん~、しおりちゃんと仲良くなってくれたんですね~。
良かったです~。」
「私はあんな事になってしまったけど、しおりを守ってくれて感謝しているわ。」
「・・・・・・2人共・・・」
「これから~、大変なことも~、い~っぱいあるかもしれませんけど~。
しおりちゃんと~、ケンジ君と~、仲良く頑張って~、生きて帰ってくださいね~。」
俺は亜希にナンバーを偽ったまま別れる事となってしまった・・・
「亜希っ、俺のナンバーは実はっ・・・」
「大丈夫です~。わたしは~、修二さんが~、笑っててくれればそれで良いんです~。」
そう言って、霧のようにその身体が消えていってしまう。
「私は貴方の事はよく判らないけど、しおりの事は判っているつもりよ。
あの子は貴方を裏切るような事は絶対にしない。
・・・だから、あの子の事はよろしくお願いするわ。」
そう言って如月も霧のように消えていく。
これは夢だと判っている・・・
きっとこの会話も俺の都合の良い様に出来ているのだろう。
だが・・・やはり・・・夢の中ならこのぐらいの弱さを出してもいいだろう・・・
俺は強くない。
だからこそ、生き残る為に頭を動かし考えていかなければならない。
少しで可能性を高め、仲間となった人だけでも救えるように・・・
身体を揺り動かされる。
何事かと思い、目を覚ますと横にしおりが座って俺を揺すっていた。
リストバンドを見る。
23時5分23秒
少し早いな・・・
「荷物・・・無くなってる。」
その言葉に驚き、辺りを見回す。
部屋の中には俺・しおり・ケンジ・マナミが眠っている。
だが、端においていたはずの食料や荷物がなくなっているのが分かる。
かけていた毛布の中を探る。
どうやら身につけていた拳銃1丁には手を出されていないが、枕元においておいたもう1丁は持っていかれたようだ。
他にも荷物を探ってみる・・・
やられた・・・
用途の分からないケーブル類と衣類は無事だったが(ボックスの中に新品の下着やシャツが入っていたので、荷物に入れていた。)衣類にくるんでいないほうのリストバンド、NO.14のリストバンドを持っていかれている。
銃や食料のことを知っていて、俺がNO.14のリストバンドを荷物の中に入れていることを知っている人間・・・
そしてリストバンドを集めなければいけない人物には心当たりが1人しか居ない・・・
俺は急いで台所の扉を開ける。
そこには誰も居なかった。
そう、台所で寝るといってた、NO.2 リストバンドを7つ集める事が生存条件のプレイヤー【三田 ハルカ】の姿が無かったのだ。




