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孤高の魔術士  作者: 雪の里
第一章 『少年の決意』
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第七節 砥石を取るためには……1

 212階の一角には、少しだけ違う風景があった。


 この階層を守るために召還された悪魔達が、ソルト達に襲いかかるが、それをちぎっては投げ、ちぎっ

ては投げといった感じで倒し、異常なスピードで迷宮を進んでいる。


「『太古エンシェント水晶クリスタルが見つかった場所まで後どれくらいだ?」


 ソルトがそう聞くと、アテナがポーチから一枚の呪符を取り出す。


 呪符に書いてある魔法陣が光ったかと思うと、半透明の地図が現れる。


「ん~、あと2、3日って所だね~』


 アテナは間延びした緊張感のない声でそう告げる。


「以外と遠いですね」


「ホント、転移系の魔法で行けたら良いんだけど」


「行けるわけがないってか。この塔を作った神とやらも性格が曲がってるな」


 お前もだけどな。と言うつっこみを全員が心の中でしたが、アーニスがそんなことに気づくわけがない。


「まぁ、焦らずに行けば着くさ」


 ふたたび歩き出す。


 街を出てから、すでに2日が経過している。いつも一週間以上迷宮に潜っているソルトは良いとして、それ以外のメンバーは思っているより消耗している。


 そろそろ休憩するかなどと考えているところで、8時の方向から、微かな気配を感じる。


 気づいていないふりをしながら小声で呪文スペルワードを唱える。


 魔法が完成してから振り向くと、そこには人型の悪魔が2体こちらに向かって走ってくる姿があった。


 PTメンバーは、この程度の敵はソルトに任せて良いと考えているのか、振り向きもしない。


 魔法を発動すると、悪魔の下に魔法陣が浮かび上がり、そこから伸びた数本の光の槍が、悪魔達を貫

く。


 悪魔の死体(正確には票遺体の死体)は、青白い光に包まれ、そしてガラス片のように爆散した。


 契約が解除されただけで、悪魔は死なない。ただ、魔界に帰るだけだ。


「今日は、ここら辺までにする?」


「そうですね、もう4時間も歩き続けていますから、ここで野宿することにしましょう」


 オーレリアはそう言うと、綺麗にたたまれている紙を2枚取り出した。


 その紙は、規則的に広がっていき、小さな家へと変わった。


 ユリナがしみじみとつぶやく。


「魔法って、ホントに便利よね」


「そうだね~。特にこういうのは野宿とかしなくて良いから最高だよ」


「おい、結界は誰が張るんだ?」


 アーニスが聞いてくる。


「一昨日と昨日はソルトさんに張ってもらいましたし、今日は私が張りますよ」


 オーレリアは、せっせと魔法円を描き始める。5分ほどで書き終わり、最後に発動呪文キースペルを唱える。


「できました」


 出来た結界は、非常に綺麗だった。


「すごいな、俺じゃこううまくはいかない」


「フフ、褒めても何もにも出ませんよ」


「まぁ、オーレリアは支援系の魔法は得意だからね」


 二人して褒めちぎるので、オーレリアは少し恥ずかしそうに笑った。


 流れを変えるように、アテナが言う。


「話変わるけどさ、そろそろご飯にしない?あたしお腹がすいちゃったよ」


「そう言えばオレも腹減ってきたな、オーレリアさん、今日の献立は何っすか?」


「今日はですね……」


 そんな会話を聞きながら、ソルトは自覚した。



 ガラスの向こうだ。



 手を伸ばせば届くようでも、ガラスに阻まれて手が届かない。一度自分が捨ててしまった光景は、二度と戻らない。


 いつの間にかできてしまった心の壁が、絶望という名の壁がソルトとユリナ達を分けている。


 同じ場所にいながら違う場所にいるような感覚をソルトは味わっていた。


「ソルト君、考え事?」


 いきなり声をかけられ、少しだけ答えに詰まる。


「え、あ、ああ、ちょっとね……」


「料理を作るの手伝ってよ。みんなで作った方が、楽しいよ」


 笑みとともにそう告げられ、ソルトは一つの望みを持った。否、願い、と言った方が正しいかも知れない。


「わかった」



 この、絶望という名の壁を、超えたい。



 彼は、彼の時間はふたたび時を刻み始めた。

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