第三節 『神器』と呼ばれし武具
もはや怒号とさえも思える歓声が、空間をふるわせる。
観客には、ソルトがユリナを圧倒したように見えただろうが、実は違う。実際は、あと一瞬ユリナの動き出しが早かったら、勝っていたのはユリナだろう。
だが、戦闘に置いて、「たられば」は存在しない。大切なのは、結果とどうやったから勝てたのかとと言う戦闘の分析だけだ。
「やっぱり強いな~、ソルト君は」
ユリナがいつの間にか後ろに立っていた。反射的に戦闘態勢に入ろうとするのをギリギリのところで止める。
「そんなことはないさ。お前の動きがあと一瞬早かったなら、負けていたのはこっちだよ」
「でも、実際に勝ったのはソルト君だよ。大切なのは『たられば』じゃなくて、結果でしょ?』
「……」
自分が考えていたことと同じことを言われて、ソルトは押し黙ってしまう。
が、そこで突然ユリナが話題を変える。
「ソルト君、結果は良いとして、君はうちのパーティー(PT)に入るんでしょ?」
「はぁっ!?」
「なんで驚いてるの?」
本当に解らないという風に首をかしげているユリナを見て、ソルトは幻想の頭痛を感じていた。確かに協力はすると言ったが、それは一時的な物で砥石を取ったあとは再びソロに戻る気でいたのだ。
「協力はするけど、パーティーには入らないよ。俺は一人の方が性に合っ……」
ソルトは、そこまで言ったところでユリナが復元していない魔法剣に手をのばそうとしているのに気づいた。慌てて訂正する。
「わかった、一時的でもいいなら入るから剣は抜かないでくれ」
「よろしい」
自分で脅しときながら、自分で笑うユリナを見て、ソルトの顔には自然と笑みが浮かんでいた。
なぜかはわからないが、ユリナや、その仲間達といると、少しだけ、ほんの少しだけ過去という名の呪いがかかっている心が安らぐ。
――本当ニソウナノカ?
そんな声が響き、波紋のように消えた。そんな気がした。
「?……気のせいか」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。それより、その代わりこいつを研いでくれる鍛冶屋を教えてくれるんだろ?」
こいつ、の部分でソルトは背中に吊っている片手半剣を指で軽く叩く。
「うん、約束だからね」
ユリナの笑みは、気のせいかいつもより鮮やかな笑みだった。勝手に鼓動が早まる。コレだから、女は苦手なのだ。
「じゃあ、早速その鍛冶屋に行こう……って、どうした?」
ソルトが持っている剣は、超が付くほどの大業物だ。コレを研げるほどの鍛冶屋に会えるとなると、多
少心が弾むのも仕方有るまい。とソルトは思っていたのだが、彼女の顔が軽く引きつっている。
「どうしたんだ?暗い顔をして」
「あのね、言うの忘れてたんだけど、その鍛冶屋、すこし……いや、かなりの変わり者達だから、あまり期待しすぎない方が良いよ」
「?」
いまいち意味がわからなかったが、彼女が広場にある転送用の大魔法陣に向かって歩いていったので、それについて行った。
何なんだ!?
本日二度目のその疑問をソルトは脳内で叫んでいた。
いつも『賢者の塔』の攻略ばかりしていて、人と接する機会の少ないソルトは、大いに混乱していた。
脳内で、鍛冶屋に来てからの出来事を再生する。
「シーナ、ミズキ、いるー?」
ユリナが店の奥に向かってそう呼びかけると、返事があった。
「お、きたか、」
「い、いらっしゃいませ」
そういって出てきた人影は、二つだった。そこまでは良かったのだが、出てきた二人は、個性が強すぎる上に性格が対極だった。
1人は表情もだが、立ち振る舞いが自信に満ちあふれており、腰程まで伸びたポニーテールが時々はねている。ユリナと同じ蒼き瞳は今にも蒼炎を吹き出しそうだ。
もう1人は今にも泣き出しそうな表情で、髪型は少々癖っ毛なショートカット。瞳に至っては、今にも涙をこぼしそうだ。
ソルトはつっこみたかったが、そこを突くと何かが壊れそうなのでやめておいた。横で、ユリナがあはは、と乾いた笑いをこぼしている。
「まぁ、立ち話もなんだから、中に入ってくれ」
そう言われ、店の奥へ入っていく。
歩きながら、ユリナが切り出した。
「シーナ、連れてきたわよ。『黒閃』を」
「君がソルトくんか。よろしく」
シーナと呼ばれた女性は握手を求めるように手を出してきた。手を差し出し、握手を交わしたが彼女の目は値定めするようにソルトを見ていた。
「こちらこそ、よろしく」
「たしかに強そうだ。ユリナに勝ったんなら、『四大騎士』にも入れるんじゃないの?」
「それがね、ソルト君は一度『四大騎士』の称号の授与を拒否しているのよ」
ユリナが余計なことを言った。
「ソルトくん、何で称号をもらわなかったんだい?」
「いや、特に理由は無いよ。ただ、あまり目立ちたくなかっただけなんだ」
「まったく、もらっておいた方が後々便利だったとおもうけどなぁ」
そんなセリフも、随分と男前だった。。髪を短くして、タキシードでも着せたらもはや男性の麗人にしか見えないだろう。
そこで、今まで全く発言をしておらず、忘れかけられていたミズキと呼ばれた女性がおずおずと発言する。
「あの……今日は研ぎの依頼で来られたんじゃないんですか?」
「あ、忘れてた! ゴメンねソルト君」
ソルトは、おい!と心の中でつっこむが、口からは別の言葉を紡ぎ出す。
「研いで欲しいのはコレなんだけど……」
そう言って、腰から剣を鞘ごと取り出し、作業台の上に置く。その剣を、シーナではなく、ミズキが手に取った。ソルトは、意外な印象を受けた。
「片刃の片手半剣ですか。刀身は直剣で、両手でももてるようにしてあるし、……」
ぶつぶつとつぶやきながら、鞘から剣を抜く。
「これは……見事ですね」
純白の刀身を見てつぶやく。途中に魔があったのは、その美しさ故か。ソルトにも、その気持ちは理解できた。彼も、初めてこの剣を手に取ったときはあまりの美しさに息をのんだのだから。
「ソルトさん、これはどうやって手に入れたんですか?」
シーナとユウナも興味ありげな顔で、こちらを見てくる。
「……師匠の、形見だよ」
短く、そうつぶやいた。すると、三人とも黙ってしまい、雰囲気が暗くなってしまったので、わざと明るい声で言う。
「気にしなくても良いよ。もう、自分の中で割り切れているから」
実際は、割り切れてなどいない。だが、この場を雰囲気を和らげるために何とか紡ぎ出した言葉だったが、場の雰囲気は全く良くならなかった。
今度は、違う話題で攻めてみる。
「そういえば、師匠が言ってたけどコレって、『神器』て言うんだってさ」
「『神器』だって!?」
叫んだのはシーナだけだったが、全員が驚愕していた。




