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孤高の魔術士  作者: 雪の里
第一章 『少年の決意』
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第三十六節 天候制御魔法、炸裂

 怒りに飲まれた眼で龍がソルトを見ていた。内心ビビリまくっているが、ここで虚勢を張らなければ今までのことが無駄になってしまう。ソルトは覚悟を決めた。


「来いよ、人間様をなめんじゃねぇぞ!」


『グオオォォォォォォォォォォ!!』


「なっ!?」


 龍は今までのような念話ではなく、現実の声で咆哮を上げた。地面がえぐれ、風が吹き荒れる。


「咆哮だけでこの威力かよ」


 つぶやいたと同時に、体が光に包まれる。倦怠感けんたいかんが薄れ、体に力が戻ってくる。どうやら、ダルカス達の支援魔術のようだ。


「さっさと逃げるぞ! たどり着く前に殺されてしまうぞ!」


「ああ、わかった!」


 叫び返すと、ソルトはきびすを返して逃走を始める。身体強化魔法を駆使し、疾風となって森の木々を飛び移りながら移動する。


≪待てニンゲン! 貴様だけはゆるさんぞ!≫


 翼をはためかせ、天空に舞い上がった後、鎌鼬カマイタチや雷撃で執拗にソルトに攻撃をくわえる。ソルトは防御魔法を駆使しながら、最短距離で目標地点へと向かっていた。


「クソ、このままじゃ…………」


 追撃が激しく中々引き離すことが出来ないため攻撃をよけ続けるのが難しくなった。身体強化魔法と防御魔法を多重展開しているので、攻撃に魔力を裂くことが出来ず防戦一方になっている。


 雷が辺りに降り注ぎ、カマイタチがソルトの首を狩ろうと吹き荒れる。そんな中、ソルトは防御魔法を消し、元々配置してあった火炎魔法を使って龍の気をそらし、ステップを使い攻撃を紙一重でよける。集中を一瞬でも切らしたら命が消えるこの状況の中で、ソルトは笑っていた。


「最高におもしれぇよ…………」


 剣士としての血が彼を高揚させていた。気持ちの変化が魔力の上昇となって現れる。一進一退の逃走劇が続き、ついに湖が見えてきた。


「ソルトよ、湖じゃ! 終わらせるぞ!」


 ダルカスの声がソルトの耳へと届く。森の端は崖となっており、ソルトはそこから湖に向かって思いっきり跳躍する。湖面に着水すると水面張力を増大させる魔法が発動し、波紋ではなく小さな魔法陣が浮き上がる。


 湖面は、まるで鏡のように不自然なまでに静まりかえっていた。


 これだけの風が吹き荒れる中、こんな状況があり得るはずがない。冷静な判断能力を龍が維持していたのなら、このときに気づいただろう。だが、逆上していた龍はそれに気づけなかった。


 ソルトは巨大な湖をかけていき、中央当たりで止まり、振り返った。追いついた龍が、王者の風格を漂わせながらソルトをにらみ付ける。ダルカス達は、湖を囲む崖の上に立っていた。


≪諦めたか、貴様はここで死ぬ≫


 その声に、微かな笑みをソルトは漏らす。


「違うな、テメェがチェックメイトなんだよ」


 そう言うが否や片膝をつき、湖面に右手を当て、詠唱を開始する。


「生命の生と死の司る聖なる水よ、水神の力を借り命ずる、我が敵を封じ込めよ!」


 ソルトを中心に蒼い魔法陣が湖面いっぱいに広がる。それに呼応するかのように水がうねり出す。


≪死ねぇぇぇぇ!≫


 龍が、ソルトの真上から雷を纏い突進してくる。


「『水死牢獄ウォータージェイル』!」


 吹き出した水が、龍の突進を食い止めた。そのまま、龍の体を囲むようにして完全な球体となる。


≪……バカ…………な……≫


 水死牢獄の中で龍がもがく。雷を発生させ、魔力で水を吹き飛ばそうとする。だが、龍の放つ攻撃のすべてが一瞬で消え、代わりに水の刃が渦を巻き龍を切り裂く。


「無駄だ、『水死牢獄ウォータージェイル』は中とらわれている者の魔力を奪い、敵を切り裂く刃とする。自らを回復させる魔法と水死牢獄の魔力吸収による魔力消費は生半可な量ではない。終わりだ」


≪だが、我を殺すことが出来るか? これだけの魔法だ。維持には我の魔力を使っているとしても魔法の制御だけでも数十人のシルフの援護を得ているとはいえ、下級種族の保有魔力ではそう持つまい≫


 辺りで制御魔法を使っているシルフ族の奴らを横目で見ながら龍が言った言葉を聞いたきいたソルトは天を仰ぐ。同時に、雨粒が降り、それはすぐに豪雨となった。


「ああ、確かに『水死牢獄』だけではお前は倒せない。だが、お前は今天候を操っているか?」


≪どういう意味だ?≫


 ソルトとその問いの答えの代わりに天を指さす。龍は、意味が分からないというような素振そぶりを見せていたが、すぐに驚愕に気配へと変わる。


≪まさか……貴様、このために火炎魔法ばかりを…………≫


「そうだ、俺は火炎魔法で上昇気流を作り、積乱雲を発達させた」


 そう言いながら、ソルトは天に向かって右手を伸ばしていた右手に魔力を込めると、文字が輪のようにソルトの右手の周りを幾重にも回る。魔法が発動し、蒼き小さな稲光いかずちが天に向かって伸び、雷雲に吸い込まれる。返答のように黒雲が蒼く光った後、巨大な雷がソルトに落ちる。


 土煙がはれたとき、彼は帯電したように蒼い輝きを放っていた。


≪我が、我が下等種族などに負けるはずがない!!≫


 そう叫びながら龍が暴れる。


「テメェの負けだ! 天候制御魔法『稲妻雷鎚いかづち』!!」


 右手を、振り下ろす。巨大な稲妻が一つ、落ちてきた。辺りが閃光と轟音で埋め尽くされた。


 光が消えたとき、龍は湖の底に沈み、黒雲が晴れ始め雲の切れ間から光が漏れていた。そんな中、ソルトが高々と右手を挙げ、勝利の叫びを上げる。


「俺たちの、勝利だ――――――――――!!」


「「「ウオオォォォォォォォォォォォォ!!」」」


 勝利を祝う雄叫びが、湖面に響き渡った。

ついにVS天龍編、完結しました。長くてすいません。

あと、40000PV突破しました! 皆さん、ありがとうございます。


「インフィニティ バレッド」という作品も書き始めたので、そちらの方もよろしくお願いします!!

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