第四節 『太古の水晶(エンシエントクリスタル)』
「『神器』だって!?」
シーナが叫ぶようにそう言ったが、ソルトはなんで彼女が驚いてるのかわからなかった。
『神器』とはその名の通り、神が作ったとまで言われる伝説の武具である。実際に作ったのは、とある鍛冶屋だが、いまは関係ないので、置いておこう。
「『神器」だけど、それがどうかしたのか?」
なんで驚いているのかわからないという気持ちを込めてそう言うと、次は全員が呆れたような顔になった。
「君、『神器』がどれだけ貴重な物かわかってないの?」
そんなことを言われても知らないものは知らないのだから、どうしようもないでないか。
第一、強い武具であるという情報さえ知っていれば、関係ないんじゃないのか?とソルトは思ったが、口には出さなかった。
呆れながらもシーナが説明してくれる。
「『神器』っていうのは、伝説級の武具だよ。ユリナが持っている盾、『天神の盾』も『神器』なんだ」
「そうだったのか?」
ソルトがそう言うと、ユリナが得意げに頷いた。
「うん、これはわたしの一族でで受け継がれてきたものなんだよ」
「通りで防御を貫けないはずだ……」
そうつぶやきながら、自分の愛剣を見る。師匠から授かったこの剣は相当な業物だと知っていたが、そこまで凄い物だとは知らなかった。
まじまじと剣を眺めていると、プっとミズキが突然吹き出した。
「どうしたんだ?」
訝しげにソルトがきくと、ミズキがさっきより明るい声で言った。
「ソルトさんって、想像よりも接しやすいんですね」
ソルトが?マークを浮かべていると、ミズキがさらに補足してくれた。
「いや、もっと取っ付きにくい人だと思ってたんですけど、ホントは気さくな人だったんだなぁって」
「確かにソルト君はどこか抜けてるよね」
「その言い方は酷いな」
ソルトが少しすねたような言い方をした所為で、自然と笑いが溢れる。
「そろそろこの剣の研ぎにはいらないかい?」
場が落ち着いたところでシーナが切り出すと、ミズキが難しい顔をした。
「それが、これほどの剣を研ぐほどの砥石はこの店にはないのです」
「じゃあ、どうやって砥ぐんだ?」
ソルトがそう聞くと、シーナが少し考えてから、答える。
「それならこの前7層の迷宮の奥に、『神器』を研げるほどの砥石があるとか噂を聞いたが、それをなら大丈夫だろう」
「信憑性はあるの?」
「言っていたのがわたしの友人だから、信憑性は十分だと思うよ。」
忘れそうになるが、シーナは女性である。……これに限っては、完全に信じきれてないが。
「じゃあ、私のPTで、取りに行く?」
「いいのか?」
短く聞くと、答えも簡潔だった。
「いいよ」
とりあえず目標は決まったが、砥石とはどんなものなのだろうか?と思っていると、シーナがその思考をトレースしたように言った。
「砥石の名前は『太古の水晶』。その名の通り、水晶のように透き通り、し
かもダイヤより硬度が高いだってさ」
「じゃあまずは、PTメンバーと合流しないとね」
それを聞いてソルトは、ある疑念を抱き、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
知っているのはエミリアだけだが、こいつの他のPTメンバーはマトモなのだろうか!?