第四十一節 嗚呼、愛しい人よ
「んでんで〜? そのデートはどうなったの〜?」
アテナがニヤニヤしながら聞いてくる。
デート、そのその単語のせいで顔日が登ってくるのがはっきりとわかる。いま私の顔は熟れたリンゴのように真っ赤になってるだろう。
「デデ、デ、デートじゃないよ!」
「ホントに〜?」
「うぅ…………」
いまから考えると、お互いそんな気持ちはなかったとはいえデートではないと完全に否定することができないため、反論できない。
「アテナ、あんまりユリナを虐めたらダメですよ」
「は〜い」
オーレリアが窘めてくれたおかげでなんとか追撃をかわせたけど、これは後でまた根掘り葉掘り聞かれちゃうな。
「で、結局どういうことなんだ?」
アーニスが結論を急ぐように聞いてきた。ホントにせっかちすぎる。
「ゴホン、……えっとね、いまの話でも、なんだかんだソルト君は人と関わることが嫌いじゃないと思うんだ」
「それはそうだね〜。……だいたい私たちが【殲滅眼】程度でビビって距離を置くと思われているあたりが気に食わないな〜」
「そんな言い方をしてはいけません。でも、確かに軽んじられるのはあまり気分が良くないですね」
次々と彼を肯定するような意見が出てきたが、あまり驚くようなことではない。
彼女達は、私の自慢の仲間なんだから。
私が意見を求めるようにアーニスの方を向くと、彼は一瞬嫌そうな顔をしたが口を開く。
「あいつは気に食わねぇ。だが、負けっぱなしってのも性に合わねぇ、一発殴っとかねぇとな」
「おやおや〜、アーニス照れちゃって〜。ホントはすぐにでも帰ってきて欲しいですって言って良いんだよ〜」
「誰が言うか!」
「フフフ、アーニスは照れ屋さんですね」
「だがらちげぇよ!」
人々にとって、恐怖の象徴である【殲滅眼】のことを聞いても全く動じない仲間たちが本当に頼もしい。
君の帰る場所はここにあるよ、ソルト君。
私は思わず胸中でそう呟いた。
「ソルト君は、きっと帰ってくる」
自分が思っているよりもずっと確信の乗った言葉だった。
「そうですね、だから私たちが彼の帰ってるくる、彼を当たり前のように受け入れる場所になれば良いのですよ」
「だが、ただ待ってるだけってのも面白くねぇんじゃねえか?」
心底愉快そうな笑みを浮かべたアーニスがそう続ける。
「俺はあいつが帰って来た時に、模擬戦の借りを返さないといけねぇからな」
お前らはどうするんだ、と言外に言ってるのだろう。
そんなことは決まっている。そう言わんばかりにそれぞれが挑発的な、または優しい笑みを浮かべた。
「ソルト君の度肝を抜いてあげようか」
私たちは、彼の帰還を待つ。
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私はベットに倒れこむように横になった。
対して動いてもいないのに、身体が鉛のように重い。
目を閉じると、不敵な笑みを浮かべる彼の姿が浮かんでくる。
嗚呼、愛おしくてたまらない。いつから彼に対してこのような気持ちを抱いていたかは分からない。
ただ気がついたら、彼に依存していた。
役職では私の方が上だけれども、実力では私の遥か先を行っている。
彼の隣に立ちたい。同じ景色を見たい。
そのためには、人を超えたような強さを手にしなければいけないのだろう。
彼が一時的とはわかっていても、私の目の前からいなくなったことを焦らずにはいられなかった。
彼の歩む速度は早すぎて、いつか見失ってしまう、そんな不安が私の心を蝕んでいる。
会いたい。
待つと決めたにもかかわらず、この気持ちだけはどうしても抑えきれない。
「君に会いたいよ、ソルト君」
頬を流れる滴を、止めることはできなかった。




